『ドリアン・グレイの肖像』でヒロインを演じる! 舞羽美海インタビュー

2015.7.12
インタビュー
舞台

撮影/岩村美佳

19世紀、世紀末文学の傑作として知られるオスカー・ワイルド唯一の長編小説『ドリアン・グレイの肖像』。純粋無垢で圧倒的な美貌を持つ青年ドリアン・グレイが、自分の肖像画の永遠に変わらぬ美に嫉妬したことから起こる眩惑の世界が、8月に中山優馬の主演で舞台化される。その舞台で、美しいドリアン・グレイと恋に落ち、人生を急展開させていく天才的女優シビル・ヴェインを演じる舞羽美海。2012年の12月に宝塚を退団してから、女優として映像や舞台で活躍中の彼女に、女優としての現在やこの話題作に賭ける思いなどを聞いた。

撮影/岩村美佳

ドリアン・グレイとのすれ違いをドラマティックに

──『ドリアン・グレイの肖像』で、天才女優のシビル・ヴェイン役を演じることになった今の心境はいかがですか?

演出家のグレン・ウォルフォードさんにお会いした時、“とにかく純粋にいて欲しい”と。それは、知識を入れて固め過ぎずに、演出家に任せて欲しいということだ思いましたので、委ねようという安心感もありつつ、純粋にいるということの難しさも感じています。役柄が舞台女優なので、自分と通じるところもありますが、そういうシビルが「お芝居ができなくなる」ということがどういうことなのか、自分とどうやってリンクさせて作っていくかを模索しているところです。シビルは自分が恋をすることによって、舞台上で恋をする女性が演じられなくなってしまうのですが、それほど恋したドリアン・グレイからは「女優としての君が魅力的だったんだ」と言われてしまう。ドリアンにとってはシビルも美への執着の一つなんです。そのすれ違いが短い時間の中にとてもドラマティックに描かれているので、シビルとしての感情表現をしっかり出して行きたいと思います。

──原作は独特の世界観を持ったオスカー・ワイルドの、大変人気の作品ですが。
文学作品ですよね。とても美しい言葉で書かれていますけれど、現代の時間の中に生きている私にとっては想像の世界の美なので、イメージを膨らませるのに苦労した時期もありましたが、次第に強く引き込まれていきました。私は実際の舞台を観てはいないのですが、宝塚でも紫吹淳さんの主演で上演されていて、とても印象的な映像だったのが心に残っていたので、その作品に自分も関われるという喜びもあります。この小説が文学作品の中で一番好きですと言ってきてくださる方も多くおられるので、そうした方々の期待を裏切らないように演じなければと思いますし、同時にこの作品をご存知なかった方にも、新しい世界としてお届けできる。その機会を頂けたことも嬉しいです。素晴らしい共演者の方達ですので、このメンバーならではの舞台になればと思っています。
 

撮影/岩村美佳


恋するシビルとしてのときめきを持って

──タイトルロールを演じる中山優馬さんは、初主演ということですが。

美青年という言葉そのままの方なので、役柄にピッタリですよね。ポスター撮影の時に、メインキャストの男性の方は上半身裸で撮られたのですが、中山さんはまるで肖像画そのもののようでした。鍛えられて引き締まった見事な肉体美で、中山さん演じるドリアン・グレイが、美しいままで肖像画だけが年齢を重ねていく。どうやってそれが表現されるのか、私も楽しみなのですが、観てくださる方にもきっと素敵なときめきがあると思います。まだご挨拶をさせて頂いただけの段階ですけれど、初主演の時に舞台で生まれるパワーには、とても大きなものがあると思いますので、それに負けないように私自身も恋するシビルとしてのときめきを持ってぶつかっていきたいです。ドリアン・グレイの人生が変わる役どころでもありますから、自分が死ぬというところまで、大きな感情の振り幅を持って、しっかり務めていきたいです。

──新鮮な発見がたくさんある舞台になりそうですね。
 
私のポスター撮影の時も、地毛を結って衣裳も布1枚でという形がとても新鮮でしたし、これまで笑顔でいる役どころが多かったので、シビルの役柄を思いながら表情を作っていくのも、新しい発見が多くありました。良い意味で殻を一つ破れる機会を頂いたと思います。舞羽美海という芸名を持った一女優である自分が、舞台女優の役を演じ劇中劇も演じるという、幾重にもある壁を乗り越える中で、リアル感を出していけたらと。共演者の方は皆とても美しいので、私も客席から観てみたいと思うくらい楽しみな舞台です。文学の香り溢れる作品の中で、シビルの女優魂を全身全霊でぶつけていきたいです。
 

撮影/岩村美佳

たくさんの新しい出会いから刺激を受けて

──ところで舞羽さんは、宝塚退団後、様々な作品を経験してこられましたが、違いを感じることはありましたか?

毎回毎回、発見の連続でした。宝塚では同じカンパニーで、同じメンバーで、個々の成長によって役を作っていく。新しい作品であっても、お互いの信頼関係が出来ているところからの作品作りだったんです。でも退団してからは、常に初対面の方とお芝居をしていくので、今でも毎回緊張して、新しく共演させて頂く方の情報を得たり、勉強をしたりしています。それに「男性」とお芝居をすることには、まだまだ慣れないところがありますので、その違いも大きいですね。自分自身にリアルさを求めるようになりました。今までも自分ではリアルにやっていると思っていましたが、やはりそこには作っているところもあったのかな?ということがだんだんわかって来たので、芯の強い役作りをしていきたいと思っています。初めてお会いする方とお芝居をするのは難しさもありますが、慣れにならずにいつも新鮮に臨むことができるといういい面も大きいです。新しい出会いによる化学反応も起きるので、この作品も稽古場に入るのがとても楽しみですし、稽古場で得た最初のインスピレーションを大切にしたいです。

──たくさん舞台を観劇しているそうですね。
 
今までは自分が好きだったということもあって、宝塚の他の組の作品や有名なミュージカル作品しか観ていなかったんです。でも退団してからは、色々な世界があるということを知って、ストレートプレイとか大小関係なく色々なものを観るようになりました。もちろんミュージカルもとても勉強になりますから観ていますし、当日券でバッと観に行ったりもします。時間が空いたら「あ、この作品が観られるかも!」と駆けつけることもありますし、共演させて頂いた方々の舞台もできる限り観に行くようにしています。そうしている内に「私もこういう舞台がしてみたい」とか、「こういう演じ方もあるのか。じゃあ私だったらどう演るかな?」など、観ながら勉強になります。ですから楽しみながら勉強をしに観に行っているという状況です。
 
──色々吸収して刺激も受けられますね?
 
大きな刺激になりますね。舞台を観ていると「私も早く舞台に立ちたい!」と思いますし、お芝居がしたくなるんです。これだけ多くの劇場があって、毎日舞台を上演していて、更にそれを観に行っているお客様がいらっしゃる。本当にありがたいことだと感じます。私達舞台に立つ側も、お客様あってこその「舞台人」ですし、お客様にも良い刺激をたくさんもらっています。
 

撮影/岩村美佳

憧れが現実になった意義ある2015年

──その中から目標や、目指すものは見えて来ましたか?

憧れて、やっとつかめたと言えるのが、帝国劇場の『ダンス・オブ・ヴァンパイア』に出演できることで、今まで雲の上の存在だと思っていただけに、自分にとってとても大きなことでした。私自身、ミュージカル界に関われるとは思っていませんでしたから。でも退団してから自分の歌唱を変えたくて、ヴォイストレーニングを重ねてきていました。この作品に出られるというチャンスを頂けたのは本当に大きな出来事です。ストレートプレイの『ドリアン・グレイの肖像』と、ミュージカルの『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の2本に出られるというのは、一生を賭けてもいいんじゃないかと思うほど、私にとって大きな作品で、2015年は本当に大切な年になりました。人生を賭けてやりたい2本です。全く違うタイプの作品でもあるので、とても楽しみですし、その分恐怖やプレッシャーもありますが、怒られても何をしても自分を攻めていって、良い意味で変わりたいです。

──ヴォイストレーニングを重ねたというお話が出ましたが、宝塚時代とは違うものを求めてですか?
 
それまで培ってきたものを消す訳ではないんです。それも自分が作り上げてきた大切なものですから。でも、退団した時点で女優として一からのスタートだと思いましたから、セリフも歌も根本から見直したいと思いました。まだまだ挑戦中です。身体の筋肉と歌うための筋肉がまだリンクしていなくて、それをどこまで寄せられるか。体幹トレーニングなどを積み重ねながら、本番までやり続けていきたいです。たぶんこれをして来なかったら、オーディションを受けるチャンスすら来なかったと思いますし、自分との戦いですけれど、幸いレッスンをさせて頂く時間ももらえているので、身体改造の最中です。完成というのはないと思いますし、どんどん高めていくためにも努力を続けたいです。
 
──そういう時間を作り出す作業も?
 
自分で形成する時間が増えました。遊びたければ遊べるし、1日中レッスンしたければできるし、全てが自己プロデュースになってきているんです。お仕事が入っている時期と、お休みが頂ける時期。その時間の使い方は自分次第なので、如何にそこを効率よくできるかですね。
 
──宝塚はご覧になっていますか?
 
自分がいた雪組の舞台は観に行くようにしています。他の組も観たいのですが、日程的に合わないうちに見逃してしまったり、柚希礼音さんと夢咲ねねさんの退団公演『黒豹の如く』は、大変な難だったので、こんな時に無理を言ってしまってはとご遠慮したりもしました。でもこの間、博多まで雪組の『星影の人』を観に行きました。水夏希さんと白羽ゆりさんで上演された時に、研1の組配属で、公演には出られなかったのですが、お稽古場には入って見学させていただきました。水さんのセリフ回しまで鮮明に覚えてしまって、次はこのセリフと言えるほどだったので、この作品は絶対に観たいと思って。楽屋を訪ねたらびっくりされましたけれど(笑)。早霧せいなさんが沖田総司にピッタリで、咲妃みゆちゃんもとても上手で、感動しました。改めて素晴らしい作品だと感じました。私は博多という街が大好きで、『フットルース』で1ヵ月居させて頂いた時に「この地に住みたい!」と思ったくらい好きだったので、日程が合って博多座まで観に行けたのが本当に嬉しかったです。しかもこの『ドリアン・グレイの肖像』も博多に行けるんです! キャナルシティ劇場での公演があるので、最高に嬉しいです。博多のお客様が私のことを覚えていてくだされば嬉しいのですが。2日間ですけれど博多で公演できることもとても楽しみにしています。
 

撮影/岩村美佳

まいはねみみ○兵庫県出身。07年宝塚歌劇団入団。可憐な容姿の娘役として脚光を浴び、11年『ロミオとジュリエット』のジュリエット役を経て、雪組トップ娘役に就任。『黒い瞳』『フットルース』などで活躍、12年『JIN-仁/GOLD SPARK!この一瞬を永遠に』で退団、女優に転身。舞台や映像に活躍の場を広げている。退団後の舞台は『チョンガンネ』『SAMURAI 挽歌lll』『道頓堀パラダイス~夢の道頓堀レビュ~誕生物語~』。11月には帝国劇場での『ダンス・オブ・ヴァンパイア』ヒロイン・サラ役も控える。

【取材・文/橘涼香  撮影/岩村美佳】

公演情報
『ドリアン・グレイの肖像』

原作:オスカー・ワイルド
脚本:G2
演出:グレン・ウォルフォード
出演:中山優馬/徳山秀典、舞羽美海、仲田拡輝(ジャニーズJr.)/金すんら ほか
●8/16~18、9/1~6◎新国立劇場 中劇場
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
●8/22~26◎森ノ宮ピロティホール
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 06-7732-8888
●8/29~30◎キャナルシティ劇場
〈お問い合わせ〉ピクニックセンター 050-3539-8330
公式HP www.dorian-gray.jp
 


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