Sou「新しいことに挑戦しようと決めた年」に踏み出した新たな1歩 初のワンマンライブをレポート
Sou
Sou ワンマンライブ『Salir』
2019.5.12 マイナビBLITZ赤坂
7年の月日を経て、Souは今あらたな1歩を自らの意思で力強く踏み出した、ということなのだろう。
2013年よりweb上での動画投稿を中心とした活動を開始したのち、2015年にはアルバム『水奏レグルス』でメジャーデビューを果たしたほか、ここまでにはイベントを軸としたライブ活動も行ってきているSouだが、その7年にわたるキャリアの中でもワンマンライブが開催されたことだけは、何故かこれまでに1度もなかった。
そんな彼が、まさに満を持するかたちでこのたび行ったのがマイナビBLITZ赤坂での初ワンマンライブ『Salir』だ。ちなみに、この“Salir”とはスペイン語で出発を意味する言葉であるという。
Sou
「行くぜ、赤坂!」
Souのイメージカラーである、爽やかなライトブルーの光が観客たちの揺らすペンライトによって場内を染め上げる中、開演とともにステージ上へと現れた彼がそう叫んだあとにこの夜の1曲目として歌いだしたのは、「右に曲ガール」。2015年にこの曲の動画投稿がされた際には『【爽快に】右に曲ガール 歌ってみた ver Sou』とタイトルが添えられていただけあって、彼が発した歌声もまたやはり爽やかな風通しの良さに満ちており、場内に詰めかけていたオーディエンスは彼のその耳心地の良い声にふれ、冒頭からいきなり酔いしれることに。
そして、ここから彼は8曲目の「spray」までをほぼ休む間もとらず一気に歌い上げてみせ、各曲を通じSouらしいミドルハスキーでいてクリアさも持つ繊細な歌声を活かしたボーカリゼイションを展開しながら、キャリア7年の実力をいかんなく発揮していったのである。
Sou
「ここまでバーっと何曲も歌い続けてしまったので(笑)、まず始めに。今日はこうしてわざわざお金を払って、時間を割いてまで僕のワンマンライブに来てくださり、ありがとうございます!(中略)なんか、このタイミングで初めてのワンマンが出来て良かったなと思っているんですよ。というのも、僕が生まれた平成という時代が終わって、今は新しい令和という時代になったばっかりなわけじゃないですか。そんなタイミングで僕自身も新しく前に1歩進めるような感じがするというか、なんだか凄く感慨深いです。あ、そして今日は母の日でもありますね。親も招待しているので、きっとこの会場のどこかで観ていると思います」
Sou本人も言葉にしていたとおり、ここまでMCも取らず歌だけで飛ばしてきたせいなのか、あるいは初のワンマンであるが故に募る思いがあるのか、しばしここからは彼の素直な気持ちが語られることになったため、当レポではその内容を少しまとめて付記しておこうと思う。
「僕はここまで、7年くらい活動してはきているんですけど。ワンマンは初めてなんですよ。「やれ」ってよく周りからも言われてたし、やらなきゃなっていうことも自分で分かってはいたんです。でも……ずっと逃げてました。なんでかというと、僕は人前で歌ったりしているくせに実は人前で何かをすることが基本的には苦手だから(苦笑)。家にひきこもってるタイプの人間なんです(笑)。だから、今だって凄い緊張してるし。ステージでカッコいい動きとかも出来ないみたいな。そんな僕にワンマンなんて、っていう思いや葛藤がこれまではずっとありました」
Sou
では、その葛藤をSouはいかにして乗り越えたというのだろうか。その答えも、このあとに続いた言葉の中にあった。
「よく、僕はエゴサーチとかをするんですよ。そうすると、前までいたリスナーさんの中には、ある日を境に他の人のところに行ってしまったりということがあって、そういう細かいところがけっこう気になっちゃうんですよね。今まで自分のことを好きでいてくれた人たちが、ワンマンをやる前に去っていってしまうのは寂しいなと思ったし、僕が前からちゃんと勇気を出していたら、もっといろんな人に直接ステージから歌を届けられていたのかなと考えたら、「さすがにやらないとな」という気持ちになったんですよ。で、今日です(笑)」
飾り気の無い素朴な言葉であっただけに、この発言にはSouの本音そのものが詰まっていたように感じる。
「なんか、カッコいいことも言いたいけど難しいな(苦笑)。えーと、ここにいる人たちは僕のことが好き……なんだよね?そうだよね。(場内からは「好きだよ!」「大好き!」の声が多数湧き上がる)……幸せです。観に来てくれて、ありがとうございます。つまり、何が言いたいかというと。僕がこうしてワンマンを出来たのは、皆がいてくれるからなんですよ! ありがとう!!」
Sou
Sou
言いたいことをある程度は言い切れたせいなのか、心なしかこのMC以降のSouはライブ前半戦よりも硬さが抜け、より自由で開放的な歌を聴かせてくれるようになったと感じたのは筆者だけだろうか?
いわゆるボカロ曲たちのみならず、米津玄師の「Lemon」や星野源の「恋」などがセットリストに組み込まれていたあたりからも、Souの視野の広さを感じることが出来たような気がする。また、本編ラストでは以下のような一幕があったことも特筆すべき点だったと言っていい。
「今年はですね。僕にとっていろんな新しいことに挑戦しようと決めた年でもあって、このワンマンライブも初投稿を始めてから7年の集大成というか、一旦ここをゴールにしてまた先に進んでいくみたいなイメージで考えているんですよ。要は、このワンマンが出発点でもあるということなんです。それで、このライブのタイトルも『Salir』にしました。あと、僕は今年に入って初めて曲も作ったんだよね。そういう意味でも、やっと1歩を踏み出しました(笑)。(中略)ということで、今日のワンマンは自分のいろんな想いを詰め込んだ次の曲で終わりたいと思います」
「愚者のパレード」と題されたこの曲は、その題名からもうかがうえるように決して明るくハッピーでポップな響きを持ったものとしては聴こえない。だが、それでいて<不完全で不安定な心で 最大の理想像を描いた>とある歌詞の一節や、憂いと哀切をはらみながらも伸びやかに突き抜けていく旋律には、Souが内包する“少しの歪みはあったとしても前へ向かおうとする願望”が投映されているように感じられてならなかった。
このあとのアンコールでは「Q」と「世界寿命と最後の一日」、さらには彼にとってことさら大切な曲でもある「レグルス」を歌い切り、やがて柔らかな笑顔をみせたSou。
「皆、本当にありがとうございました! またどこかで会いましょう!」
彼がこの日こうして踏みだした新たな1歩は、いずれそう遠くないうちに次の“挑戦”へと繋がってゆくに違いない。
文=杉江由紀 撮影=Takeshi Yao
セットリスト
2019.5.12 マイナビBLITZ赤坂
1. 右に曲ガール
2. ナンセンス文学
3. ケッペキショウ
4. ヲズワルド
5. ミルククラウン・オン・ソーネチカ
6. ドリームレス・ドリームス
7. ハレハレヤ
8. spray
9. 心做し
10. 帝国少女
11. Lemon
12. 恋
13. ベノム
14. 他人事の音がする
15. あの娘シークレット
16. 愚者のパレード
[ENCORE]
17. Q
18. 世界寿命と最後の一日
19. レグルス