【独占インタビュー】鬼才・福田雄一が語る「僕が“劇団”にこだわる理由」~ブラボーカンパニープロデュース 天晴お気楽事務所『タイトル未定 2018』
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福田雄一(撮影:上村由紀子)
映画『銀魂』『銀魂2』やドラマ『今日から俺は!!』『勇者ヨシヒコ』シリーズなど斬新な映像作品を次々と生み出し、『フル・モンティ』『シティ・オブ・エンジェルズ』等の舞台ではミュージカル界にも新たな風を吹かせ続けている福田雄一。今や飛ぶ鳥落とす勢いの彼が、学生時代に仲間たちと旗揚げした劇団「ブラボーカンパニー」の活動を30年に渡って続けていることをご存知だろうか。
今回再演される『タイトル未定 2018』で描かれるのは90年代の大学演劇サークル。なかなか戯曲を書きあげられない劇団座長が、売れている小劇場のスタイルをパクって(?)劇団員に演じさせ、なんとかウケる芝居を作ろうとするコメディだ。
学生時代のエピソードや劇団、小劇場作品への想いを福田雄一にじっくり聞いた。
劇団活動をやめたら“本末転倒”になってしまう
――舞台の世界だけでなく、映画やテレビの現場でも大活躍の福田さんが、学生時代からのメンバーと30年に渡って作品を創り続けている理由を知りたくてここに来ました。
福田 僕にとって劇団の活動をやめるっていう選択肢は逆に一切ないんです。というのも、20代の時からずっと「どうやったら芝居で食っていけるんだろう、どうしたら劇団が有名になれるんだろう」と考えてきたんですね。ちょうどその頃、三谷幸喜さんがテレビの世界に進出なさって、そのことで東京サンシャインボーイズも世間から物凄く注目された。それを目の当たりにして「そうか、映像で成功したら劇団にもスポットが当たるんだ」と実感し、ドラマや映画の世界でも仕事がしたいと思いました。そもそもの出発点は「劇団の舞台にもっとお客さんを呼びたい」なんですよ。だからこれをやめたら本末転倒になってしまうんです。
――なんだか嬉しくなってきました!ただ、スケジュールの管理はかなり大変だと思うのですが。
福田 それはありますね(笑)。でも、映像に比べて舞台は稽古時間もきっちり決まっていますし、天気待ち等のロスもない。今回もそうですが、ブラボーカンパニーのスケジュールはなるべく他の舞台演出作品と並行して進行するようにしています。場当たりを同じ日の午前と午後でやったり。今はこの方法でなんとか上手く成立させていますね。
――今回の『タイトル未定』は2014年に上演されたものの再演です。台本を読ませていただき、いろいろな意味で「だ、大丈夫なの?」と震えました(笑)。
福田 そうなんですよ(笑)。初演は脚本と演出を担当したドラマ『アオイホノオ』と同じ年だったんですが、当時とくらべて自分が置かれている状況が若干変化した実感もあります。だけど今回は劇団員から「とにかくもう1度これをやりたい」と強い要望があり、再演に踏み切りました。
福田雄一(撮影:上村由紀子)
――劇中では第三舞台をはじめ、80年代後半から90年代の小劇場に対しての強い愛情と……えっと……。
福田 ですよね(笑)。ただ僕自身、映像の現場で大きな仕事を任せて頂けるようになった今でも演劇の世界では全然認められていないという思いがとても強いんです。いわゆる“演劇界”での親しいお付き合いもほとんどないですし。そんな立場だと自分のことを思っているので、今、再びこれをやるのもアリなんじゃないかと。って、話していて改めて気づいたんですが、僕、どの現場に行ってもそんな感じなんですよ。
――続々と大ヒット作を生み出しているのに。
福田 映画でも助監督等の経験がないまま監督として作品を撮らせてもらっていますので「お前なんて絶対に監督として認めないからな!」的な空気を感じることは多いです(笑)。舞台の世界でもそれは同じで……唯一、普通でいられるのがテレビの現場ですね。最初に映像の世界に入ったのがバラエティの放送作家だったからかもしれませんが、ドラマの撮影はその場にいて1番しっくりきます。でも、映画や演劇の世界での「お前なんて認めない!」っていう反応が必ずしも自分にとって良くないかというとそうではなく、その居心地の悪さは僕にとってたまらなく刺激的でもあるんですよ。
――そういう福田さんだからこそ、ミュージカルでも既存の概念を打ち壊せるのだと思います。個人的にはゴリゴリのミュージカル俳優たちが信じられないレベルでハジけた『エドウィン・ドルードの謎』(‘16年)が衝撃的でした。
福田 確かに外から来た感がある人間だから、あの錚々たるキャストでああいう作品を作れたというのはあるかもしれないです。この作品での山口祐一郎さんもそうですし、『ナイスガイ in ニューヨーク』で組ませてもらった井上芳雄くんもとにかく笑いのセンスが凄い。僕が一緒に作品を作りたいと思う俳優さんはなにを置いても「コメディセンスがある人」なんです。『エドウィン~』の祐さんはそれまでのご自身のやり方を一旦置いて稽古初日から僕に合わせてくださった。あの作品はいろいろな意味で僕にとっても“衝撃的”でした。
第三舞台を観て演劇をやろうと決めた
福田雄一(撮影:上村由紀子)
――ブラボーカンパニーは成城大学のサークルからスタートしています。成城と演劇ってなかなか結びつかない気もしますが。
福田 もともと僕は栃木の出身で、プロゴルファーを目指してゴルフばっかりやっていたんです。それが大学時代に大きな挫折を経験して、狛江のアパートでひきこもりみたいな生活を送っていました。そんな時にたまたまテレビで小劇場の特集を見たんですね。5分くらいのオンエアだったと思いますが、ぼんやりそれを見ながら「ああ、そう言えば昔はこういう世界に憧れてたなあ」って少し気持ちが動いて。それで雑誌のぴあを買って調べてみたら、ちょうどその時、下北沢の本多劇場で第三舞台が『モダンホラー』を公演中だったんです。じつは僕、成城大学に通っていながら、下北沢の街を歩いたこともなくて。
――それは、ちょこっとレアかもしれません。
福田 いやあ、1年次は大学生活なんてなにひとつちゃんと送れてなかったですから。それで第三舞台の事務所に「当日券が欲しいんですけど」って電話して、本多劇場の階段に並んでやっとの思いで買えた
ブラボーカンパニーの劇団員に聞いた“福田雄一エピソード”
――そこから福田さんの劇団座長としての日々がスタートするわけですが、じつは今回、ブラボーカンパニーの皆さまにも取材をさせて頂き、福田さんのことをいろいろうかがってきました。
福田 どうせ悪口ばっかりでしょ(笑)。でも、自分のいないところで彼らが僕の悪口を言うの、僕は大好きなんですよ(笑)。
――愛に溢れたコメントも数多く頂きましたよ!まずは「ブラボーの現場はワクワクするなあ」とすぐに言う。
福田 スケジュールのこともあって、1番いい状況を模索していった結果、今はブラボーの舞台と別の舞台のスケジュールとを並行して進めていますが、1500人の劇場で得る「おおーっ!」って感覚と150人しか入れない劇場での濃密さってやっぱり全然違うんですよ。もちろん、大劇場で演出するミュージカルにはそこでしか体感できない喜びもありますが。お客さん全員の息遣いを感じ取れる小劇場での芝居はやっぱりゾクゾクしますよね。もう30年近く小劇場で演出をしていますが、その感覚は最初からずっと変わらないです。
――「お前らは俺に甘えてるんじゃないのか!」と突きつけられた時期があった。
福田 ええ?そんなことあったかなあ……。その時のことをすぐには思い出せませんが、確かに彼らに対してハングリー精神というか、ガツガツ行くモードが足りないと思ってそれを伝えたことはあります。たとえばムロ(ツヨシ)くんなんて、売れる前はいろんな劇団の芝居の千秋楽を観に行って、呼ばれてもないのに打ち上げに参加して自分の存在をアピールしてたんですよ。だけどね、彼らは一切そういうことをしない(笑)。この業界、なにがあってもしがみつく、みたいなところがないとなかなか難しいじゃないですか。
多分、そういう言葉を彼らに伝えた時期って僕もテレビの仕事が忙しくなって、擦り減ったり疲弊していた頃だと思います。どこかに「俺はこんなにボロボロになってやっているのに、売れる気がないお前らにどこまで時間を割けばいいんだ」みたいな気持ちになったんじゃないかな。
――私は1回しかブラボーカンパニーの皆さんにお話をうかがっていないので偉そうなことは言えませんが、本当にあたたかくっていい人たちだと思いました。
福田 まさに“いい人たち”なんですよ。映像の現場に来てもプロデューサーや共演者から毎回そう言われてます。だけど役者ってそれだけじゃダメなんですよね。最終的にはその人の人間性が出る職業なので、“いい人間”であることは大切ですが、いつも“いい人”でいる必要はない。芝居をする上で時に我を通すことも大事ですし、ワガママになっていい時もある。これは今の年齢になっても彼らに対して抱き続けている僕の想いです。
ブラボーカンパニー『タイトル未定 2018』
――とは言え「1人でもやめたら劇団は解散」と言っている。
福田 それは本当にそう思っています。僕がずっと劇団を続けている理由は先ほどお話したこと以外にもうひとつあって……それは彼らに対する恩義なんです。大学を出て、テレビの制作会社に入るんですが、そこで椎間板ヘルニアをやってしまい、その後27、8歳まで仕事をしないで過ごしたんですね。実家から経済的な援助を受けてバイトもしていなかった。で、その時期になにをしていたかというと、ずっと劇団で舞台を創っていたんです。表現が難しいんですけど、彼らはあの頃、僕に付き合ってくれたと思っています。当時、劇団のメンバーがいなかったら、僕は創作活動を1個もできない状態でした。ドン底の時にやれることがあって救われましたし、あの時の創作活動が今の自分の礎(いしずえ)になっていると確信しています。だから、彼らの方から「やめる」と言われるまでは、僕はこの劇団をずっと続けていくつもりです。
――胸を打つお話の後に恐縮です……「コーヒーは飲めないのにコーヒー牛乳は好き」。
福田 いやだってコーヒーとコーヒー牛乳は全然違うじゃないですか(笑)!多分、彼らの中で僕は“いつも牛乳を飲んでる人”なんですよ。ヒドい時は通し稽古を寝っころがって牛乳飲みながら見てますから。
――それはやめてください(笑)。ブラボーカンパニーの皆さんにお話をうかがった時に、溢れ出る“福田さん愛”を本当に強く感じたんです。
福田 そんなことはないですよ(笑)!僕が関係するすべての業界の中で1番扱いが酷いのが劇団ですからね。台本読んで1番笑わないのも彼らだし……アイツら、本当に笑わないんですよ(笑)。
ある出会いで変わった演出スタイル
――そんな福田さんご自身を投影した役が『タイトル未定』内の劇団座長・福山さんですね。
福田 自分が思っていること、思っていたことをかなり率直に書きました。もちろん、デフォルメもしていますが、僕の性格に近いキャラクターになっていると思います。
――作品内の福山さんは劇団メンバーに対して強めにダメ出しもしていますが。
福田 あ、そこは違います。僕はあんな風にうるさくダメ出しはしないですね。ある出会いがあって、それ以降大きく演出スタイルが変わったんです。と言うかね、ぶっちゃけ、僕、役者としてめちゃめちゃおもしろいんですよ(笑)。だから以前は全部自分がやって見せて、役者にはそのまま演じてもらっていました。
――その出会いについてうかがいたいです!
福田 『スマートモテリーマン講座』という舞台でご一緒した安田顕さんとの現場です。その時僕は外部で初めて演出をさせてもらったんですが、稽古初日に安田さんから「ちょっと遊ばせてもらっていいですか?」って聞かれたんです。それってつまり「細かく決めないで自由にさせてくれ」ってことなんですよ。それまでギチギチに決めた状態で演出してきた自分にとって、かなり衝撃的な言葉だったんですけど、まずは受け容れました。そのまま何日かダメ出しらしいダメ出しをしない日が続いて、小屋(劇場)入りの何日か前に「そろそろ決めていっていいですか?」と安田さんに聞いたら「もう大丈夫です」と。
それ以来、ずっと僕はその演出スタイルですね。基本的には役者さんを野放しにして好きなように演技を提示してもらい、それを見てジャッジをするというやり方です。
――最後にひとつ教えてください。今後、笑いのない……シリアスな作品を演出したり書いたりするご予定はありますか?
福田 ないです。それはもう断言します。僕が舞台をやる時に1番重要視しているのは“笑い”ですから。そこは今後も絶対にブレないと思いますよ。
福田雄一(撮影:上村由紀子)
【取材note】
にこにこ笑いながら現れたその人を見て一瞬で思った「あ、ドラえもんだ!」と。大きな体から繰り出されるプラスのエネルギー。眼鏡をかけ、派手なパーカーを着た彼は、時にタイムマシンに乗って過去の自分を見つめ、時に私たちがまだ知ってはいけない未来の情報をそっと教えてくれた。
今や日本のエンタメ界で1、2を争う売れっ子クリエイターになったドラえもんこと福田雄一。彼のホームは東京都下の雑居ビルの4階にある事務所だ。そこでは仲間たちが学生時代と変わらないたたずまいで段ボールを駆使し小道具を作っている。日本一忙しいドラえもんがほっと息をついて牛乳を飲める場所、それはこの雑居ビルの事務所と客席数3ケタの小劇場なのかもしれない。
取材・文・撮影=上村由紀子
公演情報
『タイトル未定 2018』
■場所:下北沢・Geki地下リバティー(東京都世田谷区北沢2-11-3イサミヤビルB1F)
■出演:鎌倉太郎 野村啓介 金子伸哉 保坂 聡 太田恭輔 山本泰弘 佐藤正和
舞台監督/西部 守(劇団民藝)
照明/高野由美絵
音響/井川佳代
美術/大島広子
美術補/土岐研一
衣装/外山文子
舞台進行/タカギ道産馬
衣装アドバイザー/神波憲人
宣伝美術・映像/加藤和博
宣伝写真撮影/中武宏太
振付/大川惠子
制作/一瀬江身 高橋ひろみ
協力/野口研一郎(リンズ) 浅津明子 勝田香子 唐沢由美子 坂田繭子 杉山麻衣子 豊川誠子 門司真理菜 黒部弘康 色城 絶 しゃなちひろ フレグランスプロダクション 仕事
撮影協力/成城大学
企画製作/ブラボーカンパニー