桜庭和志プロデュース「QUINTET」初の女子大会で山本美憂一本負け MVPは16歳のメガネ女子か
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QUINTET
桜庭和志がプロデュースする格闘技イベント「QUINTET」初の女子大会は、スター誕生と言っていい記念回だった。エディ・ブラボー一押し、若干16歳の柔術戦士であるグレース・ガンドラムのインパクトに、この日の観衆は釘付け! 華麗な技術とトリッキーな動き、そして普段の容姿のギャップには、明らかな引力がある。ファンにとって間違いなく“買い”の選手となるだろう。
4月7日、アリーナ立川立飛(東京都立川市)で「QUINTET FIGHT NIGHT3 in TOKYO Female Open Team Championship2019」が開催された。同イベントの特徴は、グラップリングのみで雌雄を決するところ。試合は金網、ロープ、コーナーポストなど周りを囲う“壁”がないマット上で行われる。
今回は、QUINTET初の女子大会。「オンナだって闘うことで磨かれる。」なるコピーが掲げられた。
試合前、大会プロデューサーである桜庭和志が挨拶をした。
「(鼻をすすりながら)すいません、皆さん。花粉症は大丈夫でしょうか。桜庭でございます。今日はQUINTET初の女子大会ということで、男子とは動きが違ったりとか、軽い分、動きが速かったりとか、たぶん面白いと思うので、楽しんでってください!」
●KINGレイナ、5人抜き達成ならず
1回戦のファーストマッチは、QUINTET.2を制覇し、ラバーガードを考案した“奇才”エディ・ブラボー率いる「10th Planet」と、日本の女子格闘技を牽引するDEEPの佐伯繁代表がベストメンバーを揃えた「DEEP JEWELS」による対戦だ。DEEP JEWELSは5人全員がぬいぐるみを抱えて入場した。
1試合目はリッチー・マルティネスから黒帯を授かり、ロンダ・ラウジーが持つUFC世界女子バンタム級王座に挑戦したことのあるリズ・カームーシュ(10th Planet)と、ご存知KINGレイナ(DEEP JEWELS)による対戦。KINGレイナは5人抜きを宣言していたが、果たして……。
執拗に相手の首の後ろを抱えるカームーシュと、柔道の足技を繰り出すKINGレイナがテイクダウンを狙い合うスタンド戦から試合はスタート。
その後、KINGレイナが払い腰で投げ切るも、勢いでバックを取ったカームーシュがマウントも奪取。しかし、これはKINGレイナがブリッジして脱出する。その後、2人はスタンドに戻り、KINGレイナが投げようとしたところを逆にカームーシュが押し倒してバックマウントに。
しかし、残り時間35秒でKINGレイナが反転して上になり、そのままタイムアップとなった。KINGレイナ、5人抜きならず!
次鋒戦はグレース・ガンドラム(10th Planet)vs青野ひかる(DEEP JEWELS)。ガンドラムはエディ・ブラボーが「最も競争力のある選手」と絶賛する若干16歳で、青野は全日本社会人レスリング選手権優勝など実績を残してきた若手のホープである。
シッティングするガンドラムの首を抱えに行く青野。ガンドラムはハイガード等で対応する。その後、スタンドから再開すると、がぶってきた青野にガンドラムはハーフガードからロックダウン(二重がらみ)を。
その後もガンドラムは後転しての腕十字や相手の両手両足でコントロールするトラックポジション、ツイスターなど技術を次々に繰り出していき、そのままタイムアップ。トリッキーで多彩な動きをするガンドラムは、この試合で一気に注目を集めた。
中堅戦は、2017年のアブダビコンバットで柔術世界王者のマッケンジー・ダーンから勝利したエルバイラ・カルピネン(10th Planet)と奈部ゆかり(DEEP JEWELS)の対戦。この試合は開始25秒でカルピネンがアンクルロックで勝利!
第4試合はカルピネンと副将・前澤智(DEEP JEWELS)による対戦。前澤はここ立川が地元で、全選手の中でも最も低身長(150cm)の選手である。また、DEEP JEWELSアトム級チャンピオンでもある。
意気込む前澤は俊敏な動きで奮闘するも、カルピネンは三角絞めで前澤を捕らえる。そのままトライアングルでマウントを取ったカルピネンは、前澤の腕を伸ばして腕十字で一本勝ちを収めた。
第5試合はカルピネンと、柔術黒帯を持つ大将・富松恵美(DEEP JEWELS)による対戦。シッティングしたカルピネンはパスを狙う富松のバックを取り、アゴの上から締めにいく。そして、そのままチョークスリーパーで1本勝ちした。カルピネンは驚異の3人抜き!
10th Planetは決勝進出決定だ。
●“レスリング世界王者”山本美憂vs“柔術世界王者”湯浅麗歌子が遂に実現!
1回戦2試合目は女子QUINTETの中心選手として期待の柔術世界女王・湯浅麗歌子率いる「TEAM BJJ KUNOICHI」と山本美憂率いる「TEAM Sun Chlorella」が対戦した。
先鋒戦はジュエルスグラップリングトーナメント2010優勝の杉内由紀(BJJ KUNOICHI)と、Amateur QUINTET Kyushu2019で柔術の色帯選手を相手に5人抜きを達成した若干14歳の池本美憂(Sun Chlorella)による対戦。池本は中井祐樹が会長を務める日本ブラジリアン柔術連盟が山本美憂に推薦し、参加が決まった有望株だ。結果、この試合は杉内が三角から下からの腕十字で58秒で一本勝ちを収めた。
2試合目は、杉内と杉本めぐみ(Sun Chlorella)による対戦。杉本は2011&2012年全日本学生レスリング選手権-51kg級準優勝者で、結婚と出産で戦列を離れた後、今年1月に6年ぶりに修斗へ復帰し2連勝中の選手である。
この試合は、開始直後にシッティングした杉内がクローズガードで杉本を捕らえる。そのまま0分41秒腕十字で杉内がタップを奪った。
3試合目は杉内と、昨年大みそかのRIZINで山本美憂と対戦した中堅の長野美香(Sun Chlorella)が対戦。いきなり長野を引き込んで三角を狙う杉内。持ち上げて長野もパスを狙ったが、そのまま杉内が腕ひしぎ三角固めで49秒一本勝ち。
杉内は3人抜きを達成!
「TEAM Sun Chlorella」からは、ついに副将のサラ・マクマンが登場。彼女はアテネ五輪レスリング63kg級銀メダリストで、現在はUFCタイトルコンテンダーでもある、言わば同チームの“用心棒”的存在。
試合が始まるや、マクマンは一気にギロチンチョークを決め、24秒の速攻勝利!
まるで、力に任せた制裁だ。しかし、杉内も大活躍であった。
5試合目、「TEAM BJJ KUNOICHI」からは2017・2018年全日本ブラジリアン柔術選手権紫帯ライトフェザー級準優勝の澤田明子が登場。マクマンは片足タックルを澤田に決め、ハーフガードのまま肩固め。1分20秒一本勝ちを収めた。
6試合目、「TEAM BJJ KUNOICHI」からは2016~2018年柔術世界選手権4連覇の“寝技女子世界最強”湯浅麗歌子が中堅として登場。マクマンとの対戦は「柔術世界女王vsオリンピック銀メダリスト」である。体重差は18.6kgだ。しかし、体格で劣る湯浅はマクマンをしっかりコントロール。
バックに回って足をフックし、振り落とされそうになったところで三角絞めからの腕十字を決め、一本勝ちを奪った。
杉内の3連続秒殺→“用心棒”マクマンの怒りの反撃→湯浅の怪物退治というドラマティックな流れがたまらない。湯浅は、「TEAM Sun Chlorella」大将・山本美憂との対戦が遂に実現した。
1991・1994・1995年女子レスリング世界選手権優勝者と、2016~2018年柔術世界選手権4連覇の“寝技女子世界最強”による夢の対決。
開始早々、引き込んだ湯浅だったが美憂は付き合わずに立ち上がる。また、すぐにシッティングした湯浅だが、美憂は足をさばいてパスを狙う。その後、美憂に指導が与えられてバーテルからリスタート。湯浅はチョークを狙うが、パワーと瞬発力で美憂が振りほどく。湯浅の腕十字が極まりかけるも、俊敏に体勢を変えて防御する美憂。極めが強い湯浅が美憂を攻め込む展開が続くのだが、それを凌ぐときに美憂が発揮する身体能力がとんでもなく、毎回会場を沸かせてる。その後はパスを狙う美憂と腕十字を狙う湯浅の状態で両者に指導が与えられた。
美憂はもう後がない。スタンドから再開し、ダブルレッグでテイクダウンを狙う美憂に湯浅はオモプラッタ。逃げ切れない美憂は腕十字にタップした。
湯浅の勝利によって「TEAM BJJ KUNOICHI」の決勝進出が決定! 白熱した好勝負だったが、湯浅からは余裕も窺えた。さすが、柔術世界王者である。
試合後の会見で、「TEAM Sun Chlorella」の選手たちがコメントを発している。
池本 「自分が思ったより何もできなかったので、悔しいです」
美憂 「1試合しかできなかったんですけど、本当にやりたいと思っていた選手(湯浅)とできたので、いい経験ができたなと思います。技が豊富というか、次から次へと来てそれに対処するのに必死で、自分で極めにいくっていうのを忘れてるっていうか全くその余裕がなく、守りにばっかり徹してたので、そこが悔しいなあと思う」
――桜庭さんから掛けられた言葉はありますか?
美憂 「レスリングをベースにした闘い方を教えていただいたんですけど、もうそれどころじゃなかったですね今日は(苦笑)。必死に守りに」
――湯浅選手の印象は?
マクマン 「いつも練習しているのが大きい人ばかりなので彼女の動きがあまり読めませんでした。とても素晴らしい選手でした」
美憂 「次から次へと来るので、最後、腕を取られたときに『あ~っ、こっち来た!』と思って(笑)。すごく楽しかったですね、今考えると」
●エディ・ブラボーが2連覇、そして湯浅が感謝の涙
決勝は「TEAM 10th Planet」vs「TEAM BJJ KUNOICHI」という組み合わせ。先鋒戦はリラ・スマジャークルス(10th Planet)と越後伊織(BJJ KUNOICH)の対戦である。
まずは越後が引き込んでいくが、スマジャークルスはギロチンに捕らえながらパスを狙っていく。越後はガードポジションで対応するが、スマジャークルスは足を取ってアキレス腱固めに移行。脱出した越後は下から勝機を伺うが、スマジャークルスはトーホールドを極めにかかる。そしてバックマウントへ移行し、スリーパー狙いに。これは決まらず、腕十字を狙うスマジャークルスだったが、越後が耐え切ってタイムアップ。
次鋒戦はファビアナ・ジョージ(10th Planet)と市川奈々美(BJJ KUNOICHI)の対戦。開始早々、ファビアナは市川を引き込むが、それを潰した市川はサイドからダースチョークを仕掛ける。ファビアナはハーフガードで対応。そこでレフェリーからブレークが掛かった。
再開後、引き込もうとするファビアナをそのまま押し倒した市川は、ハーフガードの足を抜きながら肩固めを仕掛ける。その後、少ない残り時間を気にして市川はサイドに回ったもののタイムアップとなった。
中堅戦はエルバイラ・カルピネン(10th Planet)と杉内由紀(BJJ KUNOICHI)が対戦。1回戦で3人抜きを果たした選手同士の顔合わせである。
開始早々、杉内はカルピネンの左足を極めようとするが、カルピネンは立ち上がって付き合わない。逆にカルピネンはアンクルホールドを狙い、そのままパスガード。
サイドからマウントポジションを取ったカルピネンは肩固めで締め続けるが、杉内は粘り続け、そのままタイムアップとなった。
副将戦はグレース・ガンドラム(10th Planet)と湯浅麗歌子(BJJ KUNOICHI)という大注目の顔合わせである。
開始早々、湯浅は三角絞めで捕らえ、そこからオモプラッタを狙うも、ガンドラムのガードは堅く、振りほどいて逃れてみせる。その後も湯浅は下から足関節を狙うが、やはりガンドラムのディフェンス能力が高く、体を巧に丸めて転がって阻止する。
下から上からと攻め続ける湯浅に対し、ガンドラムも足関節を狙っている。時にマット上をクルクル回って湯浅のトーホールド狙いを許さないガンドラム。その機敏な動きに、会場からは歓声と拍手が起こる。湯浅の攻めを華麗にトリッキーにかわすガンドラム!
しかも、ただ防ぐのでなく、流れの中で膝十字固めを仕掛けるなど、決して消極的ではないのだ。残り30秒の時点では腕と足を狙いにいく湯浅とクルクル回転しながら防ぐガンドラムの攻防はまるで“回転体”になっており、会場から拍手が鳴り止まない。
最後は湯浅とガンドラムが足関節を狙い合い、攻め合う体勢のままタイムアップ! ガンドラムは世界柔術選手権4連覇の女王相手にドローへ持ち込んだ。16歳の少女による大殊勲だ!
大将戦は、リズ・カームーシュ(TEAM 10th Planet)と澤田明子(BJJ KUNOICHI)が対戦。
澤田は座って引き込みを狙うが、対応するカームーシュはマウントポジションを取り、エゼキエルチョークを狙いにいく。耐え続ける澤田。残り一分になると、カームーシュは肩固めに移行した。
そして、残り20秒で両者に指導が与えられる。再開後、澤田は引き込みを狙うがカームーシュはサイドポジションを奪取。そして、すぐさまアンクルホールドを完璧に極めたものの、惜しくもタイムアップ! 足を引きずり、明らかに負傷した様子の澤田だが、ドローだ。
つまり、決勝は5試合全てがタイムアップドローとなった。決着は大将戦を対象とするレフェリー判定に委ねられる。結果、審判全員がカームーシュに旗を上げた。TEAM 10th Planetの優勝が決定! 昨年7月の「QUINTET.2」(男子対抗戦)に続き、10th Planetは2連覇を達成した。
試合後、桜庭プロデューサーが登場してマイクを握った。
「最後、かなり接戦で団体戦としてはいい勝負になったと思いますけど……エディさん! 10th Planet優勝2回目ですね。強いなあ。僕も10th Planet入れてください」(桜庭)
優勝したTEAM 10th Planetには、いつものように桜庭から優勝メダルが贈呈された。女子大会ということで、今回はメダルの形がハートだ。
「♪チャーン、チャーン、チャチャーン、チャーン、チャラララチャンチャンチャーン」(桜庭)
自ら優勝のBGMをセルフで口ずさみながら、10th Planetのメンバー5人の首に桜庭プロデューサーがメダルを掛けた。
イベント終了後、まずは準優勝のBJJ KUNOICHIの会見が行われた。
まず、1回戦を振り返る湯浅。
湯浅 「サラ選手と美憂選手との試合は皆さんも楽しみにしてくれていたところだと思うので、自分の形に持っていってフィニッシュできた部分はすごく良かったと思います」
続いて、決勝について。
湯浅 「オーダーを『誰が来るか?』って、みんなでずーっと読んでて。決勝戦は私と市川さんのどっちかが取れば最悪でも勝てるという状況だったんですけど、ガンドラム選手のディフェンス力が物凄かった。あと、他の10th Planetの選手もみんな極めにかかってもグラップリングのディフェンスの高さが凄い。やっぱり、作られちゃうと柔術もグラップリングも極めまで一気に行っちゃうので、そこをさせないっていうのが『エディ・ブラボーの弟子だな』ってすごい感じました。でも、みんな誘ってくれてQUINTETに辿り着いて。で、決勝戦もいつもだったらたぶん諦めてるけど、すごい私のためにみんな練習してくれて……(泣)。誘ってくれたのに……こっちが感謝したいくらいなのに……私のために頑張ってくれて……。本当にもう、感謝しかないです(泣)」
――決勝のオーダーで、向こうの大将にリズが来ることは予想外だった?
湯浅 「リズかガンドラムが来るって読んでて、私がリズで澤田さんがガンドラムのはずだったんですよ。それが逆だったっていう。私がリズのほうが取れたんですよ。ガンドラムはディフェンスが強いんで、私を引き分けにさせる目的で向こうが読んで当ててきた。最悪、私がリズで指導を1個でも取って判定だったらゲーム的には勝ってたんです。ただ、そこは柔術っぽいゲームでそれはそれで面白かったなと思います。どっちにしろ私が取れてれば勝てたので、もっと練習します」
続いて、優勝した10th Planetの会見が行われた。
――湯浅選手とまた試合してみたいですか?
ガンドラム 「いい試合でした。彼女、すごく強くてあまり言葉が出ないんですが、元々、彼女は強いとわかってたんで。とにかく、自分のパフォーマンスは悪くないと思ってます」
――グラップリングを始めたきっかけと、今後の目標を教えてください。
ガンドラム 「空手の道場から始めて、それからキックボクシングと柔術をやり始めて、柔術のほうが興味あって、空手とキックをやめて柔術に集中しました。特に今後の目標はないんですが、このまま経験を積んで将来はまた色々出たいと思います」
「QUINTET FIGHT NIGHT3」の観客数は1939人。やはり、末尾は「39」だ(サクだけに)。ちなみに、6日夜(日本時間7日)にはニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで新日本プロレスが「G1 SUPERCARD」を、明けて7日にはWWEが同じくニューヨーク地区のメットライフ・スタジアムで「レッスルマニア35」を開催しており、同時期に世界的なイベントが各地で行われていたことになる。
(取材・文・撮影:寺西ジャジューカ)