KUSHIDA 国境と時代を超えるリアル・プロレスラー~アスリート本から学び倒す社会人超サバイバル術【コラム】
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現代の「活字プロレス」の面白さ
プロレス雑誌や東京スポーツが好きだ。
と言っても、月額999円で動画見放題の新日本プロレスワールドや、たったの月額324円で選手の日記や独占インタビューが読める新日スマホサイトにも会員登録してるし、選手自ら発信するTwitterもプロレスリストを作って定期的に覗く。専門誌以外でも、格安で情報を得ることができる時代。けど、だからこそ並行して“中からの発信”だけではなく、“外からの視点”も意識するようにしている。
だって、その方が面白いから。『週刊プロレス』には各団体の情報がフラットに並ぶので、新日本プロレス以外の世界が垣間見えるし、同時に試合結果と写真を時系列順に見てるとある種の答え合わせもできる。それにクリアな公式情報だけでなく、ある種の妄想による深読みは今もプロレスの魅力のひとつだ。レスラーの紹介記事や連載コラムも公式サイトよりも外向きで緊張感があるように思う。
IWGPヘビー級王座に返り咲いた棚橋弘至に以前インタビューした際の言葉を借りると、「最近のプロレスは過剰に技を重ねてしまうので、情報量が多すぎる」ので、一旦その情報を整理するのに第三者的な視点のプロレス雑誌や東スポ記事は最適なツールだろう。個人的に今は休刊中の『ゴング』が好きだった。懐かしのマリア・ケネリスのセクシーグラビアが最高だから……ではなくて、真っ先に読んでいたのが、KUSHIDA選手の連載コラム『バック・トゥ・ザ・プロレス少年』だ。
あの桜庭和志との練習に燃えた日々
新日のジュニア戦線を長年引っ張ってきたクッシーが半生と今を語る。自分を知らない読者にも伝わるように、自己紹介とプロレス界の動向を分かりやすく説明するのだが、これがめちゃくちゃ読み応えがあって面白い。なんと大学時代にプロレス業界との繋がりが何かほしいと東スポの編集局整理部でアルバイトをして、ちょくちょく記事も書いていたという。早く書籍化をと思っていたらゴングが休刊してしまったわけだが、そうこうする内にレスラー生活13年、キャリア14年目に突入したKUSHIDA本人も今年1月限りで新日本プロレスを退団することが発表された。
マジかよ……。これには年明け早々かなりショックを受けた。なにせゴングの連載で完全にファンになっていたからだ。好きな映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とウディ・アレン作品の『ミッドナイト・イン・パリ』みたいな意外な一面や、大学に休学届けを叩きつけ就職活動をドロップアウトして、成田空港からメキシコシティ行きの飛行機に飛び乗り、プロレスラーを目指す熱い一面も持つ男。中学3年生で家の近所にできた高田道場に通い、月会費12000円を捻出するために道場の目の前のコンビニに直訴して16時から19時の変則1日3時間勤務に燃え、あの格闘技界の伝説・桜庭和志と連日スパーリングをこなしたという。
格闘技団体ZSTのトーナメントで優勝。アメリカやカナダの田舎町の柔術道場に飛び入りで練習参加して「そのテクニックは誰に教わったんだ?」なんて驚愕されたとか、そういうエピソードは自分のような面倒くさいオールドプロレスファンにはたまらない。時代とともにストロングスタイルの概念も変わった。けど決して終わっちゃない。やっぱりいつの時代もプロレスラーは本当は強くあってほしい。
ウィル・オスプレイに代表される華やかなハイフライヤーや、高橋ヒロムのようなスリリングでド派手なプロレス、変幻自在のBUSHI、SHOやYOHといったイケメンレスラーが顔を揃える新日ジュニアヘビー戦線で、「ホバーボードロック」という旋回式のアームロックに説得力を持たせられるKUSHIDAの存在は貴重だ。分かりにくいことを、分かりやすく見せる技術。そのベースにリアルな“強さ”がなければ成立しない。
“昭和”と“平成”を感じさせるタイム・スプリッター
飛んでも組んでもなんでもできる童顔のエグい奴。新日本の本隊に属して戦っていたが、実はそれだけで結構不利な面もある。なぜなら、本隊=会社側とファンには捉えられてしまいがち。好き勝手やって自由に見える反体制のヒールユニットの方が観客の共感を得やすい。
正直、定期的にベルトに絡み、BEST OF THE SUPER Jr.24でも優勝しながら、最近の会場人気は前述の若手レスラーたちの方が上だったし、注目度という面では他団体からやって来た石森太二や鷹木信悟に持っていかれていた感も否めない。本隊の王道の先駆者が味わう苦悩。ここじゃやり尽くしたのか、まだオレは終わっちゃいないか……。だからこそ、35歳でバリバリ身体が動く内に愛着のある新日を離れ、昔からの夢の本格的な海外進出を決断したのかもしれない。
公式スマホサイトで連載中のKUSHIDAの日記『この広い海の向こうに世界がある』では「行ったことのない国からのオファー。大好物であります」なんて世界巡業生活を楽しむ心境を定期的に綴り、ゴングの『バック・トゥ・ザ・プロレス少年』において「プロレスに国境は無くなった」とも書いている。動画サイトやスマホの普及で、今はいい選手の評価は海を渡るのだと。
本当に不思議な選手だ。時代に合わせたプロレス観をアップデートし続け、リング上では伝統のストロングスタイルの匂いも放つ男。過去と今、どっちかじゃなく、どっちもだ。“昭和”と“平成”を行き来するタイム・スプリッター。棚橋弘至とはまた別のベクトルで革命的だった。
1月29日、後楽園ホールでKUSHIDAはその棚橋との新日ラストシングルマッチに臨む。
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