『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』 高木渉・大石継太インタビュー~男二人の往復書簡。待望の再演に新チーム登場

2019.10.1
インタビュー
舞台

(左から)高木渉・大河内直子・大石継太

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第二次世界大戦前から大戦中にかけて、ドイツ人とユダヤ人の親友二人が交わした往復書簡……というスタイルの小説を舞台化した『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』。去年の初演は、上演5日間にもかかわらず、口コミでを求める人が相次いだ。

そして、早くも1年後の今年(2019年)10月3日から再演の幕が開く。初演は平均年齢30代のAチーム(青柳尊哉、須賀貴匡)、40代のBチーム(池田努、畠山典之)の2つだったが、今回は新たに50代のCチーム(高木渉大石継太)が加わった。声優としても舞台俳優としても活躍する高木さんと、蜷川幸雄演出ほか数々の舞台に立ち続ける大石さん。世代をわけた男達の二人芝居のうち、新3チーム目はいったいどのような『受取人不明』となるのか……Cチームの2名と演出の大河内直子さんに話を聞いた。

二人芝居「二人だけの空気がつくれれば……!」

大石継太(左)、高木渉(右)(撮影:交泰)

──初演ではA、Bチームそれぞれに色がありました、今回、新しく誕生したCチームの面白さは!?

大河内 まず、それぞれの生きてきたキャリアや人生が、登場人物2人に投影してされているのが一番の魅力です。どれだけの苦労や幸せや喜びや悲しみとどう向き合ってきたかという経験が、すべて素直に言葉にあらわれてくるんです。若いチームとはまた違った重厚感があるので、取っ組み合いをして、生々しくやっていただいています。

──アメリカに暮らすユダヤ人のマックス(高木)と、ヒトラーの台頭していくドイツに引っ越したドイツ人のマルティン(大石)による往復書簡として物語が進みます。最初はどちらがどちらを演じるか決まっていなかたそうですが、この配役にした狙いは?

大河内 直感です。高木さんには初演を観ていただいていて、プロデューサーからも「ぜひ出ていただけたら」と話していたんです。じゃあどなたにお相手をお願いしようかと考えたら、パッと「大石さんかな」と浮かびました。

大石 最初はどちらがどちらの役だか聞いていなかったんですよね。一回読んでみましょうと。最初に渉さんがマックスで、僕がマルティンを読んで、即決定。たぶん演出家の中で最初からイメージがあったんでしょうね。

高木 みんなも「なんかこれがいいね」という雰囲気になって、役を交換して読むことなく、自然と決まりましたね。

──高木さんは初演をご覧になったそうですが、どんな思いですか?

高木 青柳君に誘われて観に行って、「すごいな、この男二人の熱演は!」と感動しちゃったんです。それで青柳君に「良い作品やってるね」なんて話していたんですが、そのうち再演に出ないかというお声かけをいただいて。嬉しいと共に、「観るのと演(や)るのとは違うぞ……」という恐怖感が襲ってきましたね(笑)いやぁ、大変なものに参加することになったなとちょっと武者震いしました。

──物語の内容についてはいかがですか?二人の親友関係が過酷な戦争によって翻弄されていく……。

大石 僕たちはもうヒトラーもユダヤも史実として知っていますけど、この時代に生きている人達はこの先どうなるかなんてなにもわからなかった。自分たちの将来を真剣に考えて、ヒトラーを選んでしまった。でも、彼らはただ自分や家庭を守ろうとして、いろんな葛藤を抱えていたはず。マックスとマルティンもいろいろブレながらも一生懸命に進んでいき、このような形になってしまった……その経過が手紙のやり取りという表現で伝わればいいなと思います。

高木 僕も今、二人の関係の変化をどう表現しようかなと思いながら稽古をしています。しっかりした友情があって一緒に事業をしてきたふたりだけど、ドイツ人のマルティンがドイツに帰り、ユダヤ人のマックスがアメリカに残ったことで時代背景や民族問題に翻弄されていく。

今回3チームあるので、それぞれ役の解釈や演じ方が違うのですが……僕が演じるマックスは、ずっと親友のマルティンに憧れていて彼のことを信じ続けている。ひたすら「マルティン、分かってくれ」という気持ちで友情を守ろうと願っている男です。稽古を重ねるうちに変わってくるかもしれませんが、僕はふたりの友情を大切に演じたいですね。

今はまだ台詞が飛んだらどうしようという恐怖感でいっぱいですが、台詞が入って、感情のままに言葉が出てくるようになったら2時間だろうが2時間半だろうがやれると思うんです。僕は「声優である前に役者であれ」と思っていますから、心から出てくるものを言葉にして伝えたい。怖いよりも「早く幕が開かないかな」と楽しみになれるように、稽古を一生懸命やりたいですね。今はまだ辛いですけど(笑) 

──初共演ですが、お互いの印象は?

高木 継太さんは本当に引っ張ってくれます。

大石 そんなことないですよ! 2人でつくっているんです! それは大変だけど楽しいですね。やっぱり役者って、「二人芝居は大変だね」と言いながらも心の中ではやりたかったりするんですよ。舞台には2人しかいなくて、2人でなんとかしていこうとする大変さは2人にしか共有できない。いや、演出家は全部わかっているだろうけど……それでも、役者2人にしかわからない関係性ができれば、演出家も楽しいはず。僕たちが目を合わせて時になにかを感じたりするような、僕と渉さんだけの空気がいっぱい作れればいいな。

高木 「渉」でいいですよ。

大石 ……渉(照)いや、なかなか呼ぶきっかけが……ちょっと、照れますね。

高木 ですね。早く親友になろうと言ってはいるんですけれどね(笑)。

──付き合いたての恋人みたいですね……。

高木 そうそうそう!

大石 そんな感じです(照)。

3チームが化学反応を起こす稽古場

──大河内さんの演出はいかがですか?

大石 大河内さんは蜷川さんの演出助手をされていたので、ずっと同じ作品には関わってきました。ですが、演出家と役者として組むのは初めてです。稽古をして感じたのは、役者個人の良いところをまず肯定して引き出す方だということ。役者の芝居をあまり否定せずに、その人がやろうとしていることを丁寧に導き出してくれる。「あなたはこういうところが良いね」「こういうところが素敵ね」と肯定的にジャッジしてくれています。しかも俳優が6人、同じ役が3人も稽古場にいますからね。楽しいですよ。ずっと同じ空間で稽古しているので互いにオープンなのはとっても良いです。

──稽古は6人同じ空間で、お互いのチームを見ているそうですね。時には相手役をシャッフルして演じるとか。とても刺激的ですね!

高木 いやぁ、もう、影響されないと言ったら嘘になりますね。AチームBチームから得るものもあるし、学びたいものもいっぱいある。せっかくひとつのカンパニーだから、良いところは吸収させてもらっています。でもとにかく台詞をちゃんと覚えないと作品をつくる作業に集中できないから、必死! 継太さんにも迷惑かけちゃいけないなと焦っています。

大石 いやいや、全然ですよ。僕も台詞に縛られています。台詞が多いんですよね…….

高木 でも台詞に追われているなかでも、(大河内)直子さんは「自分の中から出てきたものを自由にやってください。軌道修正していきますから」と優しく言ってくれます。でもね……自由って結構不自由なんですよね。ですねよ。自分のキャパシティの無さを痛感しながらもひたすらもがいています(笑)これだけ苦しめば良いものができるんじゃないかな。

──大河内さんが『受取人不明』を演出する際のポイントは? 往復書簡というスタイルの上演で気にしていることなどあるのでしょうか。

大河内 基本は普通の芝居のコミュニケーションと一緒ですね。二人が直接会話をするシーンはないけれど、「手紙というシチュエーションに騙されるな」と自分に言っています。

LINEでも手紙でも、大事な人に送る時には言葉を尽くす。相手にわかってもらおうと、心と体で言葉を紡いでいく。それは対面のコミュニケーションと同じだと思うんです。「相手はどう思うかなぁ」と想像しながら伝える。手紙を受け取った方も、相手の言葉を聞いて、自分の心が揺れて、自分がしたためる言葉がうまれていく……。そういったプロセスをちゃんと体を通して表現していくことは、演出家にとっても俳優にとってもすごく基本的なことだなと直感しました。

もし二人がコミュニケーションできないと、ただのお手紙朗読になっちゃう。でもきちんとキャッチボールできれば、時代背景や、彼らが海を越えて相手に伝えたかった真意や、その心の揺れが伝わるはず。だから俳優に「生々しくやってほしい」なんて言ってしまうんですよね。自分はできないのに(笑)。

高木 おっしゃるように、互いに直接は見えない遠い国にいるんだけど、それが手紙を通してちゃんと会話にならないといけない。顔を合わせてなくても、ハートで繋がっているように会話を紡いでいけば、2つの離れた空間がひとつの舞台に見えるはず。そう見えるように頑張ります。

大石 僕も頑張ります……!

大河内 いやいや、大丈夫ですよ。稽古でも、海を越えた二人がどうやって舞台上でコミュニケーションをとるかということを模索していると、ある時にふと予期しないほど生々しい瞬間がうまれるんです。私は「やったー!」と内心興奮して楽しんでいます。

──直接の会話ではない二人芝居。それを演じる俳優としての楽しさは?

大石 今、大河内さんがおっしゃったように、けして手紙のやり取りというだけにはとどまらないところですね。僕も最初に台本を読んだ時は「あ、手紙のやり取りなんだ」と思ったんです。でも実際に役者の肉体があるので、「よし、演出家が想像もしてないことをやってやろう」なんて思っちゃうんですよね……ちょっとやらしい言い方ですけど(笑)。やってみたところで本番でもやるかは別なんだけれど、稽古場ではなにか刺激になるような爆弾をたくさん投げられたら面白いなと思っています。

大河内 やっぱり一人の想像力では限界がありますからね。今回は俳優6人の想像力が集まって、「どうだこれ?」「それならこっちはどうだ!」と投げあって、そこに私もふっかけて、うまく化学反応しあっていく瞬間はすごく気持ちいい! 

高木 A、Bチームをみていると触発はされますよ。隣の芝生……じゃないですけど、芝居は良くみえますしね(笑)。

大石 まあ、同じ役をやる人がずっと同じ稽古場にいるのはプレッシャーもあるんですが、このカンパニーは清潔感があるんです。自分と同じ役の人が演じていたり演出家になにか言われていても、それをみんなが自分ごととして捉えています。6人でひとつのお芝居という感じ。とても素敵な稽古場です。

──3チームを見比べてみるのも、お客さんにとっては大きな楽しみになるのではないでしょうか?

高木 そうですね。A、B、Cチームだけでなく、キャストを交換したD、Epチームまである。全部違ったカラーのものができますよ。

大河内 思いはひとつでも、表現は千人千様です。ぜひ全部見て頂きたい。

大石 そうそう。同じチームを何回も観たり、他のチームを観てからまた最初に観たチームに戻ってきても面白いと思う。

高木 A、Bチームは去年の再演になりますが、さらに練り直しているでしょうしね。みんな同じ脚本なのにこんなに演じ方が変わるのかと思う。お客さんによってもまた感想が違ってくるでしょう。テーマは一緒でも見えてくるものがそれぞれ違うのは、大きな見どころですね。──私も初演を観劇しましたが、2チームがまったく違う印象でした。1チームだけでも大きな衝撃を受けますし、他チームを観るのも新しい発見があるので、いろいろな楽しみ方があると思います。新生3チーム上演、楽しみにしています!

取材・文=河野桃子

公演情報

『受取人不明  ADDRESS UNKNOWN』
 

■作:クレスマン・テイラー
■脚色:フランク・ダンロップ
■翻訳:小田島創志
■演出:大河内直子
■出演:
A 青柳尊哉×須賀貴匡
B 池田努×畠山典之
C 高木渉×大石継太
D 青柳尊哉×畠山典之
E 池田努×須賀貴匡
■日程:10 /3~14
■会場:サンモールスタジオ
■料金:一般 4,800円 学生 3,000 円 高校生以下 2,000 円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
■問い合わせ:アン・ラト unrato@ae-on.co.jp
■公式サイト:http://ae-on.co.jp/unrato/
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