春田純一×神尾佑が語る舞台『チョコレートケイキ』の世界とは~役者の「圧」を味わってほしい

2019.4.6
インタビュー
舞台

神尾佑、春田純一

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春田純一が座長を務めるパフォームユニット「春匠」の舞台『チョコレートケイキ』が2019年4月12日(金)から14日(日)まで、東京・池袋シアターグリーンBIG TREE THEATERにて上演される。人が重い罪を背負い、法の下に裁かれ、やがて最期の瞬間を迎えるその時までを描く本作は、人間の尊厳や贖罪、また人が人を裁き、死に追いやる意味を観る者に問う物語。これを一切の台詞や説明を排除し、音響も使わず、劇場に役者の存在感だけが支配するノンバーバル演劇という形で作り上げようと考えたその真意とは?

「春匠」主宰であり、脚本・演出・そして出演する春田と、つかこうへい劇団時代からの旧知の仲であり、この作品で矯正長を演じる神尾佑に話を聴いてきた。

■五感で感じる芝居がしたい

――台詞も音楽もない作品を作ろうと考えた動機は何だったのですか?

春田 今の芝居って1から10まで説明して、音楽もバーッと入ってきて、効果音もガンガンあって、お客さんはそこに座っていれば全部が身体に入ってくるような作品が多いですよね。すべてがおぜん立てされ過ぎているから終演後に「あーおもしろかった」ってすっと帰る。帰りの電車の中とかで余韻に浸る事もないような……でもそうじゃなく、静寂の中で、お客さんも音を立てず、その空気感を味わいながら想像して楽しむ芝居をやりたかったんです。身体から放たれるオーラ、存在感、マグマのような「圧」をもった役者でないとないと芝居が成立しないような芝居をね。

春田純一

――先に神戸で上演されていましたが、その時の雰囲気やお客様の反応はいかがでしたか?

春田 神戸の時は100人くらいしか入らない小劇場で、ステージの上にも客席を作ってやりました。静寂の中、お客様も咳払いすらできないくらい張り詰めた空気の中ずっと物語が進行していくんです。お客さんからは「厳しいかも、と思ったが結構最後まで見入ってしまった」という声もありましたね。説明も何もない舞台ですから、お客さんもその場から受ける空気を五感で感じ、想像力をフル回転させながら楽しんでくださったようです。今こういう作品はほとんどないですからね。

稽古場の様子

稽古場の様子

■神尾佑へのオファーは「運命」!?

――お二人の出会いはつかこうへい劇団で、ですよね。その後ご一緒にお仕事をする機会はあったんですか?

春田 舞台では……。

神尾 『藪の中』ですね。

春田 そう、それ。映像作品では『SP 警視庁警備部警護課第四係』で共演…と言っても同じ出番の場面はなかったけどね。それ以来なんですよ。

――そこからどうやって今回の作品で共演が決まったんですか?

春田 これも縁だと思うんです。中目黒の駅で雨がザーザー降っている日でした。「あれ?春田さん!」って声をかけられ、振り向くと神尾が偶然そこにいたんですよ。そこで「久しぶりだね」なんて話をして別れたんですが、その頃、この作品に出てくれる役者を探していた頃で「誰がいいだろうか」と考えていたんですが、その時の再会で「あ、神尾がいたなあ」と。でも神尾はTVや映画といろいろ忙しそうだし、スケジュール的にもどうかなと思いつつ改めて連絡を取って「こういう舞台をやるんだけど」と相談したんです。神尾は5くらい説明すれば10分かってくれる人なので、俺がやりたいと思っている事をすぐ察知してくれたから話が速かった。

神尾 まあ10はさすがにだけど8くらいは分かりますよ(笑)。本当にあの雨の日は運命的でしたね。その後すぐ電話がかかってきましたから。

――その芝居の話を聴いた神尾さんは、最初にどんな印象を持たれたんですか?

神尾 もう、春田さんがすごくイキイキしていて(笑)。なんでそんなに楽しそうなんですか?って聞いたら「人生楽しくいかなきゃね」って言うし。こういう芝居って、リスキーじゃないですか。役者から提示するものが非常に少ないから。役者って不安だから喋るし、観てもらいたいから役割や台詞が欲しくなる。音楽があれば乗れるし、照明が派手なら盛り上がれる。そういったよりどころがすべて排除されていると、ではこっちは何を頼りに演じていけばいいのか、って話になりますよね。そんなリスキーなことだらけの芝居をこの人はどうしてそんなにイキイキと楽しそうに語るのか。話を聴いているうちに「そういう芝居もいいなあ」って。仕事を抜きにして「こういう事をやりたいんだ!」という「熱」って我々にいちばん必要なエネルギーだと思うし、最近そういう事をしていなかったなあと思ったんです。また、誰かから必要とされる事、自分にしかできないであろう事を求められたらやってみようとも思いました。

神尾佑

――実際にこういった作品を演じる場合、役者としての「圧」のようなものがすごく必要なのでは、と思うのですが。

神尾 春田さんはいろいろ分かっていて作っていると思いますので、あとは役者の想像力と感性をいかに膨らませていくか、でしょうね。おそらく役者同志の信頼関係がすごく大事になってくると思います。間合いもその日その日の感じたままで、リアルタイムで起きているような芝居にしたいんじゃないかな。だから演じる側は、その時自分は何を感じているか、相手にどんな事を感じているか、という芝居のバックボーンをきちんと積み上げておかないと、「圧」みたいなものは出てこないんじゃないかな。常に思考し続けている事、アンテナを張って何かを感じ取るという事をずっとやってないとならない芝居になるでしょうね。

稽古場の様子

稽古場の様子

稽古場の様子

――お二人が最も影響を受けたつかさんの芝居は、マシンガントークのような台詞や、大音響で流れる音楽といった特徴が印象的でした。そんなつかさんの作品と『チョコレートケイキ』は対照的な作品なのでは?と感じたのですが、その点はいかがですか?

春田 根本はつか芝居と同じだと思いますよ。つかさんのは喋り動きますが、根っこにあるのは「殺気」とか「気迫」でその役者が持つ「圧」はつかさんの作品には特に必要なものなんです。ただ台詞をバーッと言っているようですが同時にエネルギーも死ぬかと思うくらい出している、ギリギリのところで演じているんですよ。表現の仕方は全く違いますが、やろうとしている「核」の部分は『チョコレートケイキ』も同じなんです。

■春田純一にあの演出家が降臨!?

――ここまでお二人の話を伺っていると、お二人の関係性が見えるようですね。

春田 僕らはつかさんの下で戦友であり同志でしたから。

神尾 あの頃の春田さん、すごかったですよ。今も良くも悪くも変わってないですが(笑)。

春田 作品や役に入り込みすぎちゃって我を忘れる事がよくありましたね。僕はもともとJAC(ジャパンアクションクラブ)出身でスタントマンからスタートしているから芝居の技術はもっていなかった。だからつかさんからの指示には全身全霊でぶつかっていくしかなくて。で、我を忘れちゃうんです。神尾はその点、冷静だったね。

神尾 そんな事ないですよ。最初は春田さんや山本亨さんら先輩たちがやっている中に入って行ったので「うわー」って迫力に飲まれていました。それこそ春田さんは面と向かって対峙すると「圧」を感じさせる人で。今でも変わってないですよ(笑)。

春田 つかさんに「お前はそれ以上相手に近づくな」って言われて。稽古場で床にガムテープをバーッと貼られて「ここから出るな」って言われてまして(笑)。自分はそんなに近づいているつもりはないんですが。でも近くで芝居をしたくなっちゃうのはアクション出身だからかなあ。

神尾 ギリギリを通したいんでしょ?でも受ける側は本当にヤラれると思うくらいだから!ほんとうに当たるかって距離でくるから相当の迫力でした。

春田 実際、西岡德馬には蹴りが何度か当たっていたね。

神尾 当てちゃダメじゃないですか(笑)!あと、春田さんって何かをする時の「予備動作」がない人なんですよ。普通人間って何かの動作をする時に少なからず「この後こういう事をします」って予告みたいな空気を出すと思うんですが、春田さんにはそれがない。いきなり来るんです。何かを話す時も「予備動作」がないのでいきなり始まるんです(笑)。

春田 それはたぶんつかさんが乗り移っているんだと思う。つかさんは稽古場に来ても一切「今から始めます」って前置きなく、演出卓に座るといきなり「お前とお前、出ろ。音楽かけろ!」って何の助走もなく突然始まる人でした。だからきっと俺のところにも降りてきているんじゃないかと……。

神尾 いや、春田さんは昔からそうですって(笑)。つかさんと波長が合っていたんだと思いますよ。春田さんと初めて仕事をする人がきっと戸惑っていると思いますよ。だって「ここはガーッといってグッとしてワーッとならなきゃダメなんだよなあ」って説明ですから(笑)

春田・神尾 (笑)


 
取材・文・撮影=こむらさき
稽古場写真=オフィシャル提供

 

公演情報

~春匠HARUTA-kumi~
『チョコレートケイキ』


■日時:2019年4月12日(金)~14日(日)
■会場:池袋シアターグリーンBIG TREE THEATER
■脚本:菱田信也
■演出:春田純一
■出演:神尾佑 / 要冷蔵 / 柚原旬 / 中川香果 / 篠原功 / 金光仁三 / 和興 / 行澤孝 / 大下順子 / 春田純一
■公式ホームページ:https://www.facebook.com/hurutakumi/
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