やさぐれ汚れ系の岡田准一ら“人間”が面白い!全部盛りホラー『来る』の恐怖 #野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第六十回
野崎(岡田准一) (C)2018「来る」製作委員会
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
とうとう「来た」……私がかなり楽しみにしていたホラー映画『来る』が。公式サイトや予告などでは、何が“来る”のかを明確にせず、“あれ”と書く煽りっぷり。昨今の海外ホラー作品でも、何かがやって来る“it系”のブームを感じるが、『来る』はその流れに乗っただけの作品ではない。原作の『ぼぎわんが、来る』は、私にとっては、あまりの面白さに一気に読み切ってしまったほどのパンチがある小説。そのイメージが膨らみすぎて映画版への不安もあったのだが、期待を裏切らない作品に仕上がっていた!
娘を溺愛する田原(妻夫木聡)の身の周りで、怪異としか言いようのない不可解な出来事が起こり始めた。田原は、妻(黒木華)と娘に危害が及ぶことを恐れ、オカルトライターの野崎(岡田准一)の元を訪れる。野崎は霊媒師の血を引くキャバ嬢・比嘉真琴(小松菜奈)とともに調査を開始。しかし、田原を狙っている“あれ”は、想像以上に凶悪なものだった。はたして、“あれ”の正体は。そして、田原が狙われる理由とは。
ジャンル分け不可能 “人間”が面白い中島哲也監督の演出
田原秀樹(妻夫木聡) (C)2018「来る」製作委員会
『来る』は、前半はドラマ、中盤はミステリー、後半はホラーといった感じで、様々な展開を見せる、ジャンル分け不可能な作品。もちろん、怖い場面もあるが、単純なホラー映画ではない。メガホンをとった中島哲也監督も、「ホラー映画を作ったという感覚はあまりない」、「描きたいのは人間の面白さだ」とコメントしているとおり、意図的な構成のようだ。オープニングからしばらくは、田原が怪異に見舞われるまでの日常を描いている。結婚式を挙げ、子どもが生まれ、マイホームを手にする……という、何のことはないようにも思える導入部分にこそ、“人間の面白さ”と“怖さ”が潜んでいるのではないか。良かれと思ってやっていたことが、周りの人には真逆に捉えられていたとしたら。そして、恨まれていたとしたら。そんな、厭なすれ違いが描かれているのだ。
比嘉真琴(小松菜奈) (C)2018「来る」製作委員会
さらに言うと、本作に登場する個性際立つキャラクターたちにも、人間の面白さを感じることが出来る。ニヒルなオカルトライターや、ピンク色の髪をした霊感キャバ嬢など、設定からは現実離れした印象を受けるが、一人ひとりの行動理念や信念がしっかりと描かれているため、その魅力に惹きつけられるのである。「岡田准一さんがどんな仕事でも引き受ける汚れ系オカルトライター役?ちょーっと原作のイメージよりカッコよすぎやしません?」なんて思っていたのだが、実際に観てみると、そのハマりっぷりに驚かされた。外見こそ原作のイメージよりカッコいいものの、やさぐれた雰囲気や喋り方、俗っぽい仕草で説得力を持たせる芝居は、流石としか言いようがない。
理にかなった“あれ”の描き方
比嘉琴子(松たか子) (C)2018「来る」製作委員会
ちなみに皆さんは、幽霊や化け物の類を信じるだろうか? 幽霊や化け物の存在を信じる“肯定派”の私は、田原を襲う“あれ”にリアリティを感じる。「霊にリアリティなんてあるのか?」というツッコミはさておき、そもそも怪異というものは、説明し難い異様な現象なので、決まった呼び名や姿などないのではないか?と思うからだ。だからこそ、本作の、人の声や姿を借りたり、電波を通してアプローチしたりといった、どんな姿の何が“来る”のかわからない“あれ”の描き方は、非常に理にかなっていると思うのである。化け物、霊といった類の表現としては100点満点をあげたい!
前半部分で「“人間が一番怖い”ホラーなのか?」と思わせておいて、後半では得体の知れない“それ”にしっかり焦点を合わせ、トラディショナルな心霊ホラーに持っていく。さらには“あれ”を打倒するため、大勢の霊媒師が集結し、異能バトルのような展開になってゆくのにも、目が離せない。異なるベクトルを持つ怖さのてんこ盛りっぷりは、ホラー・オカルト好きな私としてはすごくうれしい! こういうのが見たかったんだ!
田原香奈(黒木華) (C)2018「来る」製作委員会
「こわいけど、面白いから、観てください」というキャッチコピーの通り、怖いのにぐいぐい引き込まれる仕上がり。本作を観てハマったら、ぜひ原作小説にも手を伸ばしてみてほしい。濃密な『来る』の世界が、よりこと細かに描かれているから。
私のように、あなたもこの世界観にどっぷりハマってくれますように……。
『来る』は公開中。
作品情報
【キャスト】