ありふれた一夜が、奇跡の一夜になる 二人芝居の魅力が存分に詰まった舞台『春母夏母秋母冬母』が開幕
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撮影:市川唯
2020年2月13日(木)、CBGKシブゲキ!! にて舞台『春母夏母秋母冬母』が開幕した。
本作品は2018年に「FUKAIPRODUCE羽衣」の劇団公演として初演された作品。二人の男女の半生が、二人芝居、ワンシチュエーションで描かれていく、約100分の時空旅行だ。初演オリジナルキャストの深井順子、森下亮に、俳優・声優の土屋神葉、モデル・女優で「東京パフォーマンスドール」メンバーの上西星来という若手メンバーが加わり、4名のシャッフルキャストで上演される。劇場最終リハーサルのレポートがオフィシャルより到着したのでお届けする。
CBGKシブゲキ!!の劇空間いっぱいに広がるカラフルな公園のセット。ジャングルジム、滑り台、ブランコ、砂場…、冬の夜の公園で、一つの缶コーヒーで手を温めながら「世界一、好き!」と屈託なく語り合い、歌い、二人だけの空想世界を楽しんでいる少年少女...。物語は、夜の可愛らしいデートのシーンから始まる。 少女は”こなこ”(深井順子/上西星来 Wキャスト)、少年は”ユキユキ”(森下亮/土屋神葉 Wキャスト)という。
撮影:市川唯
中学生になるこなこは、夜の仕事をしながら女手一つでこなこを育てる母(森下亮/土屋神葉 Wキャスト)と二人で生活している。仕事帰り、夜の公園で酔いを覚ました母は自宅に帰り、すでに眠った娘の寝顔を愛しそうに見つめ語りかける。子どもを抱え一人生きていく寂しさとやるせなさを感じながらも、娘のために頑張ろうとする健気な母の姿が胸にしみる。一見ドライに見えるこなこも、働く母の背中を見ながら母を求める寂しさを覗かせる。母一人、娘一人の日常がリアルな会話で描き出される。
一方、場面はユキユキの幼少時代に遡る。ユキユキの母(深井順子/上西星来 Wキャスト)は、まだ乳ばなれしようとしないユキユキを公園で遊ばせながら沢山のお話をする。それは観客それぞれの思い出の中にも、ふとよぎるような遠い過去の情景。
撮影:市川唯
公園という場所が、時に語らいの所となり、空想の遊び場となり、酔い覚ましの場所となり、子どもと過ごす場所となる。舞台上、セットチェンジは無く、2人のキャストはセットと好対照なシックな衣装を纏い、衣装替えも無い。そのシンプルな設定の中、観客の目の前で、時間や空間がめくるめく移り変わりを遂げながら、2人の男女の子ども時代から熟年期までの半生をリアルに描いてゆく。そしてこの作品では、キャストが互いの母を演ずる、つまり男性も母親役を演ずる、という性別、年齢を超えた表現方法が、大きな特徴であり、魅力となっている。
深井順子は、屈託無いこなこの少女性を自然に体現し、伸びやかに空間を操りながら、少女から大人の女性まで演じ切る。森下亮は、こなこの母の溢れる母性を、軽やかに演じ、唯一無二の母親像を生み出している。土屋神葉は、豊かな表情、通りの良い声、感情の発露で、内包するエネルギーを熱く放ち、ユキユキの少年性とこなこの母を瑞々しく演じる。上西星来は、可憐な美しさの一方で、少女になり母になり飲み屋のママにもなる様々な顔を、一本芯の通った芝居でしっかり演じ、存在感を見せる。
撮影:市川唯
撮影:市川唯
この作品は、深井順子の母親が亡くなったことを機に、FUKAIPRODUCE羽衣の劇団公演として2018年に糸井幸之介が書き下ろした、深井と母のエピソードも随所に散りばめられた私小説的な要素もある作品だが、誰しもが自分の心と会話をしながら、いつのまにか見入ってしまう、普遍的で、壮大な、心に迫る作品である。
全く個性の異なる俳優達が、歌と芝居で紡ぎ出す、無限の可能性を楽しみながら、夜の闇の中で繰り広げられる時空旅行に身を浸したい。
撮影:市川唯
公演は、2月13日(木)〜19日(水)、CBGKシブゲキ!! にて上演、当日券は各公演の1時間前から販売開始する。初日を迎えるにあたり、作・演出・音楽:糸井幸之介 と、キャストからコメントが届いた。
作・演出・音楽:糸井幸之介
こんなにロマンティックでファンタジックでアバンギャルドな公園は、世界中何処を探しても見つからないかもしれません。でも誰の心の中にもこんな公園がある気がします。誰もが、かつてこんな公園に行ったような、懐かしい気持ちになると思います。そんな公園で、皆さんと待ち合わせたいです。そんな公園で、お待ちしてます。
深井順子
元ヤクルトスワローズの野村監督が亡くなってしまいました。父が本当に大好きで子供の頃は神宮球場に通っていました。父と母と姉とあたしの四人で。とてもとても幸せだった。人の命は限りがあります。その限り、を『春母夏母秋母冬母』は描いているように思うんです。心の灯りがともりますように。お待ちしています。
森下亮
あなたにとても大切な、でも今は会えない人がいるならこの舞台を観て下さい。その人に会えるかもしれません。『春母夏母秋母冬母』にはきっとあなたの歌があります。劇場で聴いて下さい。そして帰り道に歌って下さい。
土屋神葉
稽古初日から本番初日を迎えるまで、驚くほど、あっという間でした。お客様を迎えて演じることが出来る喜びと同時に、『春母夏母秋母冬母』の世界で生きる時間がいよいよ残り少なくなったことへの寂しさを感じ、複雑な気持ちです。糸井さんが紡ぎ出す素敵な言葉と、言葉にさえならない稀有な空気感を、ぜひ感じてください。
上西星来
劇場入りをして、TPDのデビュー公演から百回以上立っているCBGKシブゲキ‼のステージがいつもと違う空間になっていることに緊張を抱きながらも、客席を見たらいつもと変わらぬ光景でホッとしています。会場全体を愛や熱、楽しさで埋め尽くして毎公演終われればなと思います!愛や楽しさの中にはもちろん悲しさも寂しさもあります。どんな感情も大切に大切に演じていきます!