向井理「普通の人たちの感情の動きを見て欲しい」 舞台『美しく青く』初日前会見&公開ゲネプロ

2019.7.11
レポート
舞台

『美しく青く』初日前会見 写真左から赤堀雅秋、向井理、田中麗奈

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向井理の主演舞台『美しく青く』が2019年7月11日(木)より、Bunkamuraシアターコクーンにて開幕する。作・演出を務めるのは映画監督や俳優としても活躍する赤堀雅秋で、赤堀作品への出演を希望していたという向井にとって念願がかない、赤堀との初タッグとなる。

初日に先立ち、初日前会見と公開ゲネプロが行われた。その模様をお伝えする。

初日前会見には、赤堀と向井、向井の妻役を演じる田中麗奈の3人が登壇した。初日を前にした現在の意気込みを問われると、赤堀は「シアターコクーンでの舞台は4回目なんですけど、近年稀にみる穏やかな心境です。あとは明日やるしかないなという気持ちです」、向井は「数は多くないですがこれまで舞台をやってきて、ゲネプロの前というのは胃が持ち上がってくるくらい独特の緊張感があります。濃密な稽古期間を経験できたので、変に気合が入りすぎないように、心を整えて明日を迎えたいです」、田中は「明日がいよいよ初日ということで、観客の皆さんに楽しんでいただく、伝えていくということが大切だと思うので、無心でやれたらいいなと思っています」とそれぞれ答えた。

『美しく青く』初日前会見 赤堀雅秋

公演に向けての手ごたえを聞かれた赤堀は「ものづくりをやっていて手ごたえを感じたことはない」とキッパリ。「例えば、田中さんにも出演してもらった『葛城事件』という映画では死刑制度という問題があったり、今回は獣害のことや被災地を舞台にしていたり、そういった題材で何か正解を示したいのではなく、自分自身が一番苦悶したり戸惑いながら作品に携わっているので、そういう意味で手ごたえというのはないです」。

また、これまでの赤堀作品とはイメージの違うタイトルについて聞かれると、「描く内容は極めて些末な人間の描写なんですけど、『美しく青く』というのは、空や海という人智の及ばないものと対比した中で、もうちょっと根源的な人間の在り方が浮き彫りになってこないかな、と思って、だからこれは希望でもあり、畏怖の念といった思いで付けたタイトルです」と説明した。

『美しく青く』初日前会見 向井理

自身の役への印象を聞かれた向井は、「普通の人だけどいろいろな面を持っていて、うまく向き合えないことがあったり逃げたりするのも人間の側面だと思うので、そういう衝動を抱えながら生きている人、誰しもが持っている感情をちゃんと持っている人、だと思っている」、田中は「過去に悲しい出来事があって、その悲しみは彼女の根源にあって、でもその感情としっかり向き合ったからこそ、現実に対して感情が持てるのかな、と解釈しています。生々しくリアリティを持って、役なのか自分自身なのかわからなくなるくらいに演じられたらいいな、と思っています」とそれぞれ役について思いを述べた。

『美しく青く』初日前会見 田中麗奈

作品の見どころは? という質問には3人とも笑いながら悩む様子をみせ、赤堀は「福田転球さんかな(笑)。居酒屋でいろんな会話をしているシーンがあるのですが、そこが今回の一番の見どころじゃないかと思います」、向井は「不毛なセリフばかりなんですけど、それを繰り返して積み重ねていくことで、感情などが透けて見えたらいいなと思う。内容のない会話の中でも、何かしら感情が動いていったりする、そういう細かいところを舞台ならではの視点で見ていただければ」、田中は「見る人によって、注目するところや感情移入する登場人物も違うかもしれないです。逆に私の方が、「ここが好きだった」という皆さんの感想を楽しみにしています」とそれぞれに答えた。

今回が初タッグとなる赤堀の印象を聞かれた向井は、「思っていたより、優しいです(笑)。すごく丁寧で、その人に合った言葉を選んで演出してくださるので、キャッチボールがしやすい人です。もっと違う視点で芝居を構築していかなければならないんだな、と思わせてくれた」と、赤堀作品への念願がかなった喜びのにじむコメントを述べた。

『美しく青く』初日前会見 写真左から赤堀雅秋向井理田中麗奈

会見後、公開ゲネプロが行われた。

『美しく青く』公開ゲネプロ

8年前に大きな災害に見舞われた町で、野生の猿が人を襲ったり、田畑の作物や人家の食物を荒らす被害が起きてしまう。猿害対策のために、保(向井理)をリーダーとした自警団が結成されるが、片岡老人(平田満)をはじめ、町の人たちからの理解は少なく、自警団のメンバーは不満や不安を抱えていく。一方、保の妻・直子(田中麗奈)は認知症の母・節子(銀粉蝶)の介護に疲れを見せ始めていた。

『美しく青く』公開ゲネプロ

一見、何でもないような日常の積み重ねの中で、些細な出来事が心の中に少しずつ澱のように溜まっていく様が、観る者にもじわじわと伝わってくる。何気なく発した言葉が、そんな意図は全くなくても受け取る者によっては鋭いナイフとなってしまうこともある。そんな危ういドラマは「特別な人たち」だけのものではなく、ありふれた日常の中でどんな場所にも転がっているのだ。

『美しく青く』公開ゲネプロ

向井は過剰にならない自然体の演技で、そんなどこにでもいるような普通の青年・保をリアルに見せる。赤堀は脚本でも演出でも説明的にならず、本心の見えづらい保に対して周囲の人間が密かにいら立ちを募らせる過程も、向井の演技で十分納得がいくように緻密に仕掛けている。その緻密さに、向井が確実に応えているからこそ、この作品全体が鮮やかに生々しく、心に迫ってくる。

『美しく青く』公開ゲネプロ

田中が、表面的にならず、奥底から感情がにじみ出てくるような深みを見せる。夫への思い、母への思いが発露するシーンでは、醜さと美しさが交錯する複雑な胸の内が伝わってきて心に響く。

『美しく青く』公開ゲネプロ

平田満秋山菜津子銀粉蝶といったベテラン勢が頼もしい演技で作品を支えている。また、シアターコクーンで上演された赤堀作品すべてに出演している大倉孝二が、人間の愚かさと愛らしさを体現しながら、この物語全体を俯瞰しているような視点を持った役で、作品に秩序と安定感をもたしている。

『美しく青く』公開ゲネプロ

赤堀が会見で述べていた通り、自然や天災など、人の力の及ばないものによってもたらされたことに対して、人間はどう対処すべきなのか、という永遠のテーマともいうべきことが描かれている。「こうすべきである」という答えは提示されないが、各々の心の中に何かしらの思いがよぎるのではないだろうか。時間の経過と共に、起きた出来事は遠くなってしまうのかもしれない。そして人間は生活を続けていく。時には逃げたり、忘れる時間も必要だろう。しかし、また再び向き合い、共に生きていく。それが人間の営みなのだ、という赤堀からの厳しくも温かいメッセージが感じられる作品だ。

『美しく青く』公開ゲネプロ

取材・文・撮影=久田絢子

公演情報

unkamura30周年記念
シアターコクーン・オンレパートリー2019 
『美しく青く』

 
【東京公演】
日程:2019年7月11日(木)~28日(日)
会場:Bunkamuraシアターコクーン
作・演出:赤堀雅秋
出演:
向井理、田中麗奈、大倉孝二、大東駿介、横山由依、駒木根隆介、森 優作、福田転球、赤堀雅秋、銀粉蝶
 
秋山菜津子、平田満
 
企画・製作 Bunkamura
 
料金 (全席指定・税込):S席 10,000円、 A席 8,000円 コクーンシート 5,000円
U25(25歳以下当日引換券) 3,500円 (税込)  
※ U25(25歳以下当日引換券)はBunkamuraのみのお取扱いとなります。
に関するお問合せ:Bunkamura センター 03-3477-9999(10:00〜17:30) 
 
主催:Bunkamura テレビ東京
公演に関するお問い合わせ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00 〜 19:00)
公式サイト:www.bunkamura.co.jp/
 
【大阪公演】
日程:2019年8月1日(木)~8月3日(土)
会場:森ノ宮ピロティホール
主催:サンライズプロモーション大阪
大阪公演に関するお問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)
公式サイト:http://www.kyodo-osaka.co.jp
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