藤井フミヤに聞く、16年ぶりの個展『THE DIVERSITY 多様な想像新世界』の見どころ
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藤井フミヤ展「THE DIVERSITY 多様な想像新世界」
藤井フミヤ個展「THE DIVERSITY 多様な想像新世界」が、代官山ヒルサイドフォーラムで開幕した。会期は8月21日~9月1日。展示室に足を踏み入れると、正面の壁にかかる作品に目をひかれる。2003年に制作された《Sticker mosaic》というシリーズだ。デフォルメされた聖母マリアがメタリックに光っている。近づいて初めて、それがシールの集合体だと分かる。
藤井フミヤ展「THE DIVERSITY 多様な想像新世界」
何千人ものファンを前にパフォーマンスをみせる「ポップ・スター、藤井フミヤ」だけしか知らない人は、その緻密な仕事ぶりに驚くだろう。1993年、音楽活動と並行し、時代に先駆けてパソコンで制作したCG画を発表した藤井フミヤ。2003年以来16年ぶりとなる個展で、どのような“想像新世界”をみせてくれるのか。プレビュー会場で、藤井に話を聞いた。
《Sticker mosaic》シリーズ(部分)。小学生がお小遣いで買い、ノートや手帳に貼るようなシールだ。
100点のFUMIYART、多様なアプローチ
──2003年以来、16年ぶりの個展です。どんなきっかけで開催されたのでしょうか。
タイミングがあえば、またいつか個展をと、何となくは思っていました。そして1、2年前、ギャラリーの方に自分で制作したカレンダーを「僕も絵を描くんですよ」と渡したところ、「なにこれ!個展をやろう!」と言ってくれたのがきっかけです。作品が100点くらいたまったらやろうと決めました。
──そして今回、100点に及ぶ作品が展示され、グループ展のようなバラエティの豊かさでした。
色々あるところが、見どころです。展覧会のタイトルも、" DIVERSITY "(多様性)だからね。画材も作風も色々です。デジタルもあれば水彩、油彩、切り絵、ワイヤーや木を使ったものもある。まずはそこを面白がってもらえたらいいですね。
──最新作は、ボールペンでオールド・マスターの作品を模写したシリーズです。
最初のボールペン画は、オリジナルの絵でした。こういう描き方があると気がつき、次は宗教画を模写しようと決めました。あえて有名な絵を描いた方がポップかな、と思ったから。そしてラファエロ、次にダ・ヴィンチを描き終えた時、「実寸で描けばよかった」と思った。だからボッティチェリの《Venus and Mars》は、ボールペンを使い本物と同じ大きさで模写しました。
ボッティチェリへのオマージュ《「Venus and Mars」の模写》(部分)。毛並みも肌の質感もボールペンで表現している。
ポップ・アートのスーパースターといえば、アンディ・ウォーホルだよね。今の時代には、ラファエロ、ダビンチ、ボッティチェリだけでなく、ウォーホルの時代にも存在しなかった道具がたくさんある。パソコンもそうだし、1㎜以下の太さで描ける日本製のボールペンもそう。次の時代のポップアートが出てくるんじゃないのかなと思うんです。
──テーマについてお聞かせください。
一貫するのは、「女性」をモチーフとしていること。女性の体のラインを描くのが好きなんです。ルノアールも「自分は女性しか書かない」と言っていますね。わかる気はするけれど、晩年のルノアールみたいに、ふくよか過ぎる女性を描きたいとはまだ思えない(笑)。『プレイボーイ』に出てくるような女性も描く気になれない。ポーズも含めて、ボディのラインに個性があってほしい。クリムトやエゴン・シーレの描く女性像が好きなのは、そういう魅力があるからです。
アトリエでの制作中の様子。撮影:藤井杏奈
──描かれた女性たちは、感情を読みとりづらい表情をしている点も特徴だと感じました。
描く女性は、まるでひとつの物体のような、彫刻っぽさを求めているところはありますね。
──あくまでラインを描きたい、ということの表れでしょうか。では音楽を作る時と絵を描く時では、「女性」のあり方が異なるのでしょうか。
違いますね。歌に出てくる女性の方がリアルです。音楽を作る時、思い浮かべる女性は絶対日本人なんです。イメージする情景は日本だし、その女性は日本人。日本語で歌うからかもしれないね。絵の場合、結果として日本っぽくなることはあったとしても、意識しているのはやはりラインなんです。言葉ではなく感覚的に、「こうしたら格好いいかな」みたいに描くところもありますね。だから知識とかなく、見て楽しんでもらえると思います。
──おっしゃるとおりパッと見で美しく、スタイリッシュな作品ばかりです。ただインテリア向きのおしゃれアート作品かというと…。
違うんだよね、完全に。癖がある!(笑)基本的にきれいな、見やすい絵画が好きなんです。でもちょっと引っかかるような癖もある。とても細かいところまで描き込んでいるので、思わず立ち止まって、じっくり見てくれたら嬉しいですね。
絵は1人で、音楽は何千人と、創り出す
──白地にアクリルチューブで描かれた作品など、線の迷いのなさが印象的でした。藤井さんは絵画制作において、失敗や行き詰まりを感じる経験はありますか?
失敗作はいっぱいたまってるよ(笑)。たとえば水彩画。小学生の頃から使っていた絵具ならば知識的に扱いやすいだろうと、5年ほど前にはじめたのですが、水彩画って後戻りができないんだよね。油絵もアクリル画も、重ねて描けば失敗を消せます。けれど、水彩画の時はどんどん前に進むしかない。だから「ああ、余計なものを描いちゃった」という失敗はよくあるけれど、その失敗も取り入れて進んでいく。
ただ、アイデアが枯れることは、今のところないですね。好奇心旺盛だからかな。曲も歌詞も書くから、必然的にインプットは増える。音も文字も見逃さないし、気になるものは目についてしまう。
──音楽では会場を埋め尽くすファンの方を前にパフォーマンスを披露され、絵の制作では1㎜以下の線と向き合っておられます。藤井さんの中で、何か切り替えがあるのでしょうか。あるいは同じ景色として見えるのでしょうか。
絵は孤独ですよね。1人黙々と集中してやる、完全にひとりの時間になる。一方で音楽は、作曲は1人でやるとしても、その先は絶対に1人ではないし、最終的には何千人と関わるもの。だから見える景色は同じではないけれど、気持ちの切り替えはいくらでもできる。もう慣れてしまったのかな。絵は好きで描いているし、音楽は、職業になったものだけれど、もとは好きで始めたものだしね。
──最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
藤井フミヤ個展「THE DIVERSITY 多様な想像新世界」は、8月21日~9月1日まで代官山ヒルサイドフォーラムで開催。図録やWEBからは感じることが難しい藤井の筆致、素材の違い、展示空間に溢れる本物だからこその熱量を、ぜひ会場で体感してほしい。
イベント情報
『THE DIVERSITY・多様な想像新世界』
■会場:代官山ヒルサイドフォーラム
■会期中無休
■入場料:一般・大学生700円、高校生以下無料