寺神戸 亮(指揮/ヴァイオリン)《妖精の女王》はパーセルの一大エンタテインメントです

インタビュー
クラシック
舞台
2015.12.1
 ©Tadahiko Nagata

©Tadahiko Nagata

《妖精の女王》はパーセルの一大エンタテインメントです

原作はシェイクスピア

 バロック音楽に輝く英国の巨星ヘンリー・パーセル。僅か36年の生涯でオペラや器楽曲など名作を数多く生んだ作曲家で日本の愛好者層も厚い。そこで注目すべきが、12月に東京で上演されるセミ=オペラ《妖精の女王》(1692)。シェイクスピアの喜劇『夏の夜の夢』を芝居として俳優たちが上演しつつ、各幕の終わりにパーセルの歌と音楽を加えて演奏するスタイルでセミ=オペラと銘打たれている。今回、芝居の部分は日本語で演じ、音楽のパートはオリジナルの英語上演(字幕付き)とのこと。古楽オーケストラ「レ・ボレアード」を率いる指揮の寺神戸亮に抱負を詳しく聞いてみた。
「《妖精の女王》には、エクサン・プロヴァンス音楽祭での上演(W.クリスティ指揮)にコンサートマスターで参加した時に出逢いました。その際は英国シェイクスピア・カンパニーとの共演が大成功を収め、忘れられない一作となりました。《妖精の女王》でパーセルがつけた音楽は、実は芝居『夏の夜の夢』の本筋とは殆ど関係がなく、純粋なるディヴェルティスマン(喜遊部)です。でも、その音楽が微妙に芝居との有機的な関係を保っており、僕はその奥ゆかしさにイギリス的、紳士的な心を感じます。喜劇の傑作にパーセルの楽曲が加わると、それが冗長になるどころか、さらに彩り豊かなふくらみのある境地に発展し、芝居と音楽による一大エンタテインメントになる、それが《妖精の女王》です」

宮城聰との共同作業

 なるほど。パーセルの曲はヴィヴィッドで、300年前の音楽とは思えぬ瑞々しさに満ちたもの。第1幕の〈酔っぱらいの詩人の場〉のようなコミカルな曲調にはこの作曲家の「新しい横顔」も窺える。それでは、演劇の分野で著名な宮城聰との共同作業、及び演奏スタイルについて。
「歴史的な衣裳を見せる舞台ではないですが、3年前のシャルパンティエ《病は気から》と同じく、きっと“宮城マジック”で皆様を魅了してくれることでしょう。
音楽面ですが《妖精の女王》は殆ど4声部で書かれ、オーケストレーションを演奏者に委ねる部分が多く、色々な選択肢があります。今回は弦楽器の他にオーボエ、リコーダー、トランペットに各種打楽器を取り揃え、多彩な器楽のサウンドをお届けします。第5幕のPlaint(哀歌)ではヴァイオリン・ソロを僕が演奏しますし、全体的になるべくヴァイオリンを弾きながらの指揮に挑戦します。ピッチは当時のイギリスでも恐らく使われたであろうA=392Hzのフレンチ・ピッチです。歌の各パートの音域のバランスも良いようです」

名歌手たちが集結

 今回は、歌手陣の贅沢さも注目の的。大べテランのソプラノ、エマ・カークビーの出演もファンの期待を集めている。
「パーセルの言葉に対する鋭い感覚は驚くべきもの。詩を音で彩るとはこういうことかと感嘆します! カークビーさんの天使のような歌声を愛する人は実に多く、今回出演していただけることに大きな喜びを感じています。また、歳を重ねてさらに深みを増した彼女の表現にも期待が膨らみます。ケヴィン・スケルトンさんはカナダ出身のテノールで透明感ある声と繊細な感性の持ち主ですが、ダンサーでもあるので演出によっては踊りも見せてくれるかもしれません。邦人勢もイギリス歌曲と英語の発音に定評ある波多野睦美さんや広瀬奈緒さん、演技派の大山大輔さんなどベストメンバーが集結です。どうぞお楽しみに!」

取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)

北とぴあ国際音楽祭2015 パーセル:オペラ《妖精の女王》
12/11(金)18:00、12/13(日)14:00
北とぴあ さくらホール
問:北区文化振興財団事業係03-5390-1221
http://www.kitabunka.or.jp

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