長塚圭史がKAAT神奈川芸術劇場の芸術参与に就任「二輪駆動で2年間走りたい」 記者懇談会レポート
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左から、白井晃、長塚圭史
2019年4月1日より、長塚圭史がKAAT神奈川芸術劇場の芸術参与に就任することが発表された。白井晃芸術監督を補佐する役割として、任期は21年3月末までの2年間だ。現在、白井は芸術監督として1期目だが、その任期も同じく21年の3月末までとなっており、長塚が白井の後を受け継いで次期芸術監督となることを見据えての芸術参与就任となる。これに伴い、3月25日に記者懇談会が行われ、白井と長塚が登壇した。
白井自身は、14年にアーティスティック・スーパーバイザーとして就任、2年間の任期を経て、16年より芸術監督として務めてきた。その経験から「芸術監督になるには準備期間が絶対に必要。21年度から長塚さんに芸術監督をお願いするにあたり、2年前であるこのタイミングで芸術参与として就任してもらい、私のサポートをしていただくと同時に、新監督就任への準備期間としたい」とその目的を語った。
長塚は「大変光栄です。芸術参与の任期は2年なので、その間は僕と白井さんで複眼的にこの劇場を見つめて、もちろん21年度からのプログラムを作っていくという大きな狙いは一つあるが、それと同時に劇場の演劇的なインフラを整えていく力になれたらいいな、と考えている」と意気込みを語った。
長塚圭史
そもそも長塚とKAATは縁が深く、2011年の開館時、提携公演ではあったが大スタジオのこけら落とし公演は、長塚のソロプロジェクトである葛河思潮社の第一回公演『浮標』だった。本番の公演を行う大スタジオで1か月前から稽古を行うことができたり、優秀なスタッフが揃っていることなど、作品を上演する場というだけでなく、創造する場としての意識の高さを感じたことから、以降も長塚は自身の作品をKAATで継続的に上演してきた。その思いを「この劇場は、僕自身の創作の転機になった『浮標』という作品が生まれた場所なので、思い入れも非常に深く、開館当初から共に歩んできたという意識がある」と語った。
また、このタイミングでの芸術参与就任について、「白井さんの任期が続く中で、先を見据えて動いている、つまり劇場を常に熱しておこう、と思っているからこそだと思う。僕も身の引き締まる思い」と白井や劇場スタッフの熱意に感銘を受けたという長塚は「開館して10年に満たない劇場ということは、大いに可能性に満ちていると思う。中華街や元町、山下公園や横浜スタジアムなどに囲まれた恵まれた立地を生かして、地域との連携を深めていきたい。僕はこの場所についてまだまだ知らないことが多々あるので、まず最初にすべきことは散歩かな、と思っています。散歩して、ここがどんな場所かしっかり見つめる時間を作りたいと思っています」と今後の展望を熱く語った。
白井晃
記者からお互いの印象を聞かれ、白井は「僕より18歳も若いけれど、数少ない演劇人の友達で、良き相談相手でもある。長塚さんの若い視点が僕自身にも必要だし、この劇場には馬力が必要だと思っているので、二人で二輪駆動で2年間走って、アクセルを踏んだ状態で長塚さんにお渡ししたいと思っている」長塚は「白井さんはアクセル踏みっぱなしですからね(笑)。共に作品を創る先輩であり、仲間として信頼し尊敬している。これまで様々な作品でご一緒させていただいたが、新しい視点を与えてくれるし学ぶところが多い」と互いの信頼関係が伝わってくるコメントをそれぞれ述べた。
現在、芸術監督として1期目(任期5年)の白井に「2期目以降を務めるという選択肢はあったのか」と質問が飛ぶと、白井は「そういう話もありましたが、僕自身がそれではいけないのではないか、と思った。この劇場は若い視点が必要だと思ったのと、『あの劇場で何をやっているんだ』と思ってもらえるような“事件”を起こし続けていくためには、やっぱり馬力が必要で、あと5年僕がやったら絶対馬力が落ちてしまう。それを絶対避けたいと思った」と劇場の将来を見据えたゆえの決断であったことを語った。
「芸術監督就任当時に長期的な展望を掲げていたが、道半ばではないのか」という質問には、「長塚さんに参与に入っていただいて、連続性を持って劇場を運営していくことが、僕にとっては長期的展望の一つだと思っている。芸術監督の任期が終わっても、呼んでもらえたら何らかの形で作品創りに参加してこの劇場を盛り上げていきたい。芸術監督を続けていくことで得られることもあると思うが、僕が続けていくだけでなく、しっかり仲間を作っていくことが大切。決して半ばという気持ちはない」と前向きに答えた。
左から、白井晃、長塚圭史
長塚は公共劇場に携わるに際し、「公共はこの場所にある、ということが大事。この場所だからこそ抱える問題と向き合いながら、何ができるかをもう一度問い直してみたい。この場所にちなんだものがなにか長期的な展望の中で作っていけないか、この場所の歴史的背景も含めた様々なものをスタッフとともに探っていけないか、と考えている」と、地域に根差した活動を大きな柱として挙げた。白井も、「本当はもっと劇場の外まではみ出して何かやりたい。そして周辺地域の人たちが無視できないところまで持っていきたい」と自身の持っている願望を語った。
記者からの「ドラマトゥルクを入れるなど、スタッフの制度改革を何か考えているか」という質問に対して長塚は、「例えばドラマトゥルクがいて、地域の歴史を掘り下げて、これ、と思う人物に焦点を絞ってもらえれば、作り手の世界も大いに広がるし、地域性がぐんと上がるのも間違いないと思うので、そのあたりも協議していきたい」と述べた。
白井も「そういった制度が根付かない日本の演劇状況があると思うが、公共劇場として考えるべき時期に差し掛かっているのではないか」と大きく賛同した。
開館から8年。十分にその独自性のある存在感を示しているように感じられるKAATだが、白井も長塚も「もっと何かできるんじゃないか」ということを再三繰り返し言葉にしていた。これからの2年間、二輪駆動のKAATがどのような走りを見せてくれるのか、注目したい。
取材・文・撮影=久田絢子
公演情報
KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
テキスト:アントン・チェーホフ
演出:三浦基
出演:安部聡子、石田大、小河原康二、窪田史恵、小林洋平、田中祐気
上映情報
原作:ジャン・コクトー
[コクトー 中条省平・中条志穂:訳「恐るべき子供たち」/光文社古典新訳文庫)
上演台本:ノゾエ征爾
演出:白井晃
出演:
南沢奈央、柾木玲弥、松岡広大 馬場ふみか
デシルバ安奈、斉藤悠、内田淳子、真那胡敬二
会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
公演日程:2019年5月18日(土)~6月2日
(プレビュー公演2回、本公演14回、計16回公演)
(全席指定・税込)本公演 一般 6,500円
http://www.kaat.jp/
窓口:KAAT神奈川芸術劇場2F(10:00~18:00) ほか
企画製作・主催 KAAT神奈川芸術劇場
著作権代理 (株)フランス著作権事務所
ジャン・コクトー委員会会長 ユーグ・シャンボノ氏提供
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