藤井フミヤが語る『ウィーン・モダン』展の楽しみ方と、膨大なインプットから生まれる自身の創作秘話
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藤井フミヤ
東京・六本木の国立新美術館で開催中(~2019年8月5日)の展覧会『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』。クリムトとシーレ作品を含む、世紀末のウィーン芸術を約400点で紹介する大展覧会だ。本展の開催に伴い、6月14日にはアートテラー・とに~と藤井フミヤによるトークショーも催された。
1983年にチェッカーズのボーカリストとしてデビューし、1993年からはアート作品の制作でもクリエイティヴィティを発揮しつづける藤井は、『ウィーン・モダン』展をどのように巡り楽しんだのだろうか。自身の制作にも通じているという芸術体験を聞いた。
ウィーン芸術約400点、藤井フミヤの注目は?
——藤井さんは『ウィーン・モダン』展で、クリムトとシーレのドローイング(素描)が特に印象に残ったそうですね。
日本であの数のクリムトのドローイングを、まとめて観られる機会は貴重です。
——ウィーン芸術黄金期を彩る約400点の中から、ドローイングを選ばれるとは思いませんでした。
ドローイングは、ある種の設計図。「ここからあの傑作が生まれたんだ」と、作り手の裏側を見る楽しさがある。ササっと描いた感じもいいですよね。相当な数のデッサンをこなさないと、ああは描けません。自分が描く人間だからなのかな、面白いんですよ。
——創作をする側の方だからこその着眼点ですね。たとえばお子さんに、「どこが面白いの?」と聞かれたりもしませんか。
娘は僕の好みをよく知っているから、聞かれない。むしろ、クリムトのドローイングだけの画集をプレゼントしてくれたり、「お父さんこういうの好きでしょ?」ってヌード写真集をくれたりする(笑)
最愛にして謎の女性、エミーリエ
グスタフ・クリムト《エミーリエ・フレーゲの肖像》1902 年 油彩/カンヴァス 178 x 80 cm ウィーン・ミュージアム蔵 (C)Wien Museum / Foto Peter Kainz
——ウィーンを訪れた際は、クリムトのアトリエだけでなくお墓まいりもしたとか。本展にはクリムトの代表作のひとつ、《エミーリエ・フレーゲの肖像》も来日しています。
エミーリエは、クリムトの弟の結婚相手の妹なんですよね。エミーリエとクリムトは、親戚同士だけれど血のつながりはなく、彼女が17才の少女だった頃からの知り合い。そしてクリムトは、死に際に「ミディ(エミーリエ)を呼んでくれ」と言ったんでしょう?
それを考えると、《エミーリエ・フレーゲの肖像》には心から愛して、でも愛せなかった女性への気持ちが描かれているんじゃないのかなと思えました。
——エミーリエは「クリムトの愛人」と紹介されることもありますが、2人の関係を決定づける証拠はないのですよね。
そう。だからクリムト研究者たちは、2人をくっつけたくて、やっきになって手がかりを探している! でも見つからない。なぜならクリムトが死んだ後、エミーリエが手紙など証拠になりうるものをすべて燃やして、完璧に抹消してしまったからね。
エミーリエ本人は、この絵が気に入らなかったらしいよ。あんなにきれいに描かれているのに!
——この作品まで燃やされなくてよかったです。カンヴァスのサイズは、178cm×80cm。ほぼ等身大で全身を描いた作品ということですね。
会場でこの作品を観た時、勇ましさと気高さを感じたんだよね。多くの女性を描いたクリムトだけど、パトロンに頼まれて描いたものとはまったく別物。クリムトが、彼女にどのくらいの気持ちを持っていたかは想像するしかないけれど、最愛の人ではあったことは間違いないと思う。
藤井フミヤと国立新美術館
——国立新美術館には、どのような印象をお持ちですか?
僕が「すごい作品がきた!」と思う時は、たいてい上野か国立新美術館。展示の内容だけでなく、同じ時期に開催する展覧会の組み合わせ方も面白いんですよ。
(※編集部『ウィーン・モダン』の会期前半は、別フロアで『トルコ至宝展』を。現在は現代アーティスト『クリスチャン・ボルタンスキー』の回顧展を開催中)
『五美大展』(多摩美術大学、女子美術大学、東京造形大学、日本大学芸術学部、武蔵野美術大学の5つの美術大学連合による卒業・修了制作展)も毎年ここでやっていて、個人的に楽しみにしています。
ガラス張りの建築も気持ちがいいよね。アート系の本を閲覧できる図書室もあるし、ランチも食べられる。ここでお茶を飲むと、知的な気持ちになれる。地下にあるミュージアムショップは、街の洋服屋よりずっとかわいくてセンスの良いものが揃っている。立地も良いから、僕にとっては気軽に行ける美術館です。
すべてを吸収してものを創る
——トークショーでは、シーレの自画像の指の形、分離派展のポスター、建築コーナーに展示された設計図面の枠外の手描き文字にまで言及されていました。幅広いジャンルを、隅々までご覧になるのですね。
建築家オットー・ヴァーグナーの文字! フォントがかわいかった!
たしかに、常にアンテナは立てているかもしれない。それは僕がふだんから色々なことをやっているせいだと思います。絵画はアートを創る時の参考になる。文字を見逃さないのは、文章も書く人間だから。こうして話しながらも、(図録を指し)こういうフォントを見逃さない。それはデザインの仕事があるからだし、ミュージアムショップが気になるのはグッズを企画するから。
すべてを吸収してものを創るから、何をする時も、つい自分が創ることを前提に見て考えてしまうんです。ビジネスと関係なく純粋に楽しめるのは食べることくらいかな。……いや、そんなことはないか。自分で料理もするから「これはどうやって作ってるんだろう」「あれとあれをこうしたら」とか言いながら食べているね(笑)
——すると藤井さんは、リサーチを目的に美術館へ行くのでしょうか?
結果的にそうなることもある。純粋に観たい展示があることも多いけれど、一番は、刺激です。僕の作品に限らず、どんなアート作品にもモチーフとなったものがある。2〜3個の組み合わせではオリジナルと言えないけれど、6〜7個のモチーフをくっつけ合わせたら「オリジナル」は生まれるんだよね。
——たしかに過去の芸術家もみんな、さらに過去の何かしらの影響のもとで創作しています。
過去の芸術家が生んだモチーフに刺激を受けて、無限にある組み合わせを掛け合わせて、自分のオリジナルを探す。その刺激を受けるために、美術館に行く。
膨大なインプットから生まれる、藤井フミヤの「DIVERSITY」
——8月には藤井さんの個展『THE DIVERSITY・多様な想像新世界』が開催されます。メインビジュアルを見た時、表現方法の多彩さに驚きました。
水彩からアクリル画、切絵、貼り絵までなんでもやるからね。展覧会のタイトルに「多様性」と入れたのもそのためです。
——ウィーン芸術の影響を感じられる作品はあるのでしょうか。
《ターンテーブル》は、金色を使っているからクリムト風と受け取れるかもしれないね。実際に僕はクリムトが好きだから、どこかしら影響を受けているかもしれない。けれど僕の中で、金って日本の伝統的な技法という認識。戦国時代から日本人は金が大好きだったでしょう? 「黄金の国ジパング」って言われたくらいだし、クリムトも日本の影響を受けていると言われているよね。
藤井フミヤ 《ターンテーブル》
——そう言われてみるとこの作品は、クリムトより桃山文化の影響が強く感じられてきます。観るほどに不思議な絵ですね。ところで藤井さんのドローイングは展示されるのでしょうか?
ドローイング"っぽい"作品はありますよ。今回『ウィーン・モダン』展を観にきた人は、みんな「へえー、フミヤはこんなのに感動したんだ」「ふーん、変わってるな」って思われるんだろうなあ(笑)
——最後に読者の方へ、一言メッセージをお願いします。
『ウィーン・モダン』展は、近代化が進んだ当時のウィーンに、いかに力があったかを感じることのできる展覧会です。その中にはジャポニズムの影響も見られるはず。美術館って、興味がないとなかなか行こうと思わないと思う。でも何かをきっかけに、こういう時間にお金を使う優雅さを知っていくのが、大人なんだろうなって思います。
『ウィーン・モダン』展を観た方は『THE DIVERSITY』を、『THE DIVERSITY』を観る予定の方は、アーティスト藤井フミヤと目線を重ね『ウィーン・モダン』展もぜひ楽しんでほしい。
イベント情報
『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』
■会期:開催中~2019年8月5日(月)
■会場:国立新美術館 企画展示室1E
イベント情報
■会場:代官山ヒルサイドフォーラム
■会期中無休
■入場料:一般・大学生700円、高校生以下無料