【特集企画】A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』The road to the opening<No.4>脚本・演出 板垣恭一インタビュー
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板垣恭一
ブロードウェイの新進気鋭ソングライティング・コンビと日本のクリエイティブチームが、新作ロックミュージカルを共作し、世界に先駆け上演するプロジェクトとして注目を集めるA New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』(以下『FACTORY GIRLS』)。
この作品は、劣悪な労働環境の改善と、働く女性の尊厳を勝ち取ることを求めて、19世紀半ばアメリカで実際に起った労働争議を率いた実在の女性サラ・バグリーと、サラと固い友情を結びながらも雇い主との板挟みで苦しむハリエット・ファーリーを主人公に、今の時代にこそ伝えたい「自由を求めて闘った女性達の物語」を、ロックサウンドのミュージカルナンバーに乗せた、迫力の歌とダンス満載のエンターテインメントとして創り出す、日米合作による画期的な新作。
SPICEではこのかつてないプロジェクトで生み出される作品が、開幕するまでの道程に密着。様々な角度から、作品が立ち上がっていく過程をレポートしていく。
■A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』The road to the opening<No.4>脚本・演出 板垣恭一インタビュー
連載第4回は、日米合作による世界初演のミュージカルの脚本を書き下ろし、演出を担当する板垣恭一へのインタビューをお届けする。ワークショップレポートで演劇創作に対する、明確な理念と独自の言語を持っていることが鮮明に伝わった板垣に、海外で生まれた作品の本邦初演ではなく、日米のクリエイティブチームの合作で生まれ出ようとしているこの特別なミュージカルに関わったきっかけから、作品に込めた想いまでを語ってもらった。
「誰が台本を書くんだ? えっ僕か!?」で始まった日米合作
ーー非常に大がかりな公演になっていますが、まずこの企画に関わろうと思われたきっかけは?
柚希礼音さんの芸能生活20周年記念に、TBS赤坂ACTシアターでの公演を企画しているのですが、是非演出をという形でお話を頂きました。ただその時点で台本がなかったんですよ、翻訳されていなかった(笑)。楽曲は出来ていて、聞く限りとてもキャッチーだし魅力的で印象は良かったんだけれども、やっぱりミュージカルは台本が要だから、それがない状態で「やるか、やらないか、今決めるんですか?! 今?」っていう感じだった(笑)。で、10秒考えて「じゃあやってみます」と(爆笑)。
ーー直感で!
そう(笑)。しかも、アメリカのクリエイティブチーム、クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニ―はこの作品を、ミュージカル創作のプロセスとして立ち上げていったんだけれども、実際に上演してはいないから、あるのは多分にトライアウト的な台本だということが後からわかって。もちろん主人公のサラ・バグリーも、重要な役柄のハリエット・ファーリーも実在の人物で、その人たちにまつわる工場で働く女性たちの話という根本的な設定はあったし、そのアイディアで楽曲が創られているんだけど、日本の、しかもこれだけ大人数を動かす大がかりなプロジェクトの台本として、そのまま持ってくるのはちょっと難しいなと。そうなってみて、「じゃあこのプロジェクトの為に誰が台本を書くんだ……えっ? 僕!? 僕か!?」となったら、プロデューサーがニコッと笑うから!(爆笑)
板垣恭一
ーー台本も書くことになったと!
まぁもう、その時点で責任者は僕だったからね(笑)。しかもドキュメンタリーではないから、実話をそのままということはあり得ないけれども、実話がベースになっているストーリーは入口と出口が決められるので、アメリカの台本の大枠にあったサラが工場にやってきて、物事が様々に動き、去っていくまでの物語というところだけは踏襲しました。これは物語の王道パターンで「転校生の物語」と考えてもらうと分かりやすい。転校生がやってきて新風を巻き起こして去っていく。古くは『風の又三郎』等もそう。だから、外側は使いましたが、登場人物のキャラクター設定も含め、全部俺が書いたものなので、翻訳劇ではありませんということをちゃんと伝えたい。ここがまだ結構誤解されていると思うから。
ーー確かに、アメリカの作品の本邦初演と混同されやすいですね。
そうなんですよね。僕の親しい人たちですら「えっ?」っていう顔をするんだけど(笑)、日本人が書いたアメリカの話です。
ーー楽曲も元々あったものだけではなく、板垣さんが何曲もアメリカのクリエイティブチームに発注されたと伺いました。
9曲書き下ろしてもらっています。
ーーそれは、台本を書き進めて、必要になった曲を書いてもらった?
そういうことです。歌詞のイメージも伝えて「こういう場面でこういう曲が欲しい」と送って、作詞・作曲したものを送り返してもらい、またそれを翻訳し直すというプロセスを経ています。だから簡単に言うと日米のクリエーターのコラボレーションによる作品なので、そこがハッキリ伝わると嬉しいなと。
ーー真の意味での日米合作という画期的な形になっていますものね。
そうしようと思って立ち上がったのではなくて、多分に偶然によるものではあるんだけど、彼らのアイディアを「リライトしても良いですか?」という問いかけに対して「OK!」と言ってくれたし、こちらも彼らの楽曲を決してないがしろにしていない。きちんとリスペクトしているということが伝わったからこそ、書き下ろしの楽曲も非常に力のこもったものになっています。「もっとこうして欲しい」と書き直しをお願いしても、非常に前向きに「なるほどそういう意図か」という捉え方で、何度でも応じてくれたのでとてもありがたかったですね。
今日性のあるテーマを、決して重くないエンターテインメントとして届ける
ーーその中で、作品がまさに女性が社会に出ていこうとした時にぶつかる問題を深く描きつつ、非常に勢いの良いロックミュージックやダンスなどで、エンターテインメント性も高いものなっていて、板垣さんが近年目指していると度々発言されている「社会派エンターテインメント」そのものだなと感じますが。
何かわかりやすく伝えられる方がより良いだろうと思って、「社会派エンターテインメント」というキャッチフレーズを使ってきているんだけど、欧米のエンターテインメント作品の根本はそもそもそこだと思っていて。実はかなり重いテーマを内包していつつ、お客様に観易いように、ポップなエンターテインメントとして味付けしているのが、彼の国の凄味で。そういう方向性はとても大切だと感じて、そこを目指していっている中、この作品で描いている社会的に弱い立場の人たちが、安価な労働力として使い捨てられていくという問題は、確実に世界中にあるんですよ。これは過去形ではなく現在進行形として。中でもこの時代は女性の地位が低いから、彼女たちが被害を被っている訳でね。
板垣恭一
ーーそういう今日性はひしひしと感じますし、様々な立場で闘う女性たちが登場するので、観る方それぞれに共感できるキャラクターがいると思います。特にソニンさんが演じるハリエットが、工場のオーナーと真っ向から対立するのではなくて、必要とされている自分の立場を守りながら現場をなんとかしようと腐心する辺りはものすごく身につまされます。
やっぱりそうですか? ソニンさんにも稽古場で言ったんだけど、ハリエットは社会で働いている女性が抱える、身を引き裂かれるような葛藤の象徴でもあると思います。もちろん女性だけではなくて、働いて賃金をもらうということは、必ずクライアントがいる訳だから、そのクライアントの行動がどんなに正義に反していると思ったとしても、そこにただ「あなたたちは間違っています」と正面から詰め寄るだけでは「もう来なくてよろしい」と言われて終わりだからね。そういう現代日本を生きている人たちが、日々直面している生きづらさを含めての話しになっているので、そこには興味を持って欲しいし、でも絶対に重くしないから大丈夫ですよ! と。「金払ってそんな重いもの観たくねぇよ」になってしまったらね(爆笑)
ーー「社会派エンターテインメント」の意味がないと!
そうそう(笑)。だからものすごく前向きだし、疾走感も勢いもある作品として、面白く観てもらえると思っています。
キャストの個性にあてがきをしたキャラクターたち
ーーキャストの皆さんに関してはどうですか?
このフライヤーに大きく写っている女優陣で、これまでに知っていたのは谷口ゆうなだけというカンパニーなんですが、キャスティングは決まっていたので、僕なりの印象であてがきをしています。柚希さんのサラ・バグリーには、柚希さんが元々持っている生命力の強さ、明るさがとても印象的だったので、その明るさを役に込めています。ソニンさんのハリエットを明るくするのは難しいと思ったし、二人の対比によって生まれるものも大きい物語だから、柚希さんのへこたれない明るさ、何度でも立ち上がってくる強さの表出に期待しています。一方そのソニンさんのハリエットも、僕がずっと客観的に観て来たソニンさんって、とても頭の良い人なのだろうな、きちんと考えて考えてしっかり発言する人だと思っていたから、ハリエットの心の綾を描いてくれるだろうと。しかもさっきも話に出ましたけど、ハリエットってずっと思いを内に秘めて苦しんでいて、カタルシスを得られるのはラスト近くだけなんですよ。そのハリエットのカタルシスはお客様にとってのカタルシスでもあって欲しいと思っているし、最後に逆転するパワーが必須の役だから、ソニンさんのエネルギーに期待しています。
A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』
ーーお二人はもちろんですが、女優陣も、演じるキャラクターもとても個性的ですね。
女性が主役のストーリーってどうしても少ないし、さらにこの物語は女性の群像劇だというところが特徴なので。楽曲もほとんど女性たちの歌だし、しかもその集団がバッと絵になって終わるという曲もいくつかありますから、お客様もそこで出演者と共にいるように思ってもらえたら。もう「おぉ~!」とか「その通りだ!」とか声を出してくれても良いと思っているくらい!(笑)
ーー舞台も客席も共に生きて欲しいということですね! また、作品のカラーという意味で、ファクトリー・ガールズたちに立ちはだかる工場長役を原田優一さんが演じていらっしゃるのがとても大きいなと。
優ちゃん(原田)は僕が熱烈にオファーしました。作品にポップさを加味する上で、この工場長役が非常に重要だと思って! 本読みの段階から皆さんが理解してくれましたが、工場長役が重苦しい人物だと、本当に暗い話になってしまう。そんなところを、優ちゃんが実に軽やかに多彩に演じてくれているので、彼がいることが大いに助けになっています。州議会議員のスクーラーさんを軽くする訳にはいかないから(笑)。そこはブレないように戸井勝海さんにお願いしているし、やっぱり中間管理職の工場長だからこそできる描き方、演じ方だから。全体にも女優陣とは真逆で男優陣は「はじめまして」の人がほぼいないという顔ぶれなので、彼らもそれぞれの持ち味や個性に期待して書いていますから、楽しみにして欲しいです。
板垣恭一
人間ってすぐ悪魔になってしまうものだからこそ、どう祈りを持っていけるのか
ーーそんな陳腐なことを訊くなよ、と言われそうな気がするのですが……。
言いませんよ!(笑)
ーーでは、作品の中で最も大切にしたことはなんですか?
僕は他人を大切にしない奴が嫌いなんです。だから、やっぱりそこかな。人間の中には天使な部分と悪魔な部分があると思っています。これは残念ながら全ての人にあると僕は思う。でも、そのどちらが出るか? ということの多くは環境が決めている。もちろん貧困の中にあっても天使な人もいらっしゃいますけれども、やっぱり生きていく為、食べる為に精一杯だったら、誰を差し置いても自分に「パンをくれ!」になる訳で。そういう人に対して「パンがないならお菓子を食べれば良いのに」と言ってしまうのは、無理解のなせる技、現実を知らないから言えることですよね。でも、今の世の中のように情報があふれかえっている時代に「知らない」というのは、もうそれ自体が罪だろうと思うし、嫌なんです。この時代に「知らない」のは敢えて見ないフリをしているということだから。人ってやっぱり、他人なんか蹴落とせば良いとしか思っていない、隣の人より自分が上にいけさえすれば良い、というものを持っているんですよ。もちろん僕も含めて。それが嫌だなとどうしても思うんだけど、だからって「皆仲良くしましょう」って言っているだけではね。そう言っていれば仲良くなれるんだったら、とっくにこの世の中から戦争はなくなっているはずなのに、有史以来戦争はなくなっていない訳で。
ーー悲しいかなそうですね。
だから演劇人としては、人間ってすぐに悪魔になってしまうものだから、そこにどう祈りを持っていけるか? ということを常に思っています。これは何を創る時にも。その中で今回は1840年代に工場がはじめてできた頃のアメリカの話だから、機械の様な労働を強いられる女性たちが、過酷で、さらに長時間の労働をと要求され続けることによって尊厳を踏みにじられていき、遂に立ち上がる物語になっています。でも、これはそのまま「現代劇」でもあるんですよね……、とあまり語ると「やっぱり凄く重い話じゃない」と思われてしまうんだけれども(笑)。僕が何故「社会派エンターテインメント」と言うというと、重苦しい状況の中にいても、人っていつも泣いている訳じゃない。どんな時でも笑っていることもあれば、バカ騒ぎをすることもある。そういう意味でもとても明るく前向きな話だから、そこは声を大にして言いたいです! 観ている間は、音楽やダンスや芝居にドキドキしたり、大笑いしたりしながら、登場人物たちのドラマを感じて欲しいですね。あらゆる意味で新しい、滅多にない創り方のミュージカルになっていますから、舞台に生きている女性たちを応援するつもりで、観に来て頂きたいです。
板垣恭一
板垣恭一(いたがききょういち)
<プロフィール>
劇団第三舞台を経て演出家に。小劇場、大劇場、ストレートプレイ、ミュージカルと幅広いジャンルで数々のプロデュース公演を演出し多彩な活躍を続けている。近年の主な演出作品に『フランケンシュタイン』『あさひなぐ』『カラフル』『In This House 最後の夜、最初の朝』『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル』『カクタス・フラワー』『歳が暮れ・るYO 明治座大合戦祭』『いつか~one fine day』等がある。11月『In This House 最後の夜、最初の朝』再演が控えている。
公演情報
日本版脚本・演出:板垣恭一
出演者:
柚希礼音 ソニン
実咲凜音 清水くるみ 石田ニコル
原田優一 平野 良 猪塚健太
青野紗穂 谷口ゆうな 能條愛未
戸井勝海 剣 幸 他
<東京公演>
日程・劇場:2019年9月25日(水)~10月9日(水) TBS赤坂ACTシアター
S席12,500円 / A席10,000円 / B席8,500円 (税込・全席指定)
※未就学児童の入場はご遠慮頂いております。
※車いすでご来場予定のお客様は、予めご購入公演日時・座席番号をイープラスへお知らせください。
【東京公演・
イープラス 0570-06-9919(10:00~18:00)
主催:アミューズ/イープラス
<大阪公演>
日程・劇場:2019年10月25日(金)~10月27日(日) 梅田芸術劇場メインホール
S席12,500円 / A席10,000円 / B席8,500円 (税込・全席指定)
※未就学児童の入場はご遠慮頂いております。
※車いすでご来場予定のお客様は、予めご購入公演日時・座席番号をキョードーインフォメーションへお知らせください。
【大阪公演・
キョードーインフォメーション 0570-200-888(全日10:00~18:00)
主催:キョードーグループ
企画・製作:アミューズ
■公演に関するお問い合わせ
アミューズ チアリングハウス03-5457-3476(祝日を除く月~金15:00~18:30)
■オフィシャルサイト
http://musical-fg.com
■オフィシャルツイッター
@factorygirlsjp