第51回(2019年度)サントリー音楽賞は、ピアニストの河村尚子

2020.4.2
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クラシック

河村尚子 (C)Marco Borggreve


「第51回サントリー音楽賞」の選考が行われ、この度、ピアニストの河村尚子が受賞したことが発表された。河村は、第32回ミュージック・ペンクラブ音楽賞受賞から時をおかずして、栄誉ある受賞となる。

サントリー音楽賞は、日本における洋楽の発展にもっとも顕著な業績をあげた個人、または団体に贈られるもので、1969年の第1回以来、今回が51回目となる。

河村は、2019年に「ベートーヴェン・ピアノソナタ・プロジェクト」を完結し、CD「ベートーヴェン・ ソナタ集1、2」をリリース。そして、新しいレパートリー開拓ともなった山田和樹指揮NHK交響楽団との共演による矢代秋雄「ピアノ協奏曲」においての演奏で、作品の再評価に貢献。こうした近年の目覚ましく充実した演奏活動が評価され、この度の受賞となった。

今後の日本での活動は、10月にオーケストラとの共演や各地でリサイタルを予定。また、東京では10月13日(火)に紀尾井ホールで1年ぶりのリサイタルを行う。

今回はモーツァルト、シューベルトの名作ソナタに加えて、映画『蜜蜂と遠雷』で話題となった藤倉大の「春と修羅」、そして河村がしばらくぶりに取り組むショパンでは後期のノクターン、スケルツォ、幻想ポロネーズなどを予定しているそうなので、今後の活躍も期待したい。

<贈賞理由> 公式サイトより

いまや優れた日本人ピアニストの名を挙げることは、さして難しいことではない。しかし、河村尚子くらい表情豊かで血の通った音楽を奏でる人がどれくらいいるだろうか。
彼女の演奏は、周到なまでに構築的な設計がなされているのだが、しかしなにより驚くのは、その土台の上で、猫のような敏捷性に支えられた閃きの数々が、次々と生気に満ちた音楽的瞬間を炸裂させる点にある。どのフレーズも、どのフォルテも、どのクレッシェンドも、はっきりとした意志と感情が込められているから、それを彼女がどう解釈しているのか、どう扱いたいのかが手に取るように分かる。聴き手は、音楽がひとつの運動であることを、「生きている」何ものかであることを、その演奏からあらためて知らされることになるだろう。
2019年の河村尚子は、ベートーヴェン・ピアノソナタ・プロジェクトと銘打った演奏会シリーズを完結させるとともに、RCAから「ベートーヴェン・ソナタ集1、2」をリリースした。演奏会の中では、「第29番」の弾力性や「第32番」の神秘的な幸福感を、CD録音では「第18番」の可憐さや「第8番」の変幻自在な解釈などを、その豊かな成果の象徴として挙げることができよう。また、新しいレパートリーの開拓という点では、山田和樹指揮NHK交響楽団との共演による矢代秋雄「ピアノ協奏曲」において多彩な音色と鋭敏なリズム感を存分に駆使して、作品の再評価にもつながる鮮やかな演奏を展開した。
選考会においては、その演奏の「語る」ような性格を委員全員が認めながらも、ベートーヴェンの後期作品の演奏にはまだ彫琢の余地が残されているのではないか等の議論もあった。しかし近年の目覚ましい充実、そしてさらに大きな飛躍の可能性という点において、最終的には意見の一致を見た。
以上、河村尚子の2019年における音楽活動を、第51回サントリー音楽賞にふさわしい成果と判断するものである。

沼野雄司委員

河村尚子プロフィール

兵庫県西宮市生まれ。1986年渡独後、ハノーファー国立音楽芸術大学在学中にヴィオッティ(ヴェルチェリ)、カサグランデ、ゲーザ・アンダなどヨーロッパの数々のコンクールで優勝・入賞を重ねる。2006年には権威ある難関ミュンヘン国際コンクール第2位受賞。翌年、多くの名ピアニストを輩出しているクララ・ハスキル国際コンクールにて優勝を飾り、大器を感じさせる新鋭として世界の注目を浴びる。
 
ドイツを拠点に、ヨーロッパ、ロシア、日本などで積極的にリサイタルを行う傍ら、ウィーン交響楽団、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、ロシア国立交響楽団、モスクワ・ヴィルトゥオーゾ、バーミンガム市交響楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、ハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団などのソリストに迎えられている。また、「ルール・ピアノ祭」(ドイツ)、「オーヴェール・シュル・オアーズ音楽祭」(フランス)、「ドシュニキ国際ショパン・フェスティヴァル」(ポーランド)、日本では「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」や「東京・春・音楽祭」などの音楽祭に参加。2011年には、ドイツ・ワイマール近郊にあるエッタースブルク城での音楽祭でアーティスト・イン・レジデンスをつとめ、4夜にわたるソロ・リサイタルを開催し、絶賛を博す。
 
室内楽では、ハーゲン・クァルテットの名チェリスト、クレメンス・ハーゲンとのデュオで好評を得ているほか、マキシミリアン・ホルヌング(チェロ)とロンドン・ウィグモアホール、ラモン・オルテガ・ケロ(オーボエ)とニューヨーク・カーネギーホールにデビューするなど、同世代の実力派アーティストとも積極的な活動を展開している。
 
日本では、2004年小林研一郎指揮東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会でデビュー。以来、パーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団を含む日本国内の主要オーケストラと相次いで共演を重ねる一方、ウラディーミル・フェドセーエフ指揮モスクワ放送交響楽団、ファビオ・ルイージ指揮ウィーン交響楽団、ミハイル・プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団、マレク・ヤノフスキ指揮べルリン放送交響楽団、イルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団などの日本ツアーに参加。その他、サー・ロジャー・ノリントン、ユーリ・テミルカーノフ、アレクサンドル・ラザレフなど多くの指揮者から度々再演の指名を受けている。
 
現在、2019年の日本デビュー15周年に向けて、2年にわたり「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ・プロジェクト」に取り組み、自ら厳選した14のソナタを全4回のリサイタルで披露している。
 
2009年、名門RCA Red Sealレーベルより「夜想 (ノットゥルノ)~ショパンの世界」てメジャー・CDデビュー。 2011年9月、セカンド・アルバム「ショパン:ピアノ・ソナタ第3番&シューマン:フモレスケ」をリリース、各誌で特選盤に選定される。2013年秋、サード・アルバム「ショパン:バラード」のリリースを経て、2014年秋には、プラハ・ルドルフィヌムでのチェコ・フィルとの定期演奏会、およびドイツ・エルマウ城でのクレメンス・ハーゲンとの演奏会をライヴ収録した「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番&チェロ・ソナタ」をリリースした。2018年には4年ぶりのソロ・アルバム「ショパン:24の前奏曲&幻想ポロネーズ」をリリースし、2019年4月、「月光」「悲愴」を含む待望のベートーヴェンCDをリリースする。

その他のレコーディングとして、ソロでは仏ディスコヴェール(2002年/同レコーディン具はXRCD化され、日本伝統文化振興財団より2012年6月に再発売された)、独アウディーテ(2004年)、ルール・ピアノ音楽祭エディション(2008年/ライヴ録音)が、また日本コロムビアからシューマンのピアノ五重奏曲(2010年/トッパンホール)、京響レーべルからラフマニノフのパガニーニ狂詩曲(2009年/広上淳一指揮京響との共演)、独コヴィエロ・クラシックからモーツァルトのピアノ協奏曲第21番(2014年/ボストック指揮アルゴヴィア・フィルとの共演)がリリースされている。
 
また、国際ピアノ・コンクールにおける若者たちの群像劇をリアルに描いた、作家・恩田陸の直木賞受賞小説を原作とした映画『蜜蜂と遠雷』(2019年10月公開)では主人公・栄伝亜夜のピアノ演奏を担当し話題をさらっている。
文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞、新日鉄音楽賞 、出光音楽賞、日本ショパン協会賞、井植文化賞、ホテル・オークラ賞を受賞。
これまで、ウラディーミル・クライネフ、澤野京子、マウゴルジャータ・バートル・シュライバーの各氏に師事。現在、 ドイツ・エッセンのフォルクヴァング芸術大学教授、東京音楽大学特任講師。