<別役実フェスティバル>山の羊舎『うしろの正面だあれ』
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本当は怖い別役劇──別役実フェスティバル
山の羊舎というユニットがある。これは2000年から、別役実の戯曲『メリーさんの羊』を上演する「『メリーさんの羊』を上演する会」を前身として、演出の山下悟、俳優の山口眞司、制作の高木由起子の3人によって結成されたユニットである。別役劇を中心に、だいたい年に1回のペースで上演を続けている。
そもそもひとつの戯曲だけを12年間にわたって上演するという取り組みを考えただけで、脇目も振らず、一途であると同時にマイペースな活動ぶりが伺えるが、そんな山の羊舎が、5月から開催中の「別役実フェスティバル」に参加し、『うしろの正面だあれ』(別役実作、山下悟演出)を上演した。
時間が堆積しているような年季の入った品々が、所狭しと置かれた部屋で暮らす姉妹の物語である。
姉(山崎美貴)と妹(谷川清美)は3歳ちがいだが、いい歳であるにもかかわらず、いまだにそれぞれの持ち物の所有をめぐって口論している。冒頭から取り合いをしているクッションは、いったいどちらのものなのか。スリッパには妹の名前が書いてあるが、姉は自分が買ったものであると主張し、妹は名前の記載から自分のものであると言い張る。このように、その部屋にあるものは、ふたりによって使用されているが、姉も妹もそれぞれが自分の持ち物であると思い込んでいる。仲のよい姉妹には、よく見られる風景である。
この家には、もうひとり、年配の男(山口眞司)が住んでいる。間借り人なのか、姉妹の「父親」なのかは判然としないが、この男は、姉妹が口喧嘩をしたすえに所有を主張していた物を放りだしたとたん、それを持ち去る。常に放りだす瞬間をそれとなく狙っている。まさしく漁夫の利であるが、姉妹の持ち物であるため、男には無用のものであることが多い。にもかかわらず、男は長年にわたり、それらを収集しつづけている。
そんな三人が暮らす家へ、ひとりの訪問客(大窪晶)が現れる。妹の方に借りていた本を返しにやってきたのだ。
そして、どういう思考回路を経たのかは不明だが、妹は姉をその男の結婚相手によいと思い込む。その一方、姉は妹こそがその男の結婚相手によいと思い込む。まるでその気のない訪問客は、姉妹の勝手な思い込みに翻弄されつづけ、さらに事情を複雑にするように「父親」から責められたあげく、とんでもない結末に巻き込まれてしまうのだ。
下北沢・小劇場B1は、かつて渋谷にあったジァン・ジァンによく似た空間で、1990年代にそこで上演された濃密な別役劇を髣髴させる舞台だった。
古びた家具や生活雑貨に囲まれて暮らす姉妹の奇妙な日常が、達者な演技と丁寧な演出により、不思議な手ざわりや質感さえも伝わってくる舞台に仕上がっている。手作り感とこだわりが詰まった、山の羊舎ならではの雰囲気に満ちた別役空間がそこにあった。
■日時:2015年11月4日〜8日
■会場:下北沢・小劇場B1^
■出演:谷川清美、山崎美貴、山口眞司、大窪晶
■公式サイト:http://www.yamanohitsujisya.com/