マシュー・モリソンにインタビュー~ディズニー・ソングのカヴァー・アルバムをリリース
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Matthew Morrison
ニューヨーク大学で演劇や歌、ダンスを学んだマシュー・モリソンが活躍の場として最初に選んだのはブロードウェイだった。ミュージカル『フットルース』でデビューし、『ヘアスプレー』のクリス役で大ブレイクした。華やかなブロードウェイの舞台に立ち続けた確かな実力と存在感は、今年1月にゲスト出演したシンシア・エリヴォ・ミュージカル・コンサートでのパフォーマンスでも十分にわかった。
そんな彼の名前を世界に知らしめたのは大ヒットしたTVドラマ『glee/グリー』。グリークラブの顧問、ウィル・シュースター先生役を2010年から2015年まで演じて、一躍人気スターとなった。読者のなかにもあの『glee/グリー』のシュースター先生かと、ドラマの映像を思い出された方もいるだろう。そのマシューがアルバム『ディズニー・ドリーミングwithマシュー・モリソン』をリリースした。タイトルでわかるかと思うが、ディズニーのカヴァー集だ。過去にディズニー作品への出演歴はない。そんな彼がなぜ今回ディズニーの音楽だったのか、マシューにいろいろ語ってもらった。
【動画】Matthew Morrison - Go the Distance PV
――まず、マシュー自身のキャリアからうかがえますか。エンターテイメント界へのデビューがブロードウェイですよね。ミュージカル俳優になるのが夢でしたか?
それに答えようとすると、子供時代に遡ることになって、少し話が長くなるけれど、いいかな?
――もちろん!! マシューがどんな子供だったのか、ぜひ知りたいです。
僕は一人っ子で、両親が共働きだったので、ひとり家でお留守番をすることが多かった。友達はいたけれど、ひとりで過ごす時間がどうしても長くなった。その環境で僕は、自然と想像力豊かな子供に育っていった。自分の頭の中にいろいろな世界、物語を作り上げていって歌っていた。それが僕のミュージカルの原点だと思う。それから実際に劇場に足を運んで、本物のミュージカルを観たのは10歳頃のこと。もう夢中になったよ。観終わった後もずっとずっと劇中歌を歌っていた記憶がある。ブロードウェイ・キャストによるアルバムも買ってもらって、いつも家で一緒に歌っていた。そんな子供だった。
――その時からブロードウェイで活躍するのが夢になりましたか。
当時は、ブロードウェイの舞台に憧れを抱いていた。でも、男の子って父親の背中を追いかけがちで、僕の父は助産師、出産を手伝う仕事に誇りを持っていた。それに影響された時期もあったけれど、高校2年生の時に社会勉強を兼ねて、父の仕事に立ち会ったことがあった。助産師の仕事がいかに大変か、現実を見て、僕は歌と踊りを続けようと思った(笑)。目指したのはもちろんブロードウェイの舞台。それが19歳の時に、『フットルース』で叶った。夢の実現に喜ぶ一方で、あの舞台に立つと、いつか主役を演じたいと思うものなんだ。それが叶い、トニー賞にノミネートされたりもした。さらにテレビドラマに興味を持ち、挑戦してみたいと思っているところに『glee/グリー』の出演依頼が舞い込んできた。そういう意味では常に夢を実現させられてきたので、僕はとても恵まれていると思っている。
――では、今回ディズニーのカヴァーアルバムを作るのも夢のひとつだったのかしら……。
そうだね、今回のアルバムは、息子レヴェルの誕生に深く関係しているんだ。僕は、父親になるのが夢だった。念願だった親になって初めて知ったのは、何かにつけて僕自身の子供時代を思い出すことだった。子供時代の僕は、先ほども言ったようにいつもそばに音楽と空想の物語があった。音楽に関しては、やはりディズニーが大好きだった。そんな子供の頃のことが蘇ってきたことがアルバム制作のひとつのインスピレーションになった。息子と一緒に楽しめる、家族で喜びを共有できる作品を作りたいという思いが制作の出発点になったんだ。
――子供はもちろん大人も愛するディズニー作品。名曲も多くあります。漠然とした質問になりますが、ディズニー音楽の魅力は、どこにあると思われますか。
ディズニーの音楽は、夢と希望に満ちているよね。さらに物語性があって、その普遍的な物語が世界中で愛されている。そして、作品に関しても夢に向かって頑張る姿や、その旅を描いていてワクワクさせてくれるし、健気な主人公と対照的な悪役が出てきて、ドキドキもさせてくれたりする。そういう感情を経験するのって子供時代に必要なこと。そして、大人に成長した時に大切な思い出になってくれる。それが大きな魅力だと思うよ。
――聞くところによると、ディズニー側から自由に選曲することを許されたとか。
そうなんだ、うれしいことに全カタログから自由に選曲していいと言ってもらえたんだ。カタログには膨大な数の曲があり、当然知らない歌もあった。僕は、時間をかけながら、歌に込められたメッセージを丁寧に確認しつつ選曲の作業を進めた。途中で見落としている曲はないかと、何度も繰り返しカタログを調べ直した。そこで発見できた曲もある。『ダンボ』の劇中歌「もし象が空を飛べたら」は、まさにそうやって出会った。ただ、10曲に絞るのは至難の業だったよ(笑)。
――そう思います。10曲のなかにはディズニー初期の代表曲「星に願いを」もありますが、何か選曲のポイントになったことはありますか。
悩み抜いたからねぇ(笑)。ひとつは、父親として、夫として、また、夢を追うひとりの人間として、自分の人生との接点があるストーリーが選曲のポイントになった。もちろん思い入れのある曲もあるし、息子が大好きな『トイ・ストーリー』の主題歌「君はともだち」もある。意識的に何十年も前のクラシカル・ソングも選んでいる。「もし象が空を飛べたら」もそうだし、今ではディズニーランドで耳にする「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー」も1940年代に生まれた歌で、僕なりの解釈で新しい生命を吹き込みたいと思った。そうやって辿り着いた10曲なんだ。
――泣く泣く諦めた曲とかはありましたか?
僕は、子供の頃に『ライオン・キング』が大好きだった。物語も音楽も素晴らしく、だからこそミュージカル化されたりするわけだけれど、新たなアレンジを施すことに問題があり、今回は、泣く泣く諦めた。この作品に登場するイボイノシシのプンバァは、僕が一番好きなキャラクター。おもしろくて、笑えて、とにかく愛さずにはいられない。だからこそ、本当は劇中歌を歌いたかったけれど、仕方ないよね。
Matthew Morrison
――やはりこだわったのは独自のアレンジで歌うことでしたか?
最もこだわり、同時に難しかったのはディズニーの名曲にユニークなアレンジを施して、僕なりに歌うことだった。でも、ディズニーは、どの楽曲も物語を伝えることに長けていて、しかもその物語を際立たせるような美しいアレンジがされている。そんなオリジナルを尊重しつつ、どこまで自分らしさが出せるか。それがチャレンジだった。具体的には
1stシングル「ゴー・ザ・ディスタンス」(『ヘラクレス』)は、マムフォード&サンズにインスパイされて、全編でバンジョーやアコースティック・ギター演奏されている。他の曲でも結構ギターがフィーチャーされている。その背景にあるのはこれまで管楽器をたくさん使った、ジャズっぽいアレンジの作品が多かったので、それらとの差別化を図りたいという気持ちもあったからなんだ。
――でも、「星に願いを」は、ジャズっぽいアレンジですよね。
オリジナルとはかなり違うよね。そもそもこの曲は多くの場合、冒頭の“When a star is born”のパートは歌わず、いきなりサビから歌い始めるんだけれど、僕はあえて冒頭からちゃんと歌いたいと思った。その後で、フィンガースナップを聴かせるなど、ジャズっぽいアレンジになる。子供にとって初めてのジャズ体験になるといい、という思いも込めて。
――もともと女性が歌う歌で、アレンジでレゲエのリズムを取り入れるなど、こんな風に変貌するのかと思う『シンデレラ』の劇中歌「夢はひそかに」もありますよね。これはなぜ歌おうと……。
女の子は、『シンデレラ』を観ると、お姫様になった気持ちになれるよね。そういう願望が満たされる。でも、この歌で歌っている内容は、決して女性だけを対象としたものではなく、男性だって夢を叶えたいという希望を持っている。だから、絶対にこの曲は入れたいと思ったんだ。
――さて、『アラジン』の「フレンド・ライク・ミー」などはキャラクターになりきって歌っているのが伝わってきて、とっても楽しくなりますが、ヴォーカル・レコーディングでこだわったこと、大切にしたことはどんなことですか?
もちろんディズニーの宝物と言える物語を伝えることが一番大切だと思った。アレンジもそうだし、ヴォーカルもオリジナルを超えるのはなかなか難しい。さらに世界中にディズニー作品を愛する人が大勢いる。そんな人達を思い浮かべると、ついつい緊張してしまう。そのドキドキを意識的にポジティヴに転じさせて歌おうと思った。ロック調にしたり、フォーキーに歌ってみたり、時にはメランコリックに。ララバイ風に優しく歌う曲もある。難しい曲もあったけれど、キャラクターになりきって歌うおもしろみも経験できた。それが楽しかったね。
――とりわけ難しかった曲はどれですか?
挙げるとすると、『ダンボ』の「もし象が空を飛べたら」かな。この曲は、さっきも言ったようにカタログで発見した曲だった。昨年実写版が公開されて、みんなも知るようになったけれど、アニメーション映画は1941年の公開で、あまりカヴァーされていない曲のひとつだ。歌の物語としては誰もが疑心暗鬼に陥る時があるけれど、魔法や奇跡が起きることはある。それを信じる大切さを歌っているんだ。今回チャレンジだったのはロック調のアレンジで、エレキギターがフィーチャーされている。こういう曲をあまり歌ったことがなかったので、僕にとっては難しいというよりは、チャレンジだった。
――ところで、息子さんは、お父さんの「君はともだち」を聴いて、どんな反応をしているんですか?
見て見て、この写真。レヴェルが僕の歌う「君はともだち」を聴いて、踊っている姿なんだ。
――めちゃくちゃカワイイ!!
(超ニッコリの笑顔で)息子は、本当に『トイ・ストーリー』のバズ・ライトイヤー(体にいろいろな仕掛けがあるおもちゃ)が大好きでね。ウチではテレビの前にずっと座っているような子供にしたくないという思いから、あまりテレビを見せていないんだ。その代わりによく音楽をかけている。僕が歌う『君のともだち』をかけると、こんな風に喜んで踊ってくれる。僕にはそれがとてもうれしくて、父親になったことを実感する、心温まる時間になっているんだよね。
――本当にいいお父さんなんですね。ところで、アルバムのタイトル『ディズニー・ドリーミング with マシュー・モリソン』について教えてもらえますか。なぜこのタイトルに?
ディズニーの名曲を歌っているので、“ディズニー”という言葉は入れたいと思った。僕にとって父親になることは夢だった。でも、実際に父親になると、愛すること、夢を抱くことに新たな意味合いが加わるようになった。初めて無条件に人を愛する喜びを実感している。そういういろいろな思いを“ドリーミング”に凝縮させた。そして、withと続けたのは、僕がこのアルバムを通して、みんなの父親のような存在になりたいという願望があったからなんだよね。
――ジャケット写真もすごくかわいいですよね。マシューの影がミッキーの耳になっていて。
自分の影を追いかけるということで、ピーターパンをイメージしたところがまずあるんだ。僕はダンサーでもある。今日も日本用の撮影で、カメラマンに「ちょっと動いて」なんて言われると、待ってましたとばかりにジャンプしたりと、体が喜んで動いてしまう。このように体が少し宙に浮いている感じにしたのは、夢の世界にいることを表現したかったからなんだ。ブックレットの裏表紙に映っているのは僕の息子だよ。
「ディズニー・ドリーミング with マシュー・モリソン」(通常盤)
――この写真も本当にカワイイ。さて、アルバムが完成して、ご自身で聴いた時、どんな風に思われましたか。
これまでの僕は、完璧に仕上げたいという気持ちが先行してしまい、完成したばかりのアルバムを聴くと、ここもあそこもやり直したいなんて、気になるところがいっぱい出てきてしまうタイプだった。でも、今回の作品に関しては、すごくいい感触を得ている。どの曲もライヴ・パフォーマンスに向いているものばかり。だから、きっとレコーディングでも自然にライヴを意識していたんだと思う。だから、イキイキとしてライヴ感が全体を覆っているような作品に仕上がっている。それが良かったと心から思っているよ。
――では、最後にSPICEの読者にメッセージをお願いします。
SPICEの読者のみなさん、僕のために時間をとって、この特集を読んでくれて、本当にありがとう!! まずお礼を言わせてください。そして、このアルバムに僕は全身全霊を込めたので、みなさんが心から楽しんでくれたら、それ以上にうれしいことはありません。
僕は、1月にコンサートのために日本を訪れたけれど、みなさんが住む美しい国=日本で、次もまたパフォーマンス出来ることを心から楽しみにしています。今回このようなインタビューに答えつつ、自分の言葉でアルバムを紹介する機会をいただいたことに感謝しています。本当に光栄に思っています。あらためてありがとうございます。ぜひアルバムを聴いてください。
Matthew Morrison
取材・文=服部のり子
《マシュー・モリソン バイオグラフィー》
マシュー・モリソンは、舞台、映画で活躍する多才な俳優であり、これまでにトニー賞、エミー賞、ゴールデングローブ賞など、数々の賞にノミネートされたことがある。
ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・アートで、演劇、歌唱、ダンスを学び、ブロードウェイ「フットルース」にてデビュー。彼が大きくブレイクしたのは、ブロードウェイ版『ヘアスプレー』でリンク役を演じた時である。その後、『ライト・イン・ザ・ピアッツァ』でトニー賞に、そして『10 Million Miles』では、ドラマ・デスク・アワードのミュージカル男優賞にノミネートされた。さらにトニー賞のミュージカル・リバイバル作品賞を受賞した、ニューヨークのリンカーンセンター劇場での『南太平洋』では主演を務めた。
2010年、彼はFOXのミュージカル・コメディである『glee/グリー』のテレビシリーズで、グリークラブの顧問の先生、ウィル・シュースター役でとして主演、一躍有名になり、広く名前を知られるようになった。本シリーズは、ライアン・マーフィーにより制作され、2010年、2011年共に、ゴールデングローブ賞の作品賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞した。最終的に6シーズンにも及ぶ成功を収め、2015年に物語は完結した。
2012年、書籍『すべてがわかる妊娠と出産の本(英語版)』が原作、カーク・ジョーンズが監督を務めた映画『恋愛だけじゃダメかしら?』にも出演。この映画は、キャメロン・ディアス、ジェニファー・ロペス、デニス・クエイド、その他名だたる面々が同じく主演を務めた。彼は、突然、父親としてのあり方、父親に求められるものは何かという問題に直面する、有名なダンスショーのスターを演じた。2012年5月18日にUS公開。
2013年6月、彼は自身最新のアルバム『Where It All Began』を発表した。これはブロードウェイのスタンダードレコードであり、伝説のフィル・ラモーンがプロデュースを手掛けた。2011年、このアルバムに先駆け、彼は自身の名前を冠したデビューアルバムをマーキュリーレコードより発表した。このアルバムでは、スティング、グウィネス・パルトロー、エルトン・ジョンなどの豪華ゲストをフィーチャリングしている。
モリソンの直近のブロードウェイでの活躍は、2015年3月~2016年1月まで上演されたブロードウェイ・ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』において、ジェームス・マシュー・バリー役で主演したことだ。このブロードウェイ版は、デヴィッド・マギー脚本の映画版『ネバーランド』(2004年)に着想を得ている。この物語は、劇作家ジェームス・マシュー・バリーと、デイヴィズ家(ピーター・パンのモデルとなった少年を含む)との関係を描いている。彼は、この作品でドラマ・デスク・アワードのミュージカル主演男優賞にノミネート、Broadway.com観客賞のミュージカル主演男優賞を受賞した。
2016年、モリソンは、CBSのヒットショー『グッド・ワイフ』にゲストとして、出演した。ファイナルシリーズを通して、コナー・フォックスというアメリカの弁護士を演じた。また、ABCのショー『グレイズ・アナトミー』にもゲストとして、シーズン13、14を通して出演した。
2019年の初めには、ショークリエイターであり、ディレクターのライアン・マーフィーとFXのアメリカンホラーストーリーシリーズの『AHS:1984』のシーズン9で再タッグ。キャンプ活動のディレクター、トレバー・カーチナー役を演じた。
2019年のホリデーシーズン、モリソンはABCで2つのディズニー関連特別企画に出演。
ABCは『The Wonderful World of Disney:Magical Holiday Celebration』を11月2日に放送。また、毎年恒例の放送の一環として、『Disney Parks Magical Christmas Day Parade』が、
12月25日(水)クリスマスの朝に放送された。
また、3月には選りすぐりのディズニー・カヴァー・アルバム『ディズニー・ドリーミングwithマシュー・モリソン』をリリース。このアルバムの楽曲は、彼にとって最も大切で思い入れがあるディズニーの楽曲より選ばれた。またあらゆる年代のディズニー・クラシック映画の楽曲を網羅している。
リリース情報
Disney Dreamin’ with Matthew Morrison
「ディズニー・ドリーミング with マシュー・モリソン」(通常盤)
「ディズニー・ドリーミング with マシュー・モリソン」(生産限定盤)
■CD
2020年3月13日(金)発売
生産限定版:UWCD-9021(税込4,500円)
通常版: UWCD-1074(税込2,500円)
※初回生産限定盤は、マシューのオフィシャル・インタビューほかスペシャル映像を収録したDVD付!
■Digital
2020年3月6日(金)配信開始
1.フレンド・ライク・ミー(『アラジン』より)
2.ゴー・ザ・ディスタンス(『ヘラクレス』より)
3.君はともだち(『トイ・ストーリー』より)
4.ホール・ニュー・ワールド(『アラジン』より)
5.もし象が空を飛べたら(『ダンボ』より)
6.右から2番目の星(『ピーター・パン』より)
7.夢はひそかに(『シンデレラ』より)
8.ユール・ビー・イン・マイ・ハート(『ターザン』より)
9.星に願いを(『ピノキオ』より)
10.ジッパ・ディー・ドゥー・ダー/ザ・ベアー・ネセシティ(『スプラッシュ・マウンテン』・『ジャングル・ブック』より)
■購入/DLはこちらから:https://lnk.to/MM_DD_n
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