「大阪きっての売れっ子」兵動大樹、桂吉弥がまさかのタッグ結成ーー舞台『はい!丸尾不動産です。』で魅せる48歳の挑戦
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お互いに「大阪を代表する話芸の達人」であり、テレビやラジオに引っ張りだこ、そして48歳の同級生――と共通点が多々ありながら、奇跡的と言って良いほど今まで交わることがほとんどなかった二人。お笑い芸人・兵動大樹、そして落語家・桂吉弥。長い芸歴を持ちながら「すれ違うことすらなかった」という彼らが、ダブル主演という形で、ギャグに頼らず、本気で芝居に打ち込むのが、舞台『はい!丸尾不動産です。〜本日、家をシェアします〜』だ。不動産営業マン・菅谷さん(兵動)と、そのお客・林田さん(吉弥)がおりなす、ワンシチュエーションの人生再生劇。しかし、そもそも兵動と吉弥はうまくやっていけるのか? 大阪きっての人気者同士とあって、ぶつかり合うような緊急事態が勃発するのでは? ということで、これから数回にわたって、兵動&吉弥の動向を追いかけていく。今回はまず、“ほぼ初対面”な二人に直接いろいろ話を訊いてみた。
――兵動さん、吉弥さんは大阪を拠点に芸歴を重ねていますが、これまでほぼ面識がなかったと聞いて驚きました。これから一緒に舞台を作り上げるにあたって、どのように仲を深めていこうと考えていますか。
吉弥:兄さん(兵動)も僕も仕事が趣味というタイプなので、稽古場で稽古をしていくことが、仲良くなる方法かなと思っていますね。
兵動:うん、稽古でコミュニケーションを図っていくつもりです。そこで、お互いの間合いが分かったりしますし。それに50歳近くになると、今さらわざわざ人に好かれるために特別な何かをしようという気が起こらないですよ。
吉弥:ハハハ(笑)
――芸人さんだから、というわけではないですが、やっぱり人付き合いの中でお互いの間合いは大事ですよね。
兵動:喋っていて違和感がないことが重要。トーンが合う、テンポが合う、間が合うのは特に大事。たとえばテレビ番組の収録でひな壇に座っていて、みんなが盛り上がって「よっしゃ、次は俺が喋る番や」と喋り出したら「えっ……」っていう空気もになることがある。それって、その場に合わないトーン、間合いだったりするんです。芸人だから、間については敏感になります。
吉弥:僕は24年、兵動さんも30年近くの芸歴があって、でもうまいこと会わんように(会うことなく)、仕事をしてきたけど、でもピーコさんとか、共通の知り合いはたくさんいる。そしてようやく今組み合ったとき、お互いにどういう間合いが生まれるのか楽しみですよね。
――ちなみに「俺はこういう人間やから分かっておいてや」と先に伝えておくことはありますか。
兵動:僕の取扱説明書には、1ページ目に「急に喋らへんようになる」があります。よく、「怒ってんの?」と言われるけど、何にも怒ってへん。それは何かを考えているときやから、気にせんといて欲しいです。台詞がしっくりこなかったりすると、黙り込むこともあるでしょうし。でも怒ってないから。気を使わずに、キャッキャキャッキャしといてや。
吉弥:あ、でも自分もそう言うところがありますよ。僕に関して言えば、とにかく嫁はんに弱いです!
兵動:おぉ、なるほど!
吉弥:何だかんだで嫁はんの言いなりになっているんです。人付き合いをする上でも、嫁はんがまず「この人、良い人なんじゃない」と判断をしてくれる。今回は、嫁はんが「兵動さんとのお芝居、全面的に応援するわ」とお墨付きをいただいたので、やらせてもらうことにしました。
兵動:ワハハハ(笑)
吉弥:だから、僕としては安心してお仕事ができるんです。もし「え、この人と仕事やるの」と嫁はんが言うたら、どうなったか分かりません。でも、「行っといで、行っといで」と言ってくれたんで!
――じゃあ、奥様がご家庭内で「兵動さん、ちょっとアカンのちゃう?」とか言ったら……。
兵動:ちょっと、急に冷たくなるんやめてや! アカンところがあったらちゃんと言うてや。
――今作のスローガンの中には、お二人が「次世代のお笑い界を引っ張っていく」というものがあります。そもそも、次の世代に必要とされるお笑いって何なんでしょうか。
兵動:人間力のデカい芸人さんって、あがっているステージが違うんですよね。もはや、誰かの上か下かとかそういうのではなくて特別な存在。西川のりお師匠とか、街で見かけたらみんな「師匠、師匠」と声をかけるんです。誰に教わったわけでもないのに、師匠と呼ばれる。それってやっぱり存在が僕らとは違う。今回、お芝居に挑戦することによって、僕は人間として成長したいんです。テレビにたくさん出させてもらっていますが、まだ「関西といえば兵動やな、吉っちゃんやな」とはなっていない。上沼(恵美子)さんとか、関西の象徴的じゃないですか。そういう、全員に愛されるような存在になりたいです。
――テレビなど見ていても、みんな「兵動さん、おもろいこと言わはるな」ってなりますけど、そこで止まっていたらアカンわけですね。
兵動:そう。僕らがおもろいことを言うのは当然だし、そこから何をプラスしていくのかってこと。僕ら二人が、十代の女の子たちに黄色い声援を浴びることなんて、もうないんですよ! ステージに出てきて、気だるそうな雰囲気を醸し出して「あー、なにから喋ろっかな」と言っただけで、若いコから「キャー、キャー」と言われるようなことはないんです。
――ハハハ(笑)
兵動:吉弥くんはまだそういうポジションを狙っているかも知れへんけど。
吉弥:ええ、狙っています(笑)。でも、兵動さんも僕も今回は違うジャンルに挑戦するんで、お互いに今までにはない武器を使うことになる。そうなると、やっぱり人間力が必要になってきます。
――テレビであればカメラというフィルターがありますし、編集などで演出ができる。でも芝居はライブですし、生身をさらけ出すという緊張感はありますよね。
兵動:「挑戦する」と言っていますけど、お客様にお金と時間を使っていただけるので、中途半端なものは見せません。ライブという空間で、二人でどうやってもがくか。ヒリつくものがありますね。
吉弥:もう一回、ギラギラできる場になりそう。「ウケるかな、上手いこといくんかな」というドキドキをこの歳で味わえるのは楽しみです。
――ストーリーは、不動産屋を中心に、うだつの上がらない男性たちが、人との出会いや関わりを通して人生を再生し、自分自身と向き合っていく内容ですね。ちなみにお二人にとって、自分の足元を見直させてくれたような存在はいらっしゃいますか。
兵動:僕は大木こだま師匠ですね。あるとき、「兵動、これから6年間が勝負や。子どもが小学生にいる間に、僕のお父さんは芸人をやっていると言ってもらえるようにしなさい」と。そこで、「兵動? 知らん」と子どもが言われないようにせなあかんと言われました。それまでは、頑張っているつもりでも、どこかぬるま湯で半身浴をしている感じだった。こだま師匠の言葉をきっかけに、一人喋りを始めたんです。気づいていなかったことを気づかせてくれましたね。
吉弥:僕は、ドラマ『新撰組!』で共演した山本耕史くんです。当時、落語を10年くらいやっていたときですが、「まだ10年」と思っていたし、卑屈になって「若い人には落語は理解してもらわれへんのやろな」と殻に閉じこもっていた。でも山本くんは、「10年もやってるの? スゲェじゃん!」と言ってくれたんです。その言葉の裏には、「10年もやっているんだったら、もっと前に出て闘おうよ」という気持ちが込められていたと思うんです。「そっか。自分もこれだけやっているんだから、もっとウケなあかん」と考えるようになる、ヒントをいただきました。
――最後にもう一つ、菅谷さんはいろんな人と出会うけど、「自分だけなかなか成長できない」とあります。お二人は、自分のここが成長できていないなところありますか。
兵動:基本的に、僕は自分にめちゃくちゃ優しいんです。死ぬほど寝るし、子どもが学校に行くときも爆睡していて。あと、とめどなく食う。そこらへんは大人になっていないですね。何かあったら、「今日は無理せんとこう」ってなるから。
吉弥:僕も同じですよ。夜もええ加減な時間にしか帰らないんで、朝くらいちゃんと起きるようにしているんですけど、嫁はんや子どもたちから「何で起きてくるの」と言われたり。でもやっぱり、この舞台で自分を成長させたいですね。あと余談ですけど、共通の知り合いである辛口なピーコさんに、「あなたたちの芝居、おもしろそうだから観にいくわ」と言わせたいですね!
取材・文=田辺ユウキ 撮影=森好弘
公演情報
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』 (全5公演)
原案:『本日、家を買います。』(作・演出:木村淳/2015年6月上演)
作 :古家和尚
演出:木村淳(カンテレ)
◆6月29日(土)14:00公演、18:00公演
◆6月30日(日)12:00公演、16:00公演
◆7月1日(月)15:00公演
ABCホール 全席指定6,000円(税込み)*未就学児は入場不可