『ミュージカル李香蘭』稽古場レポート

2015.12.1
レポート
舞台

『ミュージカル李香蘭』稽古

浅利慶太プロデュース公演『ミュージカル李香蘭』2015の開幕が迫る11月下旬、同舞台の稽古を見学した。稽古後は、浅利慶太、野村玲子、坂本里咲、秋夢乃、山口嘉三、畠山典之が、早稲田大学ジャーナリズム専攻の大学院生たち、台湾テレビの記者、そしてSPICE編集子が同席する中、質疑応答が行われた。

稽古では、一幕を通しで披露。終戦後、中国に対する裏切りの罪で裁判を受ける李香蘭に、死罪を求める民衆の怒号の中、自分は本当は日本人・山口淑子であり、これまでどのような半生を生きてきたか、そこには中国と日本の両国を愛する強い想いがあったことを歌と共に振り返っていく。父と親交を深めた中国人・李家の養女となり、香蘭という名前をもらい、李家の娘、愛蓮と義姉妹の契りをかわす。幸せに暮らしてきた淑子だったが、日本軍の中国大陸への進行が加速し、五族協和という理想も軍部によって次第に蹂躙される。そして幼き頃から美貌と美声で知られた淑子は満州国の国策に巻き込まれ中国人歌手・李香蘭としてデビューする――。

『ミュージカル李香蘭』稽古

稽古が始まる直前、浅利が出演者たちに問う。「大事なことは何か?」 問われた役者の一人は「居て、捨てて、語る、です」と返す。もう一人の役者に浅利が「ダメなことは何か?」と問うと「慣れ、だれ、崩れ、です」と返す。言葉の意味を体に叩き込むように全員が集中し、「じゃ、2分後、開始で」ピリっとした空気の中、通し稽古がスタートする。

これが稽古だということを忘れてしまいそうになるくらい、一人ひとりのクオリティは驚くほど高く、本番さながらの迫力と力強い歌声が稽古場の空気をビリビリと響かせる。浅利が口を出したのは冒頭の声かけだけ。その後は一瞬立ち上がり役者にそっと声をかけただけ。あとはずっとキャストたちの動きに集中していた。

『ミュージカル李香蘭』稽古

稽古のあと、行われた質疑応答では、学生たち、そして台湾の記者からさまざまな質問がとびかった。

初演と現在の上演の違いについて質問が及ぶと「何も変わっていません。丁寧に深めてやっていますよ」と答える浅利。また、この時代に「李香蘭」を上演することについて、現政権に何かメッセージを送りたいのか? という質問についても、「特にそういう意味はない。ただ、私がこの戦争の真っただ中に生まれてきたので、戦争が終わったときは12歳。爆撃の悲劇は知っています。僕は今83歳で、今の人はまったく戦争を知らない。今の人たちにあの戦争はどういうものだったか、実感をもって味わってもらいたい。リアリズムという言葉がありますが、本当にリアルにやっていますね。創作したことやプラスしたことなど一切ない。全部事実のとおりです」と伝えていた。

学生たちからは「日本のことを中国人は“ニホン”、日本人は“ニッポン”と言っているのはなぜ?」「海外各国で上演されてきたが、国によって反応は異なるのか?」「満州国設立の場面など、どんな気持ちで演じているのか?」など、稽古を観て、また各自調べてきて気になったことを次々と質問していた。なかでも「皇帝の花と言われた蘭の花が川に流れていく、というのは、皇族の血を引く川島芳子の運命をもあらわし、時代の流れに翻弄されていくことを意味しているのか? 川島芳子は狂言回しでもあるがもう一人の主人公なのでは?」という質問についてはキャストからその着眼点について感動の声が上がっていた。

004『ミュージカル李香蘭』稽古場会見

話は昨年亡くなった李香蘭=山口淑子さんの話へ。「生前は何度も稽古場や劇場にいらしてくださった。満州国の標語として掲げられた“五族協(共)和”つまり日・韓・満・蒙・漢の五つの民族がともに協調して暮らす“マンチュリアン・ドリーム”は、当時の人たちは心から願っていたことだとおっしゃっていました」と野村は語る。そして、「日中両国の平和を願って、戦争が起きてはならない、それだけを思って生きてきた」と想いを口にした。また浅利も作品作りにおいて、「実際はどうだったか、確かめたいときは李香蘭さんご本人に聴いて確かめました。ナイーブで素敵な人だった」と在りし日の山口さんを思い出していた。

公演情報
『ミュージカル李香蘭』
■期間:2015/12/3(木)~2015/12/9(水)
■会場:自由劇場
■企画・構成・演出:浅利慶太
■作曲:三木たかし
■振付:山田卓
■出演:
出演 (五十音順):
秋 夢乃  
荒木 啓佑 
石毛 美帆 
上野 聖太 
江部 麻由子
大島 宇三郎 
小川 善太郎
折井 洋人 
勝又 彩子 
鐘丘 りお 
川畑 幸香 
斉藤 昭子 
斎藤 譲 
坂本 里咲 
佐々木 誠 
佐藤 靖朗 
高瀬 育海 
高橋 辰也 
田代 隆秀 
野村 玲子 
橋本 由希子 
畠山 典之 
林 美澄 
古庄 美和 
水野 言 
宮川 政洋 
村田 慶介 
山口 研志 
山口 嘉三 
山田 大智 
吉武 大地 
与那嶺 圭太 
脇坂 美帆 
和田 一詩 
渡邊 友紀
問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337 (全日10:00〜18:00)
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