AAAMYYYが秘める現代的なミューズ、あるいはポップアイコンとしての可能性 【SPICE×SONAR TRAX コラム vol.1】
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AAAMYYY
J-WAVEの番組『SONAR TRAX』と連動し、音楽シーンの中で特に注目いただきたい存在をピックアップするコラム企画が始動。第1回は、Tempalayのメンバーであると同時に、他アーティストのサポートや客演、そして自身もシンガーソングライターとして活躍をするAAAMYYYについて、最新作「HOME」のレビューも交え紹介する。
今、アンダーグラウンドとオーバーグラウンドの垣根を越えて新しく生まれるポップミュージックを能動的に享受しようとするリスナーたちに、さらにはジャンルの記号性に束縛されない表現や活動を追求している同業のアーティストたちからも最も愛されている女性アーティストが、彼女、AAAMYYYであると断言してもいいだろう。
説明不要だろうが、AAAMYYYはやはり独立したサウンドプロダクションとソングライティングの妙をもって、刺激的かつ普遍的な感触に富む新時代のバンドミュージックを生み出している3ピースバンド、Tempalayのメンバーでもある。彼女がそれまでサポートメンバーとして参加していた同バンドに正式加入したのが2018年7月だが、それ以前も彼女はソロアーティストとして自由なアクションを見せてきた。たとえば盟友であるTENDREやRyohu(KANDYTOWN)のライブサポート及び楽曲への客演をはじめ、彼女は一つひとつの仕事を真摯に編んできたという印象が強い。その結果、さまざまなアーティストがAAAMYYYの声やメロディを求め、彼女の名がクレジットされている楽曲はことごとく名曲としてリスナーに受け入れられていった(その充実の内容は枚挙に暇がないので、ぜひサブスクなどで確認してみてほしい)。
筆者が彼女の存在を初めて確認したのが2016年末だったと記憶している。Ryohuのライブにコーラスとして参加していた。フォトジェニックでありながら人懐っこい佇まいと、聴く者を緊張させないまま魅了する色気を帯びた声質はすぐに惹かれるものがあった。その魅力は彼女の人としての胆力であり、確固たる意思を持ってヒューマニズムを重んじるアーティストとしての態度に裏打ちされているものだと思う。だからこそ、彼女の支持の集め方はジェンダーレスだ。そういう意味でもとても現代的なミューズ、あるいはポップアイコンとしての可能性をAAAMYYYは秘めている。
長野県の自然豊かな山村で生まれ育ったAAAMYYYは22歳のときにカナダに留学し、その際にGarageBand(DTMソフト)で遊ぶようになってから曲作りを始めたという。それ以降、DTMで楽曲制作を重ね、ソロ作品として2017年9月リリースの『WEEKEND EP』を皮切りに、翌年の2月の『MABOROSI EP』、『ETCETR EP』と3本のカセットEPをリリースした。今でも彼女はスマホのアプリを使用しデモ作りをしているようだが、サウンドデザインや音像も含めて宅録然としたインディポップとしてのムードが強いカセットEP群を経て、昨年2月にリリースした1stフルアルバム『BODY』でAAAMYYYの音楽像はグッと奥行きと深度が増した。プログラミングを軸に起きつつも──彼女のライブセットがサポートミュージシャンを迎えながら変化していったように──アナログシンセや生楽器の響きを活かしたサウンドプロダクションの中で、自然体のまま艷やかに躍動するボーカルや、ノスタルジアとモダンな趣が同居したメロディメーカーとしての強みをおおいに発揮している。また歌詞においてもSF的な世界設定の中に自身のバックボーンとなっている死生観や宗教観を織り交ぜ、独創的な文体を得た。
そして、5月13日に配信リリースされたばかりの新曲「HOME」である。ギターに加藤成順(MONO NO AWARE)、ベースにTENDRE、ドラムに澤村一平(SANABAGUN.)という親交の深いミュージシャンとともにかつてないほどオーガニックでウェルメイドなサウンドと、前述した彼女の人としての胆力とヒューマニズムが旋律化したような歌を鳴らしている。「HOME」はSUMOのCMソングとして書き下ろされた楽曲である一方で、今まさにこのときコロナ禍と向き合っているかけがえのない他者との絆を確認し、再会を誓うような内容にも捉えられる、極めてシンプルな筆致で綴られた歌詞も印象的だ。
世界中を覆っているこの混沌とした情勢が開けたとき、AAAMYYYはどのようなポップミュージックを創造していくのか。「HOME」を聴いてより楽しみになった。
文=三宅正一