□字ック『掬う』主演の佐津川愛美&作・演出の山田佳奈にインタビュー

2019.9.14
インタビュー
舞台

左から佐津川愛美、山田佳奈(撮影:山本れお)

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2018年に上演された『滅びの国』で本多劇場初進出を果たした□字ック。第13回となる本公演『掬う』(すくう)が、11月9日に幕を開ける。今年1月には映画監督として特集上映が組まれた山田佳奈は、映像と舞台の両軸で活躍の場を広げている。本公演で扱うモチーフは“家族”。主演を担うのは、実力派女優の佐津川愛美だ。本谷有希子、三浦大輔らの舞台で存在感を示した佐津川が、余命幾ばくもない父を抱えたシナリオライターのミズエを演じる。お互いを「さっつん」「佳奈ちゃん」と呼び合い、意気投合するふたり。本読み稽古を経て、演出家と主演女優はどんな手応えを得たのだろうか。

◆俳優の身体を通して成立する台詞

――□字ックの新作『掬う』の主演に、佐津川さんをオファーした経緯を教えてください。

山田 演劇を本格的に始める前の頃、『来来来来来』(劇団本谷有希子、2009年上演)で初めてさっつんの芝居を見ました。そのときから印象的で、いつか舞台で一緒にやりたいと思っていたんです。劇団でキャスティングの会議をするときも、いつも名前があがっていましたね。

佐津川 そうなの? 知らなかったけどうれしい!

山田 今回の劇団公演の前に、別のとある作品でご一緒しました。私はディレクターの立場だったんですが、作り手同士として対等にやり取りできるという感覚がありました。

佐津川 佳奈ちゃんと知り合ったのは、□字ックでプロデュースしたサンボンの『口々』という作品でコメントを寄せたのがきっかけです。出演者の松本亮さんと舞台で共演していた縁で書いたんですが、それまで□字ックのことはあまり知らなかったんです。でも、次の舞台の『掬う』の前に現場をご一緒して、距離が縮まりました。

佐津川愛美(撮影:山本れお)

――山下リオさん、馬渕英里何さん、千葉雅子さんなど、豪華な顔ぶれですね。

山田 素敵な人ばかりです。今まで一方的に観ていて、いいなと思っていた人が揃ってくれたので。私、演劇を始めて9年目なんですよ。昔は「結成2年で本多劇場に進出だ!」とか、夢想ばかりしていたけど、ようやく今になって「さっつんや他のキャスト陣と芝居ができるようになったんだな」という不思議な感慨があります。

佐津川 今日は本読み稽古だったんですけど、台本をもらったときの印象と変わりました。最初に読んだとき、「これってどういう意図なんだろうな」「ここはどうなるんだろう?」と思った箇所がけっこうあったんです。全員で台本を読んでみて、場面ごとに表現するべき道が見えたように思えて、ますます楽しみになりました。

山田 今回は、かなり書き方を変えたんだよね。よりボカす部分を増やしたというか……。特に舞台の台本だと、これまでは耳障りでもいいから観客に残る言葉を書こうとしていたのに比べて、より俳優の身体を通して成立する台詞のチョイスをイメージしました。ト書きにしても、説明を増やした部分もあるけど、敢えて省略したところもあるから、読んだだけではわからない箇所があるかもしれない。

佐津川 俳優さんたちと読んだことで「あっ、こういうことか」と思えたのがよかったです。

山田 俳優の存在に委ねたいと思うから、そのために説明過剰になっている台詞は削るかもしれません。でも、説明しないままだとどうしてもわからない部分があるから、そこをいかに理解させながらボカすかが、今後のテーマですね。

山田佳奈(撮影:山本れお)

◆言葉をため込んでしまう主人公

――山田さんと同じく、主人公の職業はシナリオライターです。

山田 自分のキャラクターを投影したくて設定したわけではないんです。言葉をため込んでしまう人を主人公にしたいと思ったら、結果的に同じ職業になりました。これまで家族の話はあまり積極的に書こうとしませんでしたけど、年齢的に追いついてきたかなと思うようになりました。昨年母が亡くなって、家族の話を残さなくちゃダメだと思うようになって書くことにしました。

佐津川 私、主人公のミズエが佳奈ちゃんの同じ職業の人だと気づかないまま読んでいたんです。つまり、佳奈ちゃんが自分のことを書いていないということでもあると思うんです。それって実はすごいことで、普遍的なバランス感覚があるからだと思う。だから私もプレッシャーだな。シナリオライターが主人公だから、「佐津川さんは山田さんを演じているんだね」って思われないようにしなくちゃ。

山田 そうそう。演出家の肖像が透けて見えちゃうのはダサいと思うんだ。俳優さん本人の姿が役を通して見えてくるのはいいけれど、演出家が前面に出るのはちょっと……。それだと俳優を殺してしまうから、舞台上では私っぽい部分を見せないつもりです。ミズエのモデルは私ではないけれど、敢えて共通点を言うとすれば、「ややこしい女」っていうところかな(笑)。

左から佐津川愛美、山田佳奈(撮影:山本れお)

◆痛々しい熱さを見せずに演じる――

佐津川 台本が上がる前に、『掬う』のプロットを見せてもらいました。読んだとき「これは私の物語だ」って思ったんです。「わかる! 私もこういうことを言いたいんだ」と。役者として演じるという意味では、役に共感する必要はないと思います。「これは私の話だ!」という熱が、かえって痛々しくなることもあるから。自分のなかで共感できる話だからこそ、どれだけ痛々しい熱さを見せずにやれるかが挑戦です。今回、□字ックに参加させていただくことで、自分の何かが変わりそうな予感があって、それを期待している自分がいます。

――『掬う』を手がけるにあたって課題としていることはありますか?

山田 さっつんをはじめとして、今回は本当に達者な俳優さんが揃っているので、どれだけ彼らに委ねながら作れるか、そこを試したいです。役者さんからもらうものが大きい公演になると思います。

佐津川 劇団員の方がいる現場に行くのは初めての経験なので、それも楽しみにしています。劇団のみなさんが時間をかけて積み上げてきたものを共有したいというか。佳奈ちゃんには「佐津川を呼んでよかったな」と思われる仕事をしたいです。

取材・文/田中大介

公演情報

□字ック第十三回本公演『掬う』
 
■脚本・演出:山田佳奈
■出演:佐津川愛美、山下リオ、馬渕英里何、日高ボブ美(□字ック)、水野駿太朗(□字ック)、大竹ココ(□字ック)、東野絢香、大村わたる(柿喰う客/青年団)、古山憲太郎(モダンスイマーズ)、中田春介、千葉雅子(猫のホテル)

 
■日時・会場
2019年11月09日(土)~11月17日(日)◎シアタートラム<東京>
2019年11月22日(金)・11月23日(土)◎穂の国とよはし芸術劇場PLAT<豊橋>
2019年11月29日(金)~12月01日(日)◎HEP HALL<大阪>
料金
<東京公演>
前売(一般)5,800円 (U24)4,500円 (高校生以下)2,000円
当日(全種)6,000円
<豊橋公演>
前売(一般)4,200円 (U24)2,800円 (高校生以下)1,000円
当日(全種)4,200円
<大阪公演>
前売(一般)4,200円 (U24)2,800円 (高校生以下)1,000円
当日(全種)4,200円
※全席指定
※未就学児入場不可
販売開始:
2019年9月14日(土)10時(東京・大阪)
2019年9月21日(土)10時(豊橋)
■問い合わせ:roji649@live.jp
■公式HP:http://roji649.com/suku/