大地の芸術祭で、松井周率いるサンプルが繰り広げる『ヘンゼルとグレテーテル』
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写真提供:大地の芸術祭実行委員会事務局 photo:Hiroshi Hatori
地獄めぐりにも似た旅路の果てに、捨て子の兄妹が見たものは?
日本有数の豪雪地・越後妻有(新潟県十日町市、津南町)にて3年に1度開催されている、世界最大級の規模を誇る「大地の芸術祭」。農業を通して大地とかかわってきた「里山」の暮らしが今も豊かに残っている地域で、「人間は自然に内包される」を基本理念としたアートを道しるべに里山をめぐる新しい“旅”を提供している。
現代アートだけではなく、今回も、ニブロール、指輪ホテル、モモンガコンプレックス、珍しいキノコ舞踊団など多くのパフォーマンス系のチームが参加しているけれど、そのトップバッターとして登場するのが、松井周率いるサンプル。グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」をもとに、奇妙なロードムービー風音楽劇を上演する。
“先の見えない森を、捨て子の兄妹がさまよい、さまざまなものと出会う。地獄めぐりにも似た旅路の果てに二人は何を見たのか。そんな本編以外にも、枝分かれした「断片」が会場に散らばっており、物語の世界へと誘う”
この作品紹介の一文を読んだときに、なんだか「大地の芸術祭」の演目にはとてもフィットしているような気がした。「およそ200の集落を手がかりに作品を散在させ、現代の合理化・効率化の対極として徹底的な非効率化を試みている」というコンセプトに沿って、作品を見て回っている感覚に通じるのだ。たとえば瀬戸内国際芸術祭が陽のイメージを発散する企画だとすると、「大地の芸術祭」の場合は影が際立っている。一歩一歩大地を踏みしめながら苦労して作品をめぐっているうちに、なんだか人間の業をひとつひとつ拾いながら背負っていくような、あるいは影が次第に重さを持ってくるような感覚になる。この不思議は、農村ゆえなのか、土の香りがするゆえなのか、日本海側という地域性ゆえなのか、瀬戸内のあっけらかんとした感じとは明らかに違って、しっとりとしている。人間の原点に迫っていくような気がするのだ。地域が生きてきた歴史の違いが、ちゃんと企画自体に息づいているのだ。
ふと検索してみたら、出演者の北村早樹子が「松井さんの脚本超怖ろしい!」とツイッターでつぶやいていた。超怖い、ヘンゼルとグレーテルか。そうか、でも松井周だもんな、そう勝手に頭の中で反芻してみたりする。
写真提供:大地の芸術祭実行委員会事務局 photo:Hiroshi Hatori
ちなみに、会場となる上郷クローブ座は、このサンプル公演がこけら落としになる。2012年に廃校となった旧上郷中学校をリノベーションした滞在制作が可能な施設で、キッチン、宿泊部屋、シャワー室、ランドリールーム、そして、稽古場、劇場を備えている。地元住民用の集会部屋も併設され、滞在する団体と地元の方の交流ができるようにもなっている。実は、体育館を「劇場」として機能する場所とすべく、サンプルのスタッフが設計段階からアドバイスを行っているのだ。
緑の山々に囲まれ、裏手には信濃川が流れるとても気持ちの良いこの劇場から、何かが始まる胎動を感じに行きませんか。東京では絶対なしえない何かができる楽しみな空間がまた一つ、誕生するのだから。
日時:7月26日(日)・29日(水)・31日(金)・8月1日(土)18:00開演
会場:越後妻有 上郷クローブ座(旧上郷中学校)
構成・演出:松井周 音楽:宇波拓 出演者:野津あおい 久保井研 羽場睦子 兵藤公美 小林類 上瀧征宏 北村早樹子 ほか
問合せ:大地の芸術祭公式サイト http://www.echigo-tsumari.jp/calendar/event_0726_0801