欲望VS理性! 妖艶なダンスと楽曲に酔いしれる、ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』ゲネプロレポート
左から クロロック伯爵:山口祐一郎、サラ:桜井玲香 写真提供/東宝演劇部
『エリザベート』『モーツァルト!』『マリー・アントワネット』など、日本でもすっかりお馴染みとなっている人気ミュージカルを手掛けるミヒャエル・クンツェ(脚本/歌詞)と、映画「ストリート・オブ・ファイヤー」のテーマ曲の作曲家ジム・スタインマンが音楽を担当する、傑作ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』。ダイナミックなダンスと美しい楽曲に陶酔し、熱狂できる作品だ。
日本では2006年に初演が行われて以来再演を重ね、5回目となる本公演は衣装や舞台美術を一新。これまで以上にパワーアップし、2019年11月5日、帝国劇場にていよいよ開幕した。サラとアルフレート、そしてヴァンパイア・ダンサーはWキャストとなっている。本記事では、サラを桜井玲香、アルフレートを東啓介が演じたゲネプロの様子をお届けしよう。
ヴァンパイア研究に生涯を捧げるアブロンシウス教授と若き助手アルフレート。雪深いトランシルヴァニアの山で吹雪に見舞われた二人は、やっとの思いで宿屋に辿り着く。
宿屋に屯する村人たちは誰もが名物であるニンニクを身にまとい、「ガーリック、ガーリック」と怪しい歌を歌っている。その様子を見て、近くにヴァンパイアの住処があることを確信する教授。一方、アルフレートはお風呂が大好きな宿屋の一人娘、サラに恋をする。かわいい娘に悪い虫がつくのを懸念した父親に軟禁されているサラだが、それ故に自由に憧れていた。
そんなある日、入浴中のサラの元にクロロック伯爵が現れ、お城で開催される舞踏会へと誘う。そしてサラは家を抜け出し、姿を消してしまう。
サラに焦がれ、守りたいと願うアルフレート。理性を何よりも重視し、研究に邁進する教授。身を焦がすような恋と自由に憧れるサラ。そして全てを見通し、サラの血を求める伯爵。
それぞれが自らの欲望に突き動かされる時、ヴァンパイアと人間の存亡をかけた運命の戦いがはじまる……。
桜井は可憐で透明感のある乙女、自由に憧れる好奇心旺盛な少女、コケティッシュでしたたかな女性という、サラの多面性を魅力たっぷりに好演。
「初めてだから」などのナンバーではあどけない少女のような表情を見せ、澄んだ歌声を披露したかと思うと、「あんたは素敵」などは色気を振りまきながら甘く歌い上げる。どこか危うい愛らしさから目が離せず、アルフレートが夢中になるのも頷けた。
左から クロロック伯爵:山口祐一郎、アルフレート:東啓介 写真提供/東宝演劇部
対する東は、伸びやかで厚みのある歌声で、ドジで気弱ながら一途で筋の通ったアルフレートを表現する。歴代キャストの中で一番背が高いが、それ故に教授との漫才のようなやりとり、ヘルベルトに翻弄されるシーンなどで縮こまる姿がコミカルでかわいらしい。また、コミカルさが強調される分、サラへの想いを吐露する時の不器用ながら情熱的な姿のギャップにときめく人も多いのではないだろうか。
そして出番は少ないが強烈な印象を残す伯爵の息子・ヘルベルトを演じるのは植原卓也。アルフレートに迫る姿は蠱惑的でありながらどこかユーモラスで、この二人のやりとりも実に楽しい。
また、2006年の日本初演より5回連続でクロロック伯爵を演じる山口祐一郎は、本物のヴァンパイアかと疑ってしまうほど、衰えを知らない迫力と色気のあるウィスパーボイスで観るものを圧倒する。怪しくも美しい、堂々たる佇まいには、サラでなくても心を射抜かれてしまうこと請け合いだ。
クロロック伯爵:山口祐一郎 写真提供/東宝演劇部
また、同じく初演より伯爵の召使・クコールを演じる駒田一、2009年より教授を演じる石川禅、2011年よりサラの父・シャガールを演じるコング桑田など、お馴染みのキャストが揃っているのに加え、初演、再演時にサラを演じた大塚千弘が宿屋の女中・マグダ役として帰ってきたのも嬉しい。ベテラン勢の安定感ある基盤のもと、若手実力派がのびのびと力を発揮しているのが印象的だった。
左から クロロック伯爵:山口祐一郎、アブロンシウス教授:石川 禅 写真提供/東宝演劇部
そして『ダンス オブ ヴァンパイア』のタイトル通り、迫力満点のダンスシーンも大きな見どころ。バレエをはじめとするクラシックからヒップホップ、アクロバットまで、多彩なスタイルのダンスで世界観やキャラクターの心情が表現される。
特に、山口演じるクロロック伯爵の歌に合わせ、ヴァンパイア・ダンサーが舞うシーンは鳥肌ものだ。自らの過去をメロディに乗せて語る伯爵の切なく甘い歌声とシンクロし、彼の心を生々しく、美しく魅せるダンサーの姿。お互いがお互いを引き立て合い、舞台上にいるのがたった二人とは思えない重厚な空間を作り上げていた。
また、コメディタッチの本作だが、根底にあるテーマは「欲望VS理性」という普遍的なものだ。だが、この物語は「人間たるもの理性を持って行動しろ」という教訓めいた話とは一味違う。“理性”の象徴である教授がどこか間抜けで歪に、“欲望”を司る伯爵は時に教授以上に人間味を持って描かれている。
上質な歌とダンスに酔いしれ、コメディに大笑いしつつ、人間らしさや幸せとは? と、自らの生き方や在り方を考えさせられるはずだ。
伯爵の甘言を受け入れ、終わりなき欲望に身を任せるのか。教授の忠告に従い、理性的に生きるのか。登場人物たちがどんな運命を辿るのかは、ぜひその目で確かめてほしい。本公演は11月5日(火)より帝国劇場で皮切り後、2020年1月まで、愛知・福岡・大阪でも上演される。
取材・文 = 吉田 沙奈 舞台写真=オフィシャル提供
公演情報
出演
山口祐一郎、神田沙也加/桜井玲香(Wキャスト)、相葉裕樹/東啓介(Wキャスト)、大塚千弘、コング桑田、阿知波悟美、植原卓也、駒田一、石川禅ほか
脚本/歌詞:ミヒャエル・クンツェ
音楽:ジム・スタインマン
演出:山田和也
<東京公演>
日程:2019年11月5日(火)~27日(水)
会場:帝国劇場
<愛知公演>
日程:2019年12月15日(日)~21日(土)
会場:御園座
<福岡公演>
日程:2020年1月1日(水・祝)~7日(火)
会場:博多座
<大阪公演>
日程:2020年1月13日(月・祝)~20日(月)
会場:梅田芸術劇場メインホール
日程:2019年11月22日(金)
開演:13:30~ (開場 12:30~)
会場:帝国劇場 (東京都)
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