有栖川 誉＆御影 密のミステリーと雪白 東の過去とは、冬組単独公演がついに開幕　MANKAI STAGE『A3!』～WINTER 2020～

冬組単独公演・MANKAI STAGE『A3!』～WINTER 2020～が、2020年8月16日（日）についに開幕した。第二回公演『主人はミステリにご執心』、第三回公演『真夜中の住人』の2ストーリーが展開される。夏真っ盛りでうだるような暑さの中、しっとりと降り積もる雪のような静かさと、切なくも温かな冬組の公演だ。

今でも人の気持ちはわからない、だが

第二回公演『主人はミステリにご執心』は主演・御影 密（植田圭輔）、準主演・有栖川 誉（田中涼星）のお話。誉の思い出の品である懐中時計が稽古中に無くなった！　盗んだのは誰だ!?　と松川伊助（田口 涼）や伏見 臣（稲垣成弥）らも巻き込んだ犯人探しが始まるが……。人の感情を理解できず、触れ合いをあきらめてしまった誉がひとつの気付きを得る物語。
誉は高身長ですらりと脚が長いスレンダーな体型をしており、執事役も衣装もとてもハマっている。密は役に入ると豹変するそのギャップが魅力のひとつとも思うが、今回もその魅力にあふれた役だった。誉と密の2人によるテンポの良い演劇は難解な謎が解けるときのワクワク感を与えてくれた。今回は雪白の短い髪にも注目したい。

第三回公演『真夜中の住人』は、主演・雪白 東（上田堪大）と準主演・高遠 丞（北園 涼）による、吸血鬼と優しいサラリーマンのお話。冬組は演劇経験者である紬と丞を中心として演劇が一通りの形になるまでが早い。しかし吸血鬼の孤独感について言及された東は夜になると一人で出かけるようになってしまう。稽古にあまり身が入っていない様子の東に対し、準主演の丞ができることは――。東の過去と、冬組の絆が深まるストーリーだ。
東はため息が出るほど美しい見目をした孤独に生きる吸血鬼を演じている。丞は普通のサラリーマンの生活感を自然体で表しており、主演と準主演のふたりで日常と非日常の対比を描いている。そして、月岡 紬（荒牧慶彦）と密のアクションシーンも必見だ。

ドライブ行きませんか

今回、ストーリーテラーの一面も担う伊助のほか、皆木 綴（前川優希）、シトロン（古谷大和）、三好一成（赤澤 燈）、臣が出演しており、比較的静かな冬組に対して動きと笑いをもたらしており、とても賑やかだ。
春組、夏組、秋組……とMANKAIカンパニー4つの組それぞれが異なった関係性を持つ中、冬組のリーダー・紬は「冬組はどんな距離感なんだろう？」と考え込む。比較的年齢層が高いメンバーたちこそゆえに逆に怖がって互いの距離感を詰めようとすることができずにいる。直接聞ければ簡単なのに、その一歩を踏み出す勇気が持てない……それを乗り越えられた時、冬組はまた違った景色をみることができるのだろう。

演劇を続けていくために

じっくり劇中劇に浸った後のお楽しみでもある歌パートも健在。今回は曲に合わせてコール＆レスポンスや振付を観客側がやることはNGで、手拍子での応援となる。ちょっと寂しい気もするがここはぐっとこらえて、いつかまた一緒に楽しめる日を待とう。この『エーステ』冬組単独公演は、感染症による影響で2020年4月に中止された公演でもある。政府や東京都の定める感染対策の方針に従って席数を減らす、フェイスガードを着用するなどたくさんの対応策が取られるなか、紬による公演の成功や演劇を想ったセリフは、役やセリフを越えた熱い思い、演劇界全体へ向けて発せられた切なる願いのように感じられた。そしてまたバトンを受け渡し、季節が巡る――。

MANKAI STAGE『A3!』～WINTER 2020～は8月22日（土）まで天王洲銀河劇場で公演、さらに全公演ライブ配信と千秋楽のライブビューイングが予定されている。

取材・文・写真＝松本裕美

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