堤真一、石丸幹二、溝端淳平らが熱い議論を交わす『十二人の怒れる男』が開幕 観劇レポート&舞台写真が到着
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『十二人の怒れる男』舞台写真 撮影:細野晋司
2020年9月11日(金)東京・Bunkamuraシアターコクーンにて、COCOON PRODUCTION2020 DISCOVER WORLD THEATRE vol.9『十二人の怒れる男』が開幕した。オフィシャルより、開幕レポート&舞台写真が到着した。
本公演は、シアターコクーンが海外の才能と出会い、新たな視点で挑む演劇シリーズDISCOVER WORLD THEATRE第9弾。原作はアメリカの脚本家レジナルド・ローズが陪審員を務めた実体験をもとに描いたテレビドラマで、数々の賞を受賞したヘンリー・フォンダ主演の映画版(1957年)が広く知られるほか、筒井康隆、三谷幸喜など、日本の作家・劇作家たちにも多大な影響を与えてきた作品。
シアターコクーンでは2009年、当時の蜷川幸雄芸術監督による演出で上演。日本での裁判員制度が始まった年というタイミングも相まって高い注目を集め、好評を博した。ある少年による殺人事件の陪審員として集められた12人の男たち。誰もが有罪だと確信していた裁判に一人の男が異議を唱えたことから、議論が白熱していく。
演出を手がけるのは、シリーズ初登場のリンゼイ・ポズナー。演劇、オペラ、テレビドラマなど幅広く活躍する英国人演出家で、演出作『死と乙女』初演にて英国最高の演劇賞ローレンス・オリヴィエ賞に輝いた実力派だ。当シリーズの『るつぼ』『民衆の敵』では弱さも含めた人間くささを体現し高い評価を得た堤真一が、映画でヘンリー・フォンダが演じ、議論の発端となる陪審員8番に扮するほか、ベンガル、堀文明、山崎一、石丸幹二、少路勇介、梶原善、永山絢斗、青山達三、吉見一豊、三上市朗、溝端淳平(陪審員番号順)ら日本屈指の俳優たちが一堂に会して緊迫の会話劇に挑む。
東京公演初日開幕レポート
12人の諦めない男たち
何が起きてもおかしくないご時世だけに本当に幕が開くのかドキドキしつつ、無事に迎えたこの初日。劇場で、ナマで、芝居を観るってこういうことだよ!とジンジン痺れている。四方を客席に囲まれたセンターステージに12人の陪審員が入ってくる冒頭から固唾を呑んでノンストップの約2時間。評決の行方を、というよりも、12人が交わす言葉と感情の応酬を、刻々と変化する人の心のあやふやさを、とことん堪能させてもらった。
『十二人の怒れる男』舞台写真 撮影:細野晋司
陪審員室に入ってきた時の彼らは、あくまで12人の名もなき男たちだ。陪審員番号でさえ呼び合わず、「あんた」「彼」「この方」「あなた」などのやり取りだけで、徐々にそれぞれの人生や価値観がくっきり輪郭を帯びてくる。「当たり前」に疑問を持つ男。常に冷静で論理的な男。相手を論破しないではいられない男。偏見と思い込みだらけの男。くだらないジョークで茶化す男。老いのわびしさを知る男。付和雷同の男‥‥‥
『十二人の怒れる男』舞台写真 撮影:細野晋司
いるいる、いるよ、こういう人たち! ちょっとした一言が誰かの感情を逆なでにし、あるいは誰かに気づきを与え、誰かの心を揺り動かす。12人が12人、適材適所としか言いようのない俳優陣の丁々発止が、とにかく見もの聞きものだ。雄弁なのは言葉だけじゃない。名刺を受け取らない。飴を渡さない。問いに答えない。落書きをする。表情で、仕草で、それぞれの人となりも相手に対する感情も、かくも鮮やかに伝わってくる。
『十二人の怒れる男』舞台写真 撮影:細野晋司
それにしても、人と話し合うというのはなんと難儀なことだろう。自分が生きてきた年数だけこびりついた思考や偏見は、そう簡単には剥がせない。同じ景色を見ていても抱く感慨は全く違ったりもする。主義主張の違う相手には聞く耳持たずに切り捨てがちな昨今、それがミッションとはいえ、諦めずに言葉を尽くして話し合いを続ける男たちの姿は、実に尊い。数珠繋ぎになっていく感情の連鎖は大きなうねりとなり、劇場全体が12人と共振していく。畳み掛けるような怒涛の展開、そして–––評決。ふぅ、と一呼吸置いて沸き起こった拍手は、通常の半分に抑えられた客席の切なさをはるかに凌駕する熱量だった。ああ、いい芝居を観た。満腹だ。
『十二人の怒れる男』舞台写真 撮影:細野晋司
文=市川安紀(ライター・編集者)