高橋一生が超悪役に挑む、井上ひさしの傑作戯曲『天保十二年のシェイクスピア』がいよいよ始動
高橋一生
『ハムレット』『オセロー』『リア王』『マクベス』『ロミオとジュリエット』『リチャード三世』……などなど、シェイクスピア全作品の要素を盛り込み、舞台を江戸末期の天保年間に移して大胆に、スペクタクル満載に仕上げた祝祭音楽劇が、井上ひさしの傑作戯曲『天保十二年のシェイクスピア』。初演は1974年(出口典雄演出)、その後2002年にはいのうえひでのり、2005年には蜷川幸雄が演出し、いずれも大きな話題を集めた伝説的な作品だ。15年ぶりの上演となる今回の演出は、今年ロンドンでの演出家デビューも果たした藤田俊太郎が手がけることになった。キャストは己の野望のためには手段を選ばず突き進む異形の流れ者<佐渡の三世次>に高橋一生、ふたつの家の争いに巻き込まれる若き跡取り息子<きじるしの王次>に浦井健治が扮するほか、唯月ふうか、辻萬長(“辻”のしんにょうの点はひとつ)、梅沢昌代、木場勝己ら、演技派、個性派がズラリと揃う。2020年2月の上演に向け、早くもチラシ、ポスター用のビジュアル撮影があったため、撮影直後のタイミングで高橋を直撃! 作品や役柄への想いを語ってもらった。
ーー佐渡の三世次役を演じるにあたって、今、どんなことを思われていますか。
今までいろいろな方がやられてきた役ですが、フラットな状態で向き合えそうです。脚本を忠実に読み、あとは稽古に入ってから(演出の藤田)俊太郎さんとどういう風に作っていくか、そして共演するキャストの方々とどういう風にお芝居をしていくかで、またどんどん役の印象が変わってくるんだろうなと思います。
高橋一生
ーーかなり極悪な役とのことですが。
まだ、どう演じるかなどは何も考えていません。これは舞台でも映像でもそうなんですが、最初はそのまま自分の感じた通りにやって提示してみる。そこからは、相手役のキャストの方々のお芝居によっても変わっていく。最初から自分で固めてしまうと、崩すのは大変ですから。なので、自然にやっていくことが大事かな、と。三世次はヴィラン(悪者)というか、アンチというか、敵(かたき)役みたいに書かれている憎まれ役なので。まずは、脚本に書いてあることに忠実にやっていくつもりです。
ーー今日はビジュアル撮影だったそうですが。初めて三世次の扮装をしてみて、ご感想はいかがでしたか。
高橋一生 扮装ビジュアル
果たしてどんな風に写っているんでしょうか。僕は、スチールなどは確認しないんです。俊太郎さんがいいと言ってくださっているなら、それでもう、おまかせです。衣裳は本番で着るものは変わるみたいですけれど、ラフスケッチは見せていただきました。『リチャード三世』のイメージに近いのでしょうか。リチャードの洋装を、和服にした感じになっているように思いました。単なる赤というより、ちょっとベルベットのような、血のような赤。全身が、そういう色の衣裳でした。顔のメイクも、爛れて火傷のようになっているし。三世次はリチャードの人格というか、感覚を多分に引きずっているキャラクター。僕からも「たとえば、こういう風にするのはどうだろう」と、いろいろ提案をしながら時間をかけて撮影しました。
高橋一生
ーー高橋さんがこれまで演じたことのないような印象の役柄になりそうですよね。
そう思います。ビジュアル的にも肉体的にも負荷がかかってきそうな役ですが、スイッチングがしやすいとも言えるので、面白そうです。
ーー楽曲は全部で20曲近くあって、それぞれにソロパートも用意されるそうですが、観客の前で歌われることについてはいかがですか。
そうだ、歌だ! と、今、思ったくらいなのでまだ何も準備はしていません(笑)。俳優として舞台で歌うことは、歌いながらどれだけ芝居ができるかということだと思うんです。なんとか、手探りでやっていきたいです。ただ、リズムにとらわれすぎないようにはしたいと思っています。ふだんのセリフも同様なんですが、特に舞台だと何回も同じことを繰り返すので、自分の居心地のいいところ、気持ちのいいリズムになってしまいがちなんです。そういったこととも久しぶりに向き合うことになりますから、出来る限り面白がってやりたいです。
高橋一生
ーーこれまで、井上ひさしさんの他の作品をご覧になったことはありますか。
『組曲虐殺』など、いろいろ観ていますし、戯曲も読んでいます。その中でも『天保~』は、かなり攻めている作品だと思います。この戯曲には、井上さんの本質的な部分に加えて、シェイクスピアの要素も入っているわけですから。ここまでいろいろなものを混ぜて、よく成立させることができたなと感じます。ある意味、シェイクスピアを超えてしまっている作品とも言えそうです。
ーー演出の藤田俊太郎さんとは今回の舞台に関して、何かお話されていますか。
俊太郎さんには、コンセプトデザインや、事前に読んでおいてほしいという本など、かなり前からいろいろとお聞きしています。今日のビジュアル撮影の時も、コンセプトを細かく説明してくださいました。
ーー共演者の方でどなたか、気になる方はいらっしゃいますか。
気になる方ばかりです(笑)。浦井さんはミュージカル界の王子、プリンスですし。初共演なので、胸をお借りします! という感じです。唯月さん、辻さん、梅沢さん、木場さん、みなさん本当に素敵な俳優さんばかりなので、ご一緒出来るのが今からとても楽しみです。
高橋一生
ーー舞台のお仕事は久しぶりですから、新鮮な気分で取り組めそうですね。
舞台はいつも、新鮮な気持ちでやらせていただいています。実は前回、白井晃さんに演出をしていただいた時(『レディエント・バーミン』2016年)、すべてやり尽くしたような感覚になってしまったんです。なんというか、脳のシナプスが伸びきってしまうような(笑)、刺激の多すぎるお芝居だったので、公演ごとに体力を消耗して。今までそんなことはなかったんですが、一公演終わるたびになんだかボーっとしてしまっていました。今回は久々の舞台になりますが、俊太郎さんの演出で、井上さんの戯曲で、お声をかけていただいたタイミングもちょうど良く……、ということでやらせていただくことになりました。せっかくなので、新たな刺激を得たいと思っています。
ーーでは、最後に意気込みをお聞かせください。
僕はいつも、特に意気込みはないんです(笑)。しっかりとお芝居をやらせていただきたいと思っています。
高橋一生
ヘアメイク:佐藤裕子
取材・文=田中里津子 写真:岩田えり
公演情報
『天保十二年のシェイクスピア』
■作:井上ひさし
■演出:藤田俊太郎
■音楽:宮川彬良
<東京公演>
■場所:日生劇場
現在日生劇場にて上演中の『天保十二年のシェイクスピア』(東宝株式会社主催)につきまして、新型コロナウイルス感染拡大防止の措置として、以下の公演を中止することになりました。
■日程:2020年3月5日(木)~3月10日(火)
■会場:梅田芸術劇場メインホール
2月26日に発表された新型コロナウイルス感染症対策本部での首相の要請に従い、感染拡大防止の観点から、梅田芸術劇場主催公演を中止とすることを決定いたしました。
公演を心待ちにしてくださっていた皆さまには、多大なるご迷惑をおかけいたしますこと、心よりお詫び申し上げます。