アーティゾン美術館 開館記念展『見えてくる光景 コレクションの現在地』鑑賞レビュー 話題の新美術館の注目ポイントと開幕展の見どころをチェック!
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石橋財団コレクションを中心に展示するアーティゾン美術館が1月18日に開館した。2015年に閉館した前身のブリヂストン美術館から約5年の休館を経ての、新しいスタート。開館記念展として所蔵作品から新収蔵作品31点を含む選りすぐりの206点を展示する開館記念展『見えてくる光景 コレクションの現在地』を3月31日まで開催している。ここでは最新美術館の注目ポイントをチェックしつつ、モネ、ゴッホ、藤田嗣治、カンディンスキー、草間彌生ら、近代から現代までの重要所蔵作品を惜しみなく公開している本展の鑑賞レポートをお届けしていこう。
ブリヂストン美術館が新生オープン! 「アーティゾン美術館」がついに誕生
東京・京橋に新たに開館したアーティゾン美術館。「アーティゾン」とは、「ART(アート)」と地平を意味する「HORIZON(ホライゾン)」を組み合わせた造語。「ミュージアムタワー京橋」の4階から6階の3フロアに展示室を設け、前身のブリヂストン美術館と比べて2倍近い規模に拡張された。
アーティゾン美術館、ロビーの風景
同館の基礎を成す石橋財団コレクションは、ブリヂストンの創業者・石橋正二郎が収集した品々を原点とする約2800点のコレクションだ。その中身は、古代美術、印象派、日本近世美術、日本近代洋画、20世紀美術、現代芸術が中心となっている。閉館中も新たな作品を精力的に収集しており、これらを主軸にして「創造の体感」をコンセプトとした多彩な企画展が展開されていく予定だ。
館内にある石橋正二郎の胸像
3階の受付窓口までは、ビルのエントランスホールからエスカレーターで2階に上がり、ミュージアムショップ横のロッカーに荷物を預けて再びエスカレーターで上がる。受付窓口のあるロビーは3階から5階まで吹き抜けになっており、陽光が降り注ぐ開放的な空間だ。本展はさらにエレベーターで6階まで上がり、6階から4階へと下っていく流れで鑑賞していくことになる。
専用アプリをダウンロード
展示室に入る前に新美術館ならでは斬新な試みとして注目したいのは、無料で作品解説が聴ける専用スマホアプリを用意している点だ。アプリは展示室入り口前に設置されたQRコードでダウンロードができる。本展では声優の細谷佳正が作品解説のナレーターを担当。フリーWi-Fiが開放されているので電波の心配はないが、イヤフォンの持参をお忘れなく。
コレクションを代表する作品の数々で近現代美術の歴史を俯瞰
さて、本展は計206点の作品を第1部「アートをひろげる」、第2部「アートをさぐる」という2部構成で展示している。6階で展開される第1部では1870年代から2000年代にかけての近現代美術を広い視野で見渡し、5階と4階で展開される第2部では古今東西の美術を7つの視点で掘り下げる。同館担当者は「動線の中に、ある種の身体感覚のようなものを同調させながら鑑賞してみて欲しい」と言い、「上の階で前衛芸術のエッセンスのようなものを見ていただいた後に、下の階に進みながら、そうした創造の根元を掘り下げてみて下さい」と語る。
6階展示室エントランス
第1部の展示は、「印象派の父」といわれるマネの《自画像》と《メリー・ローラン》に始まり、ルノワールの《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》、モネの《黄昏、ヴェネツィア》など印象派絵画が迎える、新館の幕開けにふさわしい豪華な内容だ。展示室は白い壁や重厚感あるフローリングの床などがシックな印象。こうした床は珍しいが、目地から温湿度の安定した空気を送って美術品に優しい室内環境を維持しているそうだ。
6階展示風景
同館担当者の解説によれば、「アートをひろげる」というテーマにおいて、このフロアでは「壁の角度を工夫するなど、前衛芸術の歴史を空間的に表すこと」を試みているという。アトランダムに壁を配した展示室は決して直線的で巡れるものではなく、日陰のような壁の裏にも作品があったりと示唆に富んでいる。
6階展示風景
その後、ヴラマンク《運河船》などフォービスムの画家の作品、ピカソの《腕を組んですわるサルタンバンク》、ジョルジュ・ブラックの《円卓》などキュビスムの画家の作品と、抽象絵画への流れを追う形で進む。本展のメインイメージにも採用されているカンディンスキーの《自らが輝く》など、休館中に新たに収蔵された、戦前から戦間期に生きた画家たちの作品も多数見ることができる。
ヴァシリー・カンディンスキー《自らが輝く》1924年(新収蔵作品) 石橋財団アーティゾン美術館蔵
なお、この作品がかかる柱の右手にある小部屋には、アーティゾン美術館の建築とデザインについての詳しい展示もあるので、どういう発想や技法で新たな美術館が生まれたのか、創り手たちの思いを感じてみたい。
アーティゾン美術館の建築についての展示
左/4階展示室と5階展示室の吹き抜け空間。右上・右下/各種サインデザインも見やすく個性的
そして、この部屋のほぼ中間となる大きな壁を隔てた先は、戦後美術が集められたエリアだ。ここでは戦前はパリ中心だった近代美術の拠点が世界各地に多拠点化していく流れを感じることができる。ジャコメッティが日本の哲学者をモデルにした《矢内原》、この時代のニューヨークを代表するポロックの《ナンバー2、1951》のほか、日本人の作品では、我が国の前衛芸術の先駆的役割を果たした「具体」のグループの作品や草間彌生らの作品を見ることができる。
7つのキーワードで「創造の原点にあるもの」を掘り下げる
下の階へはエレベーターで下れるようになっており、5階と4階は第2部「アートをさぐる」の展示となる。ここでは、古今東西の美術を「装飾」「古典」「原始」「異界」「聖俗」「記録」「幸福」という7つの視点で掘り下げる。ひとつの集団、一人の作家という個々の枠を超えて、創造の原点にあるものは何なのかを考古学的なアプローチで紐解いていく試みだ。
各セクションには、時代も様々な西洋絵画、日本絵画、彫刻、土器、陶磁器などがテーマに沿ってキュレーションされた形で置かれ、石橋財団コレクションの奥行きを感じさせてくれる。また、ここでもレンブラント、モネ、ピカソ、クレーなど各時代の有名作家たちの作品を見ることができる。藤田嗣治、黒田清輝ら日本人作家の作品も見どころだ。
ローマ モザイク断片《牧神頭部》 1世紀 石橋財団アーティゾン美術館蔵
5階には前半4つのセクションが設けられ、例えば「装飾」の展示では、古代ローマのモザイクタイルに始まり、中国で明の時代に造られた景徳鎮窯の磁気やガレのガラス工芸などを並べて、地域性、時代性を越えた視点から人類にとって芸術の原点となった「装飾」について探っている。
百武兼行《臥裸婦》1881年頃 石橋財団アーティゾン美術館蔵
なお、4階と5階の一角からは展望デッキに抜けることができ、採光のいい廊下のベンチで足を休めることができる。万が一、鑑賞中にスマホの電源が落ちてしまった……という人のために充電用のコンセントを用意している気配りも。
展望デッキ。ベンチで充電可能
5階の展示が、どちらかといえば芸術と人間の内面的な部分とを繋ぐテーマであったのに対して、4階の3つのセクションは芸術が外部とどのような繋がりを持っていたかということに視点を置いている。初めの「聖俗」には、古代エジプト、古代ギリシャの神の像から、ヘンリー・ムア、ジャコメッティの現代彫刻まで、人類が造り出した聖なるものの像が一堂に並べられている。
一方で「記録」のセクションにある小部屋には、レンブラントや藤島武二らの自画像が集められ、自らを記録した画家たちの実像を窺い知ることができる。
4F「記録」のセクションに設けられた自画像の展示室
そして、本展の最後に辿り着くのが「幸福」の展示室だ。この部屋は展覧会に合わせたコンセプトの変更を念頭に置いた造り。今回は前身のブリヂストン美術館を懐かしむイメージにまとめられており、展示作品もブリヂストン美術館時代からの代表作品、ゆかりのある作家の作品を中心に、これから始まる新美術館の歴史でも鑑賞者に「幸福」を届けられるよう思いを込めた展示がなされている。
インフォルーム
展示室の出口の先にはインフォルームがあり、過去にブリヂストン美術館で行われた企画展のアーカイブなどが閲覧できる。また、あいにくこの日は準備中で見学することはできなかったが、ミュージアムショップの品揃えも充実している。
ミュージアムショップ
なお、本展の鑑賞は入場時間を4つの枠(金曜のみ5つ)に区切った日時指定予約制となっている。日時指定のウェブ予約
東京駅から徒歩圏内にあり、アクセス至便な立地のアーティゾン美術館。新たなアートスポットとして美術ファンならぜひ一度は訪れたいスポットであるのはもちろん、本展については大学生以下の入場が無料になっているので、観光ついでに子供連れで訪れて上質のアートに触れる機会にするのもいいだろう。
開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」は、1月18日から3月31日まで東京・京橋のアーティゾン美術館で開催中。
取材・文・撮影=Sho Suzuki
イベント情報
休館日:月曜日(ただし、2月24日は開館)、2月25日(火)
会場:アーティゾン美術館(東京都中央区京橋1-7-2)