萩尾望都「描いていたらいつの間にか50年」 元宝塚花組・仙名彩世も登壇した『萩尾望都 ポーの一族展』開幕レポート
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左:元宝塚歌劇団花組トップ娘役の仙名彩世 右:漫画家の萩尾望都
松屋銀座8階イベントスクエアにて開催中の『デビュー50周年記念 萩尾望都 ポーの一族展』(会期:〜2019年8月6日)にて、漫画家の萩尾望都が、7月24日に行われた内覧会に登場。展覧会を見た萩尾は、「自分の描いた原画が壁に飾ってあって感激でした。宝塚の衣装も展示されているので、みなさんにも楽しんでいただけるとうれしいです」とコメント。さらに本展の開催を祝して、元宝塚歌劇団花組トップ娘役の仙名彩世がゲスト出演した。
萩尾望都(左)と仙名彩世(右)
2018年に行われた宝塚歌劇団花組公演『ポーの一族』にて、シーラ・ポーツネル男爵夫人を演じた仙名は、「最初の来場者ということで、本当に光栄に思っております」と挨拶。今年4月に退団した仙名にとって初めてのイベント出演となる中、萩尾とのエピソードや宝塚版『ポーの一族』の思い出などを振り返った。
親しげに会話を交わす萩尾と仙名
本展は、『ポーの一族』最新作や描きおろしを含む原画300点以上を通して、萩尾望都の世界の魅力に迫るもの。『トーマの心臓』や『残酷な神が支配する』などの貴重な原画をはじめ、宝塚公演に使われた衣装や小道具も紹介されている。
仙名が演じたシーラ・ポーツネル男爵夫人の原画 ©萩尾望都/小学館
萩尾が仙名に向かって「シーラ」と呼び間違えるなど、終始和やかな雰囲気に包まれていた会場より、2人のプチトークショーの模様をお届けしよう。
イントロダクションから、作品の世界に引きこまれる
ーーまずは、会場を見て回った感想を教えてください。
萩尾:壁の色が暗いところに原画が飾ってあるので、原画が浮き上がっているように見えて、とても印象深かったです。イントロダクション(の映像内)では、カーテンの向こうから花びらがあふれるように出てきて、あっという間に世界に引きずり込まれました。自分の作品なのに、ちょっとドキドキしながら一周してまいりました。途中で宝塚の衣装も展示されていて、ますますドキドキしました。
仙名:会場に入ると、(映像内の)カーテンがひらっとして、原作の「あのシーン」が再現されていて、足を踏み入れた瞬間に泣きそうになりました。先生の漫画で描かれたシーンを思い出しつつ、身体が熱くなった感覚があります。駆け足で拝見したので、再度ゆっくり伺って、しっかり一つひとつ見たいと思います。
イントロダクションで見られる「ポーの一族」の映像 ©萩尾望都/小学館
萩尾:グッズも売っていますし。
仙名:そうなんです!
萩尾:ガチャガチャ全部やりたい(笑)
仙名:ミニチュアアートのガチャガチャがありまして、私は小さいものが大好きなので、全部ほしいと思えるグッズばかりです。
エドガーとアランの等身大パネルを見て、仙名彩世「ひさしぶり」
萩尾:会場には宝塚の衣装も飾ってありましたが、いかがでしたか?
仙名:宝塚の衣装はすべて原作の漫画を参考にして、こだわって作ってくださっていました。萩尾先生が原画で描かれている衣装がとにかく美しかったですし、その通りに作ろうというみなさんの情熱が感じられました。
萩尾:あそこまで情熱を込めて作っていただいて、感激です。キャスティングも、みなさんぴったり合っていました。
仙名:ありがとうございます、必死でした(笑)
仙名彩世
萩尾:会場にはエドガー(明日海りお)とアラン(柚香光)の等身大パネルが展示されていますが、これを拝見した仙名さんが「ひさしぶり」とおっしゃっていましたね(笑)
©宝塚歌劇団
仙名:ホテル・ブラックプールの階段から、男爵一家が降りてくるシーンに使われた階段も会場に再現されています。私、あそこから降りてもいいんですかね……?
萩尾:仙名さんなら大丈夫ですよ。
©宝塚歌劇団
萩尾望都「台風のような愛が押し寄せていた」宝塚版『ポーの一族』
ーー萩尾先生は宝塚で公演が決まった時に、どんなお気持ちでしたか?
萩尾:私の生きているうちに宝塚で舞台が観られると思ってうれしかったです。脚本・演出を小池(修一郎)先生がされることは以前からお願いしていて、小池先生の舞台が大好きなので、すごく期待していました。
ーー仙名さんの役作りは大変でしたか?
仙名:人間ではないバンパネラ(吸血鬼)ですので、身体の中にどんなものが渦巻いて、どんなものがめぐっているんだろうとか、そういう部分を男爵一家で話し合いました。また、ポーの一族の人たちと、バンパネラとはどういうものなのか、どうやって生活をしているのかとか、一緒に考えながら想像をふくらませていたので、その時間がとても楽しかったです。
萩尾:毎日のお食事なんかどうしてるんでしょうねえ……。
仙名:きっと、バラばかりではないですよね? 公演は苦しかったこともありましたけど、お稽古場がとても楽しかったです。小池先生の作品にかける情熱が、毎日稽古場の中にあふれていました。
萩尾:小池先生や、小池先生の意図を汲んだ役者の方々も、すべて愛が感じられて、あふれるばかりの愛、台風のような愛が押し寄せていて、舞台を見たときはものすごく感激でした。
萩尾望都
仙名:初日の舞台終演後に萩尾先生が楽屋に来てくださって、みんなの前でお話をしてくださった時の言葉一つひとつから、本当に喜んでくださっているのが伝わってきて、ホッとしました。
「エドガーとアランがずっとお喋りを続けている」
ーー改めて、デビュー50周年を振り返られていかがでしょうか?
萩尾:毎月、毎年締め切りに追われて、描いていたらいつの間にか50年経ちましたという感じです。周りから「50年だよ」と言われて、「え? 私そんなに歳をとったの?」と。まだまだ描きたいものもあるので、これからも、もう少しがんばっていきたいなと思います。とりあえず50年で、ひとつの節目になれたと思います。
ーー2012年に少女漫画家としてはじめて紫綬褒賞を受賞されましたが、それも大きかったですか?
萩尾:それも、描いていたらいつの間にか……。(会場笑)
ーー『ポーの一族』の物語が、この先ずっと続いてほしいと願うファンの方もいると思いますが、いかがでしょうか?
萩尾:ずいぶん若い頃に作ったキャラクターなんですけれど、本当に2人がよく動いてくれて、連載が再開してからも、ずっとエドガーとアランでおしゃべりを続けているんですね。ちょっと耳を傾けますと、彼らがしゃべっている声が聞こえるので、その声を汲み取って、これからも描いていきたいと思います。
萩尾望都
ーー舞台で演じてみて、改めて思う『ポーの一族』の作品の魅力を教えてください。
仙名:一人ひとりのキャラクターが生き生きしていて、それぞれのキャラクターのエピソードが濃くて、どの人を主役にしても、萩尾先生は物語が描けるのではないかなと思います。舞台で演じるにあたって物語を読み直した時に、とても深い作品だなと。生き続ける悲しみというのはあまり考えたことがなかったので、そういった悲しみもあるんだなと感じました。
「一生の宝物」と仙名が紹介したのは、萩尾望都直筆のシーラの似顔絵。宝塚版『ポーの一族』の東京公演中に、楽屋に届けられた。
ーー本展をご覧になって、ご自身が演じたシーラと、漫画の登場人物たちとの違いはどのように感じられましたか?
仙名:原画には鉛筆の線の跡が残っていて、先生が直に描いたものに触れて、「こうやって息づいていたんだな」と思いつつ、舞台を通してそこに命を吹き込むことはとても難しかったです。しかし、やはり原作の力というのは、ものすごく大きいんだなと実感いたしました。
萩尾「吸血鬼がやってきて、若返らせてくれないかな」
ーー展示を通して50年分の原画を見たことで、どのような印象を抱きましたか?
萩尾:先ほどもシーラ……仙名さんと一緒に見ていたんですけど、昔の絵は頭がデカイなとか(笑)、そういった自己批判ばかりで。だけど、それなりに一生懸命描いていたんですね。それと昔の絵の方が線の勢いがありました。それがだんだん落ち着いてきて、今はちょっとわびさびの境地に入っていて、困ったなと思うんですけど、これが寄る年波というものだから、このまま描いていこうと思います。
ーーデビュー50周年を迎えられて、今後どういったことを目指していきたいとお考えですか?
萩尾:50年描きますと、目が見えなくなってまいります。それから肩が凝ってまいります。腰痛も出てきます。病気の話ばかりですが、腱鞘炎にもなってまいります。希望としてはとにかく若返りたい(会場笑)。吸血鬼がやってきて、若返らせてくれないかなというのが希望なんですが、そんなの無茶ですよね。だから健康に気をつけて、もう少しやっていきたいと思います。
萩尾望都
ーー50年間の中で『ポーの一族』という作品に、どのような思いを抱いていますか?
萩尾:私は幻想系の話が好きだったんですけど、自分でもこんなに現実から遊離した幻想が好きだったんだなと。この作品に関しては、あまり苦労しなくても次々と話が生まれていくので、吸血鬼といういい題材を見つけたなと思いました。描いている時は夢中であまり気づかなかったんですけど、作品と再会してみたら昔と同じくらい楽しいので、キャラクターたちに「ごめんね。これまで放っておいて」と謝りたい気持ちになりました。だからこれからも描いていきたいと思います。
『デビュー50周年記念 萩尾望都 ポーの一族展』は2019年8月6日まで。萩尾作品や宝塚ファンにとっても楽しめる機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。