第51回(2019年度)サントリー音楽賞は、ピアニストの河村尚子
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河村尚子 (C)Marco Borggreve
「第51回サントリー音楽賞」の選考が行われ、この度、ピアニストの河村尚子が受賞したことが発表された。河村は、第32回ミュージック・ペンクラブ音楽賞受賞から時をおかずして、栄誉ある受賞となる。
サントリー音楽賞は、日本における洋楽の発展にもっとも顕著な業績をあげた個人、または団体に贈られるもので、1969年の第1回以来、今回が51回目となる。
河村は、2019年に「ベートーヴェン・ピアノソナタ・プロジェクト」を完結し、CD「ベートーヴェン・ ソナタ集1、2」をリリース。そして、新しいレパートリー開拓ともなった山田和樹指揮NHK交響楽団との共演による矢代秋雄「ピアノ協奏曲」においての演奏で、作品の再評価に貢献。こうした近年の目覚ましく充実した演奏活動が評価され、この度の受賞となった。
今後の日本での活動は、10月にオーケストラとの共演や各地でリサイタルを予定。また、東京では10月13日(火)に紀尾井ホールで1年ぶりのリサイタルを行う。
今回はモーツァルト、シューベルトの名作ソナタに加えて、映画『蜜蜂と遠雷』で話題となった藤倉大の「春と修羅」、そして河村がしばらくぶりに取り組むショパンでは後期のノクターン、スケルツォ、幻想ポロネーズなどを予定しているそうなので、今後の活躍も期待したい。
<贈賞理由> 公式サイトより
いまや優れた日本人ピアニストの名を挙げることは、さして難しいことではない。しかし、河村尚子くらい表情豊かで血の通った音楽を奏でる人がどれくらいいるだろうか。
彼女の演奏は、周到なまでに構築的な設計がなされているのだが、しかしなにより驚くのは、その土台の上で、猫のような敏捷性に支えられた閃きの数々が、次々と生気に満ちた音楽的瞬間を炸裂させる点にある。どのフレーズも、どのフォルテも、どのクレッシェンドも、はっきりとした意志と感情が込められているから、それを彼女がどう解釈しているのか、どう扱いたいのかが手に取るように分かる。聴き手は、音楽がひとつの運動であることを、「生きている」何ものかであることを、その演奏からあらためて知らされることになるだろう。
2019年の河村尚子は、ベートーヴェン・ピアノソナタ・プロジェクトと銘打った演奏会シリーズを完結させるとともに、RCAから「ベートーヴェン・ソナタ集1、2」をリリースした。演奏会の中では、「第29番」の弾力性や「第32番」の神秘的な幸福感を、CD録音では「第18番」の可憐さや「第8番」の変幻自在な解釈などを、その豊かな成果の象徴として挙げることができよう。また、新しいレパートリーの開拓という点では、山田和樹指揮NHK交響楽団との共演による矢代秋雄「ピアノ協奏曲」において多彩な音色と鋭敏なリズム感を存分に駆使して、作品の再評価にもつながる鮮やかな演奏を展開した。
選考会においては、その演奏の「語る」ような性格を委員全員が認めながらも、ベートーヴェンの後期作品の演奏にはまだ彫琢の余地が残されているのではないか等の議論もあった。しかし近年の目覚ましい充実、そしてさらに大きな飛躍の可能性という点において、最終的には意見の一致を見た。
以上、河村尚子の2019年における音楽活動を、第51回サントリー音楽賞にふさわしい成果と判断するものである。
沼野雄司委員
河村尚子プロフィール
その他のレコーディングとして、ソロでは仏ディスコヴェール(2002年/同レコーディン具はXRCD化され、日本伝統文化振興財団より2012年6月に再発売された)、独アウディーテ(2004年)、ルール・ピアノ音楽祭エディション(2008年/ライヴ録音)が、また日本コロムビアからシューマンのピアノ五重奏曲(2010年/トッパンホール)、京響レーべルからラフマニノフのパガニーニ狂詩曲(2009年/広上淳一指揮京響との共演)、独コヴィエロ・クラシックからモーツァルトのピアノ協奏曲第21番(2014年/ボストック指揮アルゴヴィア・フィルとの共演)がリリースされている。