髙木雄也らが描く、現代社会で生きる人々の苦悩 PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』が開幕
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(左から) 白井晃、黒羽麻璃央、髙木雄也、蓮佛美沙子、山本卓卓
近代演劇の父とも称されるノルウェーの劇作家イプセンの代表作の一つ『ヘッダ・ガブラー』をベースに、現代の日本の芸能界で、愛すること愛されることを求め、ありのままの自分自身でありたいともがく人々を描く『ジン・ロック・ライム』。脚本を演劇集団「範宙遊泳」を率いる山本卓卓が書き下ろし、演出を白井晃が手掛ける。また、作中の音楽は全てサニーデイ・サービスの曽我部恵一が作曲している。
息苦しい現代において、アーティストとして、夫として、一人の人間として、苦悩する主人公・ジンを演じるのは髙木雄也。ジンの元恋人である人気アーティスト・エートを黒羽麻璃央、ジンの妻であり所属する芸能事務所の社長でもあるショウコを蓮佛美沙子が演じるほか、永田崇人、駒木根隆介、小日向星一、銀粉蝶といった実力派キャストが集結している。
開幕前会見には、髙木雄也、黒羽麻璃央、蓮佛美沙子、脚本の山本卓卓、演出の白井晃が登壇した。
<会見レポート>
ーー今回の脚本で意識したことを教えてください。
山本:原案となっている『ヘッダ・ガブラー』は、当時の女性の生きづらさをあぶり出して社会に衝撃を与えた戯曲です。それを現代のオフィスに置き換える上で、僕にとって目に見えない存在は何か考えました。スターは色々なところに露出していて目に見えるけど、内面は見えない。そこを置き換えて作りました。
山本卓卓
ーー白井さんは山本さんとタッグを組んでいかがでしたか?
白井:ご一緒させていただく作家さんの中では一番若い世代です。イプセンの原案を同本案するかいろいろお話ししましたし、『ヘッダ・ガブラー』の展開を現代社会にどう持ち込むかなど、物語の展開について何度もディスカッションしながら進めました。
白井晃
ーー本作はSNS社会に翻弄される芸能界が描かれています。演じる中での共感や難しさはありましたか?
髙木:ジンはロックスターで僕はアイドルですが、共感はすごくできました。やりにくいのは、作中のジンの言葉が僕の気持ちだと思われてしまうんじゃないかという点。演じながら「僕自身は違うな」と思ったので、そこは言っておきたいです(笑)。
黒羽:台本を読んで生々しさを感じたというか、共感した部分もあります。この業界に限らず、生きづらさはあるので、文字と言葉がどんどん刺さってくる印象でした。
蓮佛:誹謗中傷がお褒めの言葉よりも刺さってしまうのはわかるし、芸能界はキラキラした場所に見えるだろうけど、内実は違うということは感じるので、それが生々しく描かれていると感じました。
(左から) 黒羽麻璃央、髙木雄也、蓮佛美沙子
ーー髙木さんと黒羽さんは初共演で元恋人役を演じます。お互いのラブポイントを教えてください。
髙木:初めて会った瞬間に「格好良いですね!」と。女性だったら一目惚れってこういうことなんだろうなと思うくらい魅力的でした。
黒羽:座長の格好良い姿からたくさん学びましたし、焼肉や差し入れをご馳走になりました。きゅんです!
ーー奥様役の蓮佛さんからもお願いします。
蓮佛:髙木くんはピュアで照れ屋。自分に正直で自分を大切にできる方なので、眩しく感じたというか、憧れます。そこはジンとショウコの関係性にも繋がるところがあるのかなと思います。
黒羽麻璃央
蓮佛美沙子
ーー芸能界の生きづらさが描かれている作品ですが、皆さんがこの世界に入ってよかったと思うことはなんですか?
髙木:Hey!Say!JUMPのメンバーと出会えたことです。彼らがいなかったら、今この作品をやっていないかもしれない。それが一番よかったことで、年々この思いは強くなっています。新しいことにチャレンジするときも彼らの顔が浮かぶし、多分メンバーみんなそう思っていると思います。
黒羽:今のコメントより良い話は出てきませんが、舞台上で自分の存在意義が確認できる。世の中に少しは必要とされていることを実感できます。
蓮佛:人との出会いですかね。今回のカンパニーもそうですが、素敵な人たちと一緒にお仕事できている。作品としては1、2を争うくらいしんどいけど、本当に楽しいと思えるカンパニーです。
ーータイトルにちなんで、「このお酒をこんなシチュエーションで飲むと最高!」というものがあれば教えてください。
髙木:10年に1回母と飲むワインです。20歳の時に母が「10年後に飲もうね」とワインをくれて、30歳の時に一緒に飲みました。またワインをもらったので次は40歳の時に飲む予定です。
髙木雄也
ーー髙木さんから見た白井さんの印象、演出を受けての変化と、白井さんから見た役者としての髙木さんの印象を教えてください。
髙木:初めてお会いした時は、知識がとんでもないなと思いました。お稽古に入ってからも、出演者の皆さんみんな思っているだろうけど、すごくわかりやすく伝えてくれる。ガムで例えると、噛み切ったと思っていたところに白井さんが違う噛み方を教えてくれて、また味がしたみたいな(笑)。
白井:演劇に向き合う姿勢がとても真摯で、稽古好きなのがありがたいです。「もう一回やろう」と言うたびにアップデートしてくださる。私自身も、その姿から多くを学び、作品を深められました。髙木さんに限らず皆さんとても真面目ですね。演劇の創作の場を楽しんで、愛してくれているのを感じます。
(左から) 白井晃、黒羽麻璃央、髙木雄也、蓮佛美沙子、山本卓卓
ーー楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
髙木:この作品を見たときに、一人ひとりが違う受け止め方をすると思います。それで良いんですが、それだけじゃなく「こういう考え方をする人間もいるんだ」ということも感じていただけたら。あとは純粋に舞台を楽しんでいただけたら嬉しいです。
<ゲネプロレポート>
原案となっている『ヘッダ・ガブラー』は19世紀に描かれた戯曲で、一見自由奔放に見える女性が社会的な抑圧や不安の中で苦しみ、破滅の道に進む物語。もちろん、『ヘッダ・ガブラー』の内容を知らなくても楽しむことができるためご安心を。
本作は華やかなスターが様々なしがらみや本音との間でがんじがらめになり、周囲を巻き込んで事件や問題を巻き起こしていく物語だ。主人公の性別や立場、時代背景などに違いはあれど、社会で生きていく上での抑圧や自分らしさなど、普遍的なテーマは同じ。そこにSNS社会ならではの息苦しさや難しさ、歪みが乗っている。
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
物語は髙木演じるジンのライブ会場から始まる。髙木は泥臭さを感じさせる歌声とパフォーマンスでロックスターらしい華と魅力を表現。同時に、炎上の原因となった言葉の切実さや根本にある虚無感、妻であり事務所社長のショウコ(蓮佛美沙子)に見せる無邪気な笑顔、元恋人のエート(黒羽麻璃央 )に対する執着など、ジンが抱える様々な感情と問題を丁寧に描き出していた。
物語が進むにつれ、過去から現在にわたってジンが起こした問題が発覚するのだが、どこか憎みきれない可愛らしさと目が離せない危うさがあり、彼を支えよう、真っ当な道に連れ戻そうとするショウコやエートの気持ちが理解できてしまう。一方で、ジンの横暴に辟易している若手マネージャー・トゴシ(小日向星一 )、ジンの性格や不安定さを理解して適度な距離をとっているように見えるショウコの母・アキエ(銀粉蝶)や事務所の後輩・ホムラ(永田崇人)、大手出版社のライター・コマ(駒木根隆介)の思いも理解できる。
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
黒羽が演じるエートは、気さくで人当たりが良い人気アーティスト。余裕と自信を持った人物に見えるが、徐々に彼が抱える覚悟や苦しみが見えてくる。ジンと二人のシーンでは、元恋人としての情や責任感、後悔、アーティストとしての思いという二つの軸を繊細に表現していた。
ショウコ役の蓮佛は、タフで自立した女性を魅力的に演じている。会社を切り盛りしながら、社長としても妻としてもジンを支える強さが印象的だが、彼女もまた、抱えるのが困難な苦悩や複雑な思いを抱えていることがわかってくる。二人のジンに対する思い、隠している本音やお互いへの感情も大きな見どころと言えるだろう。
また、年長者らしい達観した視点で娘たちを見守るアキエ、一見チャラついて見えるが理知的で大人なホムラ、まっすぐで青臭いトゴシ、温和そうに見えて強かなコマ……と、登場人物一人ひとりがリアリティを持って存在している。ジンとエート、ショウコが中心の物語となっており、その他の登場人物の人生はほとんど描かれていないものの、全員が人間らしく、身近な人々のように感じられた。
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
PARCO PRODUCE 2026『ジン・ロック・ライム』舞台写真
観客としてジンのプライベートの姿を見ているため、彼を「どうしようもないが憎みきれない人物」と思えるが、ライブの炎上をはじめとするSNSでの悪評だけを知る“世間の人々”の立場だったら、見え方は全く違っていただろうとも思わされる。ジンの不器用な生き方と彼を取り巻く人々の思いや言葉、それに対する世間の反応から、様々なメッセージを受け取り、多くのことを考えられるのではないだろうか。
ゲネプロ終了後、髙木は「皆さん色々な感情を持ったと思います。色々な思いを持ち帰っていただけたら嬉しいです!」と呼びかけていた。本作からどんな感情を受け取ることができるのか、劇場に足を運んで確かめてほしい。
本作は2026年3月10日(火)から3月31日(火)まで東京・PARCO劇場で上演され、4月4日(土)・5日(日)に広島・JMSアステールプラザ 大ホール、4月11日(土)・12日(日)に愛知・東海市芸術劇場 大ホール、4月18日(土)・19日(日)に大阪・SkyシアターMBS、4月25日(土)・26日(日)に福岡・J:COM北九州芸術劇場 大ホールで公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈