根本宗子&清 竜人インタビュー 月刊「根本宗子」旗揚げ10周年『今、出来る、精一杯。』リメイク再演へ
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左から 根本宗子、清 竜人
今年旗揚げ10周年を迎えた劇団・月刊「根本宗子」の快進撃が止まらない。主宰で作・演出を手掛ける根本宗子は別ユニットを含めるとかなりのハイペースで傑作を量産しており、今年は既に3本の舞台で演出を担当している。また昨今は、シンガー・ソングライターの大森靖子、10人組女性アイドルのGANG PARADEと組んだ公演を成功させたり、姉妹ユニットであるチャラン・ポ・ランタンの小春のオリジナル曲を舞台で使用するなど、音楽畑との接点も深まってきている。
10周年のフィナーレを飾る代表作『今、出来る、精一杯。』のリメイク再演で音楽を担当するのは、一夫多妻制アイドル・清 竜人25でのパフォーマンスも印象的だった清 竜人。清は俳優としても舞台に立ち、同棲している恋人女性・神谷はな(坂井真紀)に依存している安藤という男性を演じる。以前から清のファンだったという根本のラブコールにより実現した今回の公演、「竜人さんに断られたら企画自体なしになっていましたね」(根本)という。
根本宗子
「脚本を読み返してみて、この作品に音楽を入れるとしたら、安藤の気持ちや台詞を曲にしていくのがいちばんハマると思ったんです。で、その気持ちを歌う人と演じる人が別っていうのはあまり考えられなかったので、ひとりの人にやってもらおうと。それで、ずっといつかご一緒したいと思っていた竜人さんに俳優と作詞・作曲を両方やってもらうのがいちばんいいなと思って」(根本)
「根本さんとは一回だけご挨拶させて頂いたことはありましたけど、仕事でご一緒する機会はなかったんです。今回オファーを頂いて、作品を拝見する前にお会いしてから決めようかなって思っていて。実際にお会いしたら、共通項がたくさんあるし、言葉の端々にシンパシーを感じるところがあって、そもそも僕でやりたいっていう強い気持ちを真摯にお話ししてくださったので、ああ、これは力を尽くさないとなって思ったんです。過去にも何度か俳優をやらないかというオファーはあったんですけど、そこまで興味を持てず、敬遠していたんです。でも、今回は違ったんですよね。それで、直接お会いしたあと、DVDで初めて『今、出来る、精一杯。』の過去公演の映像を拝見しまして。まず、“あ、本人が出てるんだ!”って思って。ご本人が出演されることにちょっとびっくりしました(笑)。あと、人間的なストーリーの作品だったので、ひりひりとした気持ちが伝わってきていいなと思いました」(清)
清 竜人
過去にもミュージシャンを俳優として起用したことのある根本だが、俳優としての清 竜人についてはどう感じているのだろうか。
「清 竜人像が確立されているので、ご本人が素の状態でいてくださることが素晴らしいアクセントになります。いい芝居やってやろうとか、なんかやらなきゃっていう気負いがなくて、自分の個性ありきでその役をやっている。それはがあまり俳優にはない考え方なので、そういう人が座組にいてくれたほうが作品を作っていて私は楽しいんです」(根本)
初めて舞台に立つ清 竜人は、俳優としての面白さと難しさをどのように感じているのだろう。彼は稽古が始まった現在の心境をこう語ってくれた。
「誰かの作品に入るっていう経験が初めてなので、全部がおもしろいですね。基本的に自分がプロデュースしたり、自分の作品の中にキャラクターとして自分を落とし込んでいくという活動がメインだったので。誰かが書いた脚本を読んで台詞を言ったりとか、世界観に入っていくっていうことが初めてなので、本当にすべてが新鮮で楽しいです。全部初めての経験だから、難しいことばかりですけど、僕の個性を必要としてくれているのであればすごく嬉しいし、ご一緒したいと思ってくれた気持ちに応えたいです。俳優をやる難しさは……僕がやるからこそ意味のあるようなパフォーマンスにしないとダメだなって。それを考えながら日々稽古してますね」(清)
清 竜人
以前大森靖子が『夏果て幸せの果て』に本人役で舞台に出た時、毎回同じ台詞を同じタイミングで言うのが大変だ、と話していたが、そうした面での難しさは?と問うと……。
「本番を迎えてみたいな分からないですよ。すごいアドリブたくさん入れ始めたり(笑)」(清)
「袖からやめてーみたいな紙を見せたりして(笑)。でも、アドリブってひとことで言うとやりたい放題みたいなニュアンスがありますけど、アドリブのセンスによってはありな場合もあるんです。例えば、台本の中のキャラクターとご自身の人間像を重ねたうえで言っていい範囲というのはあって。それさえ踏まえれば、なんとなく大丈夫な気はします。今回、キャストの今井隆文さんも台本にないことを言ったりするんですけど、成立する範囲だし言ったほうがいいこともあるので、その辺は全然オッケーです。昔みたいに一言一句変えないでくれっていうのはなくなりましたね」(根本)
根本の演出が変わってきた、というのは筆者もインタビューする度に痛感していたこと。ひとことで言うと、俳優に細かなニュアンスを委ねたり、俳優に考える時間を作るようになった、という印象がある。
「一緒にやる俳優さんにもよるんですけど、稽古の中でもこの人は崩してもオッケー、この役は崩さないでくれっていうところもありますね。一言一句台詞が決まっている中で自分の感情を処理することに長けている俳優さんもいれば、少し自分に寄せるほうがうまくいく人もいる。やる人と座組によるんですけど、より俳優とコミュニケーションをとることで、演出も変わってきたと思います。以前は本当に誰がやっても同じ間、同じ台詞というのが強かったんですが、今は自分の書いたセリフを100パーセントは信じなくなったんだと思います。
根本宗子
ある俳優さんの口から出る台詞として、私が書いたものをそのまま言ってもらうほうがいいか、本人の言葉にしてもらったほうがいいのかっていうことを、稽古で判断していくいようになりました。もちろん、ものすごくテンポのいいコメディだったら、誰かがニュアンスを変えるとテンポが作れないので、そういう時は変えないほうがいいんですけど。今回みたいな作品だと、そんなに一言一句っていうことにこだわらなくていいかなと。たぶん重要なのは客席への伝わり方ですね」(根本)
以前、こうした演出家としての意識が変わり始めたのは、小劇場界きっての実力派俳優・田村健太郎と一緒にやるようになったことも大きかった、と今年の頭に明かしてくれた根本だが、今年一年でさらに考え方が増したたようだ。
「今回出てくださっている今井隆文さんとのクリエーションも大変刺激的です。極めて自由度が高い状態で舞台上や稽古場にいてくれる。そういう俳優が周りに増えてきたんです。これまでは私に全部決定権があるっていう作り方の現場だったのを変えて、俳優がやらされてる感がひとつもないようにしたくて。私が決めちゃうと、やらされてるっていうか、決まり事があるじゃないですか。だけど、俳優が自発的に出してきたことから作った方が俳優もその役への責任感が上がるというか。今は演出家がいちばん責任があるっていうのがあまり面白くないなって思っていて。もちろん責任感はあるし、最終的なジャッジはしなきゃいけないんですけど、それを極めてフラットな状態でやるっていうのは変わったところかもしれない。無責任な意味ではなく」(根本)
根本宗子
今作では2013年の初演、2015年の再演からキャストが一新されている。初めて一緒にやる俳優やミュージカルのイメージがあまりない俳優も選んだという。
「ひとつ前に演出・出演した『墓場、女子高生』(脚本は福原充則)っていう作品が、今まで一緒にやってきた俳優さんたちと、今私が思っていることをやろうと思ってキャスティングしたので、今回はそれとは真逆の考え方にしようと思ったんです。だから、前から面識はあって、いつかやりたいなって思っていた方々が多めですね。それは『墓場、女子高生』と企画がかぶらないようにしたいという意図もあるんですけど、今単純に興味がある人とやりたかったからこうなった。昔から一緒にやっていた俳優さんって自分と同世代が多かったんで、今回は年齢の幅を出したかったというのもありますね」(根本)
取材・文=土佐有明