高橋惠子主演ではつらつと魅せる、老いと家族の絆を描いた名作舞台『黄昏』稽古場レポート

2020.1.15
レポート
舞台

舞台『黄昏』稽古場写真

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2003年の初演以来、八千草薫を主演に2006年、2018年と再演を重ねてきた舞台『黄昏』が、新たに高橋惠子を主演に迎え、2020年1月16日(木)~19日(日)に東京・紀伊國屋ホールにて上演される。

この作品は1978年にニューヨーク・ハドソンギルドシアターで初演、1981年にはヘンリー・フォンダ、ジェーン・フォンダ、キャサリン・ヘップバーンの共演で映画化され、アカデミー賞主演男優賞、主演女優賞、脚色賞など多数受賞、またゴールデングローブ脚本賞も受賞するなど高い評価を得ている。

今回の上演では、夫を温かく支える優しき妻・エセルを高橋惠子、老いを感じながらも愛する妻と共に人生を楽しもうとするノーマンを文学座の石田圭祐、2人の娘で父との確執を抱えるチェルシーを元宝塚歌劇団トップスターの瀬奈じゅん、郵便配達員のチャーリーを文学座の石橋徹郎がそれぞれ初めて演じる。チェルシーのパートナー・ビル役は、舞台・映像・歌手活動と幅広く活躍する松村雄基、初演では成宮寛貴、再演では中村友也(現・中村倫也)が演じたビルの息子ビリー役は期待の若手俳優・若山耀人で、2人とも2018年公演に引き続きの出演となる。演出も鵜山仁が2018年からの続投となる。新たなメンバーが加わった今作はどのような舞台になるのだろうか。本番迫る稽古場で、一幕の通し稽古を取材した。

舞台『黄昏』稽古場写真

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物語は、80歳の誕生日を迎えるノーマンと、10歳年下の妻エセルがゴールデン・ポンドの別荘にやってくるところから始まる。2人にとってこの別荘地で過ごす48回目の夏なのだが、ノーマンは何かと自身の老いと死をジョークにしており、エセルはそれを笑って受け止めながらも、どこか複雑な表情を見せている。

そんな2人のところに、郵便配達員のチャーリーが訪れる。旧知の仲のチャーリーと昔話が弾む中、彼が届けてくれた手紙を見るとそれは娘のチェルシーからだった。ノーマンの誕生日を祝うため、ボーイフレンドと共に別荘を訪れるという内容だ。父と娘の間には確執があり、娘の久しぶりの来訪の知らせを受けても気のない素振りを見せるノーマンだったが、内心は喜んでいることをエセルは見抜いていた。

80歳になったノーマンのもとへ、チェルシーとその恋人のビル、ビルの息子のビリーの3人がやって来る。ぎくしゃくする父と娘、ぎこちなく挨拶を交わす父と娘の恋人、そしてそんなことお構いなしに奔放にふるまう少年、と様々な人間模様が交錯する。やがて大人同士の複雑な思いとは関係のないところで、ノーマンとビリーは少しずつ交流し距離を縮めていく……。

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老いと死、家族、親子、結婚、ジェネレーションギャップ等、現代にも通じるテーマが脈々と流れている物語は、どの世代の人間の心にも響くものがあるだろう。それらのテーマを優しく穏やかな視点で描くこの物語の温かさがしみじみと伝わってくる作品だ。

高橋のエセルは周囲の人間を励まし力づけるようなはつらつとした活気にあふれている。石田のノーマンは、老いと向き合う重厚感がありつつも、どこか軽妙で少年のような茶目っ気を備えている。これまで上演された『黄昏』を見たことのある人にとっては、これまでにない新たなエセル、そして新たなノーマンの誕生だと感じることだろう。

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瀬奈は、父を愛しながらも素直になれない娘の複雑な内面を繊細に表現している。礼儀を重んじ誰に対しても敬意を持って接するビルを松村が誠実な演技で見せる。若山演じるビリーののびのびとした少年らしさ、石橋演じるチャーリーのノーマン一家を見守る温かさと明るさが、舞台に緩急を与えている。穏やかさと清廉さが感じられる藤原道山による音楽が、物語に優しく寄り添っている。

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出演俳優たちがそれぞれの持ち味を生かした魅力的なキャラクター像になっていると感じられる通し稽古だった。優しい時間の中で紡がれる家族の物語『黄昏』の新たなる2020年版を、ぜひ劇場で鑑賞してもらいたい。

取材・文・撮影=久田絢子

公演情報

『黄昏』
 
■日程:2020年1月16日(木)~19日(日)
■会場:紀伊國屋ホール
■脚本:アーネスト・トンプソン
■翻訳:青井陽治
■演出:鵜山仁
■出演:
高橋惠子 瀬奈じゅん 松村雄基
石橋徹郎 若山耀人 石田圭祐
■料金:8,000円(全席指定・税込)
■主催・製作:シーエイティプロデュース
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