劇団四季の新作ミュージカル『パリのアメリカ人』稽古場レポート!「影や重さがあるからこそ”希望”が輝く」
-
ポスト -
シェア - 送る
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
◆劇団四季の新作ミュージカル『パリのアメリカ人』公開稽古
2019年1月20日(日)に開幕する劇団四季の新作ミュージカル『パリのアメリカ人』。初日まで1ヶ月を切った某日、四季芸術センター(横浜市)にてメディア向けの公開稽古と本作の演出・振付を担当するクリストファー・ウィールドン氏の囲み会見が行われた。今回はSPICEオリジナル撮影写真とともにその模様をレポートしたい。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
稽古場に張りつめた心地よい緊張感。まずはウィールドン氏から公開される3場面のシチュエーションが説明される。最初に披露されたのは「I Got Rhythm アイ・ガット・リズム」。ジェリー、アダム、アンリがカフェで出会うシーンだ。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
ピアノを弾くアダムのもとにジェリーがやってくる。ふたりとも戦争で傷を負った退役軍人であり、アメリカには帰国せず、パリで新しい人生を生きようとしている。バレエの柔らかい振付とともに、ピアノが舞台奥からセンターまで運ばれる様子に洗練された雰囲気と斬新さとを同時に感じた。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
そこにフランス語で叫びながら飛び込んでくるアンリ。アンリのリードで「I Got Rhythm」のナンバーが流れ、暗い戦争の影を払おうと「パリは喜びを必要としている!」の掛け声とともに、店のやかんやビン、缶を使ってリズムを取り、カフェの客たちが歌い踊る。「I Got Rhythm」といえば、四季のレパートリー作品『クレイジー・フォー・ユー』でも小道具の使われ方が印象的な曲だったが、このパリアメも負けてはいない。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
バレエに加え、華やかなシアターダンスが歌とともに展開する中、あるアクシデントがカフェを襲うのだが、彼らは気持ちを落とさない。アップテンポな曲調とともに、舞台上のボルテージも上がり、目の前にあるもので工夫をしながらその苦境を乗り越えていく。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
次に披露されたのは「I'll Build a Stairway to Paradise パラダイスへの階段」。ショーマンを目指すアンリがモンマルトルの小さなキャバレーで初めて人前でパフォーマンスを見せる場面だ。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
緊張し、おびえているアンリに向かって「ここはラジオシティミュージックホールだ!」と鼓舞する言葉をかけるアダム。最初は声も震え、踊りも硬かったアンリは次第に自信を取り戻し、華麗なアクトを魅せる。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
カフェでは足を引きずっていたアダムもキャバレーの場面ではダンスに参戦。これは彼らの夢の世界なのか……それとも現実なのか。そこはぜひ劇場で確かめていただきたい。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
そして最後は「An American in Paris パリのアメリカ人」。美しいバレエシーンが見どころの本作クラマックスシーンだ。冒頭、違う箇所の音楽が流れ、一瞬の戸惑いの後に少し笑う出演候補者たち。そこにウィールドン氏から「リラックス!」の声が飛ぶ。あえての作戦ではないと思いつつ、ジェリーとリズ、ふたりのデュエットダンスから始まるこの場面の緊張が和らいだのを感じた。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
冒頭から上記の場面まで幸せそうなデュエットを続けるふたり。だが、途中からパートナーが変わる。そこにどんなストーリーがあったのか想像力を掻き立てられる。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
ふたりのデュエットが華やかな群舞に展開しフィナーレへ。約30分間、非常に見ごたえのある稽古だった。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
続いて行われたウィールドン氏の囲み会見。振付のポイントについては「映画の精神性を大切にしながら、レプリカにならないよう意識した。映画版を作ったクリエイターたちが現代に生きていたら?とつねに考えながら創作したよ。映画が作られた50年代は世の中全体がハッピーなものを求めていたけれど、今の世相は少し違う。暗さや重さがあるからこそ希望が生きるのだと僕は思う」と話し、ミュージカルとバレエの違いを問われると「ストーリーが重要視されるのはミュージカルもバレエも同じ。僕は自分をストーリーテラーだと思っているから、言葉を使えるミュージカルは贅沢な芸術。ただ、ずっとステップ主体でやってきたから(笑)、最初は混乱もあったかな。ダンサーは言われたことをすぐに身体に落とし込み動く、そして俳優は細かくディスカッションをし、納得した上で演技を始める。ふたつの世界のコラボレーションはとても刺激的な体験だった」と語った。
また、劇団四季との共同作業については「まずこの素晴らしい施設を自由に使えることが本当に凄いと思う!」と笑顔を見せ「四季の俳優たちは作品に対して非常に献身的。あれもこれも、ではなく、これしかないという思いが強く伝わってくる。一緒に仕事ができて幸せだ」と答えた。
◆出演候補キャストと『パリのアメリカ人』
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
この日の公開稽古で登場した出演候補者は以下の通り。
・ジェリー(アメリカ人の退役軍人、画家になろうとパリに残る) 酒井大
・アダム(退役軍人、作曲家を目指すピアノ弾き) 斎藤洋一郎
・アンリ(フランス人資産家の息子、ショーマンに憧れている) 小林唯
・リズ(ある秘密を抱えたバレエダンサー) 石橋杏実
ミュージカル『パリのアメリカ人』の基(もと)となったのは1951年に公開され、ジーン・ケリーがジェリーを演じた同名映画。バレエというより、タップやジャズといったダンスが主体となっている。
9月に行われた本作の製作発表、そしてこの日の囲み会見でもウィールドン氏の口から語られたのは「映画版をリスペクトしつつ、ミュージカル版では明るくハッピーなだけではない面を描いていきたい」という点。これは映画が第二次世界大戦から数年たったパリを舞台にしているのに対し、ミュージカル版は戦争直後、まだナチスの影響が残る灰色のパリが舞台になっていることからも良く分かる。冒頭の場面をご覧頂けばすぐにこの設定が腑に落ちるはずだ(アダムの何気ないセリフからも彼のバックボーンが見える)。
音楽もガーシュウィンのオリジナルに手を入れ、独自のサウンドを構築。同じ作曲家の『クレイジー・フォー・ユー』とは違う訳詞を採用しているのも興味深い。
劇団四季『パリのアメリカ人』公開稽古(撮影:荒川潤)
劇団四季の稽古場取材に入るたびに思うのは劇団ならではの結束力だ。この日も誰かの小道具が見当たらなければすぐフォローが入り、ベテラン俳優、味方隆司が舞台袖と思われる場所から持ち道具を若手に手渡したりと、抜群のチームワークを見せていた。
ナチスの影がいまだ残るパリで展開する若者たちの夢、恋、そして挫折。ミュージカルとしては2016年『ノートルダムの鐘』以来の新作となる『パリのアメリカ人』で、美しい音楽とバレエを中心としたダンスにどんなドラマが重なっていくのか、開幕を楽しみに待ちたい。
劇団四季ミュージカル『パリのアメリカ人』は2019年1月20日(日)より東急シアターオーブにて、また同年3月19日(火)よりKAAT神奈川芸術劇場<ホール>にて上演される。
取材・文=上村由紀子 撮影=荒川潤
公演情報
■脚本:クレイグ・ルーカス
■振付・演出:クリストファー・ウィールドン
■日程:2019年1月20日(日)~3月8日(金)
■会場:東急シアターオーブ
■協力:東京急行電鉄株式会社
■日程:2019年3月19日(火)~8月11日(日・祝)
■会場:KAAT神奈川芸術劇場
■後援:神奈川県教育委員会/横浜市教育委員会/横浜商工会議所
■特別協力:東日本旅客鉃道株式会社
■協力:横浜市交通局/東京急行電鉄株式会社/京急電鉄/相模鉄道/横浜高速鉄道/神奈川中央交通