舞台『hymns(ヒムス)』11年ぶりの開演! 脚本・演出の鈴木勝秀「佐藤アツヒロはピンとくる役者なんです」
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2019年4月11日(木)佐藤アツヒロ主演舞台『hymns(ヒムス)』が東京・博品館劇場にて初日を迎えた。
本作は鈴木勝秀の脚本・演出による『LYNX(リンクス)』『MYTH(ミス)』に続くオリジナル3部作の最後の作品。2008年に佐藤主演で初演されてる。2019年度版となる今回は再演でありながら5人の男たちの物語としてリライトされた。
初日前にゲネプロ(通し稽古)が公開され、佐藤をはじめ、中山祐一朗、山岸門人、陰山泰、新納慎也、そして鈴木が囲み会見に出席した。
(左から)鈴木勝秀、山岸門人、陰山泰、佐藤アツヒロ、新納慎也、中山祐一朗
鈴木は久々の再演を決めた理由について「もう一度やりたかったんです。僕がこれを書いたのが45(歳)ぐらいで、アツヒロの年齢がだいぶ近くなってきたので、もう一度やるのにちょうどいいかなあと思ったんです」と穏やかに語る。また「アツヒロは『託せる』役者。役者としての居ざま、思い切り方が信頼できる人。とにかくピンと来る人なんです」と評価した。
その言葉を受け、佐藤は「スズカツさんの作品は、オーバーに表現しなくても物語が進んでいく会話劇であり空間でもあります。改めてこういう原点、というか、そこに居られる自分がすごく幸せだと思っています」と感謝を口にした。
また作品の印象について、佐藤は「スズカツさん(鈴木)の作品は、舞台美術といい世界観が斬新です。スピーカーがむき出しだったりウーハーがどん! とあって。これで何をするんだろうって。僕らも皆むき出しです(笑)。スズカツさんワールドって、これは実在するのかしないのか、分からない部分がある」と表現していた。
初演において佐藤の役どころは「若手の画家」という設定だったが、と話を振られると「(今回は)中年の画家ですね(笑)でも、若手でも中年でも、この作品のテーマは、『生きる』。どう生きていくか、どう生きるか、なぜ生きるかっていうこと。それを主人公・オガワがどう切り拓いていくか、でもあるので、20代でも40代でも、50代でも考えるテーマかなと思います」とコメント。
佐藤が「実力派で個性的」と評した共演者たちに話が及ぶ。
オガワの家に転がり込み同居しているギャンブラー・クロエ役の新納は自身の役を「キーマンです」と含みを持たせる。すると佐藤は「女優さんはいないけれど、相手役といえば新納のクロエだと言えますね」と言う。新納は「恋愛はないですよ、残念ながら(笑)。ただ二人で居残り練習をしなきゃいけないぐらい二人のシーンが大変でした」と振り返っていた。
佐藤と新納は本作で初共演となる。「結構仲良くなりました。似ていて、性格とか価値観とか。びっくりしましたね」と新納を見つめながら話す佐藤。新納は「初めて会った気がしない、とアツヒロくんからも言われたんですが、結構早い段階で『前から友達だった気がするね』って言われて。僕は光GENJIを見ていたので昔からお友達でしたけど」と笑わせた。
画商のナナシ役の中山は「僕の役は社会的には普通の人。だからこそ芸術家のオガワさんをぼろっかすにこき下ろすんです。これだけひどい事を言ってよく(佐藤が)受け答えしてくれるなあ。いやにならないかなと思いながら演じています。かなりおちょくったりするのでよくアッくんが付き合ってくれるなあって」この言葉に佐藤は「オガワは若いうちに賞を取ってそれ以降は売れない画家になるんです。僕が10代の頃と20代になってからこうなっていく(手で山を下るような曲線を描く)状況と被るので、何を言われても大丈夫なんです!」とぶっちゃけトークに。それを聴いていた中山は「余計、言ってもいいのかな?」と苦笑していた。
「僕の10代から20代は……」と手で表現する佐藤さん
なお、この日中山は、会見15分前というタイミングで「『まだ時間があるからちょっと(劇場がある博品館で)おもちゃを見てくる』って出かけていったんですよ!」と佐藤にばらされて「15分という時間をどう使えばいいのかわからなくて(笑)。息子がハマっているおもちゃを見にいったんです」と照れくさそうに話していた。
オガワの友人でありマネージャーのムメイ役の山岸は、「オガワを茶化しながら正論ばっかり言う男です」と言葉少なめ。そしてナカハラ役の陰山は黒ハットに黒のコート姿という誰よりもミステリアスな服装。「初演の時にはいない役なんです。企画書には謎の男、とありました。イメージは中原中也らしいです。突然詩を読んだり、散文を読んだり、と謎なんです。他の方はオガワに核心を突くような事をいうんですが、ナカハラはそうじゃなく、理解者なのか、あるいは過去にオガワが描いた人物なのか……そこが全く謎です」と」と含みを持たせていた。
最近は活劇が多かった佐藤。「会話劇なので汗はかかないんですけど、心の汗はかいています。あと何気に“出ずっぱり”です一度出たらカーテンコールまで引っ込みません」とやや苦笑いしつつ。「新演劇といえるような新しい空間になっているので、ぜひ劇場まで遊びに来てください」と呼びかけていた。
ゲネプロではステージ上にはスピーカーがごろんと置いてあり、上空には丸い輪が設置され、そこから数本の金属製のロープが床に張られているという不思議な空間で芝居が始まった。
何かが見いだせなくて黒い絵ばかり描いているオガワと、ヤバそうな博打話ばかり持ち込んでくるギャンブラーのクロエ。昔はちやほやしていたが今は嫌な事ばかり言う画商のナナシとマネージャーである友人ムメイ、そしてふっと現れるナカヤマ……。そんな男たちが入れ替わり立ち替わりオガワに絡んでは意味深な言葉や皮肉をぶつけてくる。真っ黒いステージはオガワの部屋でもあるがいつしかオガワの深層心理にも見えて、息をするのが苦しくなる瞬間も。
オガワにとってナナシ、ムメイそしてクロエとはどんな存在なのか、と想いを巡らせながら観ていくことをお勧めしたい。
取材・文・撮影=こむらさき