10時間のギリシャ悲劇『グリークス』を一挙上演 演出家・杉原邦生よりコメントが到着
-
ポスト -
シェア - 送る
2019年11月21日(木)~30日(土)KAAT神奈川芸術劇場 <大スタジオ>にて、KAAT・KUNIO 共同製作 KUNIO15『グリークス』が上演される。本公演の演出家・杉原邦生よりコメントが到着したので紹介する。
本公演は、1980年にイギリスで初演された10本のギリシャ悲劇をまとめ、ひとつの長大な物語に再構成した長編舞台。第一部「戦争」、第二部「戦争」、第三部「神々」からなる三部構成で、上演時間はおよそ10時間にも及ぶ作品だ。本作品の連続上演に挑むのは、2011年 KUNIO11『エンジェルス・イン・アメリカ 第一部「至福 千年紀が近づく」第二部「ペレストロイカ」』の連続上演以降、木ノ下歌舞伎『三人吉三』(2014年、2015年)、同『東海道四谷怪談―通し上演―』(2013年、2016年)と、長編の硬質な戯曲に取り組んできた演出家の杉原邦生。そして、出演者には天宮良、安藤玉恵、松永玲子、外山誠二、小田豊らが集結した。
また、今回の上演にあたって、翻訳は小澤英実が担当する。KUNIOでは、“いま、この時代に上演すること”をテーマに、翻訳者とともに「言葉」の多様性を捨てずに選び、創作にあたりたいと考え、2014年の KUNIO11『ハムレット』以降、海外戯曲を上演する際にはできる限り新翻訳を使用している、とのこと。
演出 杉原邦生 コメント
杉原邦生
僕は〈大きな演劇〉が好きです。僕の言う〈大きな演劇〉とは、時間や空間、物量など物理的な〈大きさ〉の上に、物語としての〈大きさ〉をあわせ持った演劇のことです。簡単に言えば、長ったらしくて壮大なストーリーの演劇が好きということです。なぜなら、長い時間をかけることでしか表現できない物語や世界があるから。そして、そういう作品でしかつくり出せない祝祭的な時間と空間がたまらなく好きだから。それが僕の思う〈大きな演劇〉の魅力であり、『グリークス』はその魅力が詰まりまくった演劇だと言えます。
「誰のせいだったのか。」─── 約 2500年前、古代ギリシャで生まれた悲劇 10本によって紡がれるこの物語が、現代の僕たちに投げかけてくる問い。それは、とてもシンプルです。人は抱えきれないほどの不幸や災難、苦しみや悲しみに襲われたとき、必死にその原因をわかりやすい形で求めはじめます。やがて、ひとつの答えが導き出されると、憎しみや怒りが湧き上がり、そのものを消し去りたいと強く願います。そして、その強い願いがまた新たな悲劇を生み出していくのです。
「誰のせいだったのか。」と過去を掘り下げていくことが悲劇を生み続けていく。この連なりは一体いつになれば終わるのか。いつになれば人間は悲劇から解き放たれるのか。もしかすると、この〈大きな〉問いと戦い続けることこそ、《戦争》も《殺人》もなくなることのない世界に生きる僕たち人間に、《神々》が与えた宿命なのかもしれません。しかし、この宿命はひるがえって、〈希望〉であるとも言えます。これまで答えの出ない問いに向かい続けることができたのは、そこに僕たち人間が僅かながらも可能性を見出してきたからだと思うからです。
10時間という長大な上演時間の中、古代ギリシャの悲劇を通して、人間が見出したその〈希望〉を生き活きとエキサイティングに現代へ描き出したいと考えています。そして、この〈大きな演劇〉が持つエネルギーとその魅力を、ぜひ劇場で共に体感してほしいと願っています。
かつて全知全能の神・ゼウスと海神・ポセイドンは、美しい海の女神・テティスに求婚していた。しかしゼウスとポセイドンは、「テティスの産む子は父を超える」との預言を知り、やむなくテティスとの結婚を諦める。代わりに神々は、人間の子・ペレウスをテティスの相手に定めた。
ペレウスはテティスにひと目惚れし、やがて二人は結ばれる。オリンポスで執り行われた結婚式には、すべての神々が招待されていた。しかし、二人はよりにもよって、争いの女神・エリスだけを招待し忘れてしまう。怒ったエリスは、婚礼の宴に「最も美しい女神へ」と刻まれた黄金のリンゴを投げ込んだ。これをめぐって、三人の女神・ヘラ、アテナ、アプロディーテが対立。最も美しいのは誰か、黄金のリンゴは誰のものか。ゼウスはトロイアの王子・パリスに判定を託した。
パリスはトロイア王・プリアモスと妻・ヘカベの息子だが、災いをもたらすとして幼い頃に捨てられ、羊飼いとして生活していた。パリスの前に現れた女神たちは、リンゴの持ち主に自分を選ぶようにと条件を提示。最高位の女神・ヘラは世界一の財産を、智恵の女神・アテナはあらゆるものを生み出す智恵を、そして愛の女神・アプロディーテは最も美しい女・ヘレネを与えると言う。その結果、パリスが選んだのはアプロディーテだった。
ところが、ヘレネはすでにギリシャのスパルタ王・メネラオスの妻であった。女神の力で妻を奪われたメネラオスは、ヘレネを奪還するため、国じゅうの武将に協力を求める。以前、ヘレネのもとにギリシャ全体から大勢の求婚者が集まった時、ヘレネの父・テュンダレオスは「誰がヘレネの夫になろうとも、その男が困難に陥った時は全員が力を貸す」と誓わせたのだ。
こうしてメネラオスと、ギリシャ軍総大将である兄・アガメムノン、多くの武将たちが未曾有の大船団を率いてトロイアへ侵攻する。トロイア戦争の始まりである。
【翻訳:小澤英実 プロフィール】
翻訳家、批評家、東京学芸大学准教授。専門はアメリカ文学・文化と日米舞台芸術。主な著訳書に『幽霊学入門』、『現代批評理論のすべて』(共著・新書館)、エドワード・P・ジョーンズ『地図になかった世界』(白水社)、フランク・キング『ガソリン・アレー』(創元社)、ロクサーヌ・ゲイ『むずかしい女たち』(共訳・河出書房新社)など。イヴ・エンスラー『ヴァギナ・モノローグス』、トリスタ・ボールドウィン『雌鹿』など上演戯曲の翻訳やドラマターグも手がける。
【演出:杉原邦生 プロフィール】
演出家、舞台美術家。KUNIO 主宰。
京都造形芸術大学卒業。同学科在籍中より、演出・舞台美術を中心に活動。国内外の骨太な戯曲の本質を浮き彫りにしてみせると同時に、観客の予測を裏切るような挑発的な仕掛けや、ポップでありながら刺激的な演出が特長。2004 年に自身が様々な作品を演出する場として、プロデュース公演カンパニー“KUNIO”を立ち上げる。これまでの KUNIO での作品には、上演時間が 8 時間半にも及ぶKUNIO09『エンジェルス・イン・アメリカ』(作:トニー・クシュナー)や、最古のテキスト“Q1”バージョンを新訳で上演したKUNIO11『ハムレット』(作:ウィリアム・シェイクスピア)、柴幸男書き下ろし新作 KUNIO12『TATAMI』などがある。 外部演出作品には、木ノ下歌舞伎『黒塚』『東海道四谷怪談―通し上演―』『勧進帳』『三番叟』、KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『ルーツ』(脚本:松井周)、歌舞伎座 八月納涼歌舞伎『東海道中膝栗毛』(構成のみ)、木ノ下歌舞伎『勧進帳』(演出・美術)パリ公演[会場:ポンピドゥ・センター]、KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『オイディプス REXXX』(翻訳:河合祥一郎、演出:杉原邦生)などがある。2019 年秋には、スーパー歌舞伎Ⅱ『オグリ』(新橋演舞場)の演出も控えている。
公演情報
KUNIO15『グリークス』
■翻訳:小澤英実
■演出・美術:杉原邦生
天宮良
安藤玉恵
本多麻紀
石村みか
箱田暁史
田中佑弥
渡邊りょう
藤井咲有里
福原冠
森田真和
池浦さだ夢
河村若菜
毛利悟巳
森口彩乃
井上夕貴
永井茉梨奈
中坂弥樹
尾尻征大
井上向日葵
岩本えり
三方美由起
外山誠二
■日程:2019年11月21日(木)~30日(土)
各日 第一部 11:30 第二部 15:00 第三部 18:30 開演
※22日(金)25日(月) 28日(木)は休演
■会場:KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
一日通し券:10,000 円
各部
■
各部
日程:2019年11月1日(金)第一部・第二部、2日(土)第三部
会場:森下スタジオ
※詳細は http://www.kunio.me
【京都公演】
日程:2019年11月10日(日)
会場:京都芸術劇場 春秋座
第一部 11:00/第二部 15:00/第三部 18:00
お問合せ:京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター 075-791-9207
主催:KUNIO/合同会社 KUNIO,Inc.、KAAT 神奈川芸術劇場
助成:公益財団法人セゾン文化財団、芸術文化振興基金
お問い合せ: