泉ピン子が太鼓判「坂本冬美はいい役者です」 『坂本冬美特別公演 泉ピン子友情出演』公演に向けて二人が思いを語る
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(左から)泉ピン子、坂本冬美
2019年6月1日(土)から、東京・明治座にて「坂本冬美特別公演 泉ピン子友情出演」が上演される。坂本が魅せる艶のある芝居と数々のヒット曲を楽しめる“坂本冬美”色の世界。今回このステージに女優・泉ピン子が友情出演するという事で注目されている。“友情”と題するからには二人の関係もかなり近しく深いものがあるのでは? 大阪公演を経て東京公演に向けて準備中の二人に話を伺ってきた。
取材の前に撮影をしていたが、撮影中も二人の話が止まる気配がまるでなく(笑)。そのままインタビューへと突入した。
ーー大阪公演以来の再会と聴きました。だからお話が尽きないんですね。
坂本:もう久しぶりだったから話が止まらなくて。
泉:大阪では一ヶ月一緒だったからね。公演は20日くらいだったけどあっという間だった気がするね。
ーー今回、泉さんは「友情」出演という事ですが、お二人はいつからのお付き合いになるんでしょうか?
泉:2004年のドラマ『ラブ・ジャッジ2』だったよね。その後はバラエティ番組に冬美ちゃんを呼んだりしてね。
ーー泉さんが最後に明治座に出たのが2006年の舞台『渡る世間は鬼ばかり』。今回の舞台共演は「待ってました!」という機会だったんですか?
坂本:そうですね。でもピン子さんは最後に舞台に出られてから10年以上経っていたので、まずは舞台に出ていただけるか? というところからご相談したんです。ピン子さんと舞台に立たせていただけるなんて夢の夢ですから。ものすごく勉強になりますからお願いしまくりました。でも出演をOKしてくださってからは早かった! すぐ着物を新調されてましたから(笑)
坂本冬美
泉:化粧台もね。前に使っていたのは小林綾子にあげたのよ。楽屋暖簾くらいしか残ってなかったんです。でも今回亡き杉村春子先生から生前に夏の楽屋暖簾をいただいていたんです。今回6月の公演ですからようやくこの暖簾を初めて使える! それが嬉しくて!
■演じるのは似た者同士の二人の芸者
ーー今回の公演は二部制となっていますが、まずは第一部「恋桜 -いま花明かり-」について。花柳界に生きる芸者二人のお話ということですが、泉さんが演じる八重次(やえじ)とはどんな女性なんですか?
泉:しっかりしてそうなのにどこか抜けていて。金で動く人なのに金が全然たまらないタイプの人なんです(笑)。(坂本が演じる)梅竜(うめりゅう)は自分の目的があるからしっかりしているけど八重次はそうじゃない。
坂本:でも八重次姐さんは、純粋ですよね。ピュアなところがあって。
泉:八重次はある意味、梅竜と似ている所があるので時にぶつかり合うんだと思いますね。二人とも親も身寄りもない、誰にも頼れないという環境もあって疑似家族のような関係になったんだと思います。
ーーそして坂本さんが演じる梅竜という女性はどのような人物だととらえていますか?
坂本:ある目的、ある人を待っているためにものすごく節約をして、お金を貯めているんです。
泉:他人のクリームを使うくらいのどケチよね(笑)。誰に口説かれても梅竜は旦那を持たず一人でやってますからね。
坂本:はい。そして梅竜は芯の強さともろいところと両方あって。
泉:芝居を観たら分かると思うんだけど、梅竜って意外と騙されますよ。もっと慎重にやりなさいよって思うくらいですよ。コツコツとやっていける人なのに人を一度信用したら信じ切っちゃう。
坂本:そうですよねえ。簡単に他人に100万円預けたりしませんよね(笑)。でも信じちゃったから……。
ーーそんな場面があるんですね! この物語は前の東京オリンピックの前年となる1963年の東京が舞台という事で、まさに今この2019年とリンクする設定ですが随分東京の様子も変わったと思います。
泉:何しろ東京に花柳界が少なくなりましたからね。うちは芳町(葭町)で芸者さんの髪結い(かみい)をやっていた家なんです。TVドラマ『おしん』のモデルになった方の家に私の母が行き髪結いをやっていたんですよ。私のうちは五反田の三業地という「花街」にあったので友達の中には置屋さんの家の子もいました。子どもの時芸者さんたちの「御引き摺り」という裾の長い着物を着て、かんざしをいっぱい頭に刺して遊んでいたら、まあ怒られた怒られた(笑)三味線のバチを割っちゃったこともあった(笑)。
(左から)泉ピン子、坂本冬美
坂本:そんな芸者さんの商売道具を(笑)私はこの時代の事も花柳界の事もこの芝居で初めて知った身なんです。演出の石井ふく子先生が芸者さんの家でお育ちになられた方なので手取り足取り教えていただきました。お酒のとっくりの持ち方や注ぎ方も。稽古中にとっくりを手に取ったら先生が飛んできて「違うわよ」と正しい持ち方を角度まで教えていただきました。
■泉ピン子が太鼓判!「坂本冬美はいい役者」
ーー泉さんから見た「役者・坂本冬美」はいかがでしたか?
泉:稽古中から毎日成長していましたね。彼女は勉強熱心なのでどんどんうまくなっていきましたよ。台詞の言い回しも録音して覚えていたし。お客様に「何かを伝える」という仕事は歌手も役者も同じ。そういう点ではいい役者だと思いますよ。冬美ちゃんのいいところはマジメな事。芝居の事をずーっと考えている事ができる事。役者にとって一番大事なことはその芝居から離れない事だと思うんです。ずっと考えていれないと芝居は上手くなりませんから。芝居の神様がそういう役者を愛してくれるんです。
坂本:稽古中にはちょっとしたアドバイスをピン子さんから頂き、台詞の音を録ったり稽古の様子を撮影してはチェックしていましたが、早口の癖が出てしまうと「早いよ」とか「少しブレスが深いよ」って教えていただいていました。気を付けていても自分の癖がつい出てきてしまうんです。
泉:そこは見せ場なんだから、ゆっくりたっぷり喋ればいいのにパパパッて喋ってしまうんだよね。
坂本:……せっかちなんです(笑)。
泉:また、人を見送る場面があるんですが、見送った後の余韻が見せどころなのに、この人は早く(舞台袖に)引っ込もうとするんだから(笑)。
坂本:(笑)。その間が持たないんですよね。もっとたっぷりおやんなさいって本番中でも暗転になったら言ってくださりました。
(左から)泉ピン子、坂本冬美
泉:私が明治座に初めて出演した時、右も左も分からない私に明治座の三田政吉会長(当時社長)が「ピンちゃん、おやんなさい」って後押ししてくださったんです。その後、お客さんはいっぱい入っているのに、舞台が楽しく感じられない時があったんですが、今回冬美ちゃんと久しぶりにやって「舞台ってこんなに楽しいものだったんだ!」って驚いたんです。だから大阪の初日もまるでつい昨日まで別の舞台に出ていたかのように声も出てまったく緊張しなかったんです。
坂本:芝居を録音したりビデオに撮って聴きなおすと、ピン子さんの声だけ全然違うんですよ。客席の一番後ろから撮っていたんですが、セリフがものすごく鮮明で、口跡もハッキリしていて。
泉:今はマイクを使いますが、私が舞台をやっている時はマイクを使っていなかったんですよ。その状態で3階まで声を届けないと、とやっていたから。
ーー……凄い!
坂本:ピン子さんのいちばん凄いところは、稽古中に私の芝居を「ここはああだこっちはこうだ」と話していたのに、ご自分の出番になるとすうっと行ってしまうんですよ。あんなに気持ちの切り替えなしで芝居に戻れてしまうのか! ってビックリでした!
泉:それは皆に言われるんです。舞台袖でまったく芝居と関係ない雑談をしていてすっと舞台に出ていけるのは森のお母さん(森光子さん)か私なんですって(笑)。お母さんは「ちょっと小夜ちゃん(=泉さんの本名)! 何を言ってるのよ!」って話していたかと思ったらすっと舞台に出ているんです(笑)。だから、逆に『渡る世間は鬼ばかり』でうちの息子だったえなりかずきや、娘の吉村涼ちゃんからは「集中したいから話しかけないで!」って怒られるんです(笑)。
坂本:ピン子さんは「10年以上舞台のお仕事をしてなかったので大丈夫かしら?」って言ってたのにまったくそんな心配なし。最初に舞台に登場する場面ではハッとするようなオーラが出てましたから。
泉:舞台の仕事を久しぶりにするとなって吉田鋼太郎や村田雄浩に「私大丈夫かなあ」って言ったら「大丈夫ですよ! 今までやってたんだから!」と返されました。人によっては私が坂本冬美の芝居に出る事に疑問を持つ人もいました。やれ歌手芝居だとか巷には馬鹿にする人もいますが、坂本冬美は素晴らしい女優だと思いますよ!
泉ピン子
ーー泉さんが今ぐっとハードルを上げてきましたが(笑)、さて東京公演にむけて今のお気持ちは?
泉:東京だといろいろな人が観にくるからねえ。
坂本:私、ピン子さんのお仲間が多数いらっしゃるかと思うと今からドキドキで。だってベテランの役者さんたちばかりじゃないですか。それを思うと大阪公演はまだ気が楽でしたよ。ピン子さん、お仲間を呼ばないでくださいね(笑)! 誰か観に来てたよとか始まる前に教えないでくださいね(笑)。
ーーズバリ、見どころは?
泉:全部! 全部に決まってるじゃないの(笑)。あっという間に終わると思いますよ。例えるなら東芝日曜劇場を観ているような気分ね。
坂本:(笑)あたたかい余韻が残る芝居です。最後はご自身の人生と照らし合わせてほろっとするような台詞があったり。演じていても毎回泣けてきます。
■泉ピン子、ナレーションも務めます!
ーーさて、第二部について。今回歌う歌はどのようなものがあるのでしょうか?
坂本:全部で10曲くらいですが、今回は猪俣公章先生の生誕80周年記念で作った「ENKAⅢ」とその前のⅠⅡ、3枚のアルバムから「石狩挽歌」「酒よ」「君こそわが命」と一曲ずつ選びましたが、なんといっても今回の目玉は「岸壁の母」。「岸壁の母」は体力も精神力も相当使うので、長期の公演では避けてきたのです……実はピン子さんにはヒット曲の「愛恋蝶」を歌っていただきたかったのですが、断られてしまったので(笑)ならばピン子さんのお力をお借りして「岸壁の母」を歌わせていただきたいと思いました。
泉:ナレーションをやらせていただきます! これが舞台以上に気を抜けないの! タカをくくってたのよ(笑)! 私、二部のショーの時は早めに帰れると思っていたの。「皆、気を遣うだろうから公演期間中は早めに帰るわ」って言ったら、冬美ちゃんが「帰っちゃダメです。ナレーションをしていただくのは『岸壁の母』ですから」って。この曲はショ―の頭にやる曲じゃない、どう見ても後半に歌うでしょ(笑)! またこのナレーションは失敗できないし、気持ちよく歌手に渡して繋いでいかないとならないから、今は芝居より一生懸命(笑)。
坂本:またそのナレーションが胸にぐっとくるんです。大阪では泣いているお客さんもいらっしゃいました。私も聴き入ってしまうと思わず泣いてしまうので、あえて耳に入れないようにこらえているんですよ。
泉:多分東京公演には徳さん(徳光和夫)が観に来ると思うので、ナレーションで負けちゃいられないからね(笑)!
(左から)泉ピン子、坂本冬美
<衣装協力>
■坂本冬美
トップス、スカート/Hanae Mori manuscrit (03-6434-7117)
イヤリング、ネックレス/Grosse’ (03-5413-6039)
■泉ピン子
ジャケット Yukiko Hanai(03-6738-4877)
ブローチ ABISTE(03-3401-7124)
取材・文=こむらさき 撮影=ジョニー寺坂
公演情報
作:宮川一郎
脚色:菊村 禮
演出:石井ふく子
出演:
坂本冬美 泉ピン子
丹羽貞仁 清水由紀 小山典子 森山愛子/三田村邦彦 ほか
■場所:明治座
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※6歳以上有料/5歳以下のお子様のご入場はご遠慮ください
※車いすスペースは明治座