フレデリック 自らの道程と成長によって生まれた、3部作の完結編『OTOTUNE』を語る

インタビュー
音楽
2015.11.5
フレデリック

フレデリック

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ドラムスの脱退と3人体制への移行という、バンドとしても音楽的な表現の部分に関しても大きな出来事を乗り越え、ミニアルバム『OTOTUNE』(読み:オートチューン)をリリースするフレデリック。本作に収録されている楽曲群を通して、楽曲、ライブ、音楽そのものへの想いを話してくれた。聴くものを踊らせる「捻れた」ポップソングは、いかにして生まれるのか。ツアーを目前に控えた3人に訊いた、撮りおろしインタビュー。


――『OTOTUNE』というタイトルと、手と耳が青く塗られた今回のアートワークに、アルバムのテーマが隠されていそうですね。

三原健司(Vo,G・以下、健司) : えっと、まず経歴の話をさせてもらいますと、2ヶ月前にドラム(kaz.)が脱退しまして。4人だったバンドが3人で活動していくのは、どこからどう見ても大きな出来事で。けどドラムの意志を汲んで、全員で出した決断なので、4-1=3じゃなくて4-1も4だっていう気持ちを込めて、今回のアートワークを大島慶一郎さんにお願いしたんです。前に進んでいく意志を持って自分たちがどんどん変わっていく様を、写真にも出していきたいという話をした時に、この青と黄色のアイディアが生まれて。耳を青にして、僕らが楽器を奏でる指も青にして『OTOTUNE』。あなたの気持ちに耳を合わせます、音を合わせますっていう。

三原康司(B,Cho・以下、康司) : 『OTOTUNE』のTUNEには「調子合わせ」という意味があって。みんなが持ってるものと合わさった時に、初めて自分たちの音楽ができるんだっていうことをすごく思っていたのと……あとは“調子合わせ”って言葉をパソコンで打ち込んだ時に、“超幸せ”って誤変換されたんですよ。そこで俺、「へへへ」ってなって(笑)。うん。決定打でしたね。フレデリックのユニークさというか、笑えるロック、やってきたものが出てきたなってすごく思って。

――ズキュンとくるエピソード。しかも普段使ってる言葉から予測変換されるわけだから、人間性も透けて見えてきますよね。

康司 : はははは。常に超幸せだったんですかね。

赤頭隆児(G・以下、赤頭) : あり得るよ。そこはかなり大事にしてるバンドです。

――ただ青く塗られているのは指先だけで、手の甲や腕は染まってない。『OTOTUNE』とインディーズ盤『うちゅうにむちゅう』を作ったは確かに同じ人で、センスは相変わらずちょっと捻れていて、けれど今作の扉の方が断然大きい。だから指先はピタッと合わせつつ、全部を合わせますってことではないんだなぁと思ったんですけど。

康司 : 捉え方は人それぞれあると思ってたけど、面白いなぁ。僕が今思ってるのは、3人になってすごく変わった部分があるけど、絶対に変わらないものもあって。ゆっくりした曲、スピード感溢れる曲、いろんな曲が並ぶ中で、それでもどんどん面白い変わり方をしていくのが僕たちの変わらない信念っていうか。

――変わらないっていうのは留まることとは違うってことですよね。

康司 : そうなんです。みんな変わるって言ったら、離れてしまう印象を持つじゃないですか。けど全然そうじゃなくて。なぜ変わるかって言ったら、変わらず面白いことをもっとずっとやっていきたいからなんですよね。

三原健司(Vo,G)

三原健司(Vo,G)

――実際、フレデリックの音楽にはジャンルだけじゃなく、時代や国も行き来できる自由さを感じるし、そういうことが自然に楽しめる世代なんだろうとも思うんです。だってYouTubeを筆頭に様々なツールが物心ついた時からあったわけですよね?

康司 : あぁ、YouTube世代っていうのは自分でも思いますね。あれが出てきた瞬間、みんな音楽だけじゃなくいろんな調べものを始めたし、掘り下げることに対してより意欲があるし、しかも一番吸収する年齢だったと思うんですよ。同世代と対バンしていても感じますからね、いろんな音楽が混ざってる人が多いなぁって。

健司 : 僕らが一番感じてるのは、70年代、80年代の音楽に対してはやっぱり憧れでやっていくしかない。実際にその時代を生きてないから、その時の空気感は絶対わからないじゃないですか。でもYouTube世代の代表として、憧れの音楽を自分たちなりに消化して曲にして、「こんなに素敵な音楽があったんやで」って自分たちより若い世代の人に伝えたいし、その時代を生きていた先輩方には懐かしいと感じてもらえたらいいなぁという思いがありますね。

康司 : よくバンドで話してるのは、今も昔もいいものはいいんですよ。僕と健司には姉がいて、隆児はもともと古めの音楽が好きだし、そこに差はないっていうか。面白いものはホントに面白いし、それを自分たちがいいと思うカタチにしていくスタイルだと思ってます。ただやっぱり今を生きてるから、時代の音楽をすごく気にしてる部分もあるんですけど。

――「トウメイニンゲン」なんてまさに2015年の今ですよね。<大事なことは本人に言えよ>にしろ、<姿の見える本心でいろよ>にしろ、痛快すぎて清々しい。

康司 : 噂話ってどうしても耳に入ってくるじゃないですか。「あいつ、すごいイヤなヤツだよ」とか。でもそこで嫌いになるのって俺は良くないと思うんです。性格も、人間性も、大事なことって本人の行動や言葉から生まれるわけで、会って喋ってみないと本心は絶対に伝わらない。例えば、ライブをしていると、音楽を直接伝えたいという僕たちの想いを感じて、声や手を挙げたり、踊ってくれたりするわけなんですよ。そういう目の前にいる人と作りあげるものって本当に大事で、いつでも同じ気持ちではないし、だからこそ、その日だけの面白いことが起きるし。そんなことを考えてたら、いろんな人がトウメイニンゲンに見えてきて……みんなちゃんともっと掴んでほしいなって思いますよね。

赤頭隆児(G)

赤頭隆児(G)

――実際、掴ませる威力があると思います。<言葉のオセロが騒がしいんです>というフレーズが聴こえた瞬間、ハッとして「……天才!」って思ったもの。

一同 : あははははは! うんうん。

康司 : もし僕たちの歌が聴いてくれた人を動かす原動力になったら、それほど超幸せなことないなって思う。

――だからサウンドも、曲が求める音を見極めてチョイスしますよね。結果、ヴォーカル、ベース、ギターという編成のバンドにもかかわらず、間奏は鍵盤なんてことも多々ある。

康司 : そうですね。今回は歌詞に力を込めていて。その言葉がどういう情景を見せるのか、自分の中にあっても、聴いた人に見えないと共感には繋がらないと思うから。友達と公園に遊びに行って、山に登って、同じ景色を見るような感じがいいなぁと思って。辛いことがあっても、楽しいことがあっても、いつでも戻って来れる「家」みたいな。俺らの音楽がそうなれたら、ホントに聴いてくれてる人たちは俺らの家族だよなっていう想いでやってます。

赤頭 : 大家族を目指してます(笑)。

――サウンド作りの段階で、赤頭さんは「ここはギターソロ弾きたいんだけど」みたいな願望はないのでしょうか?

赤頭 : 「ここ弾きたい」っていうよりは、「ここは要るやろ?」っていうときに弾く感じですね。

健司 : わがままじゃないよね?

赤頭 : うん。エゴにはしたくない。

健司 : ギターソロのためにギターを弾くんじゃなくて、曲のためにギターソロがあるというか、フレーズの中にギターソロがあったら弾くっていう感じで対応してますね。

赤頭 : 例えば「FUTURE ICE CREAM」の間奏って、ギターソロではないですよね。あのフレーズはギターで考えんと鍵盤で考えたんですよ、康司くんと一緒に。普通はギターソロがくるところかもしれないけど、これはこっちの方がいい、みたいな話し合いをよくします。

三原康司(B,Cho)

三原康司(B,Cho)

――ヴォーカルがまた――もちろん言葉を届ける大事な媒体ではあるけど、フレデリックにおいては楽器の役割も担っていて。曲によって表現がガラリと違いますよね。結果、見える景色も変わるっていう。

健司 : 変わりますよね。例えば、歌詞の焦点を人に当ててない曲に関しては、人が歌うべきものじゃなくて……歌う僕は人であるけど、その役割はナレーター的であってもいいのかなっていうのは感じてて。なるべく意識を広く持って歌ってます。

――「USO」のヴォーカリゼーションはまさに物語を綴っているようでした。

健司 : それは自分の思う歌謡曲、ちなみにメッチャ渡辺真知子さんをイメージして歌ってたんですけど。歌謡曲ってその時代の風景がすごく見えてくるから、そういうイメージを大事にして歌ってみたらどうやろう? その意識を声に変えてみた時にどういう歌になるだろう?って興味もあって。こう、息を多めに含んだ歌い方というか。

――うんうん。一転、「ハローグッバイ」はパッションやら色んなものが迸ってますし。

健司 : あれはもう、今の僕らのメッセージだと思ったので。前作『OWARASE NIGHT』をリリースした頃にkaz.から脱退の報告を受けて、そのあと4人で挑んだ夏フェスがあって、9月には3人になるという現実があって。ハローもグッバイも経験したからこそ生まれた曲で、それでも前に進んでいくんだと決めた曲なので、それをちゃんと歌っていくのが自分の役目やなと思ってそういう歌にしました。

――中でも“生きる”というフレーズは鮮烈で、いつまでもズンと胸に余韻が残ります。

健司 : 普段、言葉として“生きる”って使わないじゃないですか。少なくとも20代で使うことは殆どないやろうし、今までのフレデリックなら歌えなかった言葉で。でも康司がここで“生きる”と書いた時点で、そういう覚悟なんだなって悟りましたし、歌うことで自分の生命力も感じましたね。

康司 : 今回のレコーディングでは、自分が曲を書いた時に持っていた理想像を、思いきり超えてきた健司の歌があったんですよね。スタジオに窓があって、そこから覗くと健司が歌ってるのが見えるんですけど、なぜだか誰かと一緒に歌ってる感じがして。「ハローグッバイ」の“生きる”は特に。健司は誰かのために歌ってて、その向こうにはそれを一緒に叫びたがってる人がたくさんいて、自分たちのバンドだけじゃなく、自分たちと歩んできた人と一緒に作り上げる歌があるんだなぁっていうことをものすごく感じたんです。覗きたくなる窓でした(照笑)。

――それ、すっごく幸せな感触ですね。

康司 : 背負ってるものが変わったというのはものすごく感じてて。それでも3人で笑いながら音楽をやれているのが、このバンドの強さにメチャクチャなってることを、アルバムを作り終えて気づきました。単に仲がいいだけじゃなくて、信頼関係が築けているなって日々感じますし、うん、人を大事にするようになりました。

健司 : 元々してるけどね。コウちゃんは。

康司 : そやなぁ。けど心が成長したっていうか。

健司 : インディーズ盤『うちゅうにむちゅう』からの過程を歌った曲が「FOR YOU UFO」で。地球にいるけど「宇宙人になりたいくらい」な気持ちで、人間なんて見てなかった僕たちが、意識的に地球に降り立って、手を取り合って踊ろうよって初めて誘ったのが『oddloop』で。もう一歩前へ、同じ歩幅で進んでいこうって言ったのが『OWARASE NIGHT』で。そこから「ちゃんと進んできて今があるんだよ」って歌ったのが「FOR YOU UFO」で。そうやって自分たちの成長をミニアルバム3部作に落とし込めたのも、ちゃんと繋がってる感じがして嬉しいですね。

康司 : 自分が書く歌詞もすごく変わったので。厳しい現実の中で頑張ってる人を応援してあげられる音楽を作りたいから、今回はキレのある言葉で真っ直ぐに伝えるっていうのを意識しましたし。まだ26年しか生きてなくて、何をわかってるんだって言われるかもしれないし、否定されることもあると思いますけど。それでも俺らには俺らの正義があって、それは絶対悪いものじゃないし、みんなで分かち合ったら楽しいものだと信じてるので。今作をいろんな人と共感し合って、調子を合わせてやっていけたらなって心から思ってます。

――すぐ先には、本作を引っさげての『フレデリズムツアー2015』が控えております。

康司 :リズムを合わせるってとても近いコミュニケーションだと思うんです。それを今、みんなとやりたくってフレデリズムなんですけど。ひとりひとりのどんなリズムにでも僕たちから合わせていくというか、みんなが楽しめるツアーにできたらなって思ってます。

健司 : フレデリズムと言いつつ、リズムの原点となるドラムがいなくなったわけで。やっぱりそこは“大事なことは本人に言えよ”じゃないけど、kaz.という人間がいたんだってことも含めて直接伝えていこうと思いますし。その上で、いなくなった分のリズムはみんなで埋めてほしいなって。会場全部で作るフレデリズムやと思ってるので、それぞれの土地でフレデリックの音楽を作っていくツアーにしていきたいですね。

赤頭 : 今回はワンマンをするのが初めての場所が多いにもかかわらず、フレデリックを観に行ってみようって思ってくれた人がいっぱいおって、全会場ソールドアウトできたんですね。それがすっごく嬉しくて。当然、メンバー脱退をよく思わへん人もいると思うんです。その状況の中で集まってくれる人は、ホンマに俺らを大事に思ってくれてるんやなぁと思うので、僕らも全力で大事にしていこうと思ってます。

 

撮影=菊池貴裕 インタビュー=山本祥子

リリース情報
Mini Album「OTOTUNE」​(オトチューン)


発売日:2015年11月25日

価格:2,100円(税別)
品番:AZCS-1050
収録曲
1. FUTURE ICECREAM
2. FOR YOU UFO
3. ハローグッバイ
4. トウメイニンゲン
5. USO
6. トライアングルサマー
7. 真っ赤なCAR
8. ひっくりかえす

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