舞台『たけしの挑戦状 ビヨンド』戸塚純貴×上田誠インタビュー「これは『上田の挑戦状』だと思っています!」
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左から 戸塚純貴、上田誠
舞台『たけしの挑戦状 ビヨンド』が2020年4月9日(木)から東京・紀伊國屋ホールほかにて上演される。
ところで、「たけしの挑戦状」という「クソゲー・オブ・クソゲー」と評価されたゲームを御存じの方はどれだけいるだろうか?
1986年12月10日にタイトーより発売されたビートたけし監修のファミコン用ゲームソフトが「たけしの挑戦状」。ビートたけしの先鋭的な発想が盛り込まれたこのゲームは、所帯持ちのサラリーマンである主人公が、南海の孤島に眠っている財宝を探しに行く冒険ストーリー。ところがこのゲームにはクリア必須アイテムを入手するために「1時間画面を放置する」など、常識では思いつけない数々の仕掛けが仕込まれており、攻略本が発売されるも読んでもクリアできないと出版社に苦情が殺到。対応に辟易した担当者が「担当者は死にました」と虚偽の回答をしたという逸話もあるくらい。
発売当時大ヒットを記録し、大勢のゲームファンを虜にするとともに困惑をもたらしたのがこの「たけしの挑戦状」なのだ。
そんな伝説のゲームを舞台化するのは、ヨーロッパ企画の代表であり演出家の上田誠。主人公のサラリーマン・アズマ役を西野亮廣(キングコング)が務める。そして謎キャラの一人を務めるのは戸塚純貴。戸塚はTVドラマ『ストリートワイズ・イン・ワンダーランド』そして舞台『続・時をかける少女』で上田の作品に出演して高い評価を得ている。さて、そんな戸塚はこの作品でどのような役を担うのか。何より上田がどのような作品にしようと考えているのか。某月某日、上田と戸塚に話を聴いた。
取材部屋にはまさにファミリーコンピュータで「たけしの挑戦状」を楽しむ二人がいた。
――ゲームの名前は知っていましたが、本物のゲームを見たのは初めてです!
戸塚:僕もです。これ、面白いですね。手応えは全くないけど、このつかみどころのなさ加減が面白いですね。このゲームが世に出たのは86年ですが、今の時代にも十分活かされるような最先端の仕組みもあって! マイクで歌うとかね。
戸塚純貴
上田:そうそう。このファミコンのコントローラーに内蔵マイクがついていて、マイクに向かって声を出すと、TV画面に反応が出るんですよ。アーアーアー(マイクに向かって声を出す上田。画面には「そんなにおおきなこえをださないでくれ」とメッセージが)ほらね。任天堂さんはマイクに向かってしゃべったらゲームから自分の声が出ると嬉しいよねって思ってつけたくらいの機能なんですが、とはいえこの機能はそう積極的には使われなかったんです。でもたけしさんは「これでカラオケが出来たら面白いんじゃない?」って発想で使ったんだと思うんです。
――本当に凄い! ところで、お二人はいわゆる「ゲーマー」ですか?
戸塚:ゲームは好きですね。最近のFPS系(ファーストパーソン・シューティングゲーム)をオンラインで遊んでいます。上田さんは自分でゲームを作ってしまうくらいのゲーマーですよ。
上田:でも僕は最近のゲームはやらないですよ。Nintendo Switchを少し。やっているとは言えないくらい少し。生活の中での優先順位がねー。相当時間がない状態なんです。TVも映画も観なきゃならないし、本も読まないとならないので、ゲームをする時間がないんです。
――そんな時に「ちょっと息抜きで……」と手を出したら最後ですよね(笑)?
上田・戸塚:そうなんです(笑)。
――皆そこは一緒ですね(笑)。さて、「たけしの挑戦状」という伝説のゲームを舞台化されるという事ですが、具体的にはどのような内容になるのでしょうか?
上田:戸塚くんは現時点では何も知らないので僕から説明します(笑)。
左から 戸塚純貴、上田誠
戸塚:なにせ配役のところが「?」になってますからね。こんな公演チラシ見た事ないですよ!今井(隆文)くんも「?」になっているので二人で「何をする役なんだろう」って話していますよ。
上田:ざっくり言うと、この舞台ではゲームの中の話とゲームの外、つまりプレイヤーのリアルな生活という二重の世界を描こうとしています。そしてこのゲームが発売された86年頃と現代が交錯するようなものにしたいなと思っています。だから一人何役もやる事になりますし、西野さんですらゲームの中の人物も演じる事となるでしょうね。で、戸塚さんの役もゲームの中のいちキャラクターでありつつ、現実世界ではアズマに何かしら影響を与える役……という感じで。これ以上はネタバレになるので当日までのお楽しみですが、かなりキーマンになると思いますよ。
(TV画面に映るゲームの1キャラクターを指さして)あ、このキャラを戸塚さんにやってもらおうと思っています!
戸塚:ええっ! これですか! 今初めて知りました(笑)
――……今初めて聞かされた配役ですが、心境はいかがですか?
戸塚:困惑しています(笑)。ゲームのキャラみたいなぎこちない動きもするんですかねー。っていうかやりたいですよね!
上田:しゃがんだ姿勢からジャンプする動きもね!
戸塚:普通に飛ぶよりジャンプ力が変わるんですよね(笑)。で、このゲームの存在はもちろん知っていたんですが、改めて今実際にゲームをやってみると、これの舞台化って無理なんじゃ? って思いました。でも上田さんだったらできるんじゃないかな、上田さんなら他の人がやらなそうな事を面白おかしく実現するので、そこに参加出来る事が嬉しいです。今日この場に来るまで、自分の役どころがわからなかったのでそこはドキドキしていましたが、配役を聴いてよりワクワクが増えました。
上田:今あえてやらなくてもいいはずの「たけしの挑戦状」の舞台に西野さんが出る意味を考えてみるのも面白いよね。先日別のインタビューで西野さんは「自分が出来そうな事ばかりでなく、あえて勝算が見えない事に挑戦するのが面白いと思う」って言っていて、まさに挑戦者の姿勢だなあと感じました。
上田誠
今回は西野さんvs.ほかの役者たちという関係性で作られます。西野さんは演劇人ではなく、他の方々は舞台経験も豊富な方が多いという座組で、きっと西野さんも緊張していると思うし、僕らは僕らで西野さんという人物の迫力、存在感にどう立ち向かっていくか、が面白いなと思うんですよ。
戸塚:すべては上田さんの頭の中にありますから早く全貌が知りたいです。
上田:86年といえばたけしさんは中も外も激動の時代で、その数年後には北野映画を作り……そんな当時のたけしさんと同い年(39歳)になった西野さんもいろいろ思うところがあるんじゃないかなあ。
――そして戸塚さんをキャスティングされた理由も伺いたく。
上田:戸塚くんは何度も仕事をしているんですが……。
戸塚:上田さんは僕の事を「パラドックス要員」だと思っているんじゃないですか?芝居の後半に長台詞で「実は」と解説する役目を担わされているような気がしますよ。
上田:(笑)。戸塚くんは出身が東北の方じゃないですか。そういう点でも信用している所がありまして(笑)。西や南出身の人とは違う熱さを持っているなと。ラテン的な熱さではなく芯の奥に秘めたる熱さを持っている。僕も冬は底冷えする京都出身なのですが、そこにシンパシーを感じるんです。怖さすら感じる。この世界に入った動機も「イケイケで人気者になってやろう」というのではなく「役者になっていなかったら車関係の仕事をしていた」という手堅く芯が通っている、確固たる価値観を持っているなあと思えてそこに信頼を置いているんです。
戸塚:嬉しいです。ありがたいですね。
戸塚純貴
上田:でもまた「パラドックス要員」にするかも(笑)。
戸塚:(笑)。僕、上田さんとお仕事できるのは凄く嬉しいんです。でも最終的に舞台後半にそこまでの謎をすべて畳みかけるように解説する「パラドックス要員」として長台詞に立ち向かう事だけが怖いんです。もっと前の芝居からネタを回収しといて欲しいなあ……って。上田さん、僕これまで上田さんの作品に出たとき100%パラドックス要員やってるんですよ! 知ってましたか(笑)?
上田:え?そうだったっけ?あ、本当だ(笑)。何ででしょう。信用しているんでしょうね(しれっと)。でも戸塚くんはよく喋るんですよ。少人数の時は特に。そういえば京都で大人数で飲んだ時に僕も同席させていただいた事があるんですが、その時は錚々たる顔ぶれの中、戸塚くんはからっきしダメでした(笑)。
戸塚:あの時は小栗旬さんとか、本当にすごい顔ぶれでしたから、何もしゃべれずただべろべろになっていたという(笑)。
上田:そういうところにむしろ好感が持てましたね。ああいう現場でもブイブイ言わせているのかと思っていたら、凄くおとなしかったので(笑)。
上田誠
――逆に戸塚さんからみた上田さんの魅力や「これはアカン」というような事も伺いたいのですが、いかがでしょうか?
戸塚:僕は「ヨーロッパ企画」の舞台が凄く好きで「いつか上田さんと一緒に仕事をしたい」と思っていたんです。そうしたら上田さんが脚本を手掛けた『ストリートワイズ・イン・ワンダーランド』で初めてご一緒する事ができて。現場に上田さんもいらしたんですよ。でもこの作品は監督が別にいらっしゃるので、自分は口を出さないという素振りでしたが、監督がいない時に上田さんにこそッと聞いたら「こうでああで」と監督ばりにすごく語ってくれたんです。その情熱や皆をしっかり見ている姿を知ったので僕も信頼しているんです。
初めて舞台で一緒になった時も独特の作り方をしていたんです。タイムトラベルもの(『続・時をかける少女』)だったんですが、その当時の時代背景をスクリーンを使って皆で一緒に勉強するんです。まるで大学の授業みたいで「この時代の象徴的な作品を観ましょう」って。共演者同士の共通認識が生まれるので、稽古とは別に同じ時間で同じものを自分の中に取り入れる事が出来たんです。
あと、前に上田さんのメモを書き込んでいるノートを見る機会があったんです。そこには2mmくらいの文字で、時代による特徴から自分のレポートから何から真っ黒になるくらいびっしり書いてあって。上田さんの脳みその中ってこんなになってるんだ、と思いましたね。
左から 戸塚純貴、上田誠
上田:僕は執筆に当てる時間のうち3分の2くらいはモノを読んで整理している時間なんです。人によっては書く事に時間を割く人、演出をする時間に割く人などもいると思うんですが、僕はまずそこに至るまでに調べる事に力をかける派なんです。その結果、『続・時をかける少女』の時は稽古時間が短くなってしまいましたが(笑)。
戸塚:本番1~2週間前くらいにようやく台本が完成しましたからね(笑)。それから毎日居残りで石田剛太さんと特訓で稽古つけていただきました。必死で台詞を覚えていましたね。……このゲームも皆でやったらまた違う感想になるかもですね。
上田:きっと皆で最後までやってみて、なるほどこういうゲームなんだ!と共通認識を持ってから舞台の台本を見る事になるでしょうね。こういう作業に戸塚くんみたいにしっかり付き合ってくれる俳優さんはそうそういないんです。それは僕としても嬉しいんです。
ってここまで戸塚くんの俳優としての魅力にはまったく触れてないんですが、大丈夫?身体が細いとか言っておくべき?細いから未来人が似合うとか?
戸塚:細いってそれ俳優としての良さですか(笑)? でも楽しいですよね。こういう時間って。今回『たけしの挑戦状』っていうタイトルですが、僕は『上田の挑戦状』だと思っていますから!全力で受けてたとうと思っています。
上田:(笑)。
左から 戸塚純貴、上田誠
取材・文=こむらさき 撮影=山本れお