宮藤官九郎を直撃! 5年ぶりのウーマンリブ公演『もうがまんできない』に挑む

インタビュー
舞台
2020.1.21
宮藤官九郎

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大人計画の宮藤官九郎が作・演出を手がける「ウーマンリブシリーズ」。5年ぶり14回目の上演となるその新作のタイトルは『もうがまんできない』、解散寸前のお笑いコンビ、浮気妻と間男、デリヘル店の店長とデリヘル嬢といった関係を中心に、ストレスフルな現代社会を生きる人々の姿を描く。久方ぶりに舞台の作・演出に挑む宮藤に意気込みを聞いた。

ーー宮藤さんの中での「ウーマンリブシリーズ」の位置づけは?

1996年から、基本的には年に一本やるようなつもりで始めたんです。もともと僕は作家志望で劇団に入ったんですが(主宰の)松尾スズキさんの作・演出の劇団公演とは別に、そのくらいのペースでやっていけたら早く定着させられるんじゃないかなと思って。そのころは、今のように、映画やドラマに関わったりそちらのホンを書いたりということはしていなかったので、自分のやりたいことを唯一やれる場所だったんです。そういう意味で、作家活動の中では中心にあったシリーズなんですけれど、外部の仕事も増えてきたので、だんだん公演の間隔が空いてきていて。他ではやれないことをやりたい、やれる場所だと思っていますし、なおかつ、うちの劇団の役者さんたちに出てもらえる、それが自分の中では一番有意義に思っています。あと、新しい事を試す場でもあります。細かいセリフや演出にしても、ウーマンリブでやってみて、おもしろいなと思ったことが後で他の作品で生きたり。前回の公演はコントだったし、その前はワン・シチュエーションの芝居だったし、生演奏が入ることもあるし、その都度、新鮮なこと、自分の中で足りていないものをやるという感じですね。最初の公演はTHEATER/TOPSで、その後スズナリやシアターアプル、紀伊國屋サザンシアターでやったり、規模も内容もバラバラだったんですが、ここ最近はずっと本多劇場で上演していて、本多のサイズ感で、自分でやりたいことをやるという、ベーシックな感じの公演ですね。この5年間、舞台の演出自体はやってきていたんですが、大河ドラマ『いだてん』があったり、ドラマや映像の仕事があったりで、ホンを書いて演出してまでの余裕はなかなかなくて、それで久しぶりのシリーズ上演になったという感じです。

宮藤官九郎

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ーー5年ぶりの今回、取り組んでみたいこととは?

役者の演技だけ見せる、それだけで演劇を作るみたいな、すごくシンプルな会話劇をやりたいんだと思います。極力ギミックなしで、映像を使うようなことも今のところ考えていないし。だからといって、大きい声を出したり、走ったりといった、演劇演劇したものをやりたいわけじゃないんですけど。半分くらいホンを書いてみて、プレーンな舞台にしたいと思っているんだなと気づいたというか。過度なデコレーションは今回ない感じですね。自分のキャリアとか、の値段に見合うものをと考えたときに、どうしてもすごく何か足したくなっちゃうんですけれど、一回何も足さないでやってみて、だめだなと思ったら足せばいいかなと思って。始まってから暗転もなく、時間を飛ばすこともなく、ひたすら、上演時間と同じ、二時間の間に起きた出来事の芝居にしたいなと。歌ったり踊ったりも、どうしても身体がそれを欲したらやってもいいんですが、今はあまり考えていなくて。作・演出の舞台が久しぶりということを、逆にいい方にとらえて取り組みたいなと。すごくプレーンな状態に戻したいというのが今の強い方針ですね。​

ーー『もうがまんできない』というタイトルの心は?

チラシに書いたようなことと同じで、何だかいろいろなことを皆さんががまんできなくなっているんじゃないかなと思って。要潤さんと柄本佑さんの役柄はまったく売れていないお笑いコンビで、ライブの直前にネタ合わせをしているんですが、もうこの二人の関係は煮詰まって、もうがまんできない域に達している。このままでは売れないし、売れないのは俺かこいつかに原因があるんじゃないか、だとしたらこいつだろうという状態からスタートして。もう一つは、阿部サダヲくんと平岩紙さん演じる、不倫しているカップルの話で。不倫をやめたいんだけどやめられない、でもこの関係には先がないわけで、がまんできないとか。一人しかデリヘル嬢がいないデリヘル店の店長と、そのデリヘル嬢の関係もがまんできないところがあって。その店長を演じるのが松尾スズキさんなんですけど。二時間の間で、雑居ビルの屋上という空間で、そこに集まった人たちが、境遇は違うんだけれどもたまたま似たようながまんできない状態にあって、一つひとつを整理して見せればシンプルな話なんですけど、それぞれの話をそれぞれが邪魔しながらちょっとずつしか進んでいかないから、お客さんもいらいらしてがまんできないんじゃないか、どれか落ち着いて観たいのに、観られないという(笑)。頭で考えていることがうまく演出できたら、おもしろく見せられるんじゃないかなと思っているんです。役者さんたちにも、今までのイメージと異なるような、他では演じたことのないような役を演じてもらえたらと思っています。​

宮藤官九郎

宮藤官九郎

ーーご自身の中で、「作家・宮藤官九郎」と「演出家・宮藤官九郎」の関係性はいかがですか。例えば、「ここは演出家に任せよう」とか、書いていて意識したりということはあるのでしょうか。

いやぁ、演出家ということでいうと、ホンを書きながら演出している時点で、演出に専念していないので、僕はそんなに本流じゃないと思うんです。今回の公演でも、稽古場で思いついたことをあまり深く考えずにやってもらって、おもしろかったら採用するし、おもしろくなかったらナシということがやれるメンバーを集めたかったということもあって。見せ方とか、派手な仕掛けとか、ビジュアル面の、いわゆる演出家が考えることを考えるのが得意でない、というか、そういうことをやりたいときは劇団☆新感線に書き下ろして、いのうえ(ひでのり)さんにやってもらいたいと思っているので(笑)。稽古場で役者さんと、こうしたらおもしろくなるんじゃないかということをずっと試して、本番を迎えて、本番に入ってからもちょこちょこ変えたりして、やっぱりここおもしろかったからウケたねとか、どうしてウケないんだろうとか、そういうことを考えるのが自分にとっての演出なので。そういう意味でも本流じゃないですし、だから、作家と演出家とが自分の中でそれほど分離していないですね。自分も出るからということもありますけれど、現場のノリというか、役者が動いたことで生まれるものをなるべく全部拾って公演に活かしていきたいなと思っていて。​

ーー今回、お笑いコンビ、不倫カップル、デリヘル嬢と店長という、二人が3シチュエーションという構成になっていますが、“二人”にこだわられた理由は?

そこにいろいろな人が絡んではくるんですが、基本は二人というのは、逃げ場がないということかなと。煮詰まっている関係は三つと思ったんですよね。二時間で突破口が一つ見つかればいいなと思って書いていて。ラストどうなるとか考えちゃうとどうしてもそこに向かって行ってしまうので、今回はあまり考えずに書いているんです。

宮藤官九郎

宮藤官九郎

ーー「5年前より生きにくい社会になってしまった」とチラシに書いていらっしゃいますが、そんな社会に問う『もうがまんできない』とは?

エレベーターで何回「6階お願いします」と言っても誰も押してくれないとか。電車の中で、スマホを見ているだけなのに盗撮を疑われたりとか。世の中が便利になった結果、違う何か、トラブルの元も生まれてきているなという。あと、みんながカメラを持って生活していることも異常だと思うんですよね。宅配便の人が部下を蹴っている動画が流れてて、確かにやっていることはひどいんだけど、なんでそれが撮られていて、テレビで流れているのかなという。何だか、みんな監視されている感じがするんです。それによって生きづらくなっているんじゃないかなと。一般の人からの投稿動画とか、そういうのが当たり前になってきてますが、ちょっときつくないかなって。テレビとかラジオで何か発言すると、すぐツイッターに告げ口みたいに上げられたりとか。これだとストレス溜まるんじゃないかなと。この舞台を観ながら、違うことを考えていてもいいんですけど、お客さんが……何か嫌だな、でもそれは自分だけじゃないんだな……と思ってもらえるといいなと思っています。
僕がSNSをやらない、見ないのも、本来やるべきことが変わっちゃうと嫌だなと思うからなんです。難しいですよね。僕はテレビの仕事をすることが多いんですが、今の子供達はテレビを見ないですから。YouTubeしか見てない。それを受け入れられない自分も嫌だなとか。
有名なYouTuberを知らない、言われて見ても何だか全然おもしろさが分らない。それをおもしろいと思わなくちゃいけないのかとか考えなきゃいけない時間がもったいないというか(苦笑)。でも、自分たちの世代にとってはテレビだったのが、今はYouTubeなのかなと思ったりして。いろいろ自由にしゃべりたくてラジオの仕事を始めたのに、思ったことをしゃべるとネットの記事に書かれちゃったり。僕がそう思っていることを、一般の方も思っているんじゃないかなという、そんなストレス感というか。​

ーー演劇には、そういうストレスを超えていく力があるのではないでしょうか。言いたいことをこっそり言えてしまったりとか。

それすら拡散されちゃいますよね。まあ、それでも言いますが。人間って、ある程度、下世話だから面白い。でも最近、それをあんまり舞台でやらないですよね。きれいなもの、美しい局面ばかり切り取ってる感じがして。下世話だし、嘘をつくし、自分が間違っていても認めないで正当化するし、そんなことって、ドラマではやりづらいけど、舞台だったらできるんじゃないかなと。まだちょっと思っているという意味では、「超えていく」というところにつながるのかもしれないですね。特にこのシリーズでは、いろいろ気にしないでできるといいなと思っています。​

宮藤官九郎

宮藤官九郎

取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=池上夢貢

公演情報

ウーマンリブvol.14『もうがまんできない』
作・演出:宮藤官九郎
出演:阿部サダヲ、柄本佑、宮崎吐夢、荒川良々、平岩紙、少路勇介、中井千聖、
宮藤官九郎、要潤、松尾スズキ

企画・製作:大人計画 (有)モチロン

公式サイト:http://otonakeikaku.jp/
 
<東京公演>
日程:2020年4月2日(木)~5月3日(日)
会場:下北沢本多劇場
 
■料金(全席指定・税込)前売・当日¥7,000 ヤング券¥3,800(22歳以下/ぴあのみ取扱)
■お問合せ:大人計画03−3327−4312(平日11:00〜19:00)
 
<大阪公演>
日程:2020年5月9日(土)~21日(木)  
会場:サンケイホールブリーゼ
 
■料金(全席指定・税込)
前売・当日¥7,500 ブリーゼシート¥6,000 ヤング券¥3,800 (22歳以下/ぴあのみ取扱)
※ブリーゼシートはバルコニーからの観劇となるためご覧になりにくいお席です。ご了承の上ご購入ください。
 
【一般発売】2月15日(土)AM10:00より東京&大阪一斉発売
 
■主催:サンライズプロモーション大阪
■お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00〜18:00)
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