子どもも大人も楽しめる、人気絵本が原作の音楽劇『あらしのよるに』囲み取材&ゲネプロレポート

2019.8.3
レポート
舞台

音楽劇『あらしのよるに』ゲネプロ

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2019年8月3日(土)より日生劇場ファミリーフェスティヴァル2019として、音楽劇『あらしのよるに』が上演される。原作は刊行25周年、シリーズ累計350万部と子どもから大人まで多くの人の感動を呼び続けている絵本で、オオカミのガブとヤギのメイという、本来ならば「食うものと食われるもの」の関係であるはずの二人の友情を通して、他者を思いやる気持ちや、相手の本質を見つめる大切さを描いている。

主人公の心優しいオオカミ・ガブを演じるのは、ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍する渡部豪太、ガブと秘密の友情を育むヤギのメイを演じるのは、昨年ミュージカル『魔女の宅急便』で主演のキキ役を演じ、これが舞台出演2作目となる福本莉子だ。

この舞台の公演初日に先立ち、囲み取材と公開ゲネプロが行われた。

音楽劇『あらしのよるに』囲み取材 左から渡部豪太、福本莉子

囲み取材には、ガブ役の渡部豪太と、メイ役の福本莉子が登壇した。

今の心境と意気込みを聞かれ、渡部は「日生劇場が長年大事に行っているファミリーフェスティヴァルに出させていただけるということで、劇場ではお子さんの声だったり、親御さんの声だったり、いろんな声が聞こえてくると思いますが、それも含めてみんなで楽しめる劇にしたいな、と思い、脚本・演出の立山ひろみさんと一緒に、キャスト・スタッフがいろいろ考えながら丁寧に作った作品です」、福本は「子どもたちの生の反応が楽しみです。出演者も含めて、みんなが楽しめる舞台になればいいなと思っています」と答えた。

この作品の魅力や見どころを聞かれると、渡部は「オオカミとヤギの“ありえない”友情を描いた作品です。ジェンダーや人種などを超えたものを反射している作品だと思います。あと、雨や風や雪などを役者の体で表現することにも挑戦しているので、そういうところも楽しめると思います」、福本は「生演奏や身体表現などこだわって作っているので、舞台ならではのライブ感を楽しんでいただきたいです」と答えた。

役柄について聞かれると、渡部は「身体が大きくて凶暴なイメージがあるオオカミの役ですが、ガブは心が弱くて、群れの中ではいつもドジで下っ端扱いされています。ヤギのメイは、女性の福本さんが演じていますが実は男の子なので、男と男の友情を描くと同時に、性別を超えた楽しい出会いの数々も描かれています」、福本「メイは自由奔放でのんきなヤギ。ハートが強いので、心が弱いガブを引っ張ってあげる存在なので、2人の対比を楽しんで欲しいです」と答えた。

音楽劇『あらしのよるに』囲み取材 左から渡部豪太、福本莉子

最後に観客へのメッセージを求められると、渡部が「子どもも楽しめるように作っていますが、決して子ども向けに作った作品ではなくて、大人も楽しめる本格的な舞台に仕上がっています」と答えた後、続く福本は言葉に詰まり、しばらく沈黙してしまった。すると渡部が耳打ちをするようにひそひそ声で助け舟を出し、福本は「暑い夏に、楽しいお芝居を涼しい日生劇場でやっているので、ぜひ観に来て下さい!」と笑顔で言い、囲み取材を締めくくった。

音楽劇『あらしのよるに』囲み取材 左から渡部豪太、福本莉子

続いてゲネプロが行われた。

音楽劇『あらしのよるに』ゲネプロ

ある嵐の夜に出会ったオオカミのガブとヤギのメイは、暗闇の中でお互いの正体に気づかないまま言葉を交わして意気投合。翌日再会して、相手の正体がわかって驚きながらも、密かに友情を育んでいく。

音楽劇『あらしのよるに』ゲネプロ

音楽劇『あらしのよるに』ゲネプロ

やがて二人の関係は周囲の知るところとなり、それぞれの仲間から非難され、反対されてしまう。それでも友情を選んだ二人は群れから逃げ出し、遠く高い雪山の向こうのみどりの森を目指して歩き出すのだが……。

音楽劇『あらしのよるに』ゲネプロ

音楽劇『あらしのよるに』ゲネプロ

立山ひろみによる、全7作の原作絵本の魅力を損なうことなく1つの舞台作品として見事にまとめ上げられた脚本と、色彩豊かな演出が魅力的だ。音楽の鈴木光介率いるバンドの生演奏も、山田うんの振付を体現するダンサーたちの身体表現も効果的で、作品の世界をより鮮やかに押し広げる。

音楽劇『あらしのよるに』ゲネプロ

音楽劇『あらしのよるに』ゲネプロ

ガブ役の渡部は、豊かな表情と声色の巧みなコントロールで、ガブの心の揺れ動きを繊細に表現する。福本の瑞々しさが、純粋な心を持ったメイの姿に重なる。オオカミたちのボス役の高田恵篤が迫力ある重厚な存在感を示し、おばさんヤギ役の平田敦子がコミカルなキャラクターで舞台に軽妙さを加える。

音楽劇『あらしのよるに』ゲネプロ

「オオカミとヤギだから」という理由で周囲からその関係を反対される様は、あたかも「ロミオとジュリエット」のようだ。周囲に流されず、目の前の友人と心と心で向き合うガブとメイの姿は、身分や肩書、生まれ持ったものだけで相手を判断することの虚しさを教えてくれる。昨今の社会情勢にも照らし合わせ、うわべだけではなく相手の本質を見つめることの大事さが観客の心にも届いてくれることを願う。

絵本の持つ温かくも鋭いメッセージと共に、キャスト・スタッフの丁寧で確実な仕事が光り、舞台ってこんなにワクワクドキドキして楽しいんだよ、ということが伝わってくる作品だ。ぜひ多くの子ども、そして大人にも、この作品を通じて舞台の楽しさをたっぷり味わってもらいたい。

取材・文・撮影=久田絢子

公演情報

日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2019
音楽劇『あらしのよるに』(新制作)
 
【会 場】 日生劇場
【公演日程】 2019年8月3日(土)、4日(日)、5日(月)
 
【原 作】 きむらゆういち作「あらしのよるに」(講談社刊)
【出 演】
渡部 豪太
福本 莉子
高田 恵篤 平田 敦子
飯嶋 あやめ 川合 ロン 木原 浩太 小山 まさし 酒井 直之 島田 惇平
滝本 直子 笘篠 ひとみ 長谷川 暢 早川 一矢 平山 トオル 福留 麻里
古川 和佳奈 三坂 知絵子 三田 瑶子 山口 将太朗 山﨑 まゆ子 山根 海音
 
【演 奏】 鈴木 光介(tp) 砂川 佳代子(cl) 関根 真理(per) 高橋 牧(acco) 日高 和子(sax)

【スタッフ】
演出・台本:立山 ひろみ
音楽:鈴木 光介(時々自動) / 振付:山田 うん
美術:池田 ともゆき / 照明:齋藤 茂男 / 衣裳:太田 雅公 / 音響:島 猛
学芸:大池 容子(うさぎストライプ) / 舞台監督:八木 清市
 
日生劇場ファミリーフェスティヴァル:http://famifes.nissaytheatre.or.jp/
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