神戸の劇団赤鬼が無観客配信公演に挑むーー「現状を逆手に取り、生の舞台じゃ出来ないことに挑戦する」
劇団赤鬼 無観客配信公演『EDIH CU AHINO」 (エディ チュ アヒーノ)』
現状はエンターテインメント業界にとって、とてもではないが良い環境とは言えない。そんななか、1995年に神戸で結成した劇団赤鬼が7月10日(金)〜7月12日(日)に無観客配信公演『EDIH CU AHINO」 (エディ チュ アヒーノ)』を行う。公演中止に踏み切らざるを得ない劇団もあるなか、劇団赤鬼はオンライン演劇という形で実施する。「逆境が人に与える教訓ほどうるわしいものはない」シェイクスピアの『お気に召すまま』に登場するセリフで、文字通り、逆境にあるからこそ美しいものを得ることができるという言葉。その言葉のように、このインタビュー中、演出の川浪ナミヲは「逆手にとって」「今だからこそ」という言葉を力強く発している。また、それに加え川浪と座長・行澤孝が声を揃え口にするのは「面白いことをやる」という言葉。地元・神戸からエンターテインメントを発信し続けて25年。その25年間、常に現在地点を更新し続けて きた劇団赤鬼だからこその説得力を感じる言葉だった。今回、SPICEではそんな川浪、行澤の2名にインタビューを行い、オンライン公演を行う経緯から、そこに秘めたエンタメ業界への熱い想い、オンライン公演だからこその可能性について語ってもらった。
ーー劇団赤鬼が、初めてのオンライン公演を行うことになったキッカケをお伺いしてもよろしいでしょうか?
川浪:まず昨年の夏くらいから、そろそろ来年の公演の企画を考えようということで、会場を探している時に、神戸のライブハウス・チキンジョージが40周年を迎える記念の年だったのでバッチリだなと思って。チキンジョージは、劇場じゃなくライブハウスではあるんですが、神戸のエンタメシーンを長年盛り上げてきた場所だし、せっかくだからチキンジョージの歴史を舞台にした演劇が出来たら面白いなと考えていました。
ーー会場はチキンジョージで行うということはその頃から決まっていたのですね。
川浪:そうなんです。いろいろ企画も進めていたところに、今回のコロナ騒動が来まして。今年の公演は無理かなとか考えていたのですが、何も出来ないと止まっているよりも、こんな状況だからこそできる面白い事はあるんじゃないかと探し始めたのが、企画の第一歩ですね。
ーーただでは転ばないぞという気持ちがすごく伝わります。
川浪:実はそこまで熱い気持ちになったキッカケがありまして。今回の騒動で特にライブハウスが話題に上がっていたじゃないですか。あれでちょっと僕燃えまして。「ライブハウスは怖い場所」というイメージが、今回の騒動で加速してしまった気がしたんです。本来はエンターテインメントを発信する場所で、いろんな人に娯楽を提供する楽しい場所であるということを今こそ伝えるべきなんじゃないかと。同じようにイメージという意味では演劇も、元々「マニアックで近寄りにくいもの」という見られ方がやっぱりまだあるじゃないですか。だからこんなときだからこそ、そういうもの全部ひっくり返す、エンタメの株を上げるチャンスやなと思ったんです。
ーー今の状況を逆に活用して変えようと思うというのは、エンタメ業界的にかなりアツい言葉だと思います。
劇団赤鬼(過去公演) 撮影=堀川高志(KUTOWANS STUDIO)
川浪:我々は普段公演やるときも、お客さん含め、関わってもらうところすべてが元気になってほしいということを思いながらやってるんです。だから数多くの劇団がいろんな劇場をキャンセルしていくなかで、予定通りチキンジョージを使用して、自粛で悶々としてる劇団員にも舞台に立ってもらって、普段支えてくれてるスタッフさんにも動いてもらって、全力で取り組んでいます。
ーー本当にいろんな想いを込めた公演ですね。
川浪:あと、そこ以外にも今回スポンサーさんに対しても恩返しがしたいというのも思っておりまして、いつも協賛いただいてる酒造メーカーさんや、食品関係の方に、今回はご協賛いただくのではなく恩返しができればいいなと思っています。なので今回行うクラウドファンディングのリターンにそのスポンサーさんの商品も設定させていただいています。Win-Win、いや、Win-Win-Winくらいで出来る公演ができたらなというのが、今回の取り組みの経緯ですね。
ーーまさに「ピンチはチャンス」のイメージで動かれたということですね。
川浪:「大変な時なので、仕方なくこういう形で」という後ろ向きなことじゃなく、「こんな時やからこそ、俺らこんな面白いこと考えてます」という前向きに見えるような公演にしたいなと思っております。
ーー行澤さんはこの企画が立ち上がった時、どんなお気持ちでしたか?
行澤:僕だけじゃなく、劇団員みんな同じ気持ちでした。こんなときだからこそ赤鬼にできる面白いことをやろうと。あと、形としてはオンラインで全国配信なので、ほんとに幅広く観てもらえますが、このコンテンツは神戸から発信してるんだぞということが伝えることができればいいなと思っています。発信してる規模は広いけど、発信地点としては神戸のライブハウス、すごく大きいけど狭い、遠いけどご近所のような親近感を感じることができる、そんな楽しくてほっこりするような公演が打てたらなと思っています。
ーーまさに赤鬼さんは「神戸の劇団」というイメージがあって。そのイメージからも神戸を大切にしているというのは伝わってきます。
行澤:ありがとうございます。ずっとその気持ちでやっているので嬉しいです。
劇団赤鬼(過去公演) 撮影=堀川高志(KUTOWANS STUDIO)
ーー今回、もちろん初めてのオンライン配信ということで、普段の公演とは違った部分もどうしても出てくるとは思うのですが、現状で違うなと実感している部分はございますか?
川浪:ただの舞台を中継しても、迫力も臨場感も生で観る舞台に比べるとやっぱり敵わないと思うんです。なので、ただ舞台を中継で流すだけにしたくないなとは思っています。
ーー最近ですと、Zoom演劇などが注目されつつありますよね。
川浪:そうですね。Zoom演劇も今できることをすごく考えていらっしゃるので「凄いなぁ」と思うのですが、あれは「Zoom演劇」というジャンルであって、本来の演劇かというと僕はそうじゃないと思っていて。演劇をやってる人が、そのスキルを利用してやっている全く新しいオンラインコンテンツなんです。今回、我々がやりたいのは「中継で観る演劇の面白さ」と、「オンラインならではの面白い取り組み」を組み合わせたものにしようと思っています。
ーーオンラインならではの取り組みというのは、全く新しい領域なので大変な部分も多そうです。
川浪:ストーリーとか、台本はできてるんですが、「ここオンラインにしたらこうなるな」というような調整ですごい悩んでます(笑)。あと、今、世の中の人に最も共感してもらえるのは、自粛あるあるだと思っていて。そういうことも織り交ぜながら、みんなの気持ちを僕らが一緒に吐いてあげようということも考えているので、実現したらきっと面白くなると思います。
ーー役者としてオンライン配信というものにあたって、普段と違うところはありますか?
行澤:役者としてはあまり配信であるということを意識せず、今までの本番と同じような気持ち、同じテンションで取り組むことが、お客さんに対する最高のパフォーマンスだと思っています。観え方の部分は演出に任せつつ、役者は今までと何も変わらない気持ちでやるということ自体が、一つの挑戦なのかなとも思っています。
川浪:なめちゃん(行澤)は、お客さんの空気巻き込んで芝居する役者やから、客席に誰も居ない状態やと、ものすごい空回りするんちゃうかと思ってるけど(笑)。
行澤:いや、そこはもちろん空回りしても大丈夫なお芝居のプランを考えますやん!(笑)
行澤孝
ーーハハハ(笑)。確かにお芝居は、実際のそのお客さんの体温とか息使いとかを感じ取って完成する部分はどうしてもありますよね。
行澤:そうですね。今回、劇場でお芝居をする舞台班と、事前収録班に分かれていて、僕はまさに舞台班なので、空回りする、しない含めていつも通りお芝居をすることを考えます(笑)。
ーー舞台班と事前収録班というのは、舞台上ではどういったふうに活かされるのでしょうか?
川浪:基本的なストーリーは、舞台の上で起こることを中心に進んでいくのですが、例えば演劇だったら、回想シーンになると大道具を動かしたり、照明で工夫して違う場面にするところを、いっそのこと映像にしてしまおうと。そうすることで、現場スタッフさんの密な状況を避けることが出来ますし、ストーリーの潤滑さを上げることが出来るんじゃないかなと思っています。
ーー観客がイメージとして補完していた部分を、映像作品として分かり易くするわけですね。
川浪:そうです。良い意味でも悪い意味でも、我々は従来の演劇のやり方にはこだわらないので、外道なまでに色んなことやってやろうと思っています(笑)。
川浪:どうしても配信になると、リアルライブよりは安いという風潮というのがちょっとある気がしていて。だったらそのイメージも逆手に取って、思い切って誰でも気軽に観れる値段にしようと。中学生のお財布にも優しい500円で設定させてもらいました。
ーー金額の面だけ見ても、初めて演劇に触れる方が入りやすい設定だなと思います。
川浪:我々のお芝居自体が結成してからずっと「敷居は低く、間口を広く」というのを考えていて。演劇ファンだけが見るお芝居じゃなく、通りすがりに赤鬼の芝居でも観ようと思ってくれるような、演劇界の『週刊少年ジャンプ』になりたいと常々思っているんです。もちろん文化・芸術としての演劇も、大事で継承していくべきものだと思いますが、そんな演劇界で僕らが担える所というのは、継承していくことよりも、もっと裾野を広げて、演劇は「気軽に体験できるエンターテイメントなんだよ」と知っていただくことかなと思っています。今回の内容も、いつもより更に分かりやすく、もっと単純に作ろうと思っています。子供が見てもおじいちゃんが見ても理解できるお芝居になると思います。
行澤:あと今回は上演時間も少し短いんです。パソコンの前で2時間お芝居を観るというのはよっぽどじゃないと観てもらえないと思っているので、第一部のお芝居は1時間ぐらいで、第二部ではお芝居以外のことで楽しんでもらおうと思っています。
川浪ナミヲ
ーー第一部、第二部という編成なのですね。
川浪:そうですね。第一部はお芝居を観ていただいて、第二部は配信を観ていただいている方からいただいたコメントを見ながらのトークと、ゲストミュージシャンのパフォーマンスを入れようと思っています。イメージとしては、ドリフターズの『8時だョ!全員集合』ですね。あれも、お芝居(コント)から始まって、転換の間に歌手が歌を歌って、最後またミニコントがあって、みんなでワーワーするコーナーがあって、大団円という。本当に1時間の中でいろんな面白いことが、凝縮されているじゃないですか。我々にはそこまでの実力はないかもしれないですが、憧れてはいます。一時間半のなかでびっちり面白いこといっぱい観てもらおうと考えています。
ーーちなみにゲストミュージシャンはどういった方を呼ばれる予定なのでしょうか?
川浪:神戸から世界的に活躍されてる、和太鼓奏者の木村優一さんの他に、2組相談させていただいてます。その2組も今までに劇団赤鬼にコラボしていただいた、縁のある方に来ていただく予定です。まだお楽しみに、としかお伝えできないですが(笑)。
ーー縁のある方となると、ファンの皆さんは想像するのも楽しいですね。
川浪:そうですね。期待度高めで良いと思います!
ーー気になるのは今の状況で稽古はどうされているのかという部分なのですが、現在どういった形で行われているのでしょうか?
川浪:オンラインでできる部分はオンラインでやろうと思ってます。これは今の時代が教えてくれた良い部分だと思うので、効率的に行える部分はオンラインで行いつつ、最終的な息使いだったりとかとかは、顔を付き合わせてフェイスシールドして実際に稽古場で行おうと考えています。ただ、その際も今までのように全員を稽古場に呼ぶのではなくて、「今日はこの3人だけ稽古場で、後の人はオンラインで見といてください」となると思います。
行澤:やっぱり違和感はありますし、ちょっと感覚的に恐る恐るですけどね。でも、このご時世もあるし、できること限りのことを最大限活かしてやってみるしか無いですよね。
ーー今の状況になってから、どんどん新しい形が生まれていってますよね。本当にこの数ヶ月、色んな意味で経験のインプットが多かった数ヶ月後だなとすごく思っています。
行澤:経験をインプットしつつ、それを演技で発散するところがないという状況がかなり続いたので、どんどん出していきたいですね。今よりも実際に稽古を重ねていくともっと出てくると思います。
劇団赤鬼(上:行澤孝、下: 川浪ナミヲ)
ーーあと、オンライン演劇は徐々に広まりつつありますが、やっぱりまだ抵抗がある方もなかにはいらっしゃると思います。そういった方に向けて今公演のアピールポイントなどございますか?
川浪:「お芝居は生で観ないと値打ちが無い」という意見が出るのは至極ごもっともだと思います。だから今回我々が行うのはいい意味でも悪い意味でも、従来の演劇である必要はないと考えています。演劇というよりは、オンラインで出来る一番面白いことをやりますという感覚ですね。僕も生で観る舞台に勝るものはないと思っているので、逆に「生の舞台じゃ出来ないこと」をやるから観てねと伝えたいです。
ーー演劇の固定概念を覆すほどの新しいことを観せてくださる期待が高まります。
川浪:覆しすぎて、行澤が爆発するとかそんな派手な型破りは出来ないですが、わりと型破りなことしないのが舞台の文化というのがある気がしていて。もちろん中身のコンテンツではどんどん面白いことをやって更新もされていくんですが、今という時代は、更に一歩踏み込んだ部分で新しく塗り換えて行ける時期じゃないかな。そんなことも考えてます。
ーー最後に、座長・行澤さんは今回のオンライン演劇、改めてどんなお気持ちで挑まれるかお伺いしてもよろしいでしょうか。
行澤:配信ということはどこに居ても観られるので、劇団赤鬼を知らない全国のお客さんにも届けることができますし、更に言えば昔、劇団赤鬼を観ていたけど、最近都合が合わなくて、観ていただけていないお客さんにも見てもらえるチャンスだと思っているので、ぜひ観てほしいです。色んな新しい試みだったり、今までと違う遊び心だったりを、神戸から発信しますので、一緒に笑って、一緒に泣いていただけるような大切な時間をお届けします!
取材・文=城本悠太
公演情報
『EDIH CU AHINO(エディチュアヒーノ)』
脚本/演出 劇団赤鬼
神戸 CHIKEN GEORGE より
※キャストにより中継のみ収録のみの場合もございます。
演出助手/吉岡幹夫 プロデューサー/梅澤正人(アンノウン)
トロイカ整骨院 笑い釜 Bar岩田 和琉酒菜空