高泉淳子に聞く『僕のフレンチ』が愛され続ける理由 今年も多彩なゲスト陣

インタビュー
舞台
15:00
高泉淳子

高泉淳子

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ア・ラ・カルト公認レストラン『僕のフレンチ』は、クリスマスのレストランを舞台に、笑えて心に沁みるショートストーリーを生演奏のジャズとともに届ける、他ではちょっと観られない洒落たエンターティナーショー。前身となった『ア・ラ・カルト 役者と音楽家のいるレストラン』から数えると今年で37年目を迎える、師走の風物詩のような作品だ。東京と大阪で開催される今回は、岡本健一、ドリアン・ロロブリジーダ、石井一孝、ダイアモンド☆ユカイ、篠井英介、三谷幸喜、ROLLYを日替わりゲストに迎え、音楽に彩られた珠玉の連作短編集のような世界を繰り広げる。構成・台本・演出を手掛け、レストランのオーナー・高橋など様々な役柄で登場する高泉淳子に、見どころや作品への思いを伺った。

ーークリスマスのレストランを舞台に、開店から閉店までの人間模様を音楽とともに描く『僕のフレンチ』。今年も多彩な日替わりゲスト陣ですね。

青山円形劇場で上演していた『僕のフレンチ』の前身『ア・ラ・カルト』は、20周年公演までゲストは一人で、その方に全公演に出てもらっていたんです。そうすると、稽古も含めて1か月半くらい拘束することになるので、どうしてもゲストが限られてしまって。それで、2010年の『ア・ラ・カルト2』からゲストを日替わりにしたんです。今回のような顔ぶれが実現したのも、日替わりだからこそ。ゲストの皆さんには、「打ち合わせもあるので、できれば1回は稽古に出てきてくださいね」とお願いしています。「心配だったら、もっと来てくださいね」って。

ーーゲストが演じるのは、レストランを訪れるお客さん。ほかに、歌などを披露するショータイムもあるので、覚えることはたくさんありそうです。

レストランが舞台なので、どのタイミングで何を頼んで何を食べるかとか、どのワインを選ぶというような段取り的なことは、ほかのお芝居よりも多いです。なのでいろいろ考えて、そういう部分は全部ホスト側がやって、ゲストには、初めてレストランに来るお客さんと同じようにいてもらうことにしたんです。たとえば、ギャルソンがゲストに差し出すメニューやワインリストに、メニューやワイン名だけじゃなく、セリフや段取りも書いておく。レストランでお客さんがメニューを見ながらオーダーするのはごく自然なことだから、ゲストはそれを見ながら「じゃあ、僕はこれをください」って、一番覚えるのが大変な料理の名前を言えばいいわけです。万が一、それでもわからなくなった時は、ギャルソンが「どうされましたか?」「こちらの料理でよかったですか?」と助け舟を出します。

ア・ラ・カルト公認レストラン『僕のフレンチ』

ア・ラ・カルト公認レストラン『僕のフレンチ』

ーーこの作品ならではのアシストですね。

ゲストの緊張感が新たな面白さに繋がったところもよかったなと思っています。やっぱり、男性が初めてレストランに女性を連れて行くとなると、緊張するじゃないですか。で、前もってメニューやワインを調べて行くんだけれども、なかなか思った通りにはいかなかったりする。そんな緊張感をリアルに表現できたりするので。ゲストには、はけ際の女性との聞かせどころの台詞だけは覚えてきて欲しいとお願いしています。

ーー台本もゲストに合わせて何パターンか用意されているのですか?

前までは2パターンぐらい用意して、どちらか選んでもらっていました。それが去年から、篠井英介さんはやっぱり女形がいいなあと思って、3パターンに増えたんです。英介さんは最初、「淳子さんが大変だから」って遠慮されていたんですけど、でも、やりたいでしょ? そのほうが私も楽しいですと言って。で、今回初めてゲストにお迎えするドリアン(・ロロブリジーダ)さんにも聞いたら、やっぱり「私も女で」と。とはいっても、英介さんとドリアンさんでは年齢も持ち味も違うので、同じ話にするのはどうなんだろう? と思って。そんなふうに、多彩なゲストの個性をより生かしたい、ゲストの方には楽しんでもらいたいと考えているうちに、台本がますますレストランのフレンチコースじゃなくてアラカルトでみたいになっちゃいました(笑)。

ーーというと?

お料理を頼む時に、前菜、メインのお魚料理、お肉料理をどれにするか選ぶように、3つの中からさらに話を選べるようにしたんです。まず、AバージョンとBバージョンと、女形のCバージョンがあって、そのうえで会話のパターンを3種類の中から選んでもらって、さらにラスト前の会話を2パターンから選んでもらう……っていうふうに。今回初日のゲストは岡本健一さん。初めてお迎えする方なので、ドキドキですけど楽しみですね。ちなみに、大阪公演のゲストのROLLYさんには、今回も『ア・ラ・カルト』で生まれた生真面目なサラリーマンの“奥寺くん”っていうキャラクターをやってもらいます。

ーーゲストそれぞれに対応するギャルソン役の小林隆さん、中山祐一朗さん、レジョン・ルイさんにも柔軟性が求められますね。

そうですね。そもそもギャルソン役は、グラスを並べたり、料理を出したり、ワインを開けたりしながらセリフをしゃべらなきゃいけないから、初めての時は本当に大変で、緊張するんです。役者は話すことに集中してしまうから、「動きながら自然にセリフを」って言っても、動きが止まってしまって。これはもう訓練するしかなくて。私も『ア・ラ・カルト』でだいぶ鍛えられました。でも、何か違うことをしながら自然にしゃべれる、これは役者にとって、とても重要なことで、いろいろ表現が広がります。面白くなる。

ーー3人とも、ギャルソン姿がすっかり板についているように見えます。

中山くんは『ア・ラ・カルト2』の頃から出てもらっているし、コバさんは去年からの参加なんですけど、昔ずっと配膳会(ホテルや結婚式場などでの宴会にスタッフを派遣する会社)で仕事をしていたんですって。だから姿勢や動きがすごく綺麗なんですよね。チーフみたいな立場にまでなって、会社の人に「辞めないで欲しい」って懇願されたらしいです(笑)。『僕のフレンチ』のお料理とワインの監修をお願いしているレストランのご夫妻も「お店のみんなに見せたい」って言ってました。ルイくんも学生の時からレストランでアルバイトしてたらしくて、サーブが上手ですよね。彼は日本生まれ・ニュージーランド育ちのフランス人のクウォーター。シャンソンコンクールで優勝したんですよ。シャンソン界期待のホープです。ジャズも上手い。去年ライブで歌声を聴いて、すぐに出演依頼しました。

ーー今年は有楽町のI’M A SHOWに加えて、大阪の近鉄アート館でも上演されますね。

近鉄アート館では、去年、ROLLYさんとプレ公演的なことをやったんです。そしたら思っていた以上にお客様が喜んでくれて、おかげさまで今回、『ア・ラ・カルト』の30周年公演以来、7年ぶりに上演できることになりました。これは去年、I’M A SHOWでも感じたことなんですが、昔『ア・ラ・カルト』を観ていたお客さんが本当にたくさん戻って来てくださっていて。東京芸術劇場で30周年公演をやった後、会場を渋谷のeplus LIVING ROOM CAFE&DININGに決めた時にキャパがかなり減ったんですね。普通1回離れてしまったら、みんな観に来なくなるじゃないですか。だから、LIVING ROOMの閉店が急に決まって、去年I’M A SHOWでやることになった時、すごく不安だったんですけど、皆さん戻ってきてくれて、それが本当にありがたくて。

ーーそれだけ愛されている作品なのだと思います。

もう一つ嬉しいのは、アンケートを読むと、10代、20代の人たちが、おじいちゃんやおばあちゃんに勧められたり、誘われたりして観に来てくれていて。そういう若い人たちが「こんな舞台があったんですね」ってびっくりしたり、面白いって言ってくれるのは、本当に嬉しいですね。あとは、お仕事を定年退職なさった方がいたり、遠方から観に来てくださった方がいたり。
私は忙しい時でも、ちょっと時間が空いたなと思ったら映画館に入るんですね。私が若い頃はそんな風に芝居観れたんですけどね。予約なんかしなくても入れた。も安かったしね。『僕のフレンチ』もそうあって欲しいと思ってるんですけどね。予約しないと取れないし、は高くなったし、なんとかしたいですね。時間があるとき、「芝居でもみようか」なんてね。そうありたいなあ。

ーー『ア・ラ・カルト』もそうでしたが、『僕のフレンチ』ほど初めて舞台を観る人も楽しめる作品、安心して人を誘える作品は、そうそうないと思います。客席でお酒を飲みながら楽しめますし、いろいろな意味で貴重な存在かと。

ありがとうございます。たぶん、オリジナルの作品で37年も続いてるものって、ほかにあんまりないと思うんです。だから、まだ観たことがない方は、「どうして37年も続いて、こんなに人が入っているのかな」って、一度観に来て欲しいです。観たらわかる! 

ーー紆余曲折がありながらも、37年続けてこられたパワーの源は何ですか?

私はこの世界に入ってから書くことを始めた人間で、自分で作品を作らないで、役者だけやっていたら、もっと映画とかドラマにも出られたのかなって思った時期が、40代後半くらいにあったんですね。周りを見たら、同世代の役者はみんな名前が売れていて、いろんな映像作品に出ていて。なおかつ、映画は残るけど、こんなに時間をかけて作った舞台は形に残らない。私は選択を間違えたな、何やってたんだろう? って、すごく思ったの。
で、古くから寄らせていただいてるレストランのシェフにそんなことを話したら、「淳子さん、何言ってるの。僕たちだって、新しいメニューを考える時は試行錯誤して何度も試食して時間がかかるし、毎日仕込み、手間ひまが要る。でも、サーブして食べてもらったら、消えるのはあっという間だよ」って言われて。

ーー確かに!

さらに「舞台は料理よりも、もっと頭に残ると思う」って言うの。「映画だって、観ている時はリアルタイムで目の前にあるけど、その後は消えていくよね。でも、自分の頭の中に残る。それってすごく素敵なことだよ」って。

ア・ラ・カルト公認レストラン『僕のフレンチ』

ア・ラ・カルト公認レストラン『僕のフレンチ』

ーーとても素敵ですね、そのシェフの方も。

その時に、そうか、なんて私はさもしい考えだったんだろうと思って。一瞬で消えるものに全てを注ぐからこそ、お客さんの心に残って、また観たい、大事な人と味わいたいっていう気持ちに繋がっていくんだなって。考えてみたら、私たち、ワインを作ってる人の顔なんて知らずに飲んでるじゃないですか。ワイン作りは、すごく大変で時間がかかるのに、作る過程も作ってる人の顔も見えないまま、飲んだら消えていく。でも、すごく美味しいものに出会ったりすると、覚えている。そもそも人生だって、いくら写真や映像が残っていても、それは私たちの幻みたいなもので、その時間は確実に消えているんですよね。形に残らないもののほうが、心にはすごく残るんじゃないかなって、そう思うようになりました。

ーー確かに、そんな気がします。

そういう風に悩んで、結局舞台を選んでしまった私が、この作品をやり続けているのは、そこなんですよね。この年までやってきたこの『僕のフレンチ』が、「舞台っていいな」「生っていいな」と思ってもらえるきっかけになったらな、そういう人もいるんじゃないかなと思って。『僕のフレンチ』で初めて生の舞台を観た人が、劇場に足を運ぶようになって、1年経ってまた『僕のフレンチ』を観た時に、「やっぱりこれが一番面白かった」って思ってもらえるようなものになったらいいなと、それが今の私の願いですね。いつまでもできるものでもないので、やってるうちにぜひ観て欲しいです。とりあえず40周年までは頑張ると決めたので、ぜひ観てください!
 

取材・文=岡﨑 香

公演(配信)情報

ア・ラ・カルト公認レストラン 
『僕のフレンチ』
 
構成・台本・演出:高泉淳子 
音楽監修:中西俊博
 
ARTIST:
高泉淳子 / 小林隆 / 中山祐一朗(阿佐ヶ谷スパイダース)/ レジョン・ルイ
竹中俊二(music director / guitar)/ 佐藤芳明(accordion)/ Brent Nussey(bass) / 中西俊博(violin)
 
<東京公演>
日程:2025年12月20日(土)~12月25日(木)
会場:I’M A SHOW
 
日替わりゲスト(出演日順)
12月20日(土)岡本健一
12月21日(日)ドリアン・ロロブリジーダ
12月22日(月)石井一孝
12月23日(火)ダイアモンド☆ユカイ
12月24日(水)篠井英介
12月25日(木)三谷幸喜
 
TICKET(全席指定)
<東京公演>
S席:11,000円(税込)/A席9,800円(税込)/立見席6,500円(税込)
※入場時、別途ドリンク代600円をお支払い下さい。
※未就学児入場不可
 
立見席 注意事項
※立見席は、全席立ち位置指定での販売となります。
※立見席の販売対象公演は、12/20(土)、21(日)、25(木)のみとなります。
 
【配信】
日程:2025年12月20日(土)18:00~
アーカイブあり ~2025/12/26(金)23:59

視聴価格:¥4,500~
配信場所:Streaming+

出演
構成・台本・演出:高泉淳子 音楽監修:中西俊博
【ゲスト】岡本健一

<12/20公演>視聴券受付
受付期間:2025/12/3(水)19:00~2025/12/26(金)23:00
配信は【こちら】から
 
【配信】
日程:2025年12月25日(木)16:00~
アーカイブあり ~2025/12/31(水)23:59

視聴価格:¥4,500~
配信場所:Streaming+

出演
構成・台本・演出:高泉淳子 音楽監修:中西俊博
【ゲスト】三谷幸喜

<12/25公演>視聴券受付
受付期間:2025/12/3(水)19:00~2025/12/31(水)23:00
配信は【こちら】から
 
INFO
サンライズプロモーション
0570-00-3337 (平日12:00-15:00)
 
主催=有限会社遊機械オフィス
協賛=大和ハウス工業株式会社
ワイン協賛=メルシャン株式会社
 
・ご入場時、別途ドリンク代(¥600)が必要になります。
・車椅子席をご利用の方は、発券後にサンライズプロモーションまでご連絡ください。
・公演中止など、主催者がやむを得ないと判断する場合以外の払い戻しはいたしません。
 
<大阪公演>
日程:2025年12月28日(日)~12月29日(月)
会場:近鉄アート館
 
日替わりゲスト(出演日順)
12月28日(日)ROLLY
12月29日(月)ROLLY
 
TICKET (全席指定)
9,800円(税込)
※未就学児入場不可
 
備考
主催=有限会社遊機械オフィス
協賛=大和ハウス工業株式会社
ワイン協賛=メルシャン株式会社
 
お問い合わせ
近鉄アート館 06-6622-8802(月曜日を除く11:00~18:00)
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