「アイドルの舞台」と侮るなかれ! 劇団ゲキハロ&演劇女子部 3選/ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3[Vol.27] <アイドル舞台編>
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イラスト:春原弥生
ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3 [Vol.27] <アイドル舞台編>
「アイドルの舞台」と侮るなかれ! 劇団ゲキハロ&演劇女子部3選
by 吉田沙奈
【2】劇団ゲキハロ&演劇女子部『サンクユーベリーベリー』
【3】演劇女子部ミュージカル『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』
皆さんは、「アイドルの魅力」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
歌やダンスのパフォーマンス、キラキラした笑顔、バラエティ番組や雑誌で見せる素の表情の愛らしさ……など、枚挙にいとまはありません。今回はそんなアイドルたちによる舞台、中でもパフォーマンス力の高さと豊かな個性に定評がある“ハロー!プロジェクト”出演の演劇作品にフォーカスします。
基本的に観客がグループや個人のファンだから、と言うこともあるでしょうが、キャラクターの性格や関係性に演じるメンバーの面影が感じられ、それでいて作品ごとにメンバーの新しい一面や良さに出会えるのも大きな魅力。「この子はどんな子なんだろう?」「ステージではどんなパフォーマンスをするのかな」と、新しいエンターテインメントに触れるきっかけにもなるはずです! そこで、青春もの、サスペンス、ファンタジー、史実をベースにした物語、2.5次元……と幅広い作品の中から、方向性の違う3作をご紹介します。
演劇女子部『タイムリピート~永遠に君を想う~』
演劇女子部『タイムリピート~永遠に君を想う~』
時は宇宙暦3255年、希少エネルギー「ネオクリスタル」が大量に眠る惑星を発見した銀河連邦の宇宙船・エスペランサ号のクルーたち。しかし、突如近づいてきた小惑星の衝突による大破で命を落としてしまいます。何らかの理由でタイムリピートをしたクルーの一人・鉱物学者のルナ(稲葉愛香/Juice=Juice)が、惑星発見から爆発までのわずかな時間の中で、悲劇を回避するために奮闘する物語です。
爆発の原因を突き止め、みんなの命を助ける方法を考え、船内に潜入している敵国・ロア帝国のスパイの正体を探る……。手に汗握る展開に引き込まれます。パズルのピースがはまるようにラストへ向かっていく流れは見事としか言いようがありません。
また、ヒロイン・ルナと、最初は反目し合っていた物理科学者のソーマ(宮本佳林/Juice=Juice)の間に生まれる信頼関係や愛がこの物語の鍵。登場時は高飛車で誰のことも信じていなかった孤独なルナが、ソーマをはじめとするクルーたちのあたたかい心に触れて変わっていく様子に胸が熱くなります。
「どんな命にも価値があるけれど平等ではない」「生きていて良かったことなんて一度もない」と言っていた彼女の口から“愛”や“生きること”への前向きな言葉が出るようになり、表情も柔らかくあたたかいものになっていくのが本当に美しく、その分辛い! ループモノということもあり、観る度に「今回こそ……!」と祈るような気持ちで彼女たちの行く末を見守ってしまいます。
SF作品を好きな方ならニヤリとしそうな設定から、そうきたか! と思わせるような展開までふんだんに盛り込まれているため、コアなSFファンも満足できるのではないでしょうか。そして、歌唱力に定評のあるJuice=Juiceが主演ということもあり、作中で披露される曲はどれもパワフルに、情感たっぷりに歌い上げられています。
タイムリピートしたルナが困惑しながら歌うナンバー、ポップな曲調にのせたクルー紹介、未来への希望を歌う力強いユニゾン、ルナとソーマの切ないバラードまで、物語に花を添える多彩な楽曲たち。物語・演技・歌、どの方向からでも、彼女たちの良さを味わえるはずです。
劇団ゲキハロ&演劇女子部『サンク ユーベリー ベリー』
劇団ゲキハロ第7回公演『サンク ユー ベリー ベリー』、演劇女子部 ミュージカル『サンクユーベリーベリー』
こちらは2009年のBerryz工房主演作品。また、2015年につばきファクトリーの初主演舞台としてリメイクされました。
全国女子高校合唱コンクール「あの子が歌うのを見たんだ!(通称アノコウタ)」での連覇を狙う弁天女子学院と、頭は悪いが勢いとハートの熱さでは負けない初出場・丸富高校。
共に準決勝を勝ち抜き、優勝を目指す二校にスポットを当てた部活もので、バチバチと火の粉が舞う対決というよりは、各々の友情、家族愛、子弟愛、そして彼女たちの成長にフォーカスした心温まる青春物語です。
Berryz工房版では、大人の麦茶メンバーをはじめとする実力派が脇を固めており、笑いと感動の緩急が心地良い作品になっています。客席を巻き込んだ和気あいあいとした空気感も魅力といえるでしょう。
劇中では「ダニーボーイ」、「怪獣のバラード」、「あの素晴らしい愛をもう一度」といったお馴染みの合唱曲や、オリジナル曲「サンクユーベリーベリー」が披露されています。歌唱シーンは決して多くありませんが、歌詞が物語と密接に関わっているため、どの曲も非常に印象深いのが特徴。決勝戦で歌われる二曲は、思いを言葉に乗せて届ける彼女たちの姿と歌声に思わず涙してしまいます。
つばきファクトリー版はミュージカルになっており、合唱曲以外のナンバーも大幅に増加! ブレザーとセーラー服だった両校の制服はフリルやリボンをあしらったお嬢様然としたものになり、より華やかな世界観になっています。
また、2009年に弁天の空手美少女・服部葉子を演じていた須藤茉麻の初演出作品であると共に、コンクールの司会・六日坊主役で出演していることにも注目したいところです。
演じるメンバーに合わせて台詞や設定が多少変わっており、それぞれ違った魅力があるので、見比べるのも楽しいですよ!
演劇女子部 ミュージカル『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』
演劇女子部 ミュージカル『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』
本作は、脚本・演出を手掛ける末満健一が、自身のライフワークとしてピースピットやDステ、Patchなど様々な団体で上演している『TRUMPシリーズ』のひとつです。共通した設定や用語はあるものの、劇中で説明されるため、本作だけでも楽しめます。
舞台は、人間でいう思春期を迎えた吸血種が療養するサナトリウム施設。ある日突然姿を消した友人・シルベチカ(小田さくら)を探すリリー(鞘師里保)。ところが、他の少年・少女たちは誰もシルベチカを知らないと言います。戸惑うリリーに、「彼女を探すのはやめなさい」と忠告するスノウ(和田彩花)。不吉な予感から二人を引き離そうとするマリーゴールド(田村芽実)、秘密を抱える監督生たちなどの思惑と事情が絡み合い、やがて残酷な真実が解き明かされます。
ダークでゴシックな世界観、その中に差し込まれる平和なやりとりやギャグシーン、上質な楽曲、鬼気迫る演技など、見所は随所にあります。ですが、この作品の鮮烈な印象の理由は、吸血種の悲しい運命と、それを演じる彼女たち「アイドル」に感じる類似性ではないかと思うのです。
本作の登場人物たちには花の名前がついており、劇中で幾度となく「美しく咲いた花もいずれ枯れる」と語られます。仮に永遠に枯れることのない花があったとして、それは素晴らしいことなのだろうか。その花は幸せなのだろうか。
そんな疑問が、アイドルという花を愛でる私たちにも向けられているような気持ちになり、色々なものを重ねながら観てしまう作品です。冒頭で歌われる「Forget-me-not~私を忘れないで~」の“あなたの想い出の中で永遠に咲き続ける”という歌詞が染みます。
キラキラと輝きを放つ彼女たちも、永遠にアイドルであり続けることはできません。だからこそ、一瞬ごとの煌めきがより眩しく鮮やかに胸を打ちます。ハッピーエンドではありませんが、「推し」と呼べる存在がいる方に刺さる作品だと思います。
作品情報
会場:新宿全労済ホール/スペース・ゼロ
演出:西森英行
音楽:和田俊輔
Juice=Juice(稲場愛香、宮本佳林、宮崎由加、金澤朋子、高木紗友希、植村あかり、梁川奈々美、段原瑠々)
高瀬くるみ、前田こころ、清野桃々姫、山﨑夢羽、岡村美波
販売元:ポニーキャニオン
会場:池袋サンシャイン劇場
脚本・演出:塩田泰造(大人の麦茶)
池田稔(大人の麦茶)、中神一保(大人の麦茶)、並木秀介(大人の麦茶)、和泉宗兵、宮原将護、中村純壱郎(トノチョ’)、森実友紀、佐野香織里(アップフロントエッグ)、あいざわ元気
販売元: キングレコード
会場:池袋シアターグリーンBIG TREE THEATER
演出:須藤茉麻
上田亜希子、傳田圭菜、今井和美、うえのやまさおり、浅田光、石井杏奈(演劇女子部)、小野田暖優(演劇女子部)、須藤茉麻
販売元:ダイキサウンド
2014年6月5日(木) ~ 06月15日(日)東京・池袋サンシャイン劇場
2014年6月20日(金) ~ 6月21日(土)大阪・森ノ宮ピロティーホール
音楽:和田俊輔
スマイレージ(和田彩花、福田花音、中西香菜、竹内朱莉、勝田里奈、田村芽実)
ハロプロ研修生(田辺奈菜美、加賀楓、佐々木莉佳子)
販売元:ソニー・ミュージックマーケティング