【特集企画】A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』The road to the opening<No.5>原田優一インタビュー

2019.9.22
インタビュー
舞台

原田優一

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ブロードウェイの新進気鋭ソングライティング・コンビと日本のクリエイティブチームが、新作ロックミュージカルを共作し、世界に先駆け上演するプロジェクトとして注目を集めるA New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』(以下『FACTORY GIRLS』)。

この作品は、劣悪な労働環境の改善と、働く女性の尊厳を勝ち取ることを求めて、19世紀半ばアメリカで実際に起った労働争議を率いた実在の女性サラ・バグリーと、サラと固い友情を結びながらも雇い主との板挟みで苦しむハリエット・ファーリーを主人公に、今の時代にこそ伝えたい「自由を求めて闘った女性達の物語」を、ロックサウンドのミュージカルナンバーに乗せた、迫力の歌とダンス満載のエンターテインメントとして創り出す、日米合作による画期的な新作。

SPICEではこのかつてないプロジェクトで生み出される作品が、開幕するまでの道程に密着。様々な角度から、作品が立ち上がっていく過程をレポートしていく。

■A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』The road to the opening<No.5>原田優一インタビュー

連載第5回は、前回の脚本・演出 板垣恭一インタビューで、演出家自身が「熱烈にオファーした」と語ったファクトリー・ガールズたちを雇用する側である工場長アボット・ローレンス役を演じる原田優一へのインタビューをお届けする。

苛烈な労働環境に耐えながら懸命に働くファクトリー・ガールズたちにとって、目の前の巨大な壁である工場長を、時に軽快に、また時に冷酷に演じる原田のふり幅の大きな演技は作品のキーポイントともなっている。

そんな原田に、佳境を迎えている稽古の中で感じる作品や役、カンパニーへの思いを聞いた。

原田優一

剣ではなくペンで権力に立ち向かっていく物語

ーーお稽古がいよいよ佳境というところですが、改めて作品についてはどう捉えていますか?

現代日本でも通じる問題が練り込まれていて、しかも女性が労働環境を改善しようと行動することがメインストーリーなので、今芝居を観に来てくださるお客様は女性の方がとても多いですから、こういうテーマを日本で扱うのは重要だなと感じています。やはり心に響くものは大きいでしょうし、今生きている、今生活している中で皆が感じることをこの芝居は出していると思います。演出の板垣さんが「芝居ってお客様の経験の投影だ」とよくおっしゃるのですが、お客様ご自身が経験されたこと、思っていることを代弁してくれる役者が舞台上にいるから、それにダブらせてお客様が笑ったり、感動したりして下さる。この芝居もアメリカの話ではあるのですが、お客様の心情に重なるものが存分に盛り込まれている、お客様の心に届くものがたくさんある作品だと思います。

ーー確かに、女性が権利獲得の為に闘った歴史がこうしてつながっていくのか、という今日性も大きいですね。

特にこの作品は「言葉」が重要なキーワードになっていて。僕は『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル』という作品に出演しているのですが、そこでも読み書きができる人が権力を掌握していた時代に、印刷機を生み出して全ての人に「言葉」を届け、文字を通じて広く皆が知識を得られるようにしたいと願った男が、権力を握っている側に弾圧されていく話が描かれます。今、日本は識字率100%と言われていて逆に当然のことになり過ぎているかも知れませんが、「言葉」を理解する、「文字」を読み書きできて、知識を得たり自分の頭で考えて発言できるということの重要性が、今回の『FACTORY GIRLS』のテーマになっているんです。剣ではなくペンで権力に向かっていく、自分たちの立場を確立していく姿が盛り込まれているのが大きいなと。登場人物のキャラクターもとても細かく設定されていて、育ってきた環境がそれぞれ異なり、単純に「工場で働いている女性たち=ファクトリー・ガールズ」という集団ではなくて、一人ひとりの個性がちゃんと違う。強気の子もいれば、弱気の子もいるし、考えている子、身体がついていかなくなる子と様々なんです。僕はその彼女たちをまとめる立場なので、悪役とは言いつつも職務を全うしている訳です。僕よりもさらに上の悪役に戸井勝海さんが演じるスクーラーがいますが、皆がそれぞれの立場を守ろうとしている、人間らしい人たちが登場しているなと思っています。

原田優一

アボットがいう「彼女たちを愛しています」は本気なんだろうなと

ーー今、おっしゃった原田さんが演じている工場長のアボットですが、一見「ファクトリー・ガールズ」に立ちはだかる役柄のようでいて、彼には彼の正義があると感じますが。

アボットが工場の生産性を上げて、競争の中で生き残り、工場を維持していくことに腐心しているのは、もちろん彼の欲もありますが、そうしているからこそ「ファクトリー・ガールズ」たちに仕事を提供し続けていける、という面もあるんです。働き場所がなくなってしまったら彼女たちも生活できなくなりますから。「彼女たちを愛しています、彼女たちに囲まれて死んでいきたいです」とアボットが歌う場面がありますが、それは本気なんだろうと思います。彼女たちあっての自分という想いはちゃんとあると思うし、工場の女の子たちを大切にしているという気持ちは嘘ではない。でも工場を維持していく立場上、手かせ足かせになっていく女の子たちはどんどんクビにしていく訳で、彼の中での正義は守っているんだと思います。

ーー原田さんがアボット役を演じることによって、軽やかさやコミカルな面も出ているなと感じますし、板垣さんも工場長が重くなり過ぎない為にも「是非原田さんに」と熱烈に願ったキャスティングだったとおっしゃっていましたが。

板さん(板垣)から頂いた今回のミッションには「女性たちを過酷に働かせる役というと、恐怖が先に立つような悪役になってしまいがちだけれども、そこを敢えて憎めない悪役になるよう、面白い面も担当して欲しい」ということでした。でも、そこも微妙に紙一重なところがあって、あまりにも笑いに走ってエンタメ性ばかりになってしまっても、女性たちにとっての壁としての存在、それを乗り越えようとする彼女たちの意志とのニュアンスが合わなくなってしまうので、キメる時はバシッと怒るというような、塩梅の大切な役だなと思っています。それは板垣さんが台詞にも書いてくださっているのですが、ちょっと裏をかく感じも出していますね。

ーーお稽古を重ねていく中でも、さらに変化は出ていますか?

そうですね。本読みの時に僕は絵を想像しながら読む方なので、イメージはできていたのですが、でも立ち稽古に入れば周りの動きも重要ですから、そこは臨機応変にやっていきますが、結構今回は僕が描いていた絵と、実際に稽古で出来ていく場面が違うことが多くて面白いです。それは役者さんたちがとても個性的だからですし、こうやって動くだろうではなく「あ、こう動くんだ!」という方達が集まっているので楽しいですね。ですから、近々にやったシーンでもそれまでは笑いの方向性で創っていたのですが、「いや、意外とここはシリアスにやった方が、お客様にキュッと感じて頂けるだろうな」と思ってニュアンスを変えたところもあります。そういう意味でもふり幅を求められる役で、自由に笑いとシリアスを行き来していけるように、とは常に考えていますから、舞台に行くまでにもさらに変化があるのではないかな? と思っています。

原田優一

稽古を重ね、続いていく作品になるように

ーー日米合作という、なかなか他では観られない経緯と形で進んできた作品ですが、その場に立ち会っていかがですか?

板垣さんの中に「今、これを描きたい」というブームがあるんですよ。板垣さんとは結構ご一緒させて頂いていて、彼が今考えていること、今提起したいことというのが、その時期、時期に明確にある方なんですね。そんな板垣さんが「今、訴えたいこと」が『FACTORY GIRLS』には存分に盛り込まれているなと感じます。特に社会問題を描きながらエンターテインメントにするというのが、重要なテーマなのですが、アメリカの話を描く場合に難しいのは、アメリカ人には文化として一言でわかるものなのだけれども、そのまま日本人に言っても全く伝わらないということが往々にしてあります。でも今回板垣さんが台本もご自身で書かれていることによって、「日本人にもわかりやすい問題提議にする」という彼の得意技が発揮されているので、そこに加わる役者である僕としては、その斜め上を行くというか(笑)「板さん(板垣)この台詞はこういうと思ったでしょう」を、良い意味で裏切るのを趣味にしています(爆笑)。

ーーミュージカルナンバーについてはどうですか?

ロックミュージカルという括りにはなっているのですが、ジャンルが多岐に渡っていますし、やっぱり現代の人が創った楽曲だなという、簡単に言ってしまうとリズムが難しく、日本語をのせるのには苦労もあります。いい曲であるからこそ曲に流されないようにする難しさがありますね。やはり外国の方が詞と曲を書かれている、元々が英語の歌詞を日本語にはめこんでいくというのは、どのミュージカルでも共通していますが、とても難しい。しかもメッセージが音楽の中に入っているので、そこには苦戦もありますが、なんとか滑らかにお伝えできるようにしていきたいです。

ーーそうした苦労を共にしているカンパニーの皆さんはいかがですか?

毎回初演のミュージカルを創る時に思うのですが、これまでにどういう芝居をやってきたのかですとか、どういう憧れを持って役者をやっているのかなどが全く異なる出自の方々が一堂に会する訳です。そこには当然それぞれの考え方があるので「赤い絵を描きますよ」と言っても「朱色」を持ってくる人もいれば、「鮮やかな真紅」を持ってくる人、「ワインレッド」を持ってくる人もいる。だからこそこういう現場は面白いと思っているので、僕の今回のポジションとしては「思った色を臆さずに出してみていいんだよ! 板垣さんはそういうの大好きだから!」と伝えてあげる役割があるなと感じていました。どうしても皆で周りの出方を見てしまうので、それは早い段階で崩した方が、こういう現場は創りやすくなりますから、それは意識してやっています。

原田優一

ーー本読みの段階から、この稽古場のムード―カーになられるのは原田さんだろうなと感じましたが。

そうなれていたら良いなと思っていますが、全員が全員思ったことを言い合える稽古場なので、とても良い雰囲気で進んでいるのが嬉しいです。演出家にも言えますし、共演者同士も忌憚なく意見交換ができています。特にソニンちゃんとは同い年で、過去に相手役としての共演経験もあるので「今のどうだった?」「こうした方がもっと良いんじゃない?」「それもらった!」(笑)等の会話も頻繁にありますね。

ーーそんなお稽古もここから最終盤に差し掛かりますが、さらに初日に向けて目指していきたいことは?

アボットが考えていることと、ファクトリー・ガールズたちとの関係性はもっと深くしていきたいですね。アボットのいる意味を、先ほどおっしゃって頂いたようにムードメーカーと言うか、この作品の稽古を進めていく上でどのような存在でいるべきか? から入っていったのですが、それをもう1回アボットと皆との関係性に立ち返ってやってみたいなと思っています。あとはセットなどの転換もキャストの手によって動かしていくので、その中にはこの作品自体が人間の手によって動かされていくという意味合いもあると思うんです。ですから作品をもっと人間味のある、血の通ったものにしていきたいです。「ミュージカルです!」「エンターテインメントで煌びやかです!」だけに終わらないものにしていきたいですし、日米合作の作品が日本で初演されるので、続いていってくれる作品になって欲しいというのが一番にあります。

ーー日本公演が成功して、じゃあ今度は翻訳してアメリカでも上演しようですとか、もちろん日本でも再演できる作品になっていくことを願っていますが、では初日を楽しみに待っていらっしゃる方々に改めてメッセージをお願いします。

女性の力をテーマとして描いているミュージカルですが、そこに我々男性陣が良いスパイスになっていけたら。その中で僕は時に辛く、時に甘く、時にめちゃめちゃ酸っぱく(笑)いられたらなと思っていますので、そこも是非楽しみにご覧頂けたら嬉しいです! 是非劇場に足をお運びください。お待ちしています!

原田優一

<プロフィール>
原田優一(はらだ ゆういち)
埼玉県出身。9歳よりTV、舞台、映画、ライブ、ダンス・イベントに多数出演。安定感のある ソフトな歌声と幅広い役をこなせる器用さを持ち、ミュージカルを中心に活動中。 主な出演作に『ミス・サイゴン』、『レ・ミゼラブル』、『GEM CLUB』、『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』、『マリー・アントワネット』等。 近年では演出も手掛け、オフブロードウェイ・ミュージカル『bare』やオリジナルミュージカル『デパート!』、自身も出演する『KAKAI歌会』などで好評を得ている。年末恒例る・ひまわり×明治座“祭”シリーズ『明治座の変 麒麟にの・る』の演出と出演が控えている。

取材・文=橘涼香 撮影=荒川潤

公演情報

A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』
 
音楽/詞:クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニー
日本版脚本・演出:板垣恭一
 
出演者:
柚希礼音 ソニン
実咲凜音 清水くるみ 石田ニコル
原田優一 平野 良 猪塚健太
青野紗穂 谷口ゆうな 能條愛未
戸井勝海 剣 幸 他
 
<東京公演>
日程・劇場:2019年9月25日(水)~10月9日(水) TBS赤坂ACTシアター 
 
 
【東京公演・料金】
S席12,500円 / A席10,000円 / B席8,500円 (税込・全席指定)
※未就学児童の入場はご遠慮頂いております。
※車いすでご来場予定のお客様は、予めご購入公演日時・座席番号をイープラスへお知らせください。
  
【東京公演・に関するお問合せ】
イープラス 0570-06-9919(10:00~18:00)
主催:アミューズ/イープラス
 
<大阪公演>
日程・劇場:2019年10月25日(金)~10月27日(日) 梅田芸術劇場メインホール
 
 
【大阪公演・料金】
S席12,500円 / A席10,000円 / B席8,500円 (税込・全席指定)
※未就学児童の入場はご遠慮頂いております。
※車いすでご来場予定のお客様は、予めご購入公演日時・座席番号をキョードーインフォメーションへお知らせください。
 
【大阪公演・に関するお問合せ】
キョードーインフォメーション 0570-200-888(全日10:00~18:00)
主催:キョードーグループ
 
企画・製作:アミューズ
 
■公演に関するお問い合わせ
アミューズ チアリングハウス03-5457-3476(祝日を除く月~金15:00~18:30)
■オフィシャルサイト
http://musical-fg.com
■オフィシャルツイッター
@factorygirlsjp
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