“ACIDMAN×プラネタリウム”プログラム上映記念イベントレポ――星空と人の生について大木が語ったこと

2019.12.18
レポート
音楽

ACIDMAN・大木伸夫 撮影=木村泰之

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「Starry Music Special Edition~music by ACIDMAN~」投影開始記念ライブイベント
 2019.12.7   コスモプラネタリウム渋谷

コスモプラネタリウム渋谷が不定期に上映している『Starry Music』は、星と音楽のコラボレーションを楽しむプラネタリウムならではと言えるプログラムだ。そのスペシャル・エディションとして、リクエストが多かった“ACIDMAN×プラネタリウム”が遂に実現。『Starry Music Special Edition~music by ACIDMAN~』というタイトルで10月から上映が始まっているが、当初、10月12日に予定されながら、台風の影響で延期されていた投影開始記念ライブイベントが12月7日に無事、開催され、満員の観客が満天の星空とACIDMANのフロントマン・大木伸夫(Vo/Gt)の歌に酔いしれた。

イベントは大木が監修とナレーションを務める40分間のプログラムと、大木によるトークとアコースティック・ライヴの2部構成。半球ドーム型のスクリーンに映し出される星々の物語は、まず東京の夜空から始まった。そこからACIDMANの楽曲「ALMA」のモチーフになったアルマ望遠鏡がある南米チリのアタカマ砂漠を経て、アルマ望遠鏡が捉えたブラックホールを辿りながら、観客は大木が自分の楽曲に込めた問いかけを含む生命や宇宙の神秘に対するさまざまな想いを、ACIDMANの代表曲の数々とともに追体験する。

ACIDMAN大木伸夫 撮影=木村泰之

因みに、この日の解説を担当した“旅する星空解説員”こと佐々木勇太氏は大学生の頃、ACIDMANの曲を聴き、「こんなに星空について歌っているバンドがいるなんて!」と感激して以来、彼らの大ファンなのだそう。なるほど、東京の夜空に浮かぶこと座を、大木のギターであるリッケンバッカーに例えたり、大木が「THE LIGHT~ベガの呼応~」「金色のカペラ」という曲の中で歌ってきたベガ、カペラを星空に見つけ、紹介したりしたくだりには、並々ならぬACIDMAN愛が感じられた。

ACIDMAN大木伸夫 撮影=木村泰之

その佐々木氏が聴き手を務めたトーク・コーナーでは、憧れの人を前にした佐々木氏と観客との距離の近さにちょっと驚いた大木の緊張が漂う中、今回、プログラムを監修する中で何度も打ち合わせを重ねたという裏話に加え、実際にアルマ望遠鏡で「ALMA」のMVを撮影したときのエピソードや、そこで見た星空に圧倒された話も披露。最後は星空を巡って、世界一周の旅をしたことがある佐々木氏と大木が「いつかベネズエラのロライマ山に星を見に行きましょう!」と盛り上がったのだった。

ACIDMAN大木伸夫 撮影=木村泰之

そして、アコースティック・ギターの音色を、エフェクターを使ってリヴァーヴ感たっぷりに響かせた「FREE STAR」から始まったライブは、「赤橙」「世界が終わる夜」「ALMA」と続いていった。頭上には満天の星空。そして、大木の足元に置いたランタンが大木の顔をぼんやりと浮かび上がらせる。「星空を見ながらライブをしているように見えたらいいね」と大木が言ったその言葉通り、誰もが星空の下で味わうACIDMANナンバーは格別だと思ったに違いない。

ループ・ペダルも使い、壮大に奏でたイントロから一転、繊細な爪弾きに変わるというギャップも楽しませた「世界が終わる夜」を聴きながら、大きな一体感を感じながら観客全員で盛り上がるバンド編成のライブももちろんだが、ときにはこんなふうに演者が発した言葉をしっかりと受け止めたうえで、そこに込められた想いを噛みしめるようにライブを楽しむのもいいものだ、と考えていたら、「何度歌っても飽きない」と「ALMA」について語る大木の声が聞こえてきた。

ACIDMAN大木伸夫 撮影=木村泰之

「ALMA」のMV撮影にアタカマ砂漠を訪ねた体験を、「そこで見た星空は恐怖を感じるくらい圧倒的だった」と今一度振り返った大木は「夜空の星は心に似ていると思うんです」と語り始める。
星のない夜空は空っぽの心の様で、満点の星空は心が満たされた瞬間に似ている。たった1つ星が輝いていれば、その光を目指そうと思える。そして圧倒的な星空を前にすると、ただただ畏怖の念を感じる、と大木。そして、「この世界に少しの間だけいさせていただくという気持ちになって、普段の生活を戒めてみたり(笑)」。

そんな大木の星空との向き合い方を聞きながら思ったのは、そう言えば、最近、星空を見上げたのは、いつだったろうということだった。僕らは普段、さまざまな眩い光の中で、誰かと繋がることばかり考えて、暮らしているけれど、本当はもっと自分自身と向き合い、言葉を交わさなきゃいけないんじゃないか。この日、朝から降っていた雨は、もう上がっていたけど、帰り道、星は見えるだろうか? ともあれ、もっと夜空を見上げてみよう。そうしたら大木が言うように何か気づきがあるかもしれない。そんなことを思わせてくれたライブは早くも最後の1曲に。

ACIDMAN大木伸夫 撮影=木村泰之

「本当は「Your Song」を予定していたんだけど、忙しい中、リスケして振替公演に来てくれた想いに応えたいと思って……」と言いながら、大木がエンディングに選んだのが、このとき、ツアー真っ最中だったACIDMANがアンコールで演奏していたという新曲「灰色の街」。弾き語りで披露するのは、この日が初めてだという。

「文明の発展とともに段々色づかなくなってきた世界を、それが悪いことだとは思わないけれど、受け入れて、生きていかなきゃいけない中で、たとえば、星空を見ることも含め、自分の気持ちが少しでも色づきますようにということを歌っているんだけど、今日にぴったりだと思いました」
たぶん多くの人がこの日初めて聴いた、祈りにも似た大木の歌にじっと耳を傾けながら、この歌に込めた想いをしっかりと受け取ったに違いない。

因みに『Starry Music Special Edition~music by ACIDMAN~』のエンディングに流れている「FREE STAR」が1月7日から「世界が終わる夜」に変わるそうだ。曲が変われば、プログラムの印象も変わるだろう。そもそも解説員が変われば、解説も変わるし、季節が変われば、解説員が使う言葉も変わる。

「だから、何度でも足を運んでください」 大木はそう言いながら笑った。


取材・文=山口智男 撮影=木村泰之 協力=バルミューダ

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