『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』浦沢直樹氏、飯島敏宏監督が語るウルトラQ「2020年の挑戦」の魅力
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左から桜井浩子、浦沢直樹氏、飯島敏宏監督、西條康彦
ロックバンド『オワリカラ』のタカハシヒョウリによる連載企画『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』。毎回タカハシ氏が風来坊のごとく、サブカルにまつわる様々な場所へ行き、人に会っていきます。久々更新の第22回となる今回は、円谷プロダクションが打ち出した新プロジェクト『ULTRAMAN ARCHIVES』。その第一回となる東京・イオンシネマ板橋での『ウルトラQ 2020年の挑戦』のPremium Theaterをレポートします。
浦沢直樹先生にこんな質問をさせていただいた。
「ご自身が漫画を描くとき、ウルトラQの遺伝子を感じることはありますか?」
浦沢先生は、こう答えてくれた。
「やっぱり怪獣を描くと、成田さん(ウルトラQやウルトラマンの怪獣をデザインした成田亨氏)の怪獣になっている。」「ロボットを描くと鉄人28号になっている。四つ足歩行の怪獣を描くと、膝をついている(笑)。自分で描くと、やっぱりあの時代のものになりますね。」
50年前の、「あの時代」を過ごした人達にとって、それはまさしく原体験。その遺伝子は、今も僕たちが触れる作品に受け継がれ、息づいている。
「そんな作品の魅力を、あらためてまだ知らぬ世代に届けたい。」
前回の塚越社長との対談にあるように、そんな願いを込めてスタートした円谷プロダクションの新プロジェクトが「ULTRAMAN ARCHIVES」だ。
対談はこちらから→http://spice.eplus.jp/articles/215523
ケムール人御本人も登場
ウルトラシリーズの作品を、クラシック映画のように「1話」単位で、商品化、上映、書籍化と様々な視点から掘り下げていくという、挑戦的な企画である。その第一回には、まさにこの”挑戦”にふさわしい作品が選ばれた。52年前に放送された初のTV怪獣特撮番組「ウルトラQ」から、第19話「2020年の挑戦」である。
「2020年の挑戦」は、あらゆるワンダーに満ちている。
東京上空での謎の飛行物体との遭遇から始まり、相次ぐ人間消失、小説との奇妙なリンク、異形の生命体・ケムール人、夜の遊園地での攻防……。一度の鑑賞では消化しきれないほどの要素が、25分の短いフィルムにギチギチに詰まっている。
いびつな頭部に3つの目を持ち、不気味に細長い体躯(スーツアクターは、後のウルトラマンを演じる古谷敏氏)で、大股の”ケムール走法”で夜の街を走り抜けていくケムール人のビジュアルは、一度見たら忘れられない、真のトラウマものだ。しかもケムール人が、よくある宇宙から侵略目的で地球に来ている宇宙人ではないというのが、よりリアルな恐怖を感じさせるポイントだ。
彼らは、衰えた自分たちの肉体の代わりになる健康な肉体を採集し、自分たちの生命を移植するための”肉体狩り”にやってきたのだ。
実はこのケムール人は、当時の公害のひどさを目の当たりにしていた飯島監督が、2020年の”未来の地球”に住む人々をイメージして作り上げたのだという。彼らは、環境汚染によって変質してしまった未来の人類の姿でもあるのだ。
「2020年の挑戦」は、僕自身も「ウルトラQ」の中で間違いなくベストにあげたい作品だが、当時これをテレビで目にした少年少女の衝撃は凄まじいものだっただろう。ケムール人によって無理やりにSFワンダーへの扉をこじあけられ、連れ去られた”被害者”がどれほどいたことか。罪なやつである、ケムール人。
さて、今回の”プレミアム上映”では、監督の飯島敏宏氏と、『YAWARA!』『MONSTER』『20世紀少年』などの作品で知られる漫画家・浦沢直樹先生、さらにサプライズゲストとして「ウルトラQ」のメインキャストの桜井浩子さん、西條康彦さん、さらにケムール人ご本人も登場し、濃密なトークイベントが繰り広げられた。
満員の会場には、様々な世代のオーディエンスが集まっており、司会を務めた映画評論家・清水節さんが「初めてこの作品を見る人はいますか?」と問いかけると、会場のそこかしこから手が上がった。
最初に舞台に登場した浦沢直樹先生は、まさにウルトラQリアルタイム世代。ウルトラQの第一話「ゴメスを倒せ!」が放送された1月2日は、ちょうど浦沢先生の5歳の誕生日だったという。5歳になったその日にウルトラQの洗礼を受け、22歳の頃にはウルトラQの怪獣に似ているからと「ピーター」というあだ名がついたという”Mr.ウルトラQ”な浦沢先生は、「2020年の挑戦」の見どころとしてとあるシーンをあげた。
「ネタバレは避けますが、万丈目(佐原健二氏演じる主人公・万丈目淳)に化けたケムール人が正体を現すシーンに注目してください。」
そう!この遊園地でのワンシーンこそ、作品中での最怖シーンにあげたい名場面、名演技のシーンなのだが、監督によると1949年のイギリス映画「第三の男」にインスパイアされた演出だという。
「佐原健二さんに”君、動かせる?”と聞いたら、”動かせる”と言うので。ちょっと誇張して後ろから引っ張ってますがね(笑)」
僕も浦沢先生を見習ってネタバレは避けるので、ぜひ未見の人にはこのシーンで”何が動く”のか注目ほしい。
イベントでは浦沢氏によるライブドローイングも
浦沢氏直筆のケムール人と万丈目
トークは、飯島監督と浦沢先生の対談コーナーへ。当時の少年誌の「未来はどうなる!?」というデストピアなグラビア特集などを見ては、「僕ら、これからえらい時代を生きてくんだな……」という印象を持っていたという浦沢先生に対して、飯島監督はその逆で、常に「未来は明るい」というメッセージで作品を作っていたと答えたのが印象的だった。
「文明だけが発達し、文化が発達していない」バランスの崩れた存在として、ケムール人や、その発展系としてバルタン星人を作り出し、反面教師的に彼らの存在を描くことで、未来へのメッセージを織り込んでいったのだ。
そうしたメッセージを、「プロパガンダ的でなく、全体の話を見終わったあとに、じわぁっと、”そうか”と思ってもらえるように」作っていたという。
御年86歳の飯島敏宏監督が当時を語ってくれた
ウルトラQ談義に花が咲く三名、左は司会を務めた映画評論家・清水節氏
数多くの特撮映像作品が作られてきた中で、「ウルトラQ」を筆頭とする初期のウルトラシリーズがこれだけ長い時間を生き抜いてきたのは、その1本1本のエンターテイメント性の裏側に作り手のメッセージが存在し、作品としての強度を静かに高めているからだろう。こうした魅力を新しい世代に伝えること、それが「ULTRAMAN ARCHIVES」のテーマでもある。
過去と未来をダイレクトに繋ぐ、このテーマについて浦沢先生はこう言葉にしてくれた。
「日本が失っていった物ってたくさんあって、この形を今の時代に残すにはどうしていったら良いか、みんなで考えていけたら良いなって。みんなでワクワク驚くようなものを作ろうっていうのが、復活してくると面白い。若いクリエイターが自分もやってみようっていうきっかけになったら良いですよね。そういう新しいものも見てみたい。」
さらに終演後、飯島監督にお会いする機会を頂いた。しかし撤収時間が差し迫っているのもあって、質問できるのは一つだけ。僕は考え抜いて、飯島監督に一つだけ聞いてみた。
「まだ見たことない世代に向けて『2020年の挑戦』の魅力を伝えるとしたら何と伝えますか?」
「木下恵介さんという監督がいるけど、彼は前提になるような事は何も言わずに、”僕の映画は見ればわかるよ”と言って試写でも帰っちゃう。絶対的な自信を持っていらっしゃるんだね。僕の場合は自信が無くて最後までいられないんだけど(笑)。 でも今日見て、今でも通用するな、って気がちょっとしました。だから何も言わず、先入観を持たずに、見てもらったら良い」
そうだ、僕たちは、”見る”ことができる。
見て、”感じる”自由、それを選択できることが、この時代に生きている僕たちの、最高にラッキーなところだ。必要なのは、ほんのすこしの好奇心のステップだけ。ぜひ、52年前に生まれた、このワンダーに満ちた世界に触れてみてほしい。
それで帰ってこれなくなったら、もっとラッキーだ。
※『ULTRAMAN ARCHIVES』の第二回は、2019年の2月に決定している。次回の作品は「ガラモンの逆襲」だ。