「板橋にはこんなにおもしろいものがあるんだと知ってもらいたい」――いたばしプロレス代表「はやて」選手独占インタビュー!
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いたばしプロレス代表「はやて」選手
――東京都板橋区で活動する「いたばしプロレス」が9月1日(日)、東京・東板橋体育館で5周年記念大会を開催します。まず最初に、「いたばしプロレス」とはどういう団体なのか、教えてください。
「旗揚げから5年が経っているんですけども、そもそもがプロレスを通じてよりよいコミュニティーを作っていこうというところから始まりました。はやて、私自身が当時、引退しようかと思っていたところがあって、そのときに元から支援してくれていた商店街の方々、スポンサーを含め、“まだやめるな”、“地域でやることもあるだろうから一緒にやっていこうよ”という話を何名の方々からいただいたんですね。それで引退をとどまって、恩返しではないですけども、地域だったりとかプロレス界の若い選手だったりとかに技術提供をしたり自分の積み上げてきたプロレスの知識だったり、よい面をうまく活用して地域に還元して世の中を明るくしたい、子どもたちに笑顔をという気持ちを持ったんですね。笑顔に溢れた街作りのためになにか役立ちたいと。そのために存在しているのがいたばしプロレス。実際、現実にそういう存在になってきていると思っています。いたばしプロレスとはなにかと問われれば、人々の笑顔のために存在しているプロレス団体。そう説明できると思います」
――では、なぜ板橋なのですか。
「私が学校を卒業して最初にサラリーマンになったときの住まいが板橋で、家内も板橋生まれの板橋育ち。家族がずっとそうなんですね。そこで生活をして息子も幼稚園、学校に通い、小学校、中学校などは嫁と同じ学校だったりとか。自分がここに骨を埋めるつもりで30年、40年暮らしているうちに、レスラーはやてを応援してくれる人が、この地域の中からひとり、ふたりと増えていったんです。この人たちのためになにかしたい。それは自分の暮らしている街でもあるし、そういった方々と暮らしている街でもあるので。たとえば商店街の店の経営者の方々は街がよくならない限り自分たちの生活もままならないし、引っ越してきた住民がこの街を好きになってくれない限り、またどこかへ転出してしまう。そうなるとお店も商店街も廃れてしまい街がなくなってしまう。そういう危機感を持っていて、その人たちの危機感のために自分はなにかできないのか、そういうところで手の届く範囲で板橋となったんです。そこから外までは僕も力がなくて届かないので、まずは手の届くところで役に立っていこうと。それが板橋なんですよ」
――いたばしプロレスはこの5年間でどういう興行をおこなってきたのでしょうか。
「まず、手打ちの興行としては板橋グリーンホールで年に5大会くらい定期的にやっています」
――250人規模くらいの会場ですよね。
「はい。グリーンホール大会は毎回札止めにしてきました。また、それとは別に板橋区の商店街さんとか町会さんとかでもイベントでの興行という形でやってきました。いたばしプロレスではそれぞれの土地でレスラーを抱えてもらっていまして、たとえばハッピーロード大山商店街という大きな商店街には“ハッピーロードマン”というレスラーがいて、悪役の“ハッピーロードマン・ダーク”もいます。上板橋には“グレート・ピカちゃん”という、もともと二次元のキャラクターなんですけども、これを三次元のレスラーにしました。また、妹の“キューティー・ピカちゃん”もいます。中板橋には“なかいたへそマスク”、板橋宿不動通り商店街には、“いたばし不動ッピー”。常盤台の1・2丁目町会には“トキワダイオー”。舟渡町会には、“マスクドふなどん”。こういったレスラーがいるんですが、いたばしプロレスの場合、たとえばその土地の特産品とかを勝手にマスクマンにして出すというやり方ではなくて、きちんとそこの自治会や自治体から人物像までしっかり創り上げてもらって、そこからレスラーを出してもらっているんです。そのレスラーの凱旋興行ではないですけども、ハッピーロードマンだったらハッピーロードでの大会で主役になると。こういった形でグリーンホール以外に10大会から15大会を年間でやっているので、だいたいトータルして一年に15から20大会くらいをおこなっています」
いたばしプロレス代表「はやて」選手
――現在、ローカル団体が日本各地にありますが、商店街や自治体がアイデアを出すといういたばしプロレスのキャラクターは珍しいですね。
「こういったタイアップを基本にしている団体さんはほかにないんじゃないかと思います」
――たとえば1・2丁目だったり、キャラクターの出身地区がすごく限定されていますよね。そういったところでは板橋区内での対抗戦も可能になりますよね
「そうなんですよね。プロレスって勝つ選手もいれば負ける選手もいるので、トーナメントとかどうなんだろうと最初は思ったんですけども、商店街さんの方からやりましょうと言ってくれて。そもそも、商店街じたいがライバルなんですよ」
――というのは?
「東上線の隣り合った駅で、商店街と商店街が長い歴史の中、闘ってきたんですよね(笑)。いまでは、いたばしプロレスを立ち上げてから各商店街さんからキャラクターを出してもらったおかげで、商店街同士をつなぐことができたんですよ。いまみんな仲良くされてます(笑)。たとえば、共同で食べ歩きの企画を年に2回やったりとか」
――いくつかの商店街が合同でイベントを開催するようになったと。
「そうなんですね。“東上線バル”というのをやったりとか。そういうふうに産業の活性化にもちょっと一役買えるようになって、そこに区が目をつけて産業とか観光課の方からいろいろお手伝いしてもらえるようにもなりました。区長とも接見できて、一応、(区の)公認という形ももらえました」
――板橋区の公認も得て、レスラーたちも地域から公認をもらっているわけですね。
「そうです」
――公認を得ることは、最初からスムーズにいきましたか。
「最初は上板橋の北口商店街さん。当時の青年部長が僕とほとんど同い年で、“やめるな”“頑張れ”と背中を押してくれた人。その流れで公認のレスラーを出してくれたんですね。いたばしプロレスを旗揚げしたあと、それを見ていたハッピーロードの大山商店街の事業部の方たちが、なにかおもしろそうなことやってると逆にそちらからオファーをくれたんです。こちらからなにかオファーをしてという形はほとんどなくて、みなさんから声をかけていただいています。選手を出す決断は商店街の中でやるんでしょうけど、興味を持ってくれてやりたいと言ってきてくれたところとはだいたいスムーズにいろいろなアイデアを出しながら面白おかしくミーティングをしてみんなで絵を描いたりしています。たとえば小学生からキャラクターのデザインを公募したりとか。いま、区立図書館からもレスラーを出したいという声をいただいているんですよ」
――図書館公認のキャラクターレスラーを?
「はい。“トショカーン”という名前まですでに決まっていて、プロットもあります。いま、デザインを募集中です。小学生に絵を描いてもらって優秀作品がそのままレスラーになる予定です」
――それは楽しいですね。
「はい。先日、いたばしプロレスで“げんきとえがおとフライングボディアタック”という絵本を出したんですね。その読み聞かせのイベントをやっていただいたりとか、知育のための活動とか、体育もそうなんですけども、プロレスのコンテンツがそういうふうに役立つというのを逆に図書館さんだったりとか、学校さんから教えてもらえるような、とてもいまいい環境にありますね。なので、意外と難問のようなものはないんです」
いたばしプロレス代表「はやて」選手
――では今回、5周年記念大会を東板橋体育館で開催しますが、これはプロレス初進出の体育館になりますか。
「そうですね。プロレス初進出です」
――しかも旗揚げ以来最大の規模になりそうですが。
「ええ、いたばしプロレスにとって過去最大の大会になります。おそらく参戦選手も一番人数が多くなると思います。24、25名の選手が参戦する予定です。各商店街、町会、それといま公認で出てもらっているレスラーが全員出てきます。ゲスト選手も毎回出てもらっているんですけど、レスリングの実力がしっかりしているディック東郷選手、田中稔選手、鈴木鼓太郎選手にもしっかり入ってもらってバランスのいい興行にしたいと思っています」
――対戦カードはどうなっていますか。
「現時点で発表できるのが3試合あります。“力道山三世”力vsすずき心。これが第1試合で、うちの若手であるすずき心が力選手と対戦します。セミファイナルは男女混合タッグマッチで、はやて&小林香萌組vsディック東郷&まるこ組。もともと僕も、うちのまるこもそうなんですけども、商店街のレスラーたちに混じってメインイベントをつとめていたんですけど、この5周年を機に商店街のヒーローたちでメインを飾れないものかと思っていまして、これを機会にやってみようと。たぶんすでに機は熟していて、キャラ立ちみたいなものも各商店街のレスラーができてきているので、おそらくおもしろい試合をいまの彼らならできるだろうと。それで先を見据えて、任せてみることにしました。それで自分はどうするのかとなったときに、もう一回事実上の師匠であるディック東郷と闘いながら自分の弟子でもあるまること闘い、まるこは師匠と闘いながら師匠の師匠をパートナーにという。香萌ちゃんに関しては、去年くらいまでよくうちに出稽古に来ていて、毎週一緒に練習していました。ルチャをやりたいということでずっと練習に来ていたんですよ。なので、弟子みたいなものですね。そういった点でルチャの共通点だったり師弟の関係性みたいなのがあったので、こういうカードにしてみました。いたばしプロレスってプロレスを知らないお客さんがたくさんいて楽しい部分を見て楽しんで帰ってもらえるんですけど、実はその中にプロレスの下地みたいなものがしっかりあって、田中稔選手や鈴木鼓太郎選手のプロレスならそういった部分もアピールしてもらえる。プロレスは技術あってこそのおもしろさなんだというのをいつも気にしていて、こういった選手を大会の中に入れるようにしています。お客さんは、おもしろいはやてを見てくれるんですけど、ディック東郷が来るようになってからレスリングの部分も少しずつ見てもらえるようになって。おもしろい部分はメインの商店街のレスラーに100%任せたので、今度は、はやて、まるこ、ディック東郷で技術的なところを板橋の人にも見てもらおうと思っています。力の出場による歴史もそうですね。力道山さんから始まったプロレスの歴史も大事にしているんだというところもわかってもらえて、本当の意味でプロレスのファンになってもらいたいなと思います」
――小林選手はメキシコの大会場でビッグマッチをおこなったばかりですよね。
「そうです。髪の毛をかける試合をしてきましたよね」
――その下地は、いたばしプロレスでのトレーニングにあるわけですね。
「いたばしプロレスでやったというとちょっと大袈裟なんですけど、僕を個人的に信頼してくれて出稽古に来てくれたんですね。メキシコで大きな試合をして、もう独り立ちしてますけどね」
――そのルーツは板橋にあるといっても過言ではない。
「と、思いますね」
――メインは?
「メインは8人タッグ。グレート・ピカちゃん&ハッピーロードマン&なかいたへそマスク&いたばし不動ッピー組vsバッファロー&シーサー王&SAGAT&中里哲也組になります。いたプロヒーローズの4人がメインに登場します」
――いたばしプロレスから生まれたキャラクターの集大成的意味合いがありますか。
「集大成ですね。絵本でもこの4人(グレート・ピカちゃん&ハッピーロードマン&なかいたへそマスク&いたばし不動ッピー)が主役で出てくるんです。絵本の主役にもなっている4選手がメインを張ります。これ、とくに意識したわけではなくて、5周年のメインに出るのが偶然にも絵本の主役でもある4人になったという感じなんですね」
――なるほど。ではこの大会を通じてなにを見せたいですか、なにを見てもらいたいですか。
「プロレスのおもしろさと、板橋にはこんなにおもしろいものがあるんだという観光名所的な部分ですね。板橋って楽しい場所であり、板橋に住む人たちが胸を張って板橋にはプロレスがあるぞと言えるような大会にしたいです。プロレスの試合はもちろん、そこに板橋のおいしいものの店が出たり、観光協会からの出店もあったり、図書館からもあったり、板橋をよく知ってもらうためのイベントでもあるんですね。その中心にいたばしプロレスがあって。見に来る人たちはプロレスを見に来るんですけど、板橋にはこんなにいいもの、おもしろいものがある。子どもが笑って過ごせるための材料があると思ってもらえるような大会にしたいです」
――板橋以外の方にももちろん見ていただきたいですよね。
「もちろんです。プロレスファンの方たちによく言われるのが、板橋区民がうらやましいと。これだけ身近なところでおもしろい試合が見られて、ときには無料で大会をやって、選手たちとの距離も近くて本当にうらやましいとはよく聞くんですね。引っ越してくださいとは言えないまでも、板橋まで見に来てもらえればうれしいです」
――区外から見に来ることはいつでも可能ですからね。
「はい、そうです。板橋でお買い物してもらえれば経済効果も生まれるし、そこに一役買いたいなというのもあります」
いたばしプロレス代表「はやて」選手
――引退まで考えていたところからの旗揚げでしたが、これまでのキャリアを振り返っていかがですか。
「キャリア25年目になりますかね。もうそれこそ大阪プロレス時代とか、ずっとペーペーでやってきて」
――素顔でのデビュー戦から見ていますよ。
「(苦笑)」
――マスクマンとしてさまざまなキャラクターで闘ってきました。
「すべて含めて自分の歴史なので、全部受け入れているんですけど、下積みというか、うだつの上がらなかった頃の自分もしっかりいて、その中でいろんな人と出会い、裏切ったり裏切られたり、反省したり、いろんなことがある中で最終的にはみちのくプロレスで鍛えてもらって、東北新幹線はやて&こまちの企画に乗せてもらった。そこで、はやてというマスクマンになりました。東北ではメインイベンターとしてグレート・サスケさんの横にいつも置かせてもらって。それも短い期間でしたけど、感謝とか、すごく学びの多い時間でしたね。技術的にもメンタル的にもそうです。その時代から自分が積み上げてきたものを自分のためじゃなくてやっぱり誰かのためだったり世の中のために返していくというのが僕のプロレス観ですね。25年やってきたけど後半の5年くらいは自分のためじゃなくて誰かのために。トレーニングをして練習して新しい技術、動きを発見したりとかもそう。最終的には自分のためなのかもしれないけど、でも世の中のためにプロレスの技術を磨いていくという方向に変わってきましたね」
――そこでたどり着いたのが、いたはしプロレスだと。
「そうですね、はい。原点回帰じゃないんですけど、3年前にメキシコに行ったりとかもしました。あとは、みちのくプロレスにまた参戦させてもらえるようになって、こんどの9月も東北に行くんですけど、いろいろ教えてもらったこととかそこで学んだことがいまの糧になっているので、そういうのの総まとめに入りつつあるかなっていう感じはします」
――総まとめに入りつつあるということですが、いたばしプロレスは5周年を機にさらに拡大させていきたいですよね。
「そうです、そうです」
――これからのいたばしプロレスは?
「欲張らず、やっぱり身の丈に合ったものを基準に手の届く範囲で力をつけながら、自分たちだけの利益とかはまったく持つことなく、掲げた理念から絶対にぶれずに誰のためにやっているのかというのを常に自問自答しながら地味でもいいので板橋の各地で小さな大会をたくさんやっていけたらいいなと思ってます。大きい大会をドーンとやるのもひとつの方法なんですけど、小さい大会でもいいのでたくさんの親子、子どもたちに見てもらいたい。そういう活動のできる団体になりたいですね。そのためにはこの5周年大会を乗り越えないといけないので、9月1日の大会はちょっと背伸びした部分はあるんですけど、これを乗り越えて盛り上げていこうと思ってます」
いたばしプロレス代表「はやて」選手
(聞き手:新井宏)