MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十三回目のゲストは田村淳(ロンドンブーツ1号2号)今こそ、新しい文化を作らなければいけない
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MOROHAアフロの逢いたい、相対 撮影=森好弘
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十三回目のゲストはロンドンブーツ1号2号の田村淳。田村淳といえば、数々のバラエティ番組で司会を務めているイメージが強い。しかし昨今は相方・田村亮とともに株式会社LONDONBOOTSを設立した他、大学院で研究している「遺書」について新しい動画サービス「ITAKOTO」をスタートさせた。さらには自身がボーカルを務めるバンド・jealkbでコロナ禍でもいち早く有観客のライブに取り組むなど精力的な活動を行っている。今回、アフロが田村に対談を申し込んだのは、今の状況で地団駄を踏むのではなく、新しいことに挑戦していく姿に共感したからだと思う。対談中に田村が言った。「新しい文化を作らなければいけない」。2人がこれからの未来について語り合う。
●表現したいことをやるためには1つの場所に止まっていたらダメ●
田村淳(以下、淳):逆に、こんなに熱いメッセージを世の中に発信している人が、どうして俺と対談をしたいんだろう? と思って。俺は対極にいるから。
アフロ:いや、俺も熱いメッセージを感じているんです。
淳:あ、俺から?
アフロ:ものすごく鋭く斬りこんでいるように見えます。コロナの件も勿論ですがTwitterで安楽死の話をされていたり、タブーとされていることをいつまでタブーにしているんだ?っていう姿勢を感じてます。目の前の問題を見て見ぬふりをするのはどうなの? という問いかけは、ラップの根底でもあるというか。『地上波ではダメ!絶対!』も観させてもらってますけど、なぜ地上波で放送できないのかと言ったら世間が「ないこと」にしたいからなわけで。
淳:そうそう。みんなで封じ込めたいというね。実際、マスメディアに 「常識のような非常識」が蔓延っている。俺はそれが苦手なんだよね。とはいえテレビは大好きだし、マスメディアの重要性も分かっているから、良い形で着地点はないのかなと探っている状況かな。
アフロ:その姿勢がすごく胸にくるようになってしまったんです。もう少し前だったら『NewsCLUB』をやって『地上波ではダメ!絶対!』もやっていることに「田村淳の本質ってどっちなんだよ」と思っていたのかもしれない。だけど、そこでバランスを取りながら真実を手繰り寄せようとしている感じが、変な言い方ですけどいじらしくて泣けてくるんです。
淳:ハハハ。えー、そうなの!?
アフロ:極端な場所を行き来しているのは、すごいことだなと思いながら淳さんを見てます。
淳:やりたいことや、表現したいことをやるためには1つの場所に止まっていたらダメだなと思って。自分を振り返ると、民放の各局に出演したいという欲求が一番強かったのが30代。だけど「ここばっかりだと、バランスを崩しちゃうな」と気付いたの。なぜなら、自分が生きる選択肢をテレビ局の人に握られちゃうから。握られちゃったら従うしかない。だから他の場所を作らなくちゃ、と思っていろんなメディアに出るようになった。ネットも地方局もバランスよく番組を持ちたかった。でも、それは芸能人の先輩が教えてくれたわけじゃなくて、投資会社の人に「リスクを分散しなさい。それが一番強いんだ」と言われたの。異業種の人と絡むと、こんなに刺激的な話があるんだと思った。それで40代になってから芸能界の人と距離を置き始めた。
アフロ:それはバンドシーンも一緒で。自分の足で立っていないと、結局は大きな力に頼らないといけなくなってしまう。そしたら淳さんの言う通り、どうしても会社の指示通りに動かないといけなくなる。そうならないために、そういう力に頼らずとも、俺たちは仕事もあるし飯も食っていけるよ、という環境を作ることが必要なんですよね。そこまでいって、ようやく大きな会社と対等に話ができるというか。
淳:そうそう。本当は何をやっても良いのに「こんなことをしたらはみ出しものになってしまう」とみんなの中で勝手にルールを作ってしまう。それが俺は息苦しかった。
●俺は、芸人よりも面白い人生を歩みたい●
アフロ:先ほど「バランスを取るようになった」と話してましたけど、若い頃と現在の淳さんって視聴者から見ても違うと思うんです。昔は番組の中で悪魔だったじゃないですか。それが、ある時から悪魔に操られる立場を引き受けた気がしたんですよ。簡単にいうと、いじられる側も引き受けるようになった。
淳:元々いじられるのは嫌いじゃないんだけど、いじったらいけないような仕事の仕方をしてて。全然いじってもらって良いのに、そういう状況を作れなくて苦しくなっていたのはある。いじりやすいタイミングを作らなきゃと思っていた時に、たまたま『ロンドンハーツ』で「走るのが苦手」という1つの要素が出て。みんなに「淳ってずる賢くて裏で何を考えているのか分からない」と言われていたのが、その日を境に崩れた。俺は自分をさらけ出せて良かったし、後輩が俺を見て「走り方が変だ」と言ってくれたのが幸せだった。だから意識的じゃなくて、もがいていたんだと思う。たまたまチャンスが転がってきたの。
アフロ:逆の革命でしたよ。王が町に降りて、町民とフラットにコミュニケーションを図るっていう。
淳:ハハハ、俺って王だったんだ!
アフロ:そう思ってました。出演者のすべてをコントロールするというか、一段上に立っているように見えていたので。そんな中でもいじられる心構えはしていたんですね。
淳:してたね。俺も遠慮しないで「それは間違ってますよ」と自分の考えを話せる先輩が好きだし、その方が長く付き合えるし、一緒にいても楽しい。だけど意見を言わせないとか、これが今の面白いルールなんだという空気を作られるとすごい居心地が悪くて。それなら失敗するかもしれないけど、自分で新しいことにチャレンジしている方が楽しい。
アフロ:周りの輪から外れても、面白いことをやれば評価されると信じていた?
淳:そもそも俺がやっているのは自己表現だから、まずは自分のやりたいことをやるべきで。それをやらせてくれない芸能界の空気に「ここにいたらダメになる」と思った。そもそも芸能人と括られることが本当に嫌だったしね。
アフロ:どうして嫌だったんですか。
淳:だって「芸能人」って何を指しているのかよく分からないでしょ。ミュージシャンだったら音楽を通じて人にメッセージを伝えるとか、何となく定義があるけど、芸能人って具体的に「どういう人なんですか?」みたいな。
アフロ:お笑い芸人だったら輪郭がハッキリするけど。
淳:うん。だけど自分はお笑い芸人じゃないと思ってる。俺の考える芸人の定義って、板の上でネタをやってお客さんを笑わせているのがお笑い芸人。だから俺は芸人ではないんだよな。
アフロ:その定義は最初から思っていたことですか。
淳:若い頃はそういう思考もなかったから、テレビに出る手段としては芸人を通らないと、自分はテレビに出られないだろうなと思っていた。それで何となく目指したのが吉本興業。だけど吉本に入ったら、みんなが芸人になるのも俺はどこかでおかしいと思ってた。ここは未だに相方の(田村)亮さんと意見が合わないところなんだけど、亮さんは芸人でいたい。逆に、俺はカテゴリーなんて何でもいい。自分のやりたいことをやれて、表現が続けられていることの方が重要なんだよ。
アフロ:お二人の間で意見が違うと。
淳:うん。亮さんは芸人にこだわりたい。だけど俺は、芸人よりも面白い人生を歩みたいと思ってる。
●油断したら音楽をすることが目的になりそうになってる●
アフロ:面白い人生を歩みたい、というのが一番の軸なんですね。そうなんだよなぁ……俺もすぐ忘れそうになるんですよ。一生懸命になる程に。でもやっぱり音楽をやるために東京に出てきたわけじゃなくて、音楽を使って自分の人生を豊かにしたいと思ってスタートしたわけで。それなのにすぐ視野が狭くなって、音楽をすることが目的になってしまいそうになる。そうすると大事なものを切り崩しちゃうことになりますよね。やっぱり「成功する・しない」だけの軸で見てしまうとか、そうなったらおっかないよな、と思って。
淳:そうね。当然、成功した方が可能性は広がっていくんだけど、じゃあ成功していないミュージシャンの人は不幸せか? というとね。路上に座ってギターを弾いている人に話を聞くと、すごい幸せな気持ちと這い上がってやりたい気持ちが入り混じってて。この人の方が自然体だなと思った。変に地位を守ろうとしていた30代の俺の方が不自然な生き方だった。
アフロ:淳さんが路上ミュージシャンにメシを奢って「お前が売れたら俺の名前を出せよ」と言ってる、という話を聞いたことがあるんですけど。
淳:それはミュージシャンじゃなくて、ボクサーだと思う。俺は「握手してください」と言ってくれた人にいつも職業を聞くようにしてて。ある時、「ボクサーをやるために熊本から出てきました」と言った人がいたの。その人に「じゃあ1万円をあげるから、いつかチャンピオンになった時に俺の名前を出してね」と。それは長渕剛さん主演の『とんぼ』というドラマで言ってた台詞を真似しただけなの。そういうことは3回くらいあるかな。
アフロ:蒔いた種は実になって回収できたんですか?
淳:まだできてないね。それも15年くらい前の話。あの時のボクサーは、今頃ジムとか開いているんじゃないかな。
アフロ:路上で歌っている人の前を通るたびに「俺もやってみようかな」と思いつつ、俺の場合は同業者だから嫌味っぽくなっちゃうんですけど。
淳:そっかそっか。まあ相手は嬉しいと思うけどね。
アフロ:でもいざやろうとしたら「MOROHA アフロだぞ、知ってるだろ?」という顔をしちゃうんですよ。で結果、知られてなくて顔を真っ赤にする。
淳:ハハハ。意外だね。
アフロ:俺はしょうもない奴ですよ。淳さんが知ってくださっていたのは嬉しいですし、熱いメッセージを歌っているという認識もありがたいんですけど、俺の中にはずるい心があるんです。本当にしょうもない俗っぽいところも大いにあるし。
淳:すごい正直だよね。でも歌ってるメッセージの中に「自分に正直になるのが難しい」みたいなところがあるでしょ? 俺はそこがすごく刺さったんだよ。いつの日か嘘をつくことが平気になって、しまいには嘘をついたことすら分からなくなっている時が一番怖かった。ちゃんと正直に「嫌なものは嫌」「おかしいものはおかしい」と言える自分に戻れた時が俺は幸せを感じられたから。
アフロ:それは30代で地位を守ろうとしていた時の話ですか?
淳:そうそう。だってやりたくない司会をやっていたから。そもそもボケ側の人だったから、ツッコミ側の人じゃないのに番組の進行を任せられて「やりたくないのになぁ」と思いながらやってきた30代。だけど「司会ってこうやったら面白いんだ」と気づけたから40代は楽しい。それに「これはやりたくない、これはやりたい」というジャッジもできるようになって今はすごく自然体だね。
アフロ:自然体か。確かにそれを象徴するかのように、ワークマンのつなぎを着てますもんね。
淳:そうそう。これは私服だからね。
アフロ:俺もコロナ禍で思うところがあって、無地のポケットTシャツを買い始めたんです。何が良いかって、ワークマンもそうなんですけど、胸ポケットにマスクをしまえるんです。
淳:俺は布マスク自体が窮屈になったから、お手製のマスクを作った。自分の発言したい時に口元をカバーして、息をしたい時に外せば良いから楽だよ。
アフロ:そのマスクで今日登場された時も驚きましたけど、jealkbのMCで「フェイスシールドにメイクをした方が効率良いんじゃないか」と言っていたじゃないですか。アレにもハッとしましたね。
●俺は今、MOROHAなんか聴きたくないんですよ●
淳:新しいパフォーマンスというか、新しい魅せ方というかね。
アフロ:淳さんが「ライブはこれから新しい楽しみ方を見つけていかなければ」と仰ったじゃないですか。見つかりますかね?
淳:いろいろと配信ライブを見てきた中で、やっぱり本来ライブハウスにあった密集した楽しみ方を追い求めちゃダメなんだと思ってる。今は違う楽しみ方ではなくて、新しい文化を作らなければいけない。だけど、この前のMOROHAの配信ライブを観て、ステージと視聴者の距離を縮めようとした、あのメッセージはすごいなと思った。画面の向こうでグーっとなったから。ということは距離なんてブチ破れるのかなと思ったんだよね。本人的にはあのライブにどれくらい充実感があったの?
アフロ:ライブをお客さんに対してやっちゃうと、俺の性格的に上手くいかないんですよね。常に自分自身に対してものを言ってないと、どうしても押し付けがましくなっちゃう。配信ライブをする時も、画面の向こう側を過剰に意識しないようにしました。ライブ前には「画面の向こう側にいる奴、部屋の電気を消してくれ」「大切な人の手を握ってくれ」とか、そういう言葉でライブハウスの臨場感の代わりに生活の臨場感を作れたら、自分の歌詞の響き方が広がっていくんじゃないかなと思ったりしたんです。だけど、アレしろコレしろと言うのは、ライブの本質からはだいぶかけ離れちゃう。しかも見ている状況はそれぞれ違うし。それを踏まえて、画面の向こう側にどこまで届いていたのかを考えたら、全く分からないですね。
淳:そうなんだ。俺、結構実感はあるんじゃないかなと思った。まあ確かに、反応が読めないもんね。
アフロ:四星球の配信ライブを見た時に(北島)康雄さんが「この状況はいかに損している事’を楽しむしかないんや」という旨の言葉を放ったんです。その言葉は内側の人間だからこそ、グッときたのかもしれないですけど、「こんなに損している」という埋められない溝を共有するのは今、この瞬間しかできないことだなと思いました。
淳:「この埋められてない状況を感じに来てください」ということでしょ。そういう魅せ方もあるね。
アフロ:MOROHAも、jealkbも、四星球もこの期間にライブをやりましたけど、あの状況ってやっても損しかないじゃないですか。だけど長い目で見れば、あそこで損をしたことはきっと、後々コロナが終息した時の布石になるはず。壮大なフリにしてやる! というか。ただし、お客さんにその布石を感じて欲しいと思いもありつつ、長い目じゃなくその日のライブで仕留めなきゃダメじゃんとも思うんです。地続きのドラマを全てのお客が共有してくれる訳ではないから。まあ……これだけ喋ってて、何も答えは出てこないですね。ぶっちゃけ、俺は今、MOROHA聴きたくないんですよ。状況的にどうしたって切迫感があるのに、それを更に煽り立てる歌は聴けないです。
淳:警告がずっと鳴っているからね。
アフロ:既に闘ってるのに、さらに俺から「闘え!」なんて言われたくないんですよ。その時に自分の表現の脆弱さを思い知るんですよね。張り詰めた空気を緩めるような切り口を持っていない。淳さんはどちらもやれるじゃないですか。『NewsCLUB』から『地上波ではダメ!絶対!』まで振り幅がある事はすごく羨ましくて。Aの自分でピントが合わないと思えば、Bからのアプローチができる。だけどMOROHAは1種類なので。今は世の中が説教くさいから、それを緩めてくれる音楽が聴きたいなと自分自身が思っています。
淳:追い込まれたくないってことだよね。
アフロ:そうですね。だからいっそコロナとかじゃなくて、単純に俺はこんなすごい奴なんだぜ、という曲を書こうと思って。社会の状況に影響されない、しないような曲を歌おうと考えたんですけど、それはそれで「この状況でお前はそれ歌ってて良いのか?」と。
淳:しっくりこなかった?
アフロ:全然来ないんですよね。
淳:むしろ今、音楽をやってしっくり来ている人は誰だろうなと思うけどね。今は何でもコロナのせいにできるから、実験の場だと思ってワクワクしてる。
●この遺書を俺がもらったら立ち直れないなと思う●
アフロ:淳さんはどんどん新しいことに取り組まれているじゃないですか。それこそ遺書の動画サービス「ITAKOTO」(※遺言を収めた動画に特化した動画共有サービス)も始めて。
淳:遺書の展示会をやりたいと思っているんだよね。俺のところに「これを研究の参考にしてください」という遺書が届いてて、今は手元に40通くらいあるんだけど。しんどくて一気に全部読むことが出来ないの。思いがドーン、ドーンとくるから。だけど、どれも良いんだよね。
アフロ:印象に残っている1通ってありますか ?
淳:お母さんが子供に宛てた遺書なんだけど、それがすごいんだよね。「この遺書はあなたたち家族に書いているけど、もう1通は残しておきます。それをいつの日か受け取りに来る人がいるから、その人に渡してください」と。
アフロ:うわぁ、何ですかそれ!
淳:「その人が私の本当に好きな人なんです」ということが赤裸々に語ってあるの。長年連れ添った旦那さんは家族ではあるけど、ママが本当に好きなのはその人なの、と書いてあった。俺が子供だったら、どういう風に受け止めるんだろうと考えたな。
アフロ:お父さんはご存命ですか?
淳:生きているけど、あくまで子供たちに向けた遺書なんだよね。それをお父さんに言うかどうかも含めてお母さんは我が子に託している。その遺書が良かったな。
アフロ:それはドラマチックだなぁ。やっぱり淳さんも遺書を書いて?
淳:そうだね。嫁と娘と亮さんにそれぞれ遺書を書いた。だけど何度も書いていくと祈りになっていくんだよね。遺書って面白いのが、みんな最終的にはポップに仕上げていくんだよね。書き始めるまではものすごいネガティブなんだけど85%の人がポジティブに向かっていくの。残りの15%は「書くんじゃなかった」「憎悪の確認になりました」という意見だった。ちなみに今、俺は大学院で遺書の研究をしてて、Googleでアンケートを取った結果ね。
アフロ:俺も憎悪の確認だなと思いながら曲を書く時があるんですよね。恨みや憎しみを音楽に昇華するため、自分の中で膨らませていく。その曲をお客がポジティブに変換してくれた時に、その気持ちが成仏する感覚があるんですよね。だからその遺書も憎悪の確認と言いつつ、受け取った人が……でも、どうだろうな。
淳:憎しみだけの遺書は、中々の刃物だったけどね。この遺書を俺がもらったら立ち直れないなと思うぐらい。最後に「そんなあなたでも、ありがとうの気持ちを伝えたいと思う」と書いてあれば良いけど、もう剥き出しの刃物だから、どこを触っても切れる。しかも受け取った時には、本人はいないから謝れない。
アフロ:何かの本で「死ぬ間際は許せるようになる」というのを読みましたけど。
淳:どうなんだろうね。俺にそっち側の感覚がまるでなくて、死ぬ間際でも許せないようなことをあまり感じたことがないな。
アフロ:それこそ器のデカさだと思います。最近、怒ったりしてますか?
淳:しょっちゅう怒ってるよ。特にサービス業には厳しい。タクシーの運転手さんがシートをすごい倒してて、後部座席が狭かったから「ちょっと狭いです」と言っても戻さなかった。それで腹が立ってサービス業とはなんぞやみたいなのを説くっていう。「これで最高の運転ができるのではあれば、僕はサービスを受けるけど、そうじゃないですよね。だって今、僕は窮屈さを感じているわけだから」と。そんな話をできるだけ怒りを抑えて、綺麗な言葉で届けたいけど中々トゲトゲしちゃう。
アフロ:よく行っていたコンビニに、接客態度の良くない店員さんがいたんですよ。ある日、レジ袋をくださいと言ったら乱暴に投げつけられて。それにカチンと来たんですけど、怒りでぶつけるのではなくて、自分が言われたら一番嫌であろう言葉を選んで「なんか辛いことあったの?」と笑顔で聞いたんです。その瞬間、コンビニ店員の表情がハッとして、小さく「……はい」と頷いたんです。それ聞いたら急に親近感を感じて「ああ、俺にもこんな感じで振る舞っちゃう時あるなぁ」と思ったんです。そうなると次の日から向こうがツンケンしてもちょっとなら許せるし、何なら向こうも態度を和らいだりもして。コミュニーションってそういう事なんだなと。
淳:俺の言葉はトゲトゲしていたからな。やっぱり言葉は重要だよね。
●俺はまだ32歳なんですよ。まだ落ち着くのは早いんじゃないかなと思うんです●
アフロ:俺は今、彼女と暮らしているんですけど。淳さんは奥さんと喧嘩ってしますか?
淳:全くないのよ。喧嘩をするのがものすごいしんどいし、喧嘩って正義のぶつかり合いでしょ? それが苦手で奥さんにする人は出来るだけ喧嘩しない人が良いなと思った。それで自分が付き合ってきた歴史を振り返ると、今の奥さんとは喧嘩しなかったことに気づいた。でも付き合っていた時は、衝突しないから手応えがないというか。自分が丸くなっているような気がして。この人の側にいちゃいけないんだと思って1回離れたの。
アフロ:丸くなっちゃいけない感覚になったのは、地位を守らないといけないと感じてた30代の頃ですか?
淳:そうだね。間違った感覚なんだけど、威勢を張らなきゃいけないと思ってた。
アフロ:それが違うな、と気づいたのはいつなんですか?
淳:38歳くらいかな。どんなに自分の思いを言い合っても、根っこの部分で理解をしていないと言葉だけじゃ繋がれないと思った。俺のような、自己顕示欲の強いタイプを受け止めてくれる人じゃないとマッチングしないんだなと。で、過去を辿ったらその人しかいないなと思ったから、元の関係に戻れた。ぶつかり合うのに疲れちゃったんだよね。
アフロ:仕事に更に向き合う為に、という気持ちもあったんですか?
淳:いや、異性に対してだけかな。グラフで言うと「わかり合う」「喧嘩する」というギザギザしている揺れがしんどくなったんだと思う。その波があった方がドキドキ感はあるのかもしれない。だけど俺は凪でいい。
アフロ:それはこの仕事をするために?
淳:うん。仕事でたくさんのギザギザがあるから、家では極力凪が良いね。
アフロ:それまでは、仕事でギラついているためには恋愛も落ち着いちゃダメだと思っていたということですね。
淳:そうじゃないと生きていると感じないのかなと思ったけど、全然そんなことなかったな。今の彼女は喧嘩しない?
アフロ:前はしょっちゅう喧嘩してたんですけど。最近は落ち着いてきて。そんな自分に「それで良いの?」と疑ったりもします。
淳:良いんだと思う。
アフロ:今俺は32歳なんです。漠然とですけどまだ落ち着くのは早いんじゃないか、と思うんです。仮に30代で「意見のぶつかり合いをしても何も生まれないよ」という曲を歌ったら40代で何を歌うんだろう? と。完全に心開いちゃったら閉じれないんじゃないか、って感覚になることがあります。
淳:閉じれると思うよ。閉じれないとしたら、どんどん広げていけば良い。30歳が早いんだと思って結婚しないのであれば、遅いとか早いということはなくて。後々、早かったかなと思ったとしても、それは1つの答えが出ているわけだから。結婚したい人がいるなら、そっちを優先した方が良いよ。
アフロ:ちなみに淳さんは女性がすごく好きじゃないですか。結婚するということは、もう恋をしちゃいけないわけで。その踏ん切りは、スっと決められたんですか?
淳:今も俺は恋をし続けている。ただ実行をしなければ良い話だよね。時代がこんなに厳しくなければ実行していると思うけど、実行すると今はすごいでしょ? とはいえ恋はするつもり。それは奥さんも知っているはず。コイツがそんな急に恋をしなくなるわけないじゃん、という認識だと思うよ。俺と奥さんの関係は、嫉妬とかじゃないところへ行ってると思うな。それに頭の中だけで妄想する分には浮気じゃないしね。
●「人間ってこうなるよね」と本当に愛おしい気持ちになっていたんだよね●
アフロ:もう1つ恋愛で聞きたいことがあるんですよ。『ロンドンハーツ』の『ブラックメール』って、人間の裏側が見えるじゃないですか。企画を通して、淳さん自身が人間不信になることはなかったですか?
淳:全然ない。むしろ人間っぽいなということしかない。編集上は本性を暴いていくスタンスに見えるんだけど、俺は「人間ってこうなるよね」と本当に愛おしい気持ちになっていたんだよね。あと「女性の気持ちがよく分かりますよね」と言われるんだけど、全然分からないんだよ。むしろ男の気持ちが分かるから、こんなこと言われたら絆されるなと。
アフロ:落語みたいなことですね。すっとこどっこいなところを愛しちゃうみたいな。
淳:そうそう! 人間だからパワーワードをガンガン言われたら、そりゃあ揺さぶられちゃうよね。で、「ドッキリでした!」と言った時は「この人が人間不信にならないで欲しいな」と願いながらやってる。仕掛けているんだけど、騙されて良いんだよと思ってる。それも含めて人間じゃないかな。むしろピュアだと思うからね。
アフロ:なるほどなー。あったかいなあ。音楽業界ではなんとなくミュージシャンはお客に手を出す事をタブーとする風潮があるんです。
淳:そうなの?
アフロ:そうなんです。ステージでは「純粋な愛を〜」と歌っていても、ミュージシャンはお客と一線を引かないといけない。立場で線を引くなら歌ってる内容と違うじゃん、とも思うんですよ。更には結婚していることを隠す人も多いじゃないですか。
淳:結婚してたんだ! というミュージシャンいるよね!
アフロ:そんでステージで「ありのままを曝け出せ!」とか言ってるの見ると暴きたくなっちゃうんすよ。誰得なんだ、という話なんですけど。
淳:暴くのは俺もやりたいと思う。今、軍団山本という俺が属している芸能界の軍団がコロナに集団感染しているけど、吉本はそれを認めてない。だから、このことをチクッと言いたいなと。
アフロ:『NewsCLUB』でも取り上げてましたよね。あのトークもギリギリを攻めてるなと思いましたよ。
淳:思ったよりも反応がなかったから、さっき「保健所の人もタスクが多いのか」とツイートしたんだけど、要は大変そうだなと言いつつ「吉本興業が集団感染を隠蔽しようとしてますよ」と暗に言ってる。
アフロ:「暗に言ってる」ってここで言っちゃダメじゃないですか! でも会社を思っての事ですもんね。俺の「バンドマンの隠れ既婚者ども、全員バラすぞ!」とは質が違いますね……。吉本はこれからどうなるんでしょう?
淳:今は大崎洋というカリスマ経営者がいるからもっているけど、大崎さんがいなくなった吉本を考えたら、同じようにできる人がいるのかなと。
アフロ:ダウンタウンのマネージャーだった方ですね。淳さんがそっち側に回ることはあるんですか。
淳:俺はプレイヤーでいたいかな。
アフロ:監督になった事すらも、プレイヤーとして活かしそうな気がしますけどね。
淳:今は政治に興味があるの。だけど本格的に政治をやってしまうと、自分がやりたい自己表現の場が制限されるから、上手くやれる方法はないのかなと考えてた。今、行き着いたのが池袋にバーチャル空間の池袋を作る番組(『田村淳のバーチャル池袋作戦会議!ミラーワールドとは何者か!』)。そこでMCをやっているんだけど、実在する池袋の区長・高野之夫さんがこの企画を後押ししてくれてるの。しかも俺がバーチャル上で池袋の区長になってしまえば、ルールもしがらみもない上に、政治的な動きもできる。
アフロ:へー! それは面白いなぁ。今はそこまで進んでいるんですね。
淳:元々は池袋を紹介する番組だったのが、コロナの影響で池袋にバーチャル空間を作る内容に変わったの。今はみんな苦しい状況になっているから、じゃあ一度この空間で物が買えて、人が行き来して、お金が生まれる経済圏を作れば良いんじゃないの? ということでやっている。
アフロ:めちゃくちゃ夢が広がりますね。ライブハウスも新しい形を見出せたらいいな。だけど俺は今、長年現場を生き甲斐にして来た人に「現場の在り方が変わっていきます。違う方法を考えませんか」と言えるかな。それが問われているな、と思う瞬間もありました。
淳:別の業種ならともかく、自分と近い仕事の人には言いづらいよね。この間、ロフトの創始者の平野悠さんがラジオに来たんだけど言えなかったもんな。
アフロ:これから言い辛い事を勇気出して言わなきゃ後悔するような場面が、増えていく気がしてるんです。ライブハウスは自分達の職場という意味でも大事な場所ですけど、そこで働く友人も沢山いる中で、形は変われど志が変わらない方法を知恵を絞って、人の力を借りて探して行きたいですね。
文=真貝聡 撮影=森好弘