4年ぶりに再演されるKバレエカンパニー『カルメン』 熱気あふれる公開リハーサルの模様をレポート
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ジョルジュ・ビゼーの手によるオペラの楽曲を用い、Kバレエカンパニーの熊川哲也が創造したグランド・バレエ『カルメン』が4年ぶりに上演される。今回の上演では、魔性の女カルメンと、彼女によって運命を狂わされていくドン・ホセとして、4組が登場。バレエ団を代表するプリンシパルから、今後の活躍がますます期待される若手まで、楽しみなキャストが揃っている。3月6日の初日まであと十日ほどとなった日、公開リハーサルが行なわれた。
最初に公開されたのは、第一幕、カルメンとドン・ホセが酒場にて久々の再会を果たす場面。共に今回が初役となるペア、カルメン=毛利実沙子、ドン・ホセ=杉野慧がパ・ド・ドゥを披露した。二人は昨年9月にそれぞれファースト・ソリストに昇進しており、毛利は『ドン・キホーテ』でヒロインのキトリ、杉野は、同じく毛利を相手に『ドン・キホーテ』のバジル、『海賊』の主役コンラッドや『くるみ割り人形』のドロッセルマイヤーなどを踊ってきている。指導に当たったのはバレエ・マスターの遅沢佑介。ドン・ホセ役も踊ってきている遅沢曰く、このシーンは、「演者としては一番盛り上がるところ」とのこと。期待感に満ちて酒場にやって来るドン・ホセ。そんな彼をうれしそうに迎えるカルメン。二人の心情が、ダイナミックなリフトも盛り込まれた振付の中に表現されてゆく。
パ・ド・ドゥ披露後、遅沢による指導がスタート。「酒場に入ってきたとき、そんなにキョロキョロしない」と、自ら演じてみせる演技に説得力がある。毛利に対しては、自ら女性パートの振りをしなやかに踊って見せ、また、彼女をリフトして注意した動きの復習に当たらせる。最後にもう一度パ・ド・ドゥをおさらい。注意点をクリアした二人の踊りと演技は細やかにブラッシュ・アップされている。
「二人とも元々演技が上手で、個性を発揮できている。杉野は『これが杉野慧の舞台だ』というところを表現できているし、毛利には他のダンサーにない魅力、色気があり、この2人が『ドン・キホーテ』で組んだとき、いい刺激をもらえた」と遅沢。「ドン・ホセは、ディレクター(熊川)、遅沢さん、宮尾さんという方々が踊ってきた役。学んだものを活かし、『杉野慧』としての舞台をしっかりと前面に押し出していきたい」(杉野)、「初めてのカルメンを、彼女の雰囲気や物語をきちんと理解して演じたい」(毛利)と、二人も意気込みを語る。「カルメンの物語や性格を、それぞれの場面でどう演じて見せるか、苦戦している」(毛利)、「真面目な兵士が、一人の女性に出会って堕ちていく。そのコントラストの間にある部分の見せ方が難しい」(杉野)と苦労点を語る二人に対し、「演じる必要はない。カルメンもドン・ホセも、絶対に自分の中にあるから、それを出していけばいい。自分の人間性を出していった方がおもしろい」と、遅沢が含蓄に富んだアドバイスを。二人が本番でどのような踊りを披露するのか、そして遅沢が演じる闘牛士エスカミーリョ役にも注目だ。
続いて公開されたのは、先のパ・ド・ドゥへとつながっていく第一幕の酒場の場面で、バレエ団を代表するプリンシパル、荒井祐子がカルメン役に扮した。音楽の盛り上がりと共に、人々の熱気も次第に高まってゆき、その中央で、女王然として踊るカルメン。音楽がスタートすると瞬時にスイッチが入り、まさにカルメンの表情となった荒井が、客席側に強い目線を幾度となく送りながら、身体から情熱をほとばしらせて舞う。周囲の動きもエネルギッシュで、見応えのある華やかな場面だ。ドン・ホセの上官スニガ役で、Kバレエの重鎮、スチュアート・キャシディも登場。彼の存在感、その演技で、場面がぐっと引き締まる。指導に当たったアシスタント・ディレクターの前田真由子は、大勢のダンサーの一人ひとりに細かい注意を与えていく。
「通常のクラシック・バレエと比べ、もう少し大きいというか、情熱的でエネルギーのあるスパニッシュの動きが、ステップからも感じられる。多くのキャラクターが登場するが、その一人一人の人生も見えるような、ドラマ性の高い作品」と、Kバレエ版『カルメン』の魅力を語った前田。「クラシック・バレエだときれいに立たなくてはいけないということがあるけれども、この作品では崩さないといけない、そこが、経験の浅いダンサーにとっては難しいところなので、しっかりと指導していきたい」とのこと。
「普通ダンサーはそういう訓練はしていないので、歩き方一つとっても違ってくる。習ったことは忘れて、きれいに立たない、バレエの歩き方をしないということが逆に難しい。僕が演じるスニガも酔っぱらいで、女になれなれしい人物だけれども、ナチュラルに舞台に在るということを常に考えている」とキャシディ。
荒井は、カルメンを演じる醍醐味について「カルメンはすごく自由奔放で、欲望をすべて表しているような女性。好きなら好き、嫌いなら嫌いで、急に冷たくなったりもする。普通だったら押し殺すようなところもすべて取っ払って生きている正直な女性で、普段の自分自身と全然違うのですが音楽を聴くと顔が自然にカルメンの顔になるんです」と生き生きと語っていた。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
公演情報
Spring Tour 2019『カルメン』
日程:2019年3月6日~3月10日(日)
場所:Bunkamuraオーチャードホール
日程:3月19日(火)
場所:東京エレクトロンホール宮城
<福島公演>
日程:3月21日(木・祝)
場所:けんしん郡山文化センター
芸術監督:熊川哲也
演出・振付:熊川哲也
音楽:ジョルジュ・ビゼー
指揮:井田勝大
管弦楽:シアター オーケストラ トーキョー
ドン・ホセ=熊川哲也、宮尾俊太郎、堀内將平、杉野慧
カルメン=荒井祐子、中村祥子、矢内千夏、毛利実沙子
エスカミーリョ=遅沢佑介、高橋裕哉、山本雅也、栗山廉
ミカエラ=成田紗弥、浅野真由香、河合有里子、吉田このみ
モラレス=伊坂文月、石橋奨也
スニガ=スチュアート・キャシディ
公式サイト http://www.k-ballet.co.jp