芸術性とエンターテインメント性を兼ね備えた珠玉の傑作バレエ/ホーム・シアトリカル・ホーム ~自宅カンゲキ 1-2-3 ~[Vol.20]<ダンス編>

2020.5.11
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おうちをシアトリカルな空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、エンタメ界隈に棲息する人々が激オシする「My Favorite」3選。(SPICE編集部)
 
ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3 [vol.20]<ダンス編>
芸術性とエンターテインメント性を兼ね備えた珠玉の傑作バレエ by高橋森彦

 

【1】マシュー・ボーンの『白鳥の湖』
【2】モーリス・ベジャール・バレエ団『バレエ・フォー・ライフ』
【3】英国ロイヤル・バレエ団『不思議の国のアリス』

 

バレエといっても「王子様とお姫様が出てくるおとぎ話」ばかりではない。また現代バレエは「高尚で難しい」とは限らない。ご紹介する3本は古典バレエとも難解な現代作品とも違う。バレエ愛好家にとどまらず広く熱く愛され、芸術性とエンターテインメント性を兼ね備えた掛け値なしの傑作である。バレエの深さ・楽しさを思う存分味わいたい。

【1】マシュー・ボーンの『白鳥の湖』

マシュー・ボーンの「白鳥の湖」トレイラー

最初におすすめしたいのがマシュー・ボーンの『白鳥の湖』だ。ボーンは1960年、英国ロンドン生まれ。アドヴェンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ(AMP)を率い、1995年初演の本作を大ヒットさせた。クラシック・バレエの代名詞『白鳥の湖』を斬新な切り口で捉えた舞台で、音楽はチャイコフスキーの同名曲を用いている。

舞台は現代。主人公の王子は、母親である女王との仲が思わしくなく、恋仲の女友達との関係も認められない。酒浸りになり、やがてはナイトクラブで他の客と騒ぎを起こして追い出され、その現場をパパラッチに押さえられる。絶望した彼は、夜の公園で死のうとするが、そこに一羽の雄々しくも優美なザ・スワンがあらわれる!

最大のポイントは、ザ・スワン、そして宮殿の舞踏会に突如入り込んでくるザ・スワンとそっくりのザ・ストレンジャーを男性が一人二役で演じる点。白鳥たち(全員男性)による迫力の群舞やザ・ストレンジャーが醸すセクシーな雰囲気が見せ場だ。いっぽうでロイヤル・ファミリーがオペラハウスで鑑賞する劇中劇の場面は、その内容の面白さもさることながら王室への風刺的な視点も感じられスパイスが利いている。

特筆は登場人物の感情が言葉抜きに見事に伝わること。振付はバレエに縛られずに自在で、人物の感情や物語をヴィヴィッドに物語る。レズ・ブラザーストーンによる装置・衣裳もボーンの世界観とマッチしていて絶妙だ。ブロードウェイでも評判になり、1999年のトニー賞で最優秀ミュージカル演出賞、最優秀振付賞、最優秀衣裳デザイン賞を受賞した。

また2017年に日本版が実現したミュージカル『ビリー・エリオット』の基になった映画『リトル・ダンサー』(2000年)でも話題に。炭鉱町出身のバレエ少年がプロダンサーになった姿として初演キャストのアダム・クーパーがザ・スワンを披露した。

初演から四半世紀経つが、ニュー・アドベンチャーズのレパートリーとして根強い人気を誇る。クーパー主演(1996年)、リチャード・ウィンザー主演(2010年)のソフトもある。映画やミュージカルでも話題になった大傑作を堪能してほしい。

★Amazon等でのDVD/Blu-ray購入可能


【2】モーリス・ベジャール・バレエ団『バレエ・フォー・ライフ』

『バレエ・フォー・ライフ』PV

20世紀を代表する振付家モーリス・ベジャール(1927~2007年)が英国のロック・バンド、クイーンの楽曲を用いて創作した『バレエ・フォー・ライフ』(1997年初演)も必見だ。

ベジャールとクイーンが協同したのは自然な流れからだった。ベジャールはクイーンのアルバム『メイド・イン・ヘヴン』(1995年)のジャケットに使われているレマン湖畔の風景に惹かれた。自分の別荘からの眺望と重なっていたからだ。クイーンのボーカルだったフレディ・マーキュリー(1946~1991年)も近くで人生の黄昏を過ごした。

ベジャールはマーキュリーと自身の愛弟子ジョルジュ・ドン(1947~1992年)に通じるものを感じる。二人は共に当時「不治の病」と呼ばれたエイズを患い45歳で死んだ。本作はカリスマ的ロックスターと不世出の踊り手へのオマージュで、人生の素晴らしさをこの上なく伝えてくれる。

ベジャールはクイーンの楽曲から17曲を選んだ(ライブ音源も含む)。「ボヘミアン・ラプソディ」や「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」「RADIO GA GA」といった名曲が並ぶが、そこにモーツァルトの音楽も一部使用した。モーツァルトもまた年若くして世を去ったことは周知の通りで、彼らへの哀惜の情が込められている。ちなみにジャンニ・ヴェルサーチが衣裳を担当した。

具体的な物語はない。マーキュリーの人生を追うわけでもない。「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」にはじまり、「ショウ・マスト・ゴー・オン」まで、クイーン&モーツァルトの音楽と多彩なダンスに身を任せればいい。そうすれば、生きる喜びや、悲しみを感じるだろう。

DVDには1997年に収録された舞台映像並びに当時のメイキング、2017年に製作されたドキュメンタリーを併録。作品の背景を深く理解できる。

なお2020年5月、モーリス・ベジャール・バレエ団が来日し本作を東京および各地で上演予定だった。だが新型コロナウイルス感染拡大により年内(2020年12月まで)に延期すべく調整中(4月30日現在)。日本で過去4度上演され熱狂を呼んだ舞台に再会できる日を心待ちにしたい。

★WOWOWにて2020年5月16日(土)18:25より放映  (https://www.wowow.co.jp/detail/170325)
★Amazon等でのDVD/Blu-ray購入可能


【3】英国ロイヤル・バレエ団『不思議の国のアリス』 

Alice's Adventures in Wonderland trailer 2013 (The Royal Ballet)

今世紀に誕生し最もヒットしているバレエはクリストファー・ウィールドン振付『不思議の国のアリス』だろう。世代を超えて見る者の心を潤す至福の名作だ原作はルイス・キャロルが1865年に著した児童小説。2011年、英国ロイヤル・バレエ団で初演され、ヨーロッパや北米のバレエ団が競って導入している。日本では2018年、新国立劇場バレエ団のレパートリーに入った。

ウィールドンは1973年英国生まれで、英国ロイヤル・バレエ団を経てニューヨーク・シティ・バレエで踊った経歴を持つ。『不思議の国のアリス』に続いて『冬物語』、ブロードウェイミュージカル『パリのアメリカ人』という大作を成功させている売れっ子だ。英国で育まれた演劇的素養とニューヨークで磨かれた音楽性が卓越し、音楽家やデザイナーとのクリエイティブな創作により舞台芸術の新たな可能性を追求しているのが頼もしい。

幕開けから「これがバレエ⁉」と驚くだろう。打楽器を印象的に用いた心浮き立つ音楽(ジョビー・タルボット)、ヴィクトリア朝時代の建物やアイテムを生かした美術・衣裳(ボブ・クロウリー)の虜になる。そして少女アリスが不思議の国へと誘われる場面などで用いられるプロジェクション・マッピングも効果的で場面転換もスピーディーだ。

ダンスの見せ場もバッチリ。アリスがハートのジャックと不思議の国で再び出会い踊るパ・ド・ドゥからは二人の喜びが微笑ましく伝わる。イモ虫やチェシャ猫の踊りは着ぐるみを着て踊るわけではない。ウィールドンがどのように表したのかにご注目あれ。マッドハッターが電光石火のごとく踊るタップダンスは痛快で、ハートの女王が踊る「タルト・アダージョ」は抱腹絶倒間違いなしだ。色とりどりのダンスの数々によって、原作の眼目たる「言葉遊び」に替わる愉悦に浸れるのが堪えられない。

長らく2幕版のDVDが定番化していたが、2018年に改訂版である3幕版のソフトが発売された。アリスのローレン・カスバートソン、ハートのジャックのフェデリコ・ボネッリ、ハートの女王のラウラ・モレーラ、マッドハッターのスティーヴン・マックレーら演技巧者たちに注目したい。

なお2020年6月、新国立劇場バレエ団が新国立劇場、愛知県芸術劇場、高崎芸術劇場で上演予定だったが、緊急事態宣言の延長により公演準備を進めることが難しくなり中止となった。残念でならないが、観劇を予定していた方もDVD/Blu-rayで鑑賞し楽しんでみてはいかがだろうか。

★Amazon等でのDVD/Blu-ray購入可能


文=高橋森彦 

作品情報

マシュー・ボーンの『白鳥の湖』

■音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
■演出・振付:マシュー・ボーン
■ザ・スワン/ザ・ストレンジャー:
アダム・クーパー(2006年版)
リチャード・ウィンザー(2010年版)
■マシュー・ボーン公式サイト:https://matthewbourne.org/
■ニュー・アドベンチャーズ公式サイト:https://new-adventures.net/

モーリス・ベジャール・バレエ団『バレエ・フォー・ライフ』

■振付:モーリス・ベジャール
■音楽:クイーン、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
■衣裳:
ジャンニ・ヴェルサーチ
■出演:モーリス・ベジャール・バレエ団
■モーリス・ベジャール・バレエ団公式サイト:https://www.bejart.ch/

英国ロイヤル・バレエ団『不思議の国のアリス』 

■音楽:ジョビー・タルボット
■振付:クリストファー・ウィールドン
■出演:英国ロイヤル・バレエ団
■英国ロイヤル・バレエ団公式サイト:https://www.roh.org.uk/about/the-royal-ballet